遺言がない場合に相続が生じると、民法の規定に従い遺産が分けられること(これを「法定相続」といいます。)になります。例えば、配偶者と子供2人の場合、配偶者が2分の1、子供が各4分の1ずつ相続することになります。もし、夫婦に子供がいなければ両親と配偶者が相続し、両親が各6分の1ずつ、配偶者が3分の2を相続し、さらに、両親もいなければ兄弟姉妹と配偶者が相続して、兄弟姉妹が4分の1、配偶者が4分の3を相続します。相続人が誰もいない場合には、財産は国庫に帰属することになります。
なお、当役場では、わかりやすい図で、法定相続分と各相続人の遺留分(法律上必ず留保されなければならない相続分の一定割合)について具体例を使って説明しておりますので、法定相続分と遺留分のページもご覧ください。なお、相続人でも兄弟姉妹には、遺留分はありません。
ただ、民法の規定は抽象的な相続分の割合を定めているだけなので、具体的な相続分については、相続人間で話し合って決めること(これを「遺産分割協議」といいます。)になりますが、話し合いがまとまらない場合には、相続人の申立てにより家庭裁判所の家事調停が開始されます。調停がまとまった場合には調停調書が作成され、調停がまとまらない場合には家庭裁判所の裁判官による審判により決まることになります。
遺言は遺言者(故人)の意思を明確にするものであり、単に誰に何を遺すかということだけでなく、生涯をかけて築き守ってきた大切な財産を最も有効かつ有意義に使いたいという切実な思いを遺された親族に伝えるものです。これにより、相続人間の骨肉の争いとなるような「争族問題」を予防することもできます。
また、遺言で、遺言執行者を指定しておけば、不動産の名義変更や預貯金の解約のために、その都度相続人全員が集まったり委任状を作成する必要もなく、遺言の執行を迅速に行うことができ、遺された相続人の方のためにもなります。
次の場合には、遺言の必要性が高く、遺言公正証書を作成することを強くお勧めします。
- 夫婦間に子供がおらず、配偶者に全財産を遺したい場合
夫婦間に子供がおらず、配偶者のほかに相続人として兄弟姉妹がいる場合、遺言がないと法定相続分に従い、配偶者の相続分は4分の3、兄弟姉妹の相続分は4分の1となります。配偶者に全財産を相続させたい場合には、「全財産を妻(夫)に相続させる。」という遺言をしておく必要があります。
- 法定相続分によらずに、自分の意思で各相続人に財産を配分したい場合
長年連れ添った配偶者に多くの財産を遺したい場合、あるいは、老後の面倒をよくみてくれている子や心身に障害をかかえている子に、他の子より多くの遺産を遺したい場合には、遺言で相続分を指定する必要があります。
- 相続人以外の人に財産を遺したい場合
世話になった息子の嫁やかわいい孫たちに財産を遺したい場合、あるいは、生前にお世話になった人に財産を分けてあげたいという場合には、それらの者に財産を遺贈する旨の遺言が必要です。
- 相続人の1人に、遺言者の事業や農業を承継させたい場合
遺言をすることにより、遺言者が一生をかけて築いてこられた事業や先代から大切に引き継いでこられた農業の基盤となる財産をまとめて相続させて、相続人に後継者として事業や農業を承継させたい場合です。
- 社会貢献として、しかるべき公共団体・医療法人・社会福祉法人・母校の学校法人等に寄付をしたい場合
- 相続人の中に外国に居住する者や所在が不明な者がいて、遺産分割協議や遺言執行をするのに事実上障害がある場合
- 相続人同士が不仲あるいは疎遠で、遺産分割協議が円満にまとまらず遺産争いとなるおそれがある場合
など
- 遺言は、遺言者の真意を確実に実現させる必要があるため、厳格な方式が要求されるので、遺言公正証書以外の方式による遺言書(自筆証書遺言や秘密証書遺言)の場合、その方式を満たしていないとせっかく作っても無効になってしまうおそれがあります。これに対し、遺言公正証書の場合には、法律の専門家である公証人が作成するので、方式の不備で無効になるおそれはまったくなく安心です。また、遺言の内容が複雑であっても法律的に見てきちんと整理した内容の遺言にいたします。
- 遺言公正証書の場合、遺言書の原本が公証役場で厳重に保管されますので、遺言書の破棄・改ざん・隠匿・紛失の心配がありません。
- 自筆証書遺言や秘密証書遺言の場合には、遺言書の保管者又はこれを発見した相続人が、遺言者の死亡を知った後遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出し、さらに、法定相続人全員の戸籍謄本、除籍謄本、住民票等の必要書類一式も提出して、相続人全員の立会いの下で家庭裁判所で遺言書の検認手続を受けなければなりません。これに対し、
遺言公正証書の場合、遺言公正証書が公証人が作成する遺言書なので家庭裁判所の検認手続が省略され、相続開始後、遺言の内容を速やかに実現できます。
- 遺言公正証書作成の事前打合せ。
遺言される方(遺言者)又はその代理人の方が、事前にご予約の上必要な書類(下記の「遺言者のご準備いただく書類」をご参照ください。)を持って京橋公証役場までお越しください。なお、公証役場での打合せの日に書類が揃っていなくとも、後日揃えていただければかまいません。
後日、遺言公正証書を作成する際には、証人2名が必要ですのでご準備ください。適当な方がいらっしゃらない場合には、公証役場の方で証人を紹介することもできます。
なお、相続人・受遺者、これらの配偶者・直系血族、未成年者の方は証人にはなれません。
- 遺言者の意思と遺言の内容を確認の上、公証人が遺言公正証書の原案を作成。
- 公証人から遺言者に、遺言公正証書の原案を、ファックス・メールで送信又は郵送で送付。
- 遺言者による遺言公正証書の原案の確認、検討。
- 遺言公正証書を完成させる日時の調整、決定。
- 遺言公正証書の作成日
- まず、公証人が、証人2名の前で、遺言者の本人確認(氏名・住所・生年月日等)をします。
- 次に、遺言者から、公証人に、遺言の趣旨について話していただき、公証人が、証人2名の前で、遺言者に遺言公正証書の原案をご覧いただきながら読み上げ、遺言者にその内容に間違いがないかを確認していただきます。
口がきけない人が遺言者の場合には、公証人及び証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳によって申述するか又は紙に自ら書いて示すことで口授に代えることができます。
耳が聞こえない人が遺言者又は証人の場合には、公証人が遺言者の口授を筆記した内容を通訳人の通訳を介して遺言者又は証人に伝えることで、読み聞かせに代えることができます。
- 遺言者が内容に間違いがないことを確認後、遺言公正証書の原本に遺言者と証人2名が署名捺印し、公証人も署名捺印して、遺言公正証書が完成。
- 遺言者の本人確認資料が、印鑑登録証明書(公正証書作成の日から3か月以内に発行されたものであること)のときは実印で捺印。
- 遺言者の本人確認資料が、運転免許証、パスポート等の顔写真入りの公的機関発行の身分証明書のときは認印で捺印。
- 証人の方は認印で捺印 。
- 公証人も署名捺印して遺言公正証書が完成。
- 遺言公正証書の正本と謄本とに、それぞれ契印して遺言者に交付いたします。
- 遺言の内容を書いた遺言書案又はメモ。
- 遺言者の本人確認資料
遺言者の印鑑登録証明書(公正証書作成の日から3か月以内に発行されたものであること)又は運転免許証、パスポート等の顔写真入りの公的機関発行の身分証明書
- 遺言により相続させる人又は遺贈する人に関する資料
- 遺言で相続人に相続させる場合には、遺言者と相続人との続柄がわかる戸籍謄本
- 遺言で財産を相続人以外の人に遺贈する場合には、その方の住民票等、氏名・住所・生年月日のわかるもの
上記A.B.の書類が入手困難な場合や遺言作成の必要性が切迫している場合は、公証人にご相談ください。
- 遺言者の財産(遺産)の資料
- 不動産について
- 手数料を算定するために必要な固定資産税の評価額が分かる書類(以下のa又はbのいずれか)
- 固定資産税評価証明書(東京都では都税事務所、それ以外の場合市区町村役場で交付されます。)
- 固定資産税納税通知書に添付又は同封された課税明細書(毎年4月〜6月ころ市区町村から送られてきます。)
- 公正証書に個々の不動産を表記する場合には、不動産の登記事項証明書又は登記簿謄本(なお、インターネットで取得できる民事法務協会の登記情報提供サービスによる全部事項情報でも可。)
- 株式等の有価証券、ゴルフ会員権、預貯金、現金等について
- 株式等の有価証券、ゴルフ会員権、預貯金、現金等の種別とだいたいの金額を書いた一覧表メモ(遺言の基本手数料を算定のために必要となる資料です)。なお、だいたいの金額を口頭でお伝えいただいても結構です。
- 預貯金、株式について、個別に公正証書に記載することをご希望の方は、 以下のものがわかるもの。
- 預金については、金融機関名・支店名
- 貯金については、記号番号
- 株式については、預託先の証券会社名・支店名
- 証人2名の氏名・職業・住所・生年月日のメモ。
- 遺言公正証書の手数料の計算方法
- 基本手数料
手数料は、法令により、次のとおり相続人・遺贈を受ける人ごとに計算した目的価額(相続又は遺贈される財産の価額)を基準に、それぞれの手数料を計算します。
目的価額
基本手数料
目的価額
基本手数料
100万円まで
5,000円
1億円まで
43,000円
200万円まで
7,000円
1億5000万円まで
56,000円
500万円まで
11,000円
2億円まで
69,000円
1000万円まで
17,000円
2億5000万円まで
82,000円
3000万円まで
23,000円
3億円まで
95,000円
5000万円まで
29,000円
3億5000万円まで
106,000円
3億円を超えるときは、超過額5,000万円ごとに、10億円までは11,000円ずつ、10億円を超えるものは8,000円ずつ、それぞれ加算されます。
なお、祭祀承継者の指定や認知等は、目的価額が算定不能として500万円とみなし、11,000円の手数料となります。
- 遺産総額が1億円以下のときは、上記Aの基本手数料とは別に、遺言加算として11,000円がかかります。
- 正本・謄本の費用は枚数(1枚につき250円)によって決まります。
- ×ばつ250円が加算されます。
- ご自宅や病院等に出張し病床で作成する場合には、上記1の基本手数料の5割増しとなり、日当1万円(4時間以内)と交通費が必要となります。
- 遺言公正証書の手数料の計算例
- 遺言者甲の遺産総額6000万円で、妻乙に全額6000万円を相続させる場合
妻乙6000万円
手数料43,000円
1億円以下の遺言加算
11,000円
正謄本代
約4,000円
合計
約57,000円
- 遺言者甲の遺産総額6000万円で、妻乙に3500万円、長男丙に1500万円、二男丁に1000万円の割合で相続させる場合
妻乙3500万円
手数料29,000円
長男丙1500万円
手数料23,000円
二男丁1000万円
手数料17,000円
1億円以下の遺言加算
11,000円
正謄本代
約4,000円
合計
約84,000円
遺言者が存命中は、公証役場に遺言書の検索や遺言公正証書の謄本請求ができるのは遺言者本人だけです。遺言者の遺言の秘密を守るため、相続人であっても遺言書の検索や遺言公正証書の謄本請求をできません。
遺言者が死亡した後は、相続人、受遺者、遺言執行者等の法律上の利害関係を有する者のみが、公証役場に遺言書の検索及び遺言公正証書の謄本請求をすることができます。
- 上記の法律上の利害関係を有する者本人が、公証役場にきて、遺言書の検索及び遺言公正証書の謄本請求をする場合には、以下のものが必要です。
- 遺言者本人が死亡したことを証明する書類(除籍謄本)
- 請求者が法律上の利害関係人であることを証明する書類(戸籍謄本等)
- 請求者の身分を証明するもの
(印鑑登録証明書(発行後3か月以内のもの)及び実印、もしくは、運転免許証・パスポート等の顔写真入りの公的機関発行の身分証明書のいずれか1つ及び認印)
- 上記の法律上の利害関係を有する者の代理人が、公証役場にきて、遺言書の検索及び遺言公正証書の謄本請求をする場合には、以下のものが必要です。
- 遺言者本人が死亡したことを証明する書類(除籍謄本)
- 請求者が法律上の利害関係人であることを証明する書類(戸籍謄本等)
- 請求者の印鑑登録証明書(発行後3か月以内のもの)
- 請求者からの委任状 (請求者の実印が押印された委任状)
- 代理人の身分を証明するもの
(印鑑登録証明書(発行後3か月以内のもの)及び実印、もしくは、運転免許証・パスポート等の顔写真入りの公的機関発行の身分証明書のいずれか1つ及び認印)
なお、日本公証人連合会の「遺言検索システム」により、昭和64年(平成元年)1月1日以降に全国で作成された遺言公正証書及び秘密証書遺言について、公証役場名、公証人名、遺言者名、作成年月日等のデータ(遺言内容を含みません。)がコンピューター登録されておりますので、全国のどこの公証役場でも遺言書の検索ができます。最寄りの公証役場で、必要書類をご持参の上、遺言の検索をしてください。ただし、遺言公正証書の謄本請求は、遺言公正証書を作成した公証役場でしかできません。
なお、秘密証書遺言の場合、遺言書の検索で遺言書の作成が確認できても、その遺言書は公証役場で保管しておりませんので謄本請求はできません。
Q1.体調がすぐれず京橋公証役場まで伺うのが難しいのですが、それでも遺言公正証書の作成ができるでしょうか? アコーディオンのイメージ
A.東京都内であれば、ご自宅・病院・介護施設等どこにでも公証人が出張して遺言公正証書を作成いたします。ご気軽にご相談ください。
Q2.遺言公正証書を作成するのにどれくらいの日数がかかりますか? アコーディオンのイメージ
A.遺言の内容が単純で必要書類が揃っていれば、遺言公正証書作成のご依頼を受けてから2・3日で、公証人が公正証書の原案を作成し、公証役場からファックス・メールでこれを送信又は郵送いたします。
Q3.一切の財産を妻(夫)に相続させるという簡単な遺言も、公正証書にできますか? アコーディオンのイメージ
A.不動産や預貯金・有価証券等がある場合、不動産の表示や預け入れた金融機関名・支店名を遺言に記載するのが一般的ですが、これらを書かずに一切の財産を妻(夫)に相続させるという遺言ももちろんできます。
Q4.相続人や受遺者が遺言者より先に死亡した場合の遺産の分け方も、公正証書で決めておくことができますか? アコーディオンのイメージ
A. 同じ遺言の中で、予備的に相続人や受遺者が遺言者より先に死亡した場合の定めをすることができます。決めておかないと法定相続分に従って配分されることとなります。
Q5.遺言執行者の指定があると、どのようなメリットがあるのでしょうか? アコーディオンのイメージ
A.遺言執行者とは、遺言者に代わって遺言の内容を実現させる者であり、弁護士等の専門家だけでなく、相続人・受遺者自身もなることができます。遺言で遺言執行者が指定されると、相続人・受遺者全員の署名捺印がなくとも、遺言執行者のみで相続登記や預金口座の解約等が円滑に行えるので、相続人・受遺者の負担が軽減されるメリットがあります。さらに、「遺言執行者が任務遂行に関して必要と認めたときは、第三者にその任務を行わせることができる」と定めておけば、弁護士、司法書士、税理士の先生に必要な事務を任せることもできます。
Q6.遺言は、変更や取消しが自由にできますか? アコーディオンのイメージ
A.遺言は、人の最終意思を保護しようという制度ですから、家族関係や財産状況の変化、心境の変化等で遺言の変更や取消しをしたいと思った場合には、いつでも、また、何回でも遺言の変更や取消しができます。
Q7.付言事項とはどのようなものですか? アコーディオンのイメージ
A.遺言公正証書では、相続分の指定、遺贈、相続人の廃除及び廃除の取消、遺言による認知等、遺言の内容として法的な効力が認められる遺言事項のほかに、法的な効力を直接発生させることを目的とせず、付言事項として、葬式や法要の方法、献体や散骨の希望、家族の融和や家業の発展の祈念等も公正証書に記載することができます。これらの付言事項によって、遺言者ご自身の素直な思いやご家族や関係者に対する感謝の気持ちを伝えることができます。また、遺言で特定の者に相続させるとした場合などには、その理由を付言事項で書いておくと相続人間での遺留分に基づく争いを防止することも期待できます。
Q8.代襲相続とは何ですか?アコーディオンのイメージ
A. 被相続人の死亡以前に、相続人となるべき子・兄弟姉妹が死亡し、又は廃除され、あるいは欠格事由があるために相続権を失ったとき、その者の直系卑属(兄弟姉妹の場合はその子に限る)がその者に代わってその者の受けるはずであった相続分を相続するのが、代襲相続です。
Q9.遺言で、保険金の受取人を変更できますか? アコーディオンのイメージ
A. 平成22年4月1日施行の改正保険法において、遺言で、保険金の受取人の変更ができる旨の規定が新設されましたので、平成22年4月1日以降に締結された保険契約については、遺言で、保険金の受取人の変更をできるようになりました。それより前に締結された保険契約の保険金受取人の変更については、保険契約約款等で遺言による保険金の受取人の変更が禁止されている場合にはできませんので、契約された保険会社に、遺言で、保険金の受取人の変更ができるかどうかをご確認ください。
Q10.遺言公正証書作成の際に、尊厳死宣言も公正証書にできますか? アコーディオンのイメージ
A. 遺言公正証書作成の際に、尊厳死宣言公正証書も作成できます。尊厳死宣言公正証書について、詳しくは、尊厳死宣言のページをご覧ください。