月刊 経団連2012年8月号
特集 安全保障に資する産業の基盤強化を図る
巻頭言
決断と実行で日本を再生する
私が経団連会長に就任してから、はや2年が経過した。昨年3月11日、東日本大震災が発生し、わが国は甚大な被害を受けたが、政府、自治体、企業各社ならびに地域の方々をはじめとする皆様の懸命の努力によって、被災地の復旧は着実に進んできた。
特集
安全保障に資する産業の基盤強化を図る
防衛産業は、装備品の開発・生産・改修・向上を通じて、自衛隊の運用支援を担っているが、防衛関係費の減少傾向が続くなかで、厳しい状況下にある。政府は昨年12月、一定の条件のもとで武器輸出三原則等の包括的な例外化措置を講じることを決定し、現在は防衛生産・技術基盤戦略の策定に向けた検討を進めている。こうした現状を踏まえ、国家安全保障の重要な要素である防衛産業の生産・技術基盤の維持・強化に向けた課題について議論した。
座談会:防衛産業の生産・技術基盤の維持・強化に向けて
- 大宮英明 (経団連副会長・防衛生産委員長/三菱重工業社長)
- 矢野 薫 (経団連審議員会副議長/日本電気会長)
- 佐藤育男 (日本防衛装備工業会会長/日本製鋼所社長)
- 小川和久 (軍事アナリスト・国際変動研究所理事長・静岡県立大学特任教授)
- 桜林美佐 (司会:ジャーナリスト)
大宮英明 (経団連副会長・防衛生産委員長/三菱重工業社長)
経団連防衛生産委員会は、2010年7月に公表した「新たな防衛計画の大綱に向けた提言」において、予算の制約のなかで防衛生産・技術基盤を維持・強化するため、重点投資分野を明確化した防衛産業政策の確立や武器輸出三原則等の見直しを訴えた。安全保障や防衛産業に対する国民の理解を促進するためには、その意義や役割を丁寧に説明していくことが大切である。経団連としても広報活動に努めていきたい。
矢野 薫 (経団連審議員会副議長/日本電気会長)
専守防衛を旨とする日本の安全保障において、情報優越の確立は必須である。また、インターネットをはじめ、情報通信システム分野の民生技術発展に、米国の軍事技術開発の成果が寄与してきたことは周知のとおりである。こうした観点からも、防衛生産・技術基盤の維持・強化は重要だと考える。防衛産業の従事者が国家の安全に寄与するという高い志を持って働いていることを、ぜひ、理解してもらいたい。
佐藤育男 (日本防衛装備工業会会長/日本製鋼所社長)
当社は、1907年、英国の技術を導入し国産の兵器を製造することを目的として創業した。現在は、兵器製造で培った技術をもとに、各種の産業機器を開発・製造している。そのDNAは今日に受け継がれており、防衛産業における技術基盤の維持・強化には強い思いがある。ある程度のボリュームがなければ産業は維持できないため、輸出ができない防衛産業は厳しい状況にある。武器輸出三原則の見直しを契機に、装備品の国際共同開発を進めたい。
小川和久 (軍事アナリスト・国際変動研究所理事長・静岡県立大学特任教授)
海に守られてきた日本は、島国ゆえに外交・安全保障・危機管理を苦手としてきた。平和と安全なくして繁栄なしの思想的整理のもと、適正な安全保障体制について国民に正面から問いかける時期に差し掛かっている。縦割りの弊害を乗り越え、安全な日本を実現するためには、日本版NSCの創設は不可欠だ。そのうえで、国際水準をクリアしたシンクタンクがあれば、国家の安全にかかわる重要なテーマについて正面から国民に問うことができ、理解も深まっていく。
桜林美佐 (司会:ジャーナリスト)
官房長官談話というかたちで武器輸出三原則等が見直されるなど、防衛政策は、一つの転換期といえるタイミングにある。国防は国が続く限り行われ、これまで継承してきた技術の火を消してはいけない。防衛装備品を購入する予算の割合は、決して多くなく、予算が付かなければ、企業は動けない。勇気を持って、防衛費の増額を訴えなければならないと強く感じる。
- ●くろまる防衛産業の現状と基盤強化に向けた課題
- 防衛産業の現状と経団連における取り組み
- 欧米は、武器輸出を防衛生産基盤維持の手段に
- 明確な方針を定めることが大切
- 情報通信システム、宇宙システムの開発利用
- 陸上装備システムの現状と課題
- 安全保障に関する思想・哲学の構築を急げ
- ●くろまる国民の安全保障に対する理解の促進
- 国民に向けて、わかりやすく、丁寧に説明していくことが大切
- 国民の安全・安心に寄与するという誇りを持って
- 防衛技術が民生転用されていることをアピールしていく
- 国民に正面から問いかけるべき
- ●くろまるこれからの安全保障のあり方と経済界・産業界の役割
- 大学教育を通して、国民の理解促進と人材育成を
- どうして「日本版NSC」が必要なのか?
- 外国との共同開発への道を開く
防衛事業への取り組み
技術をもって国の安全保障に貢献する
石戸利典 (IHI取締役常務執行役員航空宇宙事業本部長)
- 技術力と生産力で国の安全保障に貢献
- 国際共同開発のパートナーの地位獲得のために
国家の安全保障を担う責任と自負
林 由紀夫 (ダイキン工業常務執行役員)
- 防衛事業での貢献
- 今後の防衛事業における課題と取り組み
- 防衛産業政策への期待
新分野の創出と非防衛分野への応用
西舘 誠 (東芝電波システム事業部長)
- 「収益性」と「成長性」確保が必要
- 他部門の開発成果の取り込みによる事業規模の拡大
防衛・社会インフラ安全保障へのさらなる貢献
酒井邦造 (日立製作所ディフェンスシステム社社長)
- グループの技術・ノウハウを集約し事業を推進
- 技術・経験を活かし幅広く安全保障に貢献
グループと密接に連携した防衛事業の展開
岩本慎一 (富士通特機システム事業本部長)
- グループ全体の戦略と一体化して防衛ビジネスを推進
- グループ内での民間ベース防衛産業協力を実証
日英の防衛技術協力
〜パートナーシップの持続から新たな活力が生まれる
サー・ディビッド・ウォレン (駐日英国大使)
- 日英関係強化による世界の安定への寄与
- 共同開発は関係強化の機会
日米防衛産業の協力強化に向けて
ジェームス・F・アーミントン (ボーイング防衛部門国際営業日本担当バイスプレジデント/
在日米国商工会議所エアロスペース&防衛委員会共同委員長)
- 日米防衛産業の持つ優位性
- グローバリゼーションの加速と国際協力の推進
経団連総会
一般社団法人に移行後初の定時総会を開催
新副会長の抱負
民間の活力で新たな成長の道を切り拓く
荻田 伍 (アサヒグループホールディングス会長)
「スピード感」と「実行力」で難局に立ち向かう
石原邦夫 (東京海上日動火災保険会長)
閉塞の時代から成長の時代へ
篠田和久 (王子製紙会長)
経団連の新体制
一般記事
国交正常化40周年を迎え日中協力をさらに進展させる
〜訪中ミッションで中国の官民リーダーと懇談
米倉弘昌 (経団連会長)
- 日中間の信頼関係の一層の深化と経済関係のさらなる強化
- 環境分野における協力策の展開
- 日中友好の絆の強化と両国関係のさらなる発展に向けて
【提言】 TPPを梃子とする経済連携の促進に向けて
勝俣宣夫 (経団連副会長・貿易投資委員長/丸紅会長)
芦田昭充 (経団連審議員会副議長・貿易投資委員会共同委員長/商船三井会長)
- 急がれるTPP交渉参加への決断
- 成長戦略としての経済連携の推進
- TPP交渉への早期参加の意義
- TPPを梃子とする通商政策の推進
- 国内構造改革の推進と経済連携との両立
起業創造委員会報告書
「オンリーワンで市場を拓く」
荻田 伍 (経団連副会長・起業創造委員長/アサヒグループホールディングス会長)
- 優れた経営者が独自の経営理念のもと、事業を牽引
- 独自の事業戦略で成功を収める
- 各社の高い競争力を支える基盤
アジアの繁栄のためにタイ経済界と連携を強化
〜第22回日タイ合同貿易経済委員会を開催
小林栄三 (経団連審議員会副議長・日タイ貿易経済委員会委員長/伊藤忠商事会長)
伊藤一郎 (経団連日タイ貿易経済委員会共同委員長/旭化成会長)
- 両国関係の重要性を確認
- 両国協力により経済統合を推進
- 洪水復旧とメコン地域開発で協力を
- より包括的で質の高いEPAを目指して
- 新しい分野での協力の可能性を探る
第101回ILO総会に出席して
〜企業活動の活性化が雇用機会を生み出す
谷川和生 (経団連雇用委員会国際労働部会長/東芝顧問)
- ILO新事務局長に対する要望
- 「社会的保護の床」に関する勧告
- 若年者雇用の危機
- 労働における基本的原則及び権利
- アウン・サン・スー・チー氏が特別演説
【 Photo Message 】 復興の灯火
中井精也 (鉄道写真家)
連載
- 【ルポ】 オンリーワンで市場を開く(シリーズ第7回)
- 創業以来ごま一筋に伝統の味と品質にこだわる
ごま油から栄養補助食品まで ごまのスペシャリスト 〜 かどや製油 - (経団連産業政策本部)
- 小豆島に発祥、150年以上の歴史を誇る
- ごま油を調味料として差別化
- 昔ながらの製法でつくられるこだわりのごま油
- 新たな成長戦略に取り組む
- 経営者のひととき
孫への絵はがき
丸山利雄(アドバンテスト会長) - エッセイ「時の調べ」
19世紀のギター
岡ノ谷一夫(東京大学教授) - 翔べ!世界へ―奨学生体験記
体験が生み出すぶれない心
楡木祥子(ÖSSUR ASIA 日本マーケット統括マネージャー)