月刊 経団連2013年9月号
特集 ミャンマーとの経済協力の強化に向けて
巻頭言
富士山の世界遺産登録
6月にプノンペンで開催されたユネスコの世界遺産委員会で、「富士山―信仰の対象と芸術の源泉」の世界文化遺産への登録が正式に決定された。国内の文化遺産としては13番目、自然遺産を含む世界遺産では17番目の登録となる。
特集
ミャンマーとの経済協力の強化に向けて
ミャンマーは、2011年のテイン・セイン政権発足後、民主化・経済改革を目まぐるしいスピードで進め、アジアにおけるラスト・フロンティアとして、その動向を世界中が注視している。ミャンマーが経済発展を実現していくうえで、日本は、どのような貢献ができるのか。ミャンマーの政治・経済改革の経緯と現状や、日本政府、日本企業のミャンマーにおける取り組みを踏まえ、ミャンマーの今後を展望し、関係強化に向けて経済界が果たすべき役割について議論する。
座談会:ミャンマーとの経済協力の強化に向けて
- 勝俣宣夫 (経団連副会長・日本ミャンマー経済委員長/丸紅相談役)
- 赤羽一嘉 (経済産業副大臣)
- 小林 健 (経団連日本ミャンマー経済委員会共同委員長/三菱商事社長)
- 白石 隆 (政策研究大学院大学学長)
- 藤野 隆 (司会:経団連アジア大洋州委員会企画部会長・前日本ミャンマー経済委員会企画部会長/旭硝子取締役常務執行役員)
勝俣宣夫 (経団連副会長・日本ミャンマー経済委員長/丸紅相談役)
ミャンマーの魅力は、人口の多さ、地理的・地政学的な優位性、未開発の資源、豊富な労働力など、ポテンシャルの高さにある。経団連としても、休止していた日本ミャンマー経済委員会を昨年、再開し、関係強化に努めている。日本企業のミャンマーへの進出にあたっては、JETROなど、政府系機関が大きな役割を果たしている。2015年までに、日ミャンマー官民共同プロジェクトの象徴であるティラワ工業団地の開発を成功させたい。
赤羽一嘉 (経済産業副大臣)
テイン・セイン政権については、経済改革もさることながら、政治改革についても評価している。テイン・セイン大統領は、ミャンマーの経済発展に熱意を持ち、実務能力の高い方である。今年5月、安倍総理が訪問した際、本年度末までに910億円の政府開発援助を行うことを約束しているが、各国企業がミャンマー進出に向けてしのぎを削っているなか、日本としても政府をあげて日本企業を支援していきたい。
小林 健 (経団連日本ミャンマー経済委員会共同委員長/三菱商事社長)
われわれは海外投資する際に、人口の多さ、識字率の高さ、日本に対して友好的であるという三つの条件を重視している。アジア最後のフロンティアといわれるミャンマーは、まさにこの三つの条件を兼ね備えている。ミャンマー経済の発展には、インフラ整備が焦眉の課題であり、特にプライオリティーが高いのは電力や通信インフラの整備である。民間投資では、ティラワ工業団地の開発に取り組んでおり、日ミャンマー双方にとっての官民協働のランドマーク・プロジェクトとして、しっかり進めていく。また、人材育成も官民が協力するかたちで進めたい。
白石 隆 (政策研究大学院大学学長)
2011年からのテイン・セイン政権による改革開放の動きは、アウン・サン・スー・チー氏と会談、2015年のASEAN議長国への立候補、ミッソンのダム建設の停止など、工程表どおりに進められた。その結果、国の内外に「ミャンマーは変わった」と印象付けることに成功した。しかし、2015年に予定される総選挙では、野党のNLDが勝つとみる専門家も多い。総選挙後も政治が安定し改革路線が継続すれば、経済はさらに発展するだろう。
藤野 隆 (司会:経団連アジア大洋州委員会企画部会長・前日本ミャンマー経済委員会企画部会長/旭硝子取締役常務執行役員)
テイン・セイン政権の発足後、ミャンマーではさまざまな改革が行われている。また、改革の推進で、国力が高まるだけではなく、近隣諸国との関係にも変化が見られる。ミャンマーの持つ潜在力の具現化には、日本の官民がそれぞれの知見を活かして協力することが重要である。日本企業の進出は拡大することが予想され、経済界としてもその円滑化のための環境整備について、インフラ整備や政策対話を通じて、取り組みを強化していきたい。
- ●くろまるミャンマーの魅力・重要性と政治・経済改革の現状
- ミャンマーの魅力は高いポテンシャル
- 次々に改革を進めるテイン・セイン大統領の政治手腕
- 2015年の総選挙の結果に注目
- 人口の多さ・識字率の高さ・日本に対して友好的
- ●くろまる日本企業のミャンマー経済発展への取り組みと今後の課題
- インフラの整備が焦眉の課題
- 活動を再開した経団連日本ミャンマー経済委員会
- ●くろまる日本政府の対ミャンマー国際協力、民主化支援の流れ
- 910億円の政府開発援助を来年3月までに実施
- 長期的なテーマとしてはダウェイ開発が重要
- ●くろまるミャンマーの経済発展に向けて、経済界が果たすべき役割
- 日本からの直接投資がミャンマーの経済成長には不可欠
- 日本がアジアの国々に対して積んできた陰徳が財産になる
- 官民共同プロジェクトとしてティラワ工業団地を成功させる
- 実務人材の育成・確保が急務
ミャンマーにおける政治・経済・社会改革
キン・マウン・ティン (駐日ミャンマー連邦共和国大使)
- 経済的発展は国民の希望
- 新外国投資法は日本にさらなる機会を提供
ミャンマーの人材育成における貢献
安部慎太郎 (経団連日本ミャンマー経済委員会ビジネス環境整備推進部会長/三井物産代表取締役専務執行役員)
- 産業人材の育成が経済発展の鍵
- 「ミャンマー日本人材開発センター」をビジネス情報・ネットワークの拠点に
ティラワ経済特別区における工業団地開発
鐘ヶ江倫彦 (住友商事代表取締役専務執行役員)
- 異例のスピードで事業展開を検討
- 日本とミャンマーの架け橋をティラワで実現
ミャンマーにおける電力供給を支援する
〜ディーゼルエンジン式発電設備の納入
船戸 崇 (三菱重工業取締役常務執行役員)
- 13台のディーゼルエンジン式発電設備を納入
- 地球規模の課題克服に貢献
日本・ミャンマー間の航空ネットワークの構築に向けて
西村 健 (全日本空輸常務取締役執行役員)
- ミャンマー路線再開への流れ
- ミャンマー線再就航の戦略的背景と就航にあたっての期待
- 今後への期待と課題
社会インフラ整備に向けミャンマーとともに歩む
石井 孝 (JFEエンジニアリング専務執行役員)
- ミャンマーにおける当社の歩み
- 高まるミャンマーへの期待
- これからの当社の取り組み
ミャンマーでの発電事業等への取り組み
水沼正剛 (電源開発取締役常務執行役員)
- 安定的な電力供給に向けた火力電源の整備
- エネルギー供給計画の立案と電力全体のマスタープランの構築を
日本企業の支援に期待するミャンマー最大の経済都市・ヤンゴンの都市開発
山田耕治 (日本工営チーフプランナー)
- 歴史と未来が共存する都市・ヤンゴン
- 高付加価値の産業と効率的な物流の実現
- ASEANのハブ都市へ
生産拠点としてのミャンマー
江尻義久 (ハニーズ社長)
- チャイナ・プラス・ワン
- 究極の選択ミャンマー
- 高い志を持ち、世界が驚くような高品質の商品づくりを目指す
一般記事
【提言】 攻めの地球温暖化外交戦略への提言
〜日本が真に地球温暖化対策に貢献するための道
http://www.keidanren.or.jp/policy/2013/065.html
坂根正弘 (経団連副会長・環境安全委員長/小松製作所相談役)
天坊昭彦 (経団連環境安全委員会共同委員長/出光興産相談役)
- 温暖化対策と経済成長の両立に向けて
- 二国間オフセット・メカニズムの促進
- 2020年以降の将来枠組みのあり方
日欧経済交流のさらなる拡大に向けて
〜訪欧ミッションを派遣
横山進一 (経団連ヨーロッパ地域委員会共同委員長/住友生命保険会長)
小林喜光 (経団連ヨーロッパ地域委員会共同委員長/三菱ケミカルホールディングス社長)
- ポルトガル〜長い友好の歴史を基盤にさらなる経済関係強化に期待
- バルト三国〜「欧州の一員」として日本との経済関係構築に意欲
第102回ILO総会に出席して
〜企業活動の活性化が雇用機会をつくる
谷川和生 (経団連雇用委員会国際労働部会長/東芝顧問)
- ガイ・ライダーILO新事務局長報告
- 日本使用者代表演説
- 新たな人口動態における雇用と社会的保護
- 持続可能な開発、ディーセント・ワーク、グリーン・ジョブ
- 社会対話の戦略的目標に関する周期的議論
- ミャンマーにおける強制労働問題
連載
- Column 日本のインフラ輸出
東南アジアにおける廃棄物適正処理の取り組み
黒木宏治(PPLi社長) - 震災復興の現場から (2)
「結の場」で被災地の企業を応援しています
村山 実(復興庁宮城復興局) - あの時、あの言葉
「入れ札」を読んで感激した人
小林哲也(帝国ホテル会長) - エッセイ「時の調べ」
人間の本能が求めるビジネスの真髄
林 成之(日本大学大学院総合科学研究科教授) - 翔べ!世界へ―奨学生体験記
宇宙への扉〜ハワイ大学で広がった研究の夢
小松睦美(早稲田大学高等研究所助教)