月刊 経団連2012年9月号
特集 循環型社会の深化に向けて
巻頭言
木を植える
今年6月、社会保障・税の一体改革関連法案が与野党の修正協議を経て、衆議院で可決された。年金制度をはじめとする社会保障制度の抜本改革など積み残された課題は多く、本稿執筆時点では参議院での審議結果も不明ながら、持続可能な社会保障の確立と財政健全化という、わが国の重要課題の克服に向けた、大きな一歩と評価できる。
特集
循環型社会の深化に向けて
リデュース・リユース・リサイクル(3R)の徹底や累次の法規制強化により、不法投棄の撲滅や最終処分場逼迫への対応といった課題は克服されつつある。経団連は、「2015年度の産業廃棄物最終処分量を2000年度実績の65%程度減」という目標により、引き続き、主体的かつ積極的に3Rの推進に努めるが、適正処理を確保しながら、廃棄物等の収集、再利用しやすい環境の整備が課題となっている。他方、高付加価値製品の製造に欠かせないレアメタルなどの価格が高騰している。資源政策という観点からもリサイクルの推進が求められている。こうした現状を踏まえ、循環型社会のさらなる深化に向けた課題について議論した。
座談会:循環型社会の深化に向けて
- 井手明彦 (経団連審議員会副議長・資源エネルギー対策委員長/三菱マテリアル会長)
- 田中 勝 (鳥取環境大学環境マネジメント学科特任教授)
- 住川雅晴 (産業競争力懇談会(COCN)実行委員長)
- 吉川廣和 (経団連環境安全委員会廃棄物・リサイクル部会長/DOWAホールディングス相談役)
井手明彦 (経団連審議員会副議長・資源エネルギー対策委員長/三菱マテリアル会長)
三菱マテリアルは、非鉄製錬所とセメント工場の協業により、多くの素材や材料を国内外の社会に供給すると同時に、廃棄物や使用済み製品を回収し、素材やエネルギーとして再利用している。資源の安定確保という観点からは、一般廃棄物の広域的な回収の推進、有用金属を含む廃棄物の適正保管の推進が重要である。レアメタルについては、さまざまな元素のリサイクルに取り組み、自治体とも協力しながら、小型家電の回収・リサイクルの実用化に向けた検討を継続しており、現在は経済的に困難なレアメタルの回収も、日本人の叡智で解決できる時が来ると思う。
田中 勝 (鳥取環境大学環境マネジメント学科特任教授)
循環型社会づくりに必要な3Rの促進と廃棄物の適正処理は車の両輪である。廃棄物の物質回収型リサイクルが強調されるが、エネルギーとして使うというリサイクルもある。何が社会にとって本当にいいのか、公平に評価をして選択すべきです。また、処理に困らないように、製品の設計、素材の選定にも努力し、商品価値を高め、国際競争力向上につなげてほしい。循環型社会の深化に向けた産業界のさまざまな提案は、安全かつ資源の保全につながることを説得力のあるかたちで提案すれば、実現すると思う。
住川雅晴 (産業競争力懇談会(COCN)実行委員長)
産業競争力懇談会(COCN)は、技術的な面から日本の産業競争力の強化に向けさまざまな検討をし、具体的な提言を行っている。3Rもテーマの一つで、プラスチックリサイクル、プリント基板からの貴金属の回収、レアメタルの回収・再生を検討してきた。レアメタルの確保は産業競争力を維持するうえでは必須で、循環活用し、競争力を守るという積極的な取り組みが必要である。そのためには、幅広く各分野の知恵を活用し、技術を高めていかなければならない。また、再生した純度による利用方法、リサイクルしやすいものづくり、省資源化も研究していくべきであると思う。
吉川廣和 (経団連環境安全委員会廃棄物・リサイクル部会長/DOWAホールディングス相談役)
経団連は、1997年に循環型社会の構築に向けた環境自主行動計画を策定して以来、3Rの取り組みを主体的に進め、大きな成果をあげてきた。今後は、環境への悪影響を回避するなどの措置も講じながら、民間が3Rに取り組みやすい条件を整備することが不可欠である。レアメタルについては、効率的な回収を可能にすることが重要で、規制緩和も検討しないと、回収・リサイクルは進まない。環境問題に国境はなく、DOWAグループとしてはアジアで循環型社会形成を進める役割を果たしたいと考えている。
- ●くろまる3Rに関する産業界の主体的な取り組み
- ●くろまる資源循環・廃棄物の有効利用促進に向けた政策要望・政府への期待
- ●くろまるレアメタルリサイクルの強化(資源確保)
製紙業界の産業廃棄物の発生抑制・再資源化の取り組み
芳賀義雄 (日本製紙連合会会長)
- 環境負荷の低減
〜製紙業界の循環型社会の形成に向けた取り組み - 循環型社会のさらなる進展に向けて
〜今後の課題
鉄鋼業における循環型社会推進への取り組み
進藤孝生 (日本鉄鋼連盟環境・エネルギー政策委員長)
- 副産物の発生抑制と再資源化の取り組み
- 廃プラスチックの活用について
化学産業界の3Rへの取り組みと今後の課題
梶原泰裕 (日本化学工業協会環境安全委員長)
- 化学業界と循環型社会形成における法体系
- 化学業界の特徴と目標、取り組み
- 今後の課題
「PETボトルからPETボトル」に再生する水平循環システム構築への挑戦
上田光能 (サントリーホールディングス執行役員エコ戦略本部長)
- 従来のリサイクルよりエネルギーを節約
- 水平循環による石油由来資源節約とCO2排出量削減
広域認定制度を活用した資源循環の推進
石田建一 (積水ハウス執行役員環境推進部部長兼温暖化防止研究所長)
- 自社製品を自社の資源循環センターで再資源化
- より高度な資源循環に向けて
廃棄物処理を通じた限りない再資源化への挑戦
三本 守 (タケエイ会長)
- 安心と安全を提供する一貫処理体制の構築
- 入口と出口の安定的確保によりリサイクル・ループを確立
セメント産業における廃棄物・副産物の活用を通じた循環型社会構築への貢献
矢尾 宏 (セメント協会会長)
- セメントの製造
- 廃棄物・副産物の有効活用
容器包装の3Rの円滑な推進に向けて
酒巻弘三 (3R推進団体連絡会幹事長)
- 容器包装リサイクル法の概要
- 3R推進団体連絡会の生い立ちと容器包装の3Rに関する産業界の取り組み
- 今後の容器包装の3Rの円滑な推進に向けて
廃棄物処理業界の優良化推進と資源有効利用の進展
樋口成彬 (産業廃棄物処理事業振興財団理事長)
- 産業廃棄物処理業の優良化の推進
- 人材育成事業や技術開発への助成の実施
災害廃棄物処理を通じたリサイクルと地域復興への取り組み
塚田高明 (鹿島建設常務執行役員環境本部長)
- 今般の災害廃棄物の特色
- 宮城県石巻ブロック災害廃棄物処理業務の概要
新しい資源循環政策を目指して
〜資源政策と廃棄物政策の融合の模索
細田衛士 (慶應義塾大学経済学部教授)
- 「ごみ」が「ごみ」でなくなる日
- 適正な静脈物流システムの構築が急務
循環型社会構築に向けて確認されるべきこと
浅野直人 (福岡大学法学部教授)
- 計画の進捗状況の点検で指摘された諸課題
- 循環の「量」および「質」の確保が次期計画のキーワード
- 持続可能な社会のための循環型社会
一般記事
【提言】 一日も早い被災地域の生活再建と産業復興に向けて
〜震災からの復興の加速に向けた提言
米倉弘昌 (経団連会長・震災復興特別委員長)
- 復興施策推進体制の強化を
- 災害廃棄物処理の促進は急務
- 生活再建のためのまちづくり
- 産業復興のための事業環境整備
【提言】 新たな海洋基本計画に向けて
元山登雄 (経団連海洋開発推進委員長/三井造船相談役)
- 海洋をめぐる環境変化
- 新たな海洋基本計画における重要政策
- 推進体制の強化
【提言】 インドネシアとの貿易投資のさらなる推進に向けて
〜提言「日本インドネシア経済連携協定の高度化を求める」
朝田照男 (経団連日本・インドネシア経済委員長/丸紅社長)
- 物品貿易
- 投資・サービス貿易
- 人の移動
- エネルギー・鉱物資源
- 政府調達
- ビジネス環境整備
強靭な流通サプライチェーンの構築に向けて
〜3・11 東日本大震災からの教訓
亀井 淳 (経団連審議員会副議長・流通委員長/イトーヨーカ堂社長)
- 流通サプライチェーンを維持するうえでの課題と対応策
- 被災地に支援物資を提供するうえでの課題と対応策
アジアの経済連携強化に向けて
〜第3回アジア・ビジネス・サミットに参加して
米倉弘昌 (経団連会長)
- 日本以外の地で初めて開催
- 経済統合がもたらす利益
- イノベーションを支える人材育成やインフラの整備
- 討議結果を共同声明として採択
連載
- 【ルポ】 オンリーワンで市場を開く(シリーズ第8回)
- からだによい水で人々の健康に貢献する
電解還元水で水・健康市場を開拓 〜 日本トリム - (経団連産業政策本部)
- 水がビジネスになる時代を先読み
- 独自の電解還元水を糧に事業を発展
- 水の持つ機能を科学的に裏付け、最先端を追求
- 体によい水を世界中の人々に届ける
- 経営者のひととき
忘れ得ぬ「球友」
片岡丈治(片岡物産会長) - エッセイ「時の調べ」
わからないこと、わからないもの
野村萬斎(狂言師)