一般社団法人 日本頭頸部癌学会

頭頸部がん

V.頭頸部の再建術

1.再建術・マイクロサージャリーとは

頭頸部がんの手術では腫瘍の大きさによって、広い範囲の切除が必要になります。頭頸部は食事、会話、呼吸といった生活に重要な組織があるため、切除によって大きな欠損を生じた場合、 欠損部を修復する必要があります。この欠損部に体の他の部分から皮膚や、筋肉、骨などの組織を移植して修復するのが、再建外科(形成外科)の役割です。移植の方法には有茎組織移植と遊離組織移植がありますが、 現在はマイクロサージャリーによる遊離組織移植が主流となっています。マイクロサージャリーとは、手術用顕微鏡を用いて移植組織の栄養血管(動脈・静脈)を移植部位(通常は頸部)の血管とつなぎ合わせる手術です。 通常は、2〜3mm程度の太さの血管を、非常に細い糸でつなぎ合わせる方法です。動脈・静脈それぞれを頸部の血管とつなぎ合わせることで血液の流れを再開させ、離れた部位から採取した組織を移植することが可能になります。 (図V-1-1)

技術的には確立された方法ですが、2〜3%程度の頻度で吻合血管に血栓が詰まり、再手術が必要となる場合があります。頭頸部に吻合に適した血管がない場合や血管吻合自体が無理な場合は、血管吻合を必要としない 有茎組織移植を選択します。

図V-1-1(左) 顕微鏡で血管をつないでいるところ (右) 頸部の血管につないだ血管

図V-1-1(左) 顕微鏡で血管をつないでいるところ
(右) 頸部の血管につないだ血管

2.手術後の血栓

図V-2-1

図V-2-1

手術後、移植組織の血流が障害されることがあります。原因はさまざまですが、血管と血管をつないだところに血栓(血液の塊、吻合部血栓と呼びます。)ができる事が最も大きな要因です。現在の医療レベルでは、 2〜3%程度の確率で吻合部血栓が生じるとされています。(図V-2-1)は静脈血栓のためうっ血に陥った皮弁の状態です。これを放置するとせっかく移植した組織が壊死してしまいます。このため一刻も早く血栓を取り除き血管を再吻合する緊急手術が必要になります。 遅くとも、数時間以内に血管を再開通させないと組織は壊死してしまいます。吻合部血栓は手術後2~3日以内に生じることがほとんどで、その後時間が経つにつれて確率は減っていきます。術後1週間経過すれば、 血管が詰まる可能性はほとんどなくなります。ですので、通常は入院期間中に生じる合併症で、退院後に生じる心配はありません。

かつては、手術後に患者さんが動くことで、血管が詰まりやすくなると考えられたため、術後1週間前後、ベッド上での安静や頸部の固定などが必要とされていました。現在では、術後すぐに離床・歩行を行っても吻合部血栓の確率は上がらないことや、 逆にベッド上安静に伴い別の合併症(せん妄、肺炎、深部静脈血栓症など)が生じることがわかっており、再建術後にも早期の離床・歩行が勧められています。

吻合部血栓を生じた場合を含め、移植した組織が術後血流不良に陥り、全部あるいは一部が壊死すること(死んでしまうこと)があります。現在の医療レベルでは、1%程度の確率で組織の全壊死が生じるとされています。 小さい範囲の壊死であれば、病棟での処置などで済むことが多く、追加の手術なしでの治療が可能です。しかし、移植組織の大部分が壊死した場合には、再手術(再度の組織移植など)が必要になることがあります。

3.いろいろな移植方法(遊離組織移植)

1)遊離腹直筋皮弁

しかく腹直筋皮弁の概略
図V-3-1

図V-3-1

腹直筋はいわゆる腹筋の一つです。筋肉を栄養する血管が同時に腹部の皮膚も栄養しているため、腹直筋の一部または全部と腹部の皮膚・皮下組織を同時に採取して移植します。(図V-3-1)

腹直筋皮弁は、頭頸部再建に用いられる皮弁のなかでも、採取できる皮膚・皮下脂肪・筋肉の量が比較的大きいという利点があります。栄養血管(深下腹壁動静脈)が⻑く採取できることも利点となります。したがって、 舌がんの手術では舌全摘や亜全摘といった切除される量が多いときに、また上顎がん、中咽頭がんなど多くの頭頸部がんの切除後の再建にこの皮弁が用いられます。ただし、患者さんによっては腹直筋採取に伴う機能障害が 問題になることもあるため、再建に筋肉が必要のない場合には、皮膚の栄養血管だけを取り出し、腹直筋をできるだけ温存した皮弁(腹直筋穿通枝皮弁)が用いられることもあります。

しかく皮弁採取部の後遺症
図V-3-2

図V-3-2

皮弁を採取することで、腹部に傷あとができますが衣服に隠れます。(図V-3-2)
術後に、腹筋力の低下が起こることがあります。また、合併症として腹壁瘢痕ヘルニアといって腸の一部が突出する症状を起こすことがあります。ヘルニアの程度が軽い場合はそのまま経過観察となることがほとんどですが、 程度が重い場合や腸閉塞を併発した場合はそれに対する手術・治療が必要になります。ヘルニアの発生を予防するために術後しばらく腹帯の装着を勧められることがあります。

2)遊離前外側大腿皮弁

前外側大腿皮弁の概略

大腿(太もも)の前側やや外側から組織を採取する方法です。(図V-3-3)の⻘い線が皮弁を採取する予定の部位で、赤い線は大腿動脈とその分枝の走行を示します。皮膚、皮下脂肪とこれを栄養する血管(外側大腿回旋動静脈)だけで採取する事が可能ですが、必要に応じて大腿の筋膜、 筋肉の一部を同時に移植する場合もあります(図V-3-4)。

大腿皮弁は腹直筋皮弁に比べると皮下脂肪がやや薄いことが多く、舌がん、中咽頭がんなど中程度の頭頸部の欠損に対して有用な皮弁です。通常採取した部分は縫合閉鎖することが可能ですが、大きな皮弁を採取 した場合は皮膚移植が必要になることがあります。栄養血管の位置に個人差があるため、手術前に超音波検査で血管の状態や位置を確認することが一般的です。

図V-3-3

図V-3-3

図V-3-4

図V-3-4

皮弁採取部の後遺症
図V-3-5

図V-3-5

  • 傷跡・・採取皮弁のサイズが大きくなければ一期的に縫合し、線状の傷跡が残ります(図V-3-5)。体質によっては傷痕がケロイド状になり、痛みやかゆみ、つっぱりが強く出ることがあります。
  • 知覚障害・・皮弁採取部から膝上にかけて感覚の鈍い所や、しびれた様な感覚が残ることがあります。
  • 筋力低下・・日常生活に支障はありませんが、筋力が落ちたと感じる場合があります。
  • 歩行について・・歩けなくなることはありませんが、スポーツや階段の昇り降りで多少不自由を感じる場合があります。

3)遊離前腕皮弁

しかく前腕皮弁の概略

腕は、肘を境に肩に近い方を上腕、手に近い方を前腕といいます。前腕には、親指側を流れる橈骨(とうこつ)動脈と小指側を流れる尺骨(しゃっこつ)動脈と2本の血管が存在します(図V-3-6)。
前腕皮弁では、前腕部分の親指側を流れる橈骨動脈、静脈とそれによって栄養される皮膚を用います。ちょうど腕時計のベルトがあたる辺りから採取します(図V-3-7)。

前腕皮弁は、薄い皮膚を採取し細工がしやすいという特徴を有します。また、血管が⻑いことや、皮膚への血流も安定しており信頼性の高い皮弁の一つです(図V-3-8)。

通常、利き腕とは反対の前腕皮弁を選択しますが、尺骨動脈と橈骨動脈の血流バランスも参考にして決定します。

図V-3-6

図V-3-6

図V-3-7

図V-3-7

図V-3-8

図V-3-8

頭頸部再建では、舌半側切除や咽頭の部分切除後などの比較的小さい欠損に用いられます。

しかく皮弁採取部の後遺症
図V-3-9

図V-3-9

皮弁採取後、前腕部分には薄い皮膚移植が必要になり、手首に近い部分に目立つ傷あとが残ります。(図V-3-9)は膚移植をした後の前腕部の状態でやや色素沈着が認められます。また橈骨動脈を犠牲にしても、尺骨動脈が温存されていてれば、指の血流もほとんど問題ありませんが、まれに指先や手に冷感が出現したり手が動かしにくくなったりすることがあります。 また、皮弁を採取することで親指と人差し指の周辺がしびれることがあります。

4)遊離空腸移植

しかく空腸移植の概略
図V-3-10

図V-3-10

図V-3-11

図V-3-11

小腸の一部である空腸をその栄養血管(空腸動静脈)とともに開腹手術で採取し、移植する方法です。(図V-3-10)は腹部の切開創、(図V-3-11)は空腸採取の様子を示します。基本的な適応としては、 がん切除後の全周性の消化管粘膜欠損の再建で、同じような口径を有する下咽頭・頸部食道の再建に用いられます(図V-3-12)。

代表的な対象疾患としては、進行した下咽頭がん、頸部食道がん、喉頭がんなどがあげられます。
(図V-3-13)は採取した空腸を頸部の欠損に移植して、栄養血管を頸部の血管とつなぎ合わせた様子を示しています。また、中・下咽頭の粘膜の部分欠損に対しては、切り開いてパッチ状にした空腸を移植し再建することもあります。病状によっては、そのような移植法で喉頭を温存することが可能な場合もあります。下咽頭部の全周性欠損には皮膚を筒状にした皮弁による再建方法もありますが、空腸は内腔が粘膜で覆われ、下咽頭、頸部食道に近い構造を有しているため、食物の通りがよりスムースになる利点があります。また、遊離空腸は大変血流に富んだ組織であり、上記のような絶えず唾液にさらされる部位の再建でも、他の再建方法に比べ良好な創治癒が得られています。進行下咽頭がんなどに対する 咽頭・喉頭・頸部食道摘出(咽喉食摘)術に対する再建法としては、その安全性・確実性から本法が第一選択の手術法とされています。

図V-3-12

図V-3-12

図V-3-13

図V-3-13

しかく採取部の障害

採取される空腸は十二指腸に近い部分で、20〜30cmほどですが、小腸(空腸と回腸を合わせて)は全⻑で6mほどあるため、採取による栄養障害などは生じません。 一方、欠点として、開腹操作を必要とするため患者さんへの侵襲が決して小さくはありません。また、術後合併症として、開腹操作に伴う腸閉塞が生じることがあります。また、空腸の採取には、臍(へそ)より上に10cm程度の切開(上腹部切開)が必要であり、縦方向の傷あとが残ります。

5)血管柄付き遊離腓骨皮弁

しかく腓骨皮弁の概略
図V-3-14

図V-3-14

図V-3-15

図V-3-15

下腿(膝から下のすねの部分)の外側から、骨・皮膚・皮下脂肪・筋肉の一部を採取して移植する方法です。下腿には太い脛骨 と細い腓骨 の2本があり、体重はほぼ全てを太い脛骨で支えているため、 腓骨は再建に用いるために採取することができます。(図V-3-14)は腓骨とその上にある皮膚を採取するためのデザイン、(図V-3-15)は骨皮弁を採取する直前の状態です。移植のために比較的⻑い血管(腓骨動静脈)が採取できること、 数箇所で骨を切っても血流が安定しているので顎の骨の形を再現するのに有利であることが利点です(図V-3-16)。

頭頸部では下顎骨や上顎骨の再建によく用いられます。(図V-3-17)は下顎骨を切除した部分に、骨移植をして金属のプレートおよびスクリューで固定した状態を示します。

図V-3-16

図V-3-16

図V-3-17

図V-3-17

図V-3-18

図V-3-18

腓骨上の皮膚を採取した場合、採取部の閉鎖に他の部位からの皮膚移植が必要になることが多いのが欠点です。(図V-3-18)は腓骨皮弁採取部に皮膚移植を行った後の瘢痕です。また、静脈瘤やバージャー病(TAO)、閉塞性動脈硬化症(ASO)など下肢の血管に病気がある場合は腓骨皮弁を使用できません。

しかく皮弁採取部の後遺症
  • 傷痕・・線状の傷跡、または皮膚移植のあとが残ります。皮膚移植を行った場合は、皮膚の生着が悪く、治癒に時間がかかる場合があります(図V-3-18)。
  • 知覚障害・・皮弁採取部から足の外側にかけて感覚の鈍い所や、しびれた様な感覚が残ることがあります。
  • 筋力低下・・日常生活に支障はありませんが、筋力が落ちたと感じる場合があります。
  • 槌状趾(hammer toe)・・足の指を曲げる筋肉や腱が拘縮して足指が伸びなくなることがあります。主に母趾と第二趾に生じることが多く、歩行時に引っかかるような場合は屈筋腱を切断し、指を伸ばせるようにする簡単な手術を行うことがあります。
  • 歩行について・・歩けなくなることはありませんが、多少不自由を感じる場合があります。

6)血管柄付き遊離肩甲骨皮弁

しかく肩甲骨皮弁の概略
図V-3-19

図V-3-19

肩甲骨の外側の部分とその近くの皮膚や筋肉を同時に採取して欠損部に移植するものです。(図V-3-19)は肩甲骨とその上の皮膚皮下組織を採取するためのデザインです。骨組織と軟部組織を同時に移植できるため、頭頸部領域では1980年代後半から腫瘍切除後の上顎や下顎の再建などに用いられています。この骨皮弁の特徴としては、まず血流が豊富で安定しかつサイズの大きな皮膚・皮下組織(皮弁)を骨とともに採取できるということがあげられます。また、皮膚・皮下組織部分と骨部分との間に組織的な癒合が少なく両者の位置的自由度が高いという特徴があります。

図V-3-20

図V-3-20

(図V-3-20)は皮膚・皮下組織と採取した骨の位置関係を示します。さらに骨への栄養血行が2系統あるのでこれを利用すれば血行を十分に温存したまま立体的な骨の再建も可能であることなどがあげられます。これらは、複雑な顔面形態の再建には大変有用な利点です。かつては、手術中に患者さんを横向き(側臥位)にして採取することが多かったため、手術が長時間かかるという欠点がありましたが、近年では仰向け(仰臥位)のままで採取する方法も行われるようになっており、手術時間も腓骨皮弁とそれほど変わらなくなっています。

しかく皮弁採取部の後遺症

皮膚の採取部位は、よほど大きな皮膚を採取しない限り縫合して閉鎖することが可能ですが、縫合部に緊張がかかりやすい部位ですので、やや隆起した肥厚性瘢痕となることもあります。また、肩甲骨採取に 伴い、術直後は肩関節周囲の疼痛が生じます。疼痛で肩を動かさずにいると、将来的な肩関節可動域制限につながるため、特に高齢の方では術後のリハビリが重要になります。

7)血管柄付き遊離腸骨皮弁

しかく腸骨皮弁の概略
図V-3-21

図V-3-21

腸骨は、「腰骨」と一般にいわれる骨でベルトの高さにある外側の骨を指します。腸骨皮弁は主に下顎などの骨を切除した後の再建に用いられます。腸骨皮弁は一対の血管(深腸骨回旋動静脈)で 骨と皮膚・皮下組織が栄養されており、厚みのある皮膚成分と骨を同時に移植することができます。(図V-3-21)は腸骨を採取する部位を示します。腸骨の曲線が下顎の曲線と比較的似ているため、下顎形態の再現性に優れているといわれています。しかし皮膚が厚すぎたり、皮膚への血流が不安定な場合が多いため、皮膚成分だけ他の部分から移植する場合もあります。

図V-3-22

図V-3-22

(図V-3-22)は下顎骨を腸骨で再建し、口腔内の欠損を腸骨皮弁の皮膚成分で再建し数年後の状態です。

しかく皮弁採取部の後遺症

腸骨採取に伴う疼痛は他の骨採取部に比べても強く、2〜3週間続くことがあり、術後リハビリ・歩行の妨げになることがあります。通常運動障害は起こりませんが、骨を採取したことにより腰骨の左右差は生じます。しかし、衣服に隠れてしまうため目立つことはありません。大腿の知覚神経が腸骨採取部近くを走行しているため、術後しばらく大腿前面にしびれが残ることがあります。

4.いろいろな移植方法(有茎組織移植)

1)大胸筋皮弁

しかく大胸筋皮弁の概略
図V-4-1

図V-4-1

最も古典的な組織移植法の一つで、前胸部から組織を採取する方法です(図V-4-1)。皮膚、皮下脂肪に大胸筋を含めて皮弁を採取します。皮弁を栄養する血管(胸肩峰動静脈)は鎖骨の真ん中辺りを基点にしているので、この部分を軸にして皮弁を頭部の方向にひっくり返して移植します。血管吻合は必要ありませんが栄養血管の根元が固定されているので移植範囲に若干の制限があります。皮膚は採取せず、大胸筋だけを移植することも多いです。

図V-4-2

図V-4-2

(図V-4-2)は胸部から採取した皮膚・皮下脂肪・筋肉を鎖骨の高さまで移動したところです。通常採取した部分は縫合閉鎖可能ですが、大きな皮弁を採取した場合は皮膚移植が必要になることがあります。女性では乳房の変形が強く出るのであまり使用しません。

しかく皮弁採取部の後遺症
図V-4-3

図V-4-3

  • 傷跡・・線状の傷跡が残ります(図V-4-3)。頸部の血管を通した部分が強くひきつれる事があります。
  • 乳首・・同時に切除されたり、位置が変わったりする事があります。
  • 筋力低下・・日常生活に支障はありませんが、筋力が落ちたと感じる事があります。
  • 肩・腕の運動について・・動かせなくなる事は通常はありませんが、スポーツで多少不自由を感じる場合があります。

2)DP皮弁(Delto-Pectoral皮弁)

しかくDP皮弁の概略
図V-4-4

図V-4-4

古典的な組織移植法の一つですが、通常は頭頸部再建の第一選択としては使用せず、頸部の皮膚欠損などの治療に用いられます。前胸部で鎖骨に沿って幅約10cm、⻑さ約20cmの皮膚と皮下脂肪を採取する方法です(図V-4-4)。

図V-4-5

図V-4-5

大胸筋は採取しません。皮弁を栄養する血管は内胸動脈の枝で、肋骨と肋骨のあいだごとに胸骨の端から片方向に向かって走行しているので、この部分を幅広く軸にして皮弁を頭部の方向に回転して移植します。 血管吻合は必要ありませんが軸の部分が固定され、移植に制限があります。通常採取した部分(図V-4-5の茶色の部分)は筋肉がむき出しになるので、この部分に薄い皮膚移植を行い閉鎖します。

しかく皮弁採取部の後遺症
  • 傷痕・・胸部に皮膚移植を行った部分の傷跡が目立ちます。頸部へ移植した皮膚もひきつれることがあります。
  • 肩・腕の運動について・・動かせなくなる事は通常はありませんが、傷痕のツッパリのため多少不自由を感じる場合があります。

5.顔面神経再建

1)顔面神経再建の概要

図V-5-1

図V-5-1

顔面神経は耳下腺内を通って顔面の表情筋に分布し、顔面表情筋の運動を支配しています(耳下腺と顔面神経の解剖参照) 。顔面神経に断裂や欠損を生じた場合、顔面の動的・静的な表情のゆがみ(いわゆる顔面神経麻痺)を 生じます。耳下腺部や頬部などに生じた頭頸部がんの外科治療では、顔面神経の合併切除が必要な場合があり神経欠損を生じることがあります。顔面神経の枝は末梢で網目状に相互の連結があるので、ごく部分的な欠損や短い欠損であれば明らかな 顔面神経麻痺を生じないこともありますが、中枢側の欠損や大きな欠損に対しては何らかの修復が必要になります。神経欠損が大きく、顔面神経各枝の中枢と末梢の両断端が確認できる場合は、自家神経移植が第一選択となります。(図V-5-1)は 5本の顔面神経のうち2と3が切除されており、この部分に神経移植を行うことを示しています。

2)神経移植の方法

図V-5-2

図V-5-2

自家神経移植とは、患者さん自身の末梢神経を採取し、欠損した神経の間に橋渡しとして移植してつなぎ合わせることで神経再生を導くものです。移植に使用される神経としては、下肢の腓腹神経が多く用いられます。 患側の頸部郭清にともなって耳介の感覚を感じる大耳介神経や首の感覚を感じる頸神経叢を採取することもあります。しかし、これらの神経が原発巣近傍にある場合や、その領域のリンパ節転移を認めるかその疑いがある場合には、通常選択肢とは なりません。腓腹神経採取には下腿外側に2cmほどの切開を数箇所加えます(図V-5-2)。本神経は知覚神経であり、採取により下腿の外果(外くるぶし)から足の甲の外側部周辺の知覚鈍麻が生じますが、数ヶ月でその範囲はかなり縮小し、日常生活では特に大きな支障は生じません。

なお、腫瘍の浸潤などで顔面神経の中枢端が吻合に利用できない時は、顔面神経末梢断端と健側顔面神経や患側の舌下神経との間に神経移植を行うこともあります。

表情筋の動きの回復までにかかる時間は、神経欠損の部位、移植神経の⻑さ、患者さんの年齢、術後放射線照射の有無などが影響しますが、通常数ヶ月と考えられます。

また、本項では詳しく述べませんが、術後、顔面の動きが十分に回復せず、陳旧性顔面神経麻痺となった場合には、神経血管柄付き筋肉移植による動的再建(笑いの表情の回復)などの形成外科的治療法が有効となります。

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