月刊 経団連2014年4月号
特集 社会保障制度改革の行方
巻頭言
「出口」から引っ張る科学技術イノベーション
今月から、消費税率が17年ぶりに引き上げられたが、前回消費税率が引き上げられた1997年は、私にとって忘れることができない年だ。この年、地球温暖化防止京都会議COP3の開催にあわせて、私自身が開発責任者を務めた世界初の量産ハイブリッド車プリウスが、「21世紀に間に合いました」とのキャッチコピーのもと発売された。
特集
社会保障制度改革の行方
社会保障制度改革の工程を定めた「持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律」(以下、プログラム法)の施行、今年4月の消費税率引き上げにより、社会保障と税の一体改革が本格始動する。プログラム法は、3.8兆円程度の社会保障の充実と1.2兆円程度の重点化・効率化を一体的に進める改革の姿を描いているが、受益と負担の均衡がとれた制度改革の実現が強く求められている。そこで、焦点となる医療・介護制度を中心に、ICTの活用を含めた給付抑制策のあり方、自助努力の推進、医療機関としての貢献策など、多面的な観点から、今後の改革の行方を探る。
座談会:社会保障制度改革の行方
- 斎藤勝利 (経団連副会長・社会保障委員長/第一生命保険会長)
- 亀田信介 (医療法人鉄蕉会亀田総合病院院長)
- 川渕孝一 (東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科教授/21世紀政策研究所研究主幹)
- 宮島香澄 (日本テレビ放送網報道局解説委員)
- 久保田政一 (司会:経団連専務理事)
斎藤勝利 (経団連副会長・社会保障委員長/第一生命保険会長)
企業は、経済成長を牽引する主体であると同時に、新たな雇用機会を創出し、税や社会保険料負担の担い手として、社会保障制度をはじめとする国民生活の基盤を支えている。成長と両立する社会保障制度を構築するためにも、給付の重点化・効率化と、社会保険料と税の役割の一体的見直しが欠かせない。これらは、政治の強いリーダーシップのもとで着実に推進することが求められる。経団連としても、引き続き、政府・与党など関係方面への働きかけを強化していく。
亀田信介 (医療法人鉄蕉会亀田総合病院院長)
社会保障制度改革への取り組みについては、控除対象外消費税の問題、消費税増収分を活用した新たな基金の設置、今回の診療報酬改定など、現場の医療機関としては納得できない点がいくつかある。亀田グループでは、民間主導の地域包括ケアの構築に向けて、情報基盤の整備などを進めている。この前提となるのは国民共通ID(マイナンバー)であり、医療の効率性・透明性・質の向上のためにも、政府には、ICTの活用を推進してもらいたい。
川渕孝一 (東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科教授/21世紀政策研究所研究主幹)
医療・介護は、ファイナンシング(財源)、ペイメント(支払)、デリバリー(提供体制)という三つの観点から議論しなければならないが、残念ながら社会保障制度改革国民会議では、いずれについても十分な議論がなされなかった。ヘルスケア分野は利害関係者が多く、改革を進めるのは容易ではない。しかし、日本の社会保障制度のサスティナビリティーを維持するには、もはや待ったなしの状況にある。利害関係者が譲歩できるような、実現可能な工程表を早急につくらなければならない。
宮島香澄 (日本テレビ放送網報道局解説委員)
地域ごとに異なる状況に対応しようとしている点、国民健康保険(国保)の保険者機能を強めようとしている点で、今回の社会保障制度改革は評価できる。医療と介護を一体化する方向性も良い。しかし、重点化・効率化に関しては、十分に議論がなされていない。また、医療資源の効率的な活用のためには、国民の意識改革も必要である。困難は承知しつつも、抜本的な改革は必要だと思う。その青写真の共有につながるよう先進的な取り組みを紹介するなど、丁寧な報道を心がけたい。
久保田政一 (司会:経団連専務理事)
- ●くろまる社会保障制度改革への取り組みをどう見るか
- 成長と両立する持続可能な社会保障制度の再構築のために
- ファイナンシング、ペイメント、デリバリーについての議論が不十分
- 医療の現場から見た社会保障制度改革の問題点
- 重点化・効率化をさらに進める必要がある
- ●くろまる医療・介護分野の重点化・効率化策
- これからのヘルスケア産業の役割と健康経営の取り組み
- ICTを活用した地域包括ケアの実現に向けて
- 現行の診療・介護報酬制度の根本的な見直しが必要
- 家庭医制度によって医療資源の効率的な活用が可能
- ●くろまる今後の制度改革に向けて
- 利害関係者が譲歩できる実現可能な工程表が必要
- 医療・介護分野は日本の経済フローの最大セクター
- 国民の意識改革も必要
- 社会保険料と税の一体的な見直しを
社会保障制度改革の推進に向けた厚生労働省の取り組み
田村憲久 (厚生労働大臣)
- 消費税率引き上げは社会保障の充実のため
- 「全世代型」社会保障への転換を図る
- 子どもを産み育てやすい環境づくり
- 医療・介護サービスを超高齢社会に合うものに
社会保険料の負担構造を見直して経済活力を引き出せ
鈴木茂晴 (経団連社会保障委員会共同委員長/大和証券グループ本社会長)
- 社会保険料が国民にとって大きな負担に
- 法人税収よりも大きい企業の社会保険料負担
- 給付の重点化・効率化を
- 新たな社会保障制度モデルの確立を
データ駆動型医療・ヘルスケア
森川博之 (東京大学先端科学技術研究センター教授/21世紀政策研究所研究主幹)
- データの蓄積と共有
- 個人化医療の実現
- モバイル機器の活用
- データがプラットフォーム
早急に医療分野へのマイナンバー導入を
〜持続可能な医療制度構築のために
榎並利博 (富士通総研経済研究所主席研究員)
- プログラム法における医療とその問題点
- 早急に医療分野へのマイナンバー導入とIT活用基盤整備を
医療・福祉において住民が必要としているもの
藤本晴枝 (地域医療を育てる会理事長)
- 深刻な医師、看護師不足の実態
- 絵本や情報紙の発行を通じた啓蒙
- お金では買えないものを提供する
- 個人情報保護の壁を超える
- 保健師の増員
- 不健康な人を増やさない
従業員の健康づくりや予防活動の促進に向けた取り組み
〜診療所医療職が社員と事業所の「元気」をサポート
大久保伸一 (トッパングループ健康保険組合理事長)
石川厚夫 (トッパングループ健康保険組合専務理事)
- 診療所医療職が社員と事業所の「元気」をサポート
- 事業所と一体となった健康づくり活動の実施
- 重症化予防対策を中心としたデータヘルス計画
一般記事
【提言】
「先進国の有志連合」としてグローバル・ガバナンスのコアとなれ
〜グローバル化時代のOECDのあり方に関する提言
http://www.keidanren.or.jp/policy/2014/015.html
斎藤勝利 (経団連副会長・OECD諮問委員長/第一生命保険会長)
- 国際環境の変化
- OECDの現状
- OECDに求められる役割
- OECDと日本
【提言】
理工系人材育成戦略の策定に向けて
http://www.keidanren.or.jp/policy/2014/013.html
内山田竹志 (経団連副会長・産業技術委員長/トヨタ自動車会長)
小野寺 正 (経団連産業技術委員会共同委員長/KDDI会長)
- 提言の概要
- 諸外国の取り組み
【提言】
職務発明の法人帰属化に向けた声明
http://www.keidanren.or.jp/policy/2014/012.html
日覺昭廣 (経団連審議員会副議長・知的財産委員長/東レ社長)
金子眞吾 (経団連知的財産委員会共同委員長/凸版印刷社長)
- わが国の職務発明制度の問題点
- 制度見直しに向けた機運の高まり
- 今後の議論に向けて
- 「声明」のポイント
【提言】
企業間のBCP/BCM連携の強化に向けて
http://www.keidanren.or.jp/policy/2014/010.html
橋本孝之 (経団連防災に関する委員会共同委員長/日本アイ・ビー・エム会長)
柄澤康喜 (経団連防災に関する委員会共同委員長/三井住友海上火災保険社長)
- 企業に求められる取り組み
- 行政に求められる取り組み
連載
- 未来を創る企業力 (1) 〜100年経営の真髄に迫る〜
大きな節目に向けたチャレンジは、社員主導のブランディング。
菅公学生服- 改革へのモチベーションを原点回帰によって高める
- 他企業とのコラボを通してより魅力ある提案を学校に
- 不屈のチャレンジ精神で子どもたちを応援していく
- 世界に羽ばたく人づくり (1)
立命館大学における産学連携
「キャリア形成支援を通じたグローバル人材養成プログラム」
小木裕文(立命館副総長・国際関係学部教授)- 企業の協力を得てグローバル人材育成に取り組む
- グローバル人材の定義
- 受講生のプロフィールとプログラム概要
- 必要な学内での成果の共有
- 輝く日本の女性たち (5)
しなやかに科学技術を社会に活かすリケジョの育成を
大島まり(東京大学大学院情報学環・生産技術研究所教授)- 理工系に対する誤ったイメージ
- 社会全体でリケジョの育成を
- 経営者のひととき
浮世絵との出会い
野木森雅郁(アステラス製薬会長) - エッセイ「時の調べ」
Sakeから観光立国
平出淑恵(酒サムライコーディネーター)