月刊 経団連2012年10月号
特集 パッケージ化戦略でインフラ海外展開を推進する
巻頭言
インフラ整備に向けた視野と時間軸
ローマ帝国遺跡回訪の途次、アッピア街道の始点付近を見たことがある。塩野七生著『ローマ人の物語』によれば、ローマ街道の道路としての構造は、軍団の移動に耐えられるよう規格化されていたという。両側に歩道と側溝を具備する車道は、幅4m、深さ1〜1.5mで、砂利や砕石、石塊など、四層から成っていたらしい。
特集
パッケージ化戦略でインフラ海外展開を推進する
日本は、アジアをはじめとする新興国などの経済成長に不可欠なインフラ輸出を、わが国の成長戦略の柱と位置付け、官民一体で受注強化に取り組んできた。近年、コンソーシアムやジョイント・ベンチャーを組む日本企業グループが、国際受注競争で敗退するケースも見られることから、インフラ関連産業の国際競争力強化が課題となっている。日本企業が強みを発揮するためには、今何が必要なのか。「パッケージ型インフラ」をキーワードに、その方策を議論した。
座談会:パッケージ化戦略でインフラ海外展開を推進する
- 川村 隆 (経団連副会長、アジア・大洋州地域委員長/日立製作所会長)
- 前田匡史 (内閣官房参与/国際協力銀行(JBIC)執行役員・インフラファイナンス部門長)
- 水沼正剛 (電源開発(J-POWER)取締役常務執行役員)
- 木村福成 (東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)チーフ・エコノミスト/慶應義塾大学教授)
- 荒木光弥 (司会:国際開発ジャーナル社代表取締役・主幹)
川村 隆 (経団連副会長、アジア・大洋州地域委員長/日立製作所会長)
アジアに展開する日本企業のサプライチェーンをより強固にするためにも、ロジスティクスなどのインフラ整備が急務である。従来のように日本で製品をつくって輸出するだけではなく、地産地消の視点で地場産業を支援しながら、相手国の成長基盤の強化や需要創出を考えなければならない。また、ファイナンス面ではJBIC、事前調査ではJICAといった政府機関の支援を得ながら、成功モデルをつくっていきたい。
前田匡史 (内閣官房参与/国際協力銀行(JBIC)執行役員・インフラファイナンス部門長)
アジアをはじめとする新興国の成長スピードにインフラの整備が追いついていないという現状がある。これからは、相手国の要請を待って事業に参加するのではなく、案件形成段階から協力するかたちにしていかなければならない。そこで、ハード単体ではなく、優れたシステム、運用、メンテナンス、ファイナンスなどを組み合わせた、パッケージ型インフラ輸出が、日本が推進すべきビジネスモデルとなる。
水沼正剛 (電源開発(J-POWER)取締役常務執行役員)
戦後日本の復興と経済成長には、電力インフラの開発と電力の安定供給が不可欠であった。アジア各国は、資源制約と環境問題に対応しつつ電力量を増やしていかなければならず、技術面・政策面で日本の経験が活かされる。電力インフラにおいて、日本企業は、建設費用など短期価格で劣後しても、環境・効率や保守・効率の点で高い技術を持っているため、長期的には安価な電力を提供できる強みがある。ただし、人材の国際化への取り組みでは、韓国等に後れを取っている。
木村福成 (東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)チーフ・エコノミスト/慶應義塾大学教授)
アジア太平洋地域の発展途上国30カ国において、2020年までに年平均約7500億ドルのインフラ需要があるといわれている。日本企業には、伸びしろの少ない国内需要に閉じこもるのではなく、外に出て競争するという姿勢が求められる。海外進出による国内産業の空洞化が懸念されているが、アジアで子会社を増やしている企業は、日本国内の雇用も創出できる。国内外で生産工程・タスク単位での分業を確立することが重要である。
荒木光弥 (司会:国際開発ジャーナル社代表取締役・主幹)
- ●くろまる新興国の成長力とインフラ需要の見通し
- アジア太平洋地域のインフラ需要は毎年7500億ドル
- サプライチェーンの観点からもアジアの整備は急務
- パッケージ型インフラの海外展開を推進せよ
- 日本の電力開発における成功体験を活かせ
- ●くろまる日本の成長戦略におけるインフラ輸出の意義
- 官民政策対話で実務的な課題の解決を図る
- 地熱・太陽光など、日本メーカーの強みを活かせ
- 海外進出によって国内の雇用も増える
- アジア各国は日本国内の動向を注視している
- ●くろまるフロンティアと考えられる分野と地域
- 先進国の老朽インフラの更新を狙う
- 圧倒的なインドの電力需要
- 宇宙・防災などの分野には国の関与が必要
- ミャンマーは有望、まさにフロンティア
- ●くろまるインフラ輸出におけるわが国の競争力、その強みと弱み
- 日本の強みは「信頼性」と「地産地消」
- 資源購買力を活かして、資源とインフラ輸出のパッケージを
- ●くろまる競争力強化のための課題と提言
- 需要を発掘・創出する攻めの姿勢で
- M&Aの活用で弱点を補う
政府開発援助(ODA)とインフラ輸出
矢野 薫 (経団連審議員会副議長・国際協力委員長/日本電気会長)
- ODAの意義
- インフラ輸出のあるべき方向性
- 官民連携の推進
- 人と人のつながりで共に成長
パッケージ型インフラ展開は「メイド・バイ・ジャパン」で
〜日越共同イニシアティブを参考事例にして
高橋恭平 (経団連日本ベトナム経済委員会共同委員長/昭和電工会長)
- イニシアティブがもたらしたベトナムの大きな変化
- イニシアティブの他国展開
- 民間部門を活用したインフラ整備の推進
- 「メイド・バイ・ジャパン」のパッケージ型インフラ
わが国成長戦略の推進に向けた、新興国インフラ整備への貢献
〜インドでの取り組み事例
中原秀人 (経団連南アジア地域委員会企画部会長/三菱商事副社長)
- インドにおけるインフラ整備の重要性と課題
- 深化する日印関係と進展するインフラ整備での官民連携
- 三菱商事の取り組み事例
- 今後の課題と目指すべき方向性
インフラ事業推進における総合商社の役割と日本政府への期待
安部慎太郎 (三井物産代表取締役常務執行役員)
- オールジャパンのプロジェクト
〜パイトン石炭火力発電所三号機 - インフラ事業を受注する日本企業が抱える課題
- 総合商社の役割と日本政府への期待
海外鉄道事業展開の現状と今後の方向性について
一ノ瀬俊郎 (東日本旅客鉄道常務)
- 鉄道事業者の連携による展開が必要
- 運営や維持まで現地のニーズに合致した鉄道システムを提案
自然災害の防止と管理に向けた日タイ間協力
〜グローバルなサプライチェーンの維持に向けて
ウィーラサック・フートラクーン (駐日タイ王国大使)
- 二国間の緊密な連携による自然災害対策
- 自然災害防止に関する戦略的枠組み
一般記事
転換期を迎えるわが国のPCB廃棄物処理
〜処理促進に向けた今後の課題
坂根正弘 (経団連副会長・環境安全委員長/小松製作所会長)
- PCB廃棄物処理をめぐる経緯
- 国際的に見ても著しく高い処理料金
- 産業界の働きかけと主な成果
- 安全かつ合理的・効率的な処理の推進に向けて
クリスチャン・マセ駐日フランス大使に聞く
世界一の観光大国・フランスに学ぶ
〜日仏観光交流の強化に向けて
(PDF形式にて全文公開中)
大塚陸毅 (聞き手:経団連副会長・観光委員長/東日本旅客鉄道相談役)
- 3・11以降にフランスから受けた支援
- フランスの魅力と観光振興に向けた取り組み
- 日本の観光振興のために必要なこと
- 日仏観光交流の拡大に向けて
連載
- 【ルポ】 オンリーワンで市場を開く(シリーズ第9回)
- 安くてうまいすしを追求し続ける
100円で顧客に対し最大限の価値を提供 〜 あきんどスシロー - (経団連産業政策本部)
- 安くてうまいすしを支える仕組み
- 苦境に立たされた改革1年目、光明が見えた2年目
- マーケティングと現場力の強化に取り組んだ3年目、過去数年の蓄積が花開いた4年目
- 5年目は原点回帰ではなく原点進化
- あの時、あの言葉
皇后陛下のお言葉
田村浩章(宇部興産会長) - エッセイ「時の調べ」
風呂では、みな平等
山崎まゆみ(温泉エッセイスト) - 翔べ!世界へ―奨学生体験記
文法理論研究の源になった留学
村上まどか(実践女子大学文学部英文学科教授)