月刊 経団連2013年12月号
特集 新たなエネルギー政策のあり方と今後の産業界の取り組み 情報通信技術の利活用による経済再生を目指して
巻頭言
フルラインアップの新たな産業構造の実現で前進を
10月1日、安倍総理が17年ぶりの消費税引き上げとともに、大胆な経済対策の実行を決定された。これは、景気回復を確実なものにすることにより、経済再生と財政健全化を両立させていく決意の表れであり、前向きに受け止めたい。
特集
新たなエネルギー政策のあり方と今後の産業界の取り組み
エネルギーは国民生活や企業活動に不可欠の要素であり、それをめぐる政策は、国家戦略の根幹ともいえる。安倍政権では、将来の電力料金の大幅な上昇や供給不安を招き経済・社会に大きな打撃を与えかねない前政権のエネルギー政策を、現在、白紙から見直し、新しいエネルギー基本計画を取りまとめている。こうした状況を踏まえて、今後のエネルギー政策のあり方や課題について議論する。
座談会:新たなエネルギー政策のあり方と今後の産業界の取り組み
- 佐々木則夫 (経団連副会長/東芝副会長)
- 浅田浄江 (WEN(ウイメンズ・エナジー・ネットワーク)代表・消費生活アドバイザー)
- 井手明彦 (経団連審議員会副議長・資源エネルギー対策委員長/三菱マテリアル会長)
- 秋元圭吾 (地球環境産業技術研究機構(RITE)システム研究グループグループリーダー)
- 鯉沼 晃 (司会:経団連資源エネルギー対策委員会企画部会長/昭和電工取締役常務執行役員)
佐々木則夫 (経団連副会長/東芝副会長)
電力料金の上昇は、産業競争力と設備投資の意欲を削いでいる。アベノミクスの「第三の矢」である経済成長を実現するためにも、安価な電力を安定的に供給することが喫緊の課題である。原発の停止により、年間三・六兆円の国富が海外に流出している。貿易収支の悪化は、財政の悪化、ひいては国債の信用低下を招きかねず、危機意識を持って、エネルギー問題に対処すべきである。原子力は世界標準の安全基準で、火力発電は高効率で環境にやさしいものに更新していくことで、「S+3E」のベストミックスが可能になる。
浅田浄江 (WEN(ウイメンズ・エナジー・ネットワーク)代表・消費生活アドバイザー)
東日本大震災後、国民のなかで原発は不要だという意識が高まり、それは二年半以上経過した現在も変わっていない。連日、汚染水問題が報道されているが、原発事故の収拾、福島の復興なくしては、原子力を電力の選択肢として考えることはできない。一方で、消費者としても、多面的にリスクを考え、冷静に判断すべき時期にきている。「S+3E」に反対する人はほとんどいない。政府には消費者が総合的にエネルギーのベストミックスを判断できるかたちでの情報の提示を、また、産業界にはさらなる技術革新を期待したい。
井手明彦 (経団連審議員会副議長・資源エネルギー対策委員長/三菱マテリアル会長)
東日本大震災から二年半余りが経過したが、電力の供給不安と料金上昇が今も続いている。国民・企業や電気事業者の努力により、大規模停電は回避されているが、楽観できる状況にはない。こうした状況が続けば、企業の投資は萎縮し、国際競争力の低下を招きかねない。「S+3E」を満たすエネルギーミックスを実現するために、新しいエネルギー基本計画には、原子力の利用を盛り込む必要がある。そのためには、事故の経験を踏まえた安全対策の実施が不可欠である。
秋元圭吾 (地球環境産業技術研究機構(RITE)システム研究グループグループリーダー)
福島の復興が信頼回復の出発点になることは間違いない。原子力発電については、安全性のリスクだけに注目するのではなく、電力供給途絶のリスクや長期的なリターンを考慮し、「S+3E」を実現するための選択肢に加えるべきである。再生可能エネルギーを増やしていくことは必要だが、現在の「固定買取制度」による導入は、結局、国民負担のかたちで跳ね返ることになる。早急に見直して、適正な価格で買い取るかたちにすべきである。
鯉沼 晃 (司会:経団連資源エネルギー対策委員会企画部会長/昭和電工取締役常務執行役員)
原発停止により、電気料金が上昇し、国富の流出、国内産業の競争力低下が進めば、厳しい未来が予想される。少なくとも電力多消費型産業の国内での新規設備投資はあり得ない。多くの日本企業がアルミ精錬から撤退した結果、「ジャパン・プレミアム」が発生したことを忘れてはならない。原子力発電所については、事故の教訓を踏まえて、安全性をさらに高める必要がある。
- ●くろまるエネルギー問題に関する現状認識と当面の課題
- 電力コスト上昇によって日本企業の国際競争力は低下
- 経済成長の実現は電力の安定供給にかかっている
- 福島の復興が何よりも重要
- 「再生可能エネルギー固定買取制度」の見直しが必要
- 今こそエネルギー問題を冷静に考えるべき
- ●くろまる新たなエネルギー政策に関する基本的な考え方
- 「S+3E」を基本にエネルギーのバランスを考える
- 安価なシェールガスに依存しすぎるのは危険
- 現実的なシナリオとして原子力の利用を盛り込むべき
- 消費者も多様な課題があることを理解するべき
- ●くろまる政府への要望
- エネルギー源の特性を踏まえたエネルギーミックスの実現を
- 火力発電のリプレースを進めるための施策を
- 消費者が比較しやすい情報提供を
- 原子力のコストに関する正しい情報提供が必要
- ●くろまる今後の産業界の取り組み、産業界への期待
- 世界標準の安全性を備えた原子力発電設備を導入すべき
- 再生可能エネルギーとしての地熱発電の可能性
- HEMSを含めたスマートハウスの開発・普及に期待する
- 優れた技術を活かして世界のグリーン化に貢献する
再生可能エネルギー政策に苦悩する欧州とアジアから学ぶこと
山本隆三 (常葉大学経営学部教授)
- 消費者の負担額と公平性
〜ドイツの家庭用電気料金は日本の一・五倍に - 再エネ導入には支援する設備が必要
〜タイは再エネ導入のために揚水発電設置 - 再エネ導入支援策はどうあるべきか
原子力問題の総合的解決を
澤 昭裕 (21世紀政策研究所研究主幹)
- 原子力事業を取り巻く逆境
- 原子力問題の総合的解決の提案
成長戦略としてのエネルギー・環境関連技術の研究開発
久間和生 (総合科学技術会議議員)
- 「総合戦略」の策定と「アクションプラン」の特定
- 「環境エネルギー技術革新計画」の改訂
成長を支えるエネルギー政策の立案を
〜今後のエネルギー政策のあり方に関する提言
http://www.keidanren.or.jp/policy/2013/089.html
加藤泰彦 (経団連資源・エネルギー対策委員会共同委員長/三井造船会長)
- 当面の重要課題
- エネルギー政策の基本的考え方
- エネルギー供給構造の強化
- エネルギー需要構造の高効率化
- 革新的技術の開発・技術の国内外への普及
特集
情報通信技術の利活用による経済再生を目指して
日本初の本格的な情報通信戦略として「e-Japan戦略」が策定されてから、10年余りがたった。この間、日本の情報通信インフラは世界最高水準のものとなる一方、公的部門の情報化は諸外国に大きく後れを取るなど、利活用面においては多くの課題を抱えている。こうしたなか、安倍政権は、共通番号法と政府CIO法を成立させるとともに、新しいIT戦略「世界最先端IT国家創造宣言」を閣議決定した。この新戦略の内容を中心に、オープンデータ、ビッグデータの活用推進、IT技術の利活用を支える人材の育成などについて議論する。
座談会:情報通信技術の利活用による経済再生を目指して
- 内山田竹志 (経団連副会長・情報通信委員長/トヨタ自動車会長)
- 越塚 登 (東京大学大学院情報学環教授)
- 遠藤紘一 (内閣情報通信政策監(政府CIO))
- 武山芳夫 (司会:経団連情報通信委員会企画部会長/第一生命保険常務執行役員)
内山田竹志 (経団連副会長・情報通信委員長/トヨタ自動車会長)
経団連がかねてから要望してきた番号法と政府CIO法が成立し、新IT戦略を実現するための環境は整った。政府CIOのリーダーシップのもと、共通番号制度を活用して、行政の業務改革を行い、国民が効果や利便性を実感できる電子行政が実現することを期待している。産業界も政府CIOを全面的にバックアップしていきたい。オープンデータ、ビッグデータに関しては、プライバシー保護とデータの利活用を両立させる環境を整備し、国民のコンセンサスを得ることが大切である。
越塚 登 (東京大学大学院情報学環教授)
新IT戦略には産業界が期待する内容が網羅されており、戦略の実行が日本経済の力になることは間違いない。ただし、イノベーション創出のためには、ターゲット型の政策のみならず、チャレンジのためのコストを下げることが必要であり、そこにITの活用が期待される。人材育成に関しては、大学、大学院を卒業するまでに何を教えるかだけでなく、一度社会に出て、具体的な課題を意識した時点で大学に戻り、ITに関する最新の知識・技術を学び直すことも有効だろう。
遠藤紘一 (内閣情報通信政策監(政府CIO))
CIOとして、ITを活用して、日本社会・経済を活性化すること、災害に強い国にすること、少子高齢化のなかで適切な福祉を実現することなどを政府から求められている。大きな課題であるが、いずれの課題もITが何らかのかたちでかかわってくるので、「できない」とは言えない。まずは、小さなことでも一つ一つ実現させていきながら、前例主義の霞が関の意識改革、心のイノベーションを行いたい。行政のデータのオープン化も、積極的に行っていく。今年度中に試行版「データカタログサイト」を公開する予定である。
武山芳夫 (司会:経団連情報通信委員会企画部会長/第一生命保険常務執行役員)
共通番号制導入後の次のステージとして、企業は共通番号の利活用を考えている。例えば、保険会社では、共通番号を新しいインフラ、ツールとして活用することで、顧客に対して効率的なサービスの提供が可能になる。IT人材の育成に関しては、高度な知識・技術を擁する人材の育成についてはこれまでも議論されてきたが、ITを道具として活用して新しいビジネスモデルを創出するような人材の育成はこれからである。ITにもビジネスにも強い人材を育成するためのプログラムを産業界から提言していくことが必要である。
- ●くろまる政府の新IT戦略「世界最先端IT国家創造宣言」の評価
- オールジャパン体制でIT戦略の推進に取り組む
- ITを活用してイノベーションを創出する
- 霞が関の意識改革を促すために
- ●くろまる共通番号制度導入、政府CIO設置の意義と期待
- 日本社会のさまざまな課題解決にITを活用する
- 共通番号制度の円滑な導入を
- 公共の効率化は世界各国の重要なテーマ
- 新しいインフラとしての共通番号制度
- 個人情報保護への配慮は必要
- ●くろまる新産業・新事業の創出を担うオープンデータ、ビッグデータの活用推進
- オープンデータによる行政の効率化、経済の活性化
- 試行版「データカタログサイト」の公開
- プライバシー保護とデータの利活用を両立させる環境の整備を
- ●くろまる情報通信技術の利活用を担う人材の育成
- IT人材育成は「量」と「質」の両面から
- 行政の業務を熟知したIT人材が必要
- 一度社会に出てから大学で学び直す
- 新しいビジネスモデルを創出できるIT人材の育成を
オープンデータによるイノベーションの本質
東 富彦 (国際社会経済研究所主幹研究員)
- 本格的な成長段階に入ったオープンデータビジネス
- 高度な分析モデルが生み出す高付加価値
- G8サミット「オープンデータ憲章」の意味と日本政府の取るべき対応
顧客とつながる
〜モバイル・ソーシャルネットワーク・クラウドを基盤とした顧客との信頼関係の構築
ヴィヴェク・クンドラ (米国セールスフォース・ドットコムエグゼクティブ・バイスプレジデント)
- トヨタの「つながる車」構想
- モノのインターネットの台頭
- 顧客とつながる
- フィリップスの"つながる"家庭用調理器
- ゼネラル・エレクトリックの"つながる"ジェットエンジン
- 企業の変革
米中首脳会談から垣間見えたサイバー攻撃の実態
土屋大洋 (慶應義塾大学教授)
- 荒れる中国のサイバー空間
- 米国が求めたこと
- 攻撃に気づこうとしない企業
ビッグデータ利活用と国際ルール
〜成長と安全を両立するには
横澤 誠 (経団連情報通信委員会企画部会インターネット・エコノミー作業部会副主査
/野村総合研究所情報技術本部上席研究員/京都大学大学院情報学研究科客員教授)
- データ利活用と統制
- CBDFとTPP
- 越境個人情報保護規制
- サイバー空間規律づくり
- データ利活用に関して守るべきものを明確に
一般記事
【提言】
社会保障制度改革の推進に向けて
http://www.keidanren.or.jp/policy/2013/085.html
斎藤勝利 (経団連副会長・社会保障委員長/第一生命保険会長)
鈴木茂晴 (経団連社会保障委員会共同委員長/大和証券グループ本社会長)
- 着実な消費税率の引き上げ
- 給付の重点化・効率化策の着実な実施
- 際限なき社会保険料負担増の抑制
- 自助努力の積極的な奨励
- 国民へのわかりやすい説明
- 社会保障・税番号制度の利活用促進
事業活動との関連を意識して社会貢献活動を実施
〜2012年度社会貢献活動実績調査結果
http://www.keidanren.or.jp/policy/2013/084.html
古賀信行 (経団連審議員会副議長・社会貢献推進委員会委員長/野村證券会長)
佐藤正敏 (経団連社会貢献推進委員会共同委員長/1%クラブ会長/損害保険ジャパン会長)
- 一社平均支出額は4.5億円、被災地支援も継続
- 8割がグループ内の活動を把握、海外事例の把握に期待
- CRMを実施・実施予定の企業は3割
- 七割が重点分野を設定
- 継続的に被災地支援に取り組む姿勢明らかに〜事例調査
- 本業シナジーのある多様な社会貢献活動の展開を
ブラジルとの経済関係の一層の発展に向けて
〜第16回日本ブラジル経済合同委員会
飯島彰己 (経団連日本ブラジル経済委員長/三井物産社長)
- ブラジル経済の現状
- 日伯貿易投資関係の深化
- インフラ整備面での協力
日・ウクライナ投資協定を速やかに締結し、経済関係の一層の拡大と多様化を目指す
〜第5回日本ウクライナ経済合同会議
岡 素之 (経団連日本NIS経済委員会ウクライナ部会長/住友商事相談役)
- 日・ウクライナ投資協定の早期締結を
- ウクライナの周辺地域との経済政策における動き
- 多様な産業分野における経済関係構築の可能性を確認
日・トルコEPA、産業技術協力、主要産業における事業機会について議論
〜第21回日本トルコ合同経済委員会
釡 和明 (経団連日本トルコ経済委員長/IHI会長)
- 日・トルコEPAの早期締結の重要性
- 両国の産業技術協力や共同研究に期待
- 産業分野ごとの協力の可能性を探る
連載
- 輝く日本の女性たち (2)
女性が働きやすい環境を整え社会に活力を取り戻す
佐村知子(内閣府男女共同参画局長)- 女性の継続就業が課題
- 総理のリーダーシップのもとでの政府の取り組み
- すべての人材に力を発揮させるマネジメント
- 震災復興の現場から (5)
異文化結集組織「復興庁」
渡辺 満(復興庁宮城復興局) - 経営者のひととき
設備投資
小野木聖二(アズビル会長) - エッセイ「時の調べ」
永遠に心に響く音楽の力
小菅 優(ピアニスト) - 翔べ!世界へ―奨学生体験記
違っているから面白い-多様な価値観を認めるということ
佐藤由記(日本ロレアル ディマンドプランニング)