連載:「トホホ書店員はホンと年中無休」

第5章 本屋の愛すべきお客様たち

1.タイトルわかりません

だいやまーくクイズですか?

書店員はよくお客様から「クイズ」を投げかけられます。それはイキナリ抜き打ちテストのごとく出題されますので、答えることが出来るか否かは、常日頃の商品知識の蓄積が運命の別れ道でございます。
とは言え、昨年の書籍の新刊点数は7万点の大台にのりまして、とてもでは無いが全部が全部は蓄積できないのが悲しいところ。

つうかお客様とて、別に好きこのんで私にクイズを投げかけてるワケではございません。
のどから手が出るくらいにどうしても欲しい本があるんだけれども、一番肝心要な「タイトル」というものを覚えていない、というまさに悶絶しそうな症状をお持ちの方々が主たる出題者なのでございます。

そのような方々は皆一様に、
「そうだ、書店員に訊けばなんとかなるハズ!」
という具合に、本の駆け込み寺よろしく書店員にヘルプを求めてまいります。それを手助けするのが我々書店員の役目、そして使命。
しかし、我々百戦錬磨の書店員とて、困り果ててフリーズしてしまうケースも多々ございます。
問い合わせの内容があまりにも手掛かりの無い、
「私の質問の"行間"を読め!」
「私の"テレパシー"を受け止めて!」
的なものだともうお手上げ。過去の例を以下にあげます。

「あの〜なんかよくわかんないんですけど、題名に"うそ"のつく本ってあります?」
これはまだ"うそ"の2文字をわかっているだけでもまだマシな方でございますが。恐らく「うそつき うそと自己欺まんの心理学」(草思社)と思われますが。しかし、そもそもタイトルを断片・フラグメントでしか覚えていないお客様にこれですか? と問うても暖簾に腕押し糠に釘状態。

「あの〜先月までたしかこの辺にあった本なんですけど、表紙に『日本語と英語が書いてある本』ってあります?」
ここまで来ると完全お手上げギブアップです。一体どうしたら良いものか? 未熟者な私にはワカリマセン。
で、こういう質問をされる場合、どうしてお客様は両手人差し指で「空中に四角」を書かれるのでしょうか?
また、同様に利き手人差し指で、カウンター上に一所懸命文字を書かれるのでしょうか? 今度はジェスチャークイズですか。
どういうワケか皆様そうなされます。おそらく自分の思いが伝わらないやるせなさ、もどかしさがそうさせるのだと思われますがいかがなものやら。

さて、本のみならず、CD販売コーナーにおいてもクイズを投げかけられる方というのはいらっしゃいます。
過日、このようなお問い合わせがございました。
「あのーTVでやってたんですけど、オムニバスのCDだと思うんですけど『人がたくさん出てる』CDってあります?」

......人がたくさん=「増殖」YMOですか?(絶対違う)
そこまで行間読めません。読心術までは心得ておりません。
せめてタイトルだけでも正確に。切にお願い申しあげます。


だいやまーくツッコミたくてしょうがない

常日頃私たち書店員は、お客様からの問い合わせに対応し続けているワケですが、書名・著者名・出版社名を完璧に覚えていらっしゃるというハナシの早い、ありがたいお方はごくごくまれでございます。
まあ、この中のどれかひとつでもキチンと正確にわかっておられれば問題なし、ノープロブレムなのですが、しかし実際には「あれ? 何か違うぞ?」という微妙に間違った覚え方をされている方が非常に多いんでございます。

部分部分がちがうモノに化けてしまったかのような間違った問い合わせでも、わかる範囲のものであれば問題ありません。むしろ、まるで鬼の首をとるようにお客様の揚げ足を取る、なんてことはタブーです。
中には非常にプライドの高いお客様もいらっしゃいます。ここで心象を悪くされても我々にはなにもメリットはありません。
そういうワケで、注文事故防止の為に安全確認をするとき意外はそのままスルーで対応します(絶対に類書がない安全圏の場合)。
しかし、声にこそ出さないものの、私は心の中でこんなツッコミいれております。(いや、あの......、ちゃんと仕事しておりますよ。)

「"買っちゃダメ"って本ありますか?」
買ってはいけないオトモダチバージョンですか。

「コミックでさぁ〜"だいもんたけに"ってある?」
それは"エンブレムテイクツー"(代紋TAKE2)といいます。

「井原西鶴の本注文したいんだけど。出版社は、ツノカワ文庫だと思うけど」
それを言うなら角川文庫です。カ・ド・カ・ワ!

「雑誌にのってたこの本注文したいんですけど。ええと、出版社名は、この雑誌に書いてあるんですけど、『小社』ってところです。」
......あまりにもベタっつうか手垢のついたネタでございます。すでに古典芸能の域に入っております。

「"世界がもし『10人』の村だったら"って本ありますか?」
......世界のうち、5人が男で5人が女です。

「あの〜すいませんけど『カリブ海』ヨーグルトの本ってどこですか?」
カリブ海?......。たった2文字の違いで黒海・アルメニア・コーカサス地方といった何か厳しい冬の寒さを感じさせる東欧・ロシア圏からイッキに西側へ大移動そして南下、ラテンムード満点の情熱的楽園ヨーグルトへと様変わり。何か食べたとたんに陽気になって踊りだしてしまいそうですが。ついでに海賊も出て来そう......ってこれはTDLか。

と、さっきからお客様の揚げ足ばかりとっておりますが、この手の勘違いはお客様のみならず、プロであるはずの書店員ですら起こします。

とある書店員(22歳♀)の場合。
「あの〜『高島屋』暦ってどこにあるんでしたっけ?」
それを言うなら高島暦。ああタイムズスクエア〜。

かくいう私も、とカミングアウトしてみます。
それはテレビドラマで「漂流教室」がオンエアされ、それに伴いコミック文庫が売れ出していたときのこと。私はコミック担当者と「漂流教室」について語っておりました。

私「たしかさぁ、漂流教室の作者って『つのだじろう』だよね」
違います。楳図かずおです。つのだじろうでは窪塚洋介クンと常磐貴子さん主演の「恐怖新聞」「亡霊学級」。トイレに落ちてしまいます......。

油断禁物、進む前に今一度安全確認を。注意一秒怪我一生です。


だいやまーく娘にたのまれたんだけど......

「娘(息子)にたのまれたんだけど」
と、前置きして我々に本を尋ねてくる親御さんというのは実に多いのでございます。
しかしながら、当の娘さんときたらオツカイ頼んだお父さんに肝心のことを伝えていない。というケースが多いのは一体全体どうしてなのでしょうか?
お父さんは
「いや......、頼まれてきただけなのでよくわかんないんだわ」
などと申されるばかりで、全く私お手上げ。この「たのまれただけだからよくわからない」の中には、「娘が欲しいって言ってるから来ているんであって、私はこの本には全く無関係・無関心なのだ」という隠し言葉が含まれております。
最近は携帯電話の普及で、カウンターにて
「あのよーお前にたのまれた本って何て本の何巻だっけ?」
などと確認されるケースが非常に増えております。
この場合、父さんの携帯電話のがなり声が必要以上に大きいのはどうしてでしょう。
というか、娘さん。父さんにお使い頼むならメモでも渡した方が確実に伝わるんではないでしょうか。いかが? って私は誰に問いかけておるのだ。

このように子供のお使いでやってくる親御さんの問い合わせというのは30点(赤点)レベルが多いんでございますが、かといってキチンと合っていればオッケーともこれ言い切れないのが難しいところでありまして。

今をさかのぼること10年位前の話で恐縮ですが、あるお父さんがカウンターへとやってまいりました。
そのお父さんは下手すると石立鉄男寸前の伸び気味パンチパーマでして。いや、そんなことはどうでも良いんですが。
で、カウンターに肘を付き関口宏ポーズを決めたお父さんは、開口一番にこうのたまわれました。

『ぼけつばりほり』

......私は心の中で「なんだそれはー」と叫ぶ他ありませんでしたが、話を進めてみると、どうやら娘さんに頼まれたご様子で。
この「ぼけつばりほり」なるものは本のタイトルでして、著者はあの「愛は勝つ」(懐かし!)のKAN氏でありました。
かくいうお父さんもなぜ私が「ぼけつばりほり」などと言わんきゃならんのだ! という照れがあったようで、カウンターで決めた「関口宏ポーズ」はそれを打ち消そうという照れ隠しポーズだったんではないかと思われます。

しかし......「ハ行濁音」オンパレードの書名。たしかにお間抜け感は否めません。お父さんもたいへんだ。(何がだ。)

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