連載:「トホホ書店員はホンと年中無休」

第2章 本屋のデキゴトいろいろ

2.その筋のお方たち

だいやまーくヤクザ様ご来店

様々な人々がやってくる書店。中にはヤクザ様もいらっしゃいます。店前にベンツを横付け、肩で風切りやってくるヤクザ様たち。彼らはよくこうお訊ねになられます。
「ヤクザコーナーはどこだ?」
ヤクザコーナー?! そんなコーナーなんぞは組んではおりません。つうか積極的にやりたくないコーナーですが。いや、あの〜組もうと思えば可能でございます。ええと、主なチョイスはこのような感じでしょうか。

・講談社α文庫の一連のヤクザシリーズ
・竹書房の若衆ムック
・現在入手困難なのですが別冊宝島の『ヤクザという生き方・これがシノギや!』あたり
・そして彼らのガイドブックと言っても良い『六法全書』
・それに実話ドキュメントがあればOK

これらで、大体その筋のお方のニーズには応えられるのではないかと思われますが。
しかし、ヤクザ様の口コミで一時はどんどんヤクザ様が入れ替わり立ち代わりやってくるようになった我が書店。何故皆誰も彼もジャージ姿でガニマタ歩きなのか。これ以上店が荒むのもアレだな、と思った私は、講談社α文庫のそれ系の在庫を根こそぎ返品という暴挙に及んだのでございます。その時は何か得体の知れない清々しさを感じました。ヤクザ様の口コミで、「任侠・極道系書籍常備店」と認定されてはたまりませぬものですから......。

ある日、「何故?」とアタマをかしげたくなるような出来事がございました。その筋の方の情報誌と言っても良い「実話ドキュメント」の発売日にそれは起こりました。 その日の夕刻、一本の電話が。
「あのよ〜、今日入った「実話ドキュメント」全部ありったけ取っといてや!」
ぜぜぜ全部ですか?! 一体全体どうするおつもりでしょうか。不思議に思いつつも売場にあった在庫を全部そのお方のために取り置きしたのでございます。それからというものの、同様の問い合わせ電話は鳴り響き、そして入れ替わり立ち代わりその筋のお方が現れては、

「実話ドキュメントはないのか?」
と。あまりにも来るお方来るお方どなたも切迫した雰囲気でお訊きになられるものですから、
「一体何があったんですか?」
と、質問してみましたが、
「いや、まぁな」
と、はぐらかされてしまったのでございました。何故なのだ。
ちなみに、この「実話ドキュメント買占め事件」はてっきり私の地区のみの出来事だとばかり思っておりましたら、なんと全国規模の出来事であったご様子で、一夜にして全国の書店から「実話ドキュメント」が消えた模様でございます。だから何故だ? 何故なのだ? ......謎は深まるばかり。

だいやまーく「右翼」のお方もやってくる

その筋のお方。ヤクザさまのみならず、「右翼」の方もお馴染みでございました。

ある日、30歳前後と思しき一人のお兄さんが来店されました。彼は笑顔も素敵な実に人のよさそうな好青年、という感じでございました。
彼はそれはそれは眩しいばかりの満面の笑みを浮かべ、こうのたまわれました。
「宇宙戦艦ヤマトのCDある?」
と、この段階では別段単にヤマトが好きなお兄さん程度の認識しか持たなかったのでございますが、続けて彼は
「いや〜、街宣車乗るときに流したいんだよね〜」
と、申されまして。ひゃー「右翼」のお方ですか、ももももしかして。その人なつっこい笑顔の内には般若さまが潜んでいらっしゃるのですか? そう言いたくなるくらいに、職業(?)と見た目のギャップがあまりにもかけ離れていらっしゃいました。
その後も彼はちょくちょく来店されては例の如くに、
「こんにちは♪」
と、にこやかに挨拶されます。されますが......。
何と彼は、自家用車代わりに「街宣車」で来店されるのでございます。駐車場にドーンと停められた街宣車は大層重厚な佇まいでありました。

その後もしばらくは、
「ウチで出している広報誌、購読しませんか?」
などと営業トークをしてきたり、正月には政治結社の名前で年賀状が店に届いたり、という摩訶不思議な関係が続いたのでした。しかしながら全くもって人畜無害。
んで、彼は気が付いたらパッタリと店に現れなくなりまして。そういえば彼は一体どうしたんだろう? と少しの間だけは気にかけておりましたが、時の流れとともに日々の激務に忙殺され、そんなこともすっかり忘れてしまいまして。

そんなある日の新聞に、何やら政治結社が脅迫行為で云々、という記事が載っておりました。で、そこに何か見覚えのある名前を見つけまして。そう、私に広報誌の営業をしたり、年賀状を送ってくれる人なつっこい彼でございました。何と彼は、店までの足であった街宣車で威嚇行動されたご様子で。それを読んだ私は、
「ああ、これが彼の仕事なんだね」
と、不謹慎この上ないことを考えておりました。

よもやこんな形で彼の近況を知る羽目になるとは夢にも思っておりませんでしたが。

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