連載:「トホホ書店員はホンと年中無休」

第6章 書店から見たあのベストセラー


4.柳の下にドジョウはいったい何匹? 『世界がもし100人の村だったら』

「チェーンメール」。書いているだけでも気が滅入るくらいに忌わしいモノでございます。最近はすっかりと影を潜めましたが、数年前はよくケータイメールなどで、某TV番組の名前を騙り、二の三の言わずに次へ廻してね! なんて感じのモノが流れてまいりました。これってやってるコトは不幸の手紙と同じではございませんか。

そんな忌わしくてけしからん存在であるハズの「チェーンメール」が書籍化される、などという前代未聞のおハナシがまさにこれ。そう「世界がもし100人の村だったら」(マガジンハウス刊)でございます。
世界の総人口を「100人」という絶妙にわかりやすいというか、データーとしていじりやすい単位にまで縮小しているのがミソ。これが「10人」にまで絞り込んでしまうと、前章にも書いたとおり、
「5人が男で、5人が女です」
って「合コンかよ!」などといったオマヌケなハナシに陥ってしまいますから。
しかし、この本。単なるデータとしてのみならず、人種問題や宗教問題などにも触れているメッセージ性の強さと、そしていかにもプレゼント需要を喚起しそうな、そのほのぼのタッチの挿絵と、838円という低価格ながら立派なハードカバーの装丁で、
「チェーンメール=社会の迷惑」
などといった公式を力ワザでねじ伏せ、イッキにベストセラーへとのし上がりました。

なもんで私の店でも当然売れ売れ。例によって例のごとく、

?@「入荷」

?A「即売り切れ」

?B「問い合わせ殺到」

?C「版元へ追加注文」

?D「?@へ戻る」

つう具合でループしておりました。このループが何周めだったかは今となっては定かでございませんが、ああ矢張り来ましたか、という具合に「ドジョウ本」が登場。
『日本村100人の仲間たち』って......。世界の次は日本ですか。あからさまに解りやすすぎ。ベタ過ぎ。もう少しヒネリが欲しかったところ。いや、要りません。
しかし、この本いかにも「100人ブームに乗り遅れるな!」というニュアンス濃厚緊急出版的ヤッツケ仕事な作りでございまして、日本国内のデータを1億2千万分の100に縮小した、なんと申しましょうか「しろまるしろまる白書」みたいな正直味気ない本でございまして。なものですから売上はイマイチ。装丁も予算の都合かチープ。
本家『世界』と一緒に並べて平積みするも、売れるのは『世界』ばかり。たま〜に『日本』を手に取るお客様もいらっしゃいましたが、瞬時に『世界』間違えて手に取ったコトに気づき、中身を見ることすらなく戻されるという体たらくでございました。安易なドジョウ本の哀しき現実でございます。

ええいこうなったら『東京が100人の街だったら』を出版するぞ! なんて悪ノリをする版元も現れることなく、「人口路線」はあえなく終結。そこへ、「100」というキーワードを絶対条件としつつ、今度は人口ではなく「時間軸」を切り口とした「ドジョウ本」が!
『世界がもし100年の物語だったら』ってやつで。
46億年を100年に縮小というこれまたもの凄い荒ワザでございまして、人類の歴史なんぞは後半も後半。まるで閉店5分前の店内で慌てて買い物しているような描写でございます。
「5秒に1回戦争が起きる」なんていうせわしないドンパチぶりでございますから......。
ま、ネタとしては面白いけど商業的には......。なんと申しましょうか、
「私の店の"世界がもし100人だったら"の売上が100冊だったとしたら、
"日本村100人の仲間たち"の売上は5冊です。"世界がもし100年の物語だったら"は、哀しいことに"1冊"しか売れませんでした」
と、100人風にまとめてみました。ホンとにこんな感じ。

さて、「人口」「時間軸」と来たら、残された切り口はもはや「距離」しかなかろう、と思ったワタクシは自分の脳内で勝手に
「地球を一周すると100メートルだった」
などとフザケタタイトルを考えておりました。
おりましたが、ホンとに出版する版元が現れまして。
『地球がもし100cmの球だったら』
でございます。いや、メートルとセンチという単位の差こそあれ「距離」という切り口は一緒。ああ、こんなことなら私が書きゃよかった。出版企画持ちこみゃ良かった。ああ〜"地球を一周すると100メートルだった"、とほほ〜。

さて、巻末付録でございます。
しろまるしろまる×ばつの◇◇だったら」
100なにがしシリーズのテンプレートでございます。しろまる×ばつ◇の部分に好きなキーワードを当てはめると、あらら「ドジョウ本」企画の出来上がり。アナタも便乗してみませんか? (ってもう遅いけど)。



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