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「ある自殺志願者を死なさずに殺して欲しい」
「は?」
冬も終わりに近づくあたり、そろそろ春物の服の購入を検討しなければならなくなる頃。上司から唐突な呼び出しを喰らった。命令に逆らうわけにもいかず、苛立ちを覚えている時に突拍子もない命令をされたからといえ、上司に向けてこんな言葉遣いはいけないのだろう。けれど
「なぜそんな声を出すのかね? まあ、良いだろう。私にはもう、その言葉の意味はわからないだろうしね」
相手は何も気にすることはないだろう。彼らは怒りやらの多くの感情を喪失しているから。大多数の人間が一部の極少数を取り残して、怒りや苦しみだとかの、ネガティブな感情を忘れ去り、なんとか残せたのは、ただ表面上の喜びだけだった。財団の上層部も例外ではないが、対応は早かった。お陰でこの組織では、多数派と少数派の相互理解が成り立っている。だからこそ。
「そんな重要そうな案件をわざわざ葬祭部門の、しかも最近アメリカから日本に送り返されたばかりの俺に任せるってことは」
「察しが良くて助かるよ。そう、その自殺志願者は君のような、感情の喪失に抗った者だ。そして、彼女は死を望んでいる、殺してくれと。私たちに彼女を担当することはできない。そして、わざわざじゃない。むしろ、葬祭部門の職員だからだ」
「高校2年生で学校は休学中、名前はサナか。苗字は捨てたと主張、ねぇ」
「わざわざ初対面の人のプロフィールがあるってのに、会った直後に声に出して初めて読み始めるなんてある?」
「俺は新鮮な体験を楽しむ人間だからな、嬢ちゃん」
「やめろっての、その呼び方」
おおよそ30平米のホテルの客室のような一室。椅子に座る俺の向かいには机を挟んで1人用のベッドに座った1人の少女。そんな彼女から向けられる刺すような疑いを込めた目線は、少なくとも人生に絶望した人からのものには感じられない。
そろそろ本格的にキレられそうな予感を感じ、手元の書類に再び目を落とす。あまり相手の厄介ごとをほじくり返すものでは無いと、この職についてから身に染みて感じている。けれど、この場合はそれも免除だろう。
「この書類には自殺志願者だとあるが、嬢ちゃん。別に自殺願望なんてないだろ」
彼女はため息を吐き、顔をこちらに向けたかと思えば、ようやくかとでも言わんばかりの表情を顔いっぱいに浮かべていた。
「よかった、やっと私の言葉を変な意訳しない人が来たのね。遅かったじゃないの、おじさん」
「俺らの上もそう馬鹿じゃないんだ、確かに意訳した前の担当者は馬鹿かもしれんが。それで、自殺願望じゃないのなら嬢ちゃん。あんたは一体、何を望んでるんだ」
「別に、なにかを望むだなんてことしてないわよ。ただ......ただ、怖いだけなの」
何かを決断するかのように、スッと息を吸い込んで、初めて俺の目をまっすぐ見つめる。
「『生』そのものが、怖いのよ」
上司に難題をふっかけられてから数日後の日曜日。俺はサナとサイトの礼拝堂に来ていた。何も変わらない、このサイトでは当たり前の週に一度の恒例行事。
「少しは返答ぐらいしなさいよ!」
さっきから小声で文句を言いながら肘を脇腹に刺してくる彼女に目をつぶれば。
「なんだよ、讃美歌の途中だろ?」
「急に連れてこられてなんだと思ったら礼拝堂って、そりゃ驚くでしょ。そもそもあなた、無神論者じゃないの?」
「おいおい、ここで宗教についてのデリケートな話題は避けた方がいい。その質問は後で答えるさ」
むすっとした顔で彼女は頬杖をつく。舌打ちしなかっただけ、今回は成長だな。
彼女の言う通り、神なんて信じてはいない。ただ職業柄、さまざまな宗教を信奉する客がやってくる。彼らの気を害さないようにするには、それなりの知識と配慮が必要とされる。そうオリエンテーションで耳が痛くなるほど説教されたが、それが紛れもない事実であるというのは実務初日から良く分かった。今となってはそんな説教も古いものになっているだろう。
まあ、例外も居ないわけではないが。隣であくびするこの彼女のように。
「というか嬢ちゃん、君なんかの宗教の信徒だったりするのか?」
唐突だったからか、はたまた他の理由があるのか、彼女は信じられないとでも言わんばかりの顔でこちらを見つめる。とりあえず、眠気は覚めたようで良かった。
「おじさんの方が随分とデリケートな話題持ち出そうとしてない?」
「いいだろ? 彼らはどうせ、喪失者さ。怒りの感情なんて、感じない」
「そのスタンスでよくその仕事が務まってきたわね、葬儀屋のおじさん」
「お褒めの言葉をありがとう」
左から肘の代わりに舌打ちを刺してきた。流石に今回は遊び過ぎたようだ。
「はぁ、もういいわ。私は別に、何かを信奉なんてしてない。けれど、神やら救いなんて信じても私が癒えるわけじゃないから、信じようとも疑おうともしないだけ。仏教の輪廻転生だとかが最たる例ね」
「随分と現実的な理由だことで」
「全く根拠のない憶測で物を決めつけるよりか、まだマシでしょう?」
「前任者に対する君の怒りはよく伝わったよ。でも、たとえ偽薬プラセボだったとしても、それで救われる人がいる事実があるのに、目を瞑るのはどうなんだい?」
「嘘に踊らされて幸せだなんて、その人はとんだマヌケなのね」
そう言ってやるなよ、と彼女の毒舌を宥めているといつのまにかミサも終わりへと近づいていた。
「父と子と精霊の祝福が」
司祭の言葉も終わりを迎えようとしている。おそらくは"心に響く大切なお話"をしていたんだろうが、生憎となりの彼女との会話でそれも耳に入らなかった。
一応、今回ここに連れてきたのは彼女の宗教観について探りを入れる第一歩だったけれど、話を聞いているに、どうもそんなものを信じるようには見えない。けれどそれは、ただそうは見えないだけとも解釈できると思う。
例えるなら、分厚い氷の壁だろうか。それを溶かすには、長い時間が必要になる。これはまた長い任務になりそうだ。
神父の別れの挨拶を合図に、教会にいたキリスト教信者は1人、2人と退出していく。神父も気付けば壇上から降り、裏口へと戻っていった。5分も経てば、俺と彼女以外、誰1人礼拝堂には残っていない。
「どうだい、嬢ちゃん?」
まるで巻き戻したかのように退屈した様子でまた彼女は頬杖をついている。
「何が? あの説教のことなら、そうね。少し面白いと思ったわ」
「ほんとか!なら」
「滑稽だって意味でね」
「......いつか闇討ちされても知らないぞ」
「闇討ちなんて日本語も覚えてるのね。というか、あなた日本語上手すぎない? アメリカ人でしょ?」
一つ何か彼女の短所を上げろと急に言われてすぐ思いつくのは、このずけずけと他人に踏み込んでくる会話だろう。場合によれば長所かもだが、俺はそうとは思えない。
「確かに国籍はアメリカだ。けれど、父方が日本人で2歳からは日本で暮らしてた」
「この職場に入った経緯も、そのお父さんがここの職員さんだったから?」
「察しが良すぎるのも困りものだな」
「どうせあなたたちの不思議な技術で、私の記憶を弄ったりするんでしょ? 私が助けてもらった時、少し遅れて駆けつけた2人の警察にへんな処理してるの見たけれど」
思わず大きなため息が出る。ここまで財団がガサツだとは思わなかった。まあ、そんなことをやらかしかねないケースを、一つだけ知ってはいるが。
「スカウトか?」
「スカウト? こんな若者を? はっ、最近のあなたたち、感情を持った私たちみたいなのをそんな血眼に探すようになってるの? 恐ろしいわね、判断力まで鈍っちゃって」
「ああ、俺も大方同意見だよ。こんな子供を雇用するだなんて、どうかしている。けれど、いくら異常災害の被害者とはいえそんな機密を簡単に曝け出すわけがない。大方、特別雇用職員かコンサルタントだろう」
本気で嫌だと思った時彼女は、目に見えて嫌な顔をするんだと今日初めて知った。こんなにわかりやすく表情が変わるんなら、いくら前任でもそう難しい仕事じゃなかったろうに。
「それで、よ。なんで私をここに連れてきたの?」
「もうそんな疑問忘れ去ったと思ってたよ。まぁ、そうだな。嬢ちゃん、神はいないだのなんだの言ってるが、宗教の思想自体は肌に合うかも知れねえだろ?」
「私に合う宗教観?」
「ああそうさ。知ってるか? 世界には宗教がごまんとあるんだ。もちろん、胡散臭いカルトも含まれるだろうが、それらが生き残る理由はわかるか? 共感する奴がいるからさ。なら、捻くれた嬢ちゃんの考え方に合うものもきっとあるはずだろ?」
「はぁ、一体どれだけの時間がかかるのやら」
「嬢ちゃんが協力してくれれば、かなり早いんだけどな?」
言い終わるまえに、彼女は立ちあがり入口へと足を運んでいた。開けっぱなしのドアから吹いてくる風は彼女の長い髪をふわりと浮かす。振り返れば、その髪はもっと優雅に靡く。その様子は、どうにも救いを求めず諦めた者のものには到底見えない。
「お断りだっての、そんなのは。帰るわ」
まるで猫だな、そんな呟きは礼拝堂の中で静かに発せられ、誰かの耳に届くこともなく消えた。
「よう、未来の財団職員さん」
「やめて、その呼び方。ほんとにやめて、まだ嬢ちゃんの方がいいわ」
礼拝堂にサナを連れていってから3日が経った。
3日のうち最初の1日は礼拝堂でのサナとの会話についての注意処分と始末書で潰れたが、残りの2日は支給してもらったボードゲームでサナと遊んだ。感情が出る対戦相手は久しぶりだったんだろう。これまで一度も見せてくれなかった笑顔を何度も見ることができた。
それが心からの笑顔かどうかだとかは、彼女とまた一つ親睦を深められたと思えば、大して気になるようなことではなかった。
そして親睦を深められたからこそ、
「なあ、嬢ちゃん。今日はこの部屋から出て、墓地に行かないか?」
こんな突拍子もない提案だってきっと問題は
「はい?」
あったみたいだけれど。
冬場の昼前の墓地は夏の真夜中に肝試しでくるよりも寒い。サイトの隅にある職員共用墓地に来て1番最初に思ったことはそれだった。
「寒くないか、嬢ちゃん? 借りられるコートの中で1番暖かそうなのを選んできたつもりだが」
「ええ、おかげさまで。でも、身体が温まったのはいいけれど、お陰で頭が冷えないわ。なんで急にここに連れてきたのか整理がつかなくて、冷静になれない」
「感謝と文句は分けた方がいい。併せて言うと、文句が相手に伝わらないこともあるからな」
刹那、脛に痛みが走り思わず声が出る。くすくすと隣で笑うサナに苦笑いを向けるけど、楽しそうな彼女を見れば小言を返す気も無くなった。
「なあ。あれ、何かわかるか?」
そう言いながら奥に見える、周りの墓石より一際大きな墓石を指差す。
「......いいえ。ただ、他とは違う少し特別な墓石なのかな、とは」
「解説のしがいのある、良い回答だな。ちょっとついておいで」
数多くの墓石の間を抜け、先ほど指差した墓石の前へとすすむ。道中にある墓石は仏教系も、キリスト系も、さまざまな宗派のものが入り混じり、その数も膨大だ。
そして目的の墓石は、いざ前に立てば大の大人の身長と同等か、それを超える大きさをしている。サナはそこまで大きいと思わなかったのだろう、ずっと墓石の頂点を見上げている。
「この墓はな、回収された身体が少なすぎて身元の確認ができなかったり、そもそも遺体が無い殉職者のためのものなんだ」
そう言いながら、右斜め下に視線を移す。サナは静かに、その墓石を見つめ続けている。この組織における現実を間接的にでも見たからなのか、それともいつか訪れる己の死後どうなるのかとでも考えているのか、彼女は真剣な顔をしていた。
徐に、彼女は両手を合わせ、目を瞑る。
彼女の唐突な行動に驚きはしたが、直ぐに彼女に続いて手を合わせ目を瞑り、黙祷を捧げる。
1分ほど経った辺りだろうか。ゆっくりと目を開け、隣の彼女を見る。彼女もほぼ同じタイミングで目を開き、こちらを見る。
ふっ、と息を吐き、両方の目でしっかりと彼女を見つめる。
「次来る時は、念珠とお供え物をもってこよう。そうすれば、きっと彼ら彼女らも喜んでくれるだろ」
「......えぇ、そうね」
落ち着いた彼女の眼差しは、この1週間近い関わりの中で、初めて見た。
「ねえ、ここに来るまでにベンチの設置されてる温室を見かけたの。そこ行かない?」
そして彼女から何かを提案されたのもまた、初めてのことだった。
「やっぱり、想像通りここは温かくて落ち着くね」
ゆっくりとコートを脱ぎながら彼女が呟く。
「葬儀屋のおじさんもこっち来なよ、話したいこと、あるんでしょう?」
「そうだな、確かに聞きたいことが残ってたから、助かるよ」
彼女がぽんぽんと隣の席を叩く。そのジェスチャーに頷きを返し、彼女の隣に座る。
深く息を吐いてから、彼女へと向き直る。彼女は向かいの観葉植物を愛でながらも、確かに意識は、こちらへと向いている。
「なぁ、『生』が怖いって考えは、少しでも変わったか?」
彼女の観葉植物に向けての微笑みが、こちらに向く。
「やっと、その話題を切り出してくれたね。おじさん」
「そりゃ、いくら嬢ちゃんの担当だからって、そんな話題初めて会って直ぐだってのに、そんな簡単に切り出すわけには行かないだろ?」
「ふふ、おじさんってぶっきらぼうだけど、変なとこだけしっかり相手のこと考えてるよね」
変なことだけって言い方はないだろ、と少しふてたように返す。彼女の刺してくる言葉は相変わらずだけど、それは彼女が変わらず元気であることを指すのも同義だと考えれば、むしろ嬉しかった。
「まぁ、そうね。確かに、今日あの恐怖心が拭えたり、変わったりしたことはなかったわ」
「なら、真剣な目をした嬢ちゃんは俺の幻覚か?」
「そう客観的に言われると恥ずかしいけど、違う。確かにあれは私、幻覚でもなんでもない。ただ、ちょっと......」
「そんな焦らなくても大丈夫だ。抱いたばかりの感情を直ぐ言語化するってのは、難しいことだ。大丈夫、一度抱いた感情は、そう簡単に逃げはしないさ」
どうにか口を紡ごうとする彼女を制止し、優しく力を抜いた手を彼女の頭の上に乗せる。
手を払われたり、噛みつかれでもしたら、その時はその時だ。彼女の抵抗の意思を受け取るとしよう。
けれど、そんな心配も杞憂に終わった。少し経てば彼女も落ち着いたようで、安心して手を己の膝の上へと戻す。
「ありがとう......少し落ち着いたわ。そうね、私の考えはそんな直ぐに消えたりするほど薄っぺらくないわ。それじゃ、その中でも特に厚い、前から抱いてるものについてでも話をしてみるかな」
「そいつは興味深い。けど、無理はするなよ」
そんなヤワな造りじゃないわ、と言いながら彼女はひらひらと手を振る。
「そうね、とりあえず私の担当なんだから、私がこの財団に保護された理由は知ってるわよね?」
「ああ、確か超常テロに巻き込まれた領域から脱出したのが、嬢ちゃん1人だけだって感じだったよな」
「もう懐かしいまであるわね、そのこと。そうよ、それが原因で私はここに保護された。さてここでクエスチョン、私がこんな考え方になった理由はこれが原因?」
彼女はピンと人差し指を顔の前に立てて、ニヤリと笑いながらこちらの顔を覗き込んでくる。ここ数日間で彼女がクイズ番組はむしろ嫌いだと聞いていたが、こんな一面もあるとは知らなかった。とはいえ、答えは簡単だ。
「わざわざそんな言い方をするってことは、違うんだろう? ほんとはなんなんだ?」
「そういう考え方で答え出したの? なんか癪ね」
わざとらしく大きなため息をつきながら、彼女はまたベンチの背もたれへともたれかかる。
「ええ、そうよ。そんなことに巻き込まれる前から、私は『生』が怖かった。いや、嫌悪って言葉も当てはまるかもね。ともかく、私自信を含めて、生きてるもの全てが嫌になったのよ。......何よ、その顔は。正直に言いなさいよ」
「いや、なんか言ってることが動機の理解されない殺人者みたいだな、って」
あと少しで言い終えられたタイミングで右の脇腹に痛みが走る。今までもこんなことがあったが、それの比にならないぐらいの痛みだ。
「正直に......言えって言ったのはそっちだろ......」
「そんな苦しそうに言葉を絞り出しても無駄よ、まったく」
いくら油断しきっていたとはいえこの少女にこんな痛手を負わせられるとは思ってもいなかった。どうにか痛みを緩和させて、前方に倒れていた上半身を起こす。それを待っていたかのように、彼女は再び話を続ける。
「でもまあ、そうね。あなたが言ったこと、あながち間違いじゃないかもね。私の場合、それを緩和するために起こす行動の対象が私自身なだけで。いっても、私リストカットだとかは、したことないんだけどね」
そう言いながら彼女が服の袖を捲れば、怪我の痕が一つもない綺麗な白い腕が顕になる。きっと、周囲の環境だけは恵まれていたのだろう。
「ねえ、おじさん。私ね、輪廻転生なんて最悪だ、って思ってるの」
「......キリストの次は仏教に喧嘩売るのか?」
「馬鹿ね、そんなことするわけないでしょう。でも、考えてみてよ。やっと解放されたと思えば、まだ次の『生』が残ってるだなんて、まさに生き地獄よ」
「嬢ちゃんは、輪廻転生しても記憶が残り続けるって信じてるのか?」
「信じるだなんて、そんなもんじゃないわ。輪廻転生だって、あり得るとは思ってない。けれど、記憶を失い、体が変われど、私は嫌ね。どうせなら終わりのない地獄で感情捨てて苦しみを苦しみと理解せずいたほうがマシかもね」
ここまで話を聞いて、分かったのは彼女をその恐怖や嫌悪から引っ張り出すのは財団のカウンセラーを持ってしてでも難しいだろう。そして彼女に共感できるものがほぼいない現状では、不可能に近い。だからこそ、すこし無茶をしてみたくなる。
「なあ、嬢ちゃん。死なずに殺されてみる気は無いか?」
人にささやく悪魔の気持ちが、この時ほんの少しだけ分かった気がする。
殺風景な少し広めの会議室。いつもと違うことといえば、四角形に並べられた長テーブルの多くが撤去されてること、俺に無理難題をふっかけてきた上司に言ってここを貸切にしていること。そして。
プレゼンで使われるスクリーンの前には、唯一取り残された長テーブル一台と、その上に乗る真っ白な棺。
「ほんとに、カルト教団みたいな空間ね。真っ白な部屋に、誰も入ってない棺」
「どちらかといえばB級ホラーじゃないか?」
そして文句を言いながらパイプ椅子に座る彼女とその横に立つ俺がいた。かれこれこんな様子で20分近くは会話している。
今日、ここで執り行われるのは、彼女の生前葬だ。だというのに、当の本人はこんなにも他人事のように振る舞っている。しかし、その気持ちもわからなくはないだろう。目の前に自分の為の棺があろうと、遺影に自身の顔写真があろうと、たった今この瞬間を生きているという感覚が色褪せることはない。だから彼女は他人事としか受け取れないのだろう。
ふと唐突に、扉が開き葬祭部門の同僚が顔を覗かせる。
「ホリス、お待たせ。全部の準備整ったよ」
「ホリス? え、おじさんホリスって名前なの?」
「なんだ、お前まだ名前教えてなかったのか?」
「そうよそうじゃない、どうして今まで教えてくれなかったのよ」
ああ、騒がしい。まだ彼女1人の騒がしさなら許容できた。なのに今は2方向からの喧騒ときたものだ。それでも、こんな体験も今じゃ貴重だと思えば、少し楽しさを覚えつつもある。それでも、予定を遅らせるのは、あまり良くないだろう。
「嬢ちゃん、その質問には後で答えるから今はとりあえず、あいつを追っ払うまで待っててくれ。ほら、持ち場に帰ってくれ。まだ仕事はあるだろ」
「そうお堅いこと言わないでおくれ。けど、まだ仕事が残ってるってのは紛れもない事実なんだよな。それじゃ、また後でな」
最後まで騒がしく同僚は部屋から出ていく。数十分ぶりに、部屋に静寂が訪れる。
「で、なんで名前教えてくれなかったのよ」
そしていつも静寂を破るのは彼女だ。
「ただ名乗る機会が無かったからだよ。それに、初対面の時からずっとおじさんって呼ばれてたからな」
「え、じゃあ何。私がおじさんのことおじさんって呼ばずに名前聞いてればすぐ教えてくれたってこと!?」
「今日は珍しく察しがいいな。それに俺はまだ二十代だ、おじさんじゃない」
彼女は何か衝撃の事実でも提示されたかのようにポカンと突っ立っていたが、ふと何かに気づいたように目の焦点が戻る。
「というか今思い出したけど、私が嬢ちゃん呼びやめろって言ってもやめなかったでしょ。もう高校生よ」
「俺からすれば"まだ高校生"だ。少しは生きる世界が広がっただろうけど、俺から見れば高校生でも嬢ちゃんって呼ぶに値すると思うね」
それを聞いた直後、彼女は笑みを浮かべた。ボードゲームをやった時のような楽しそうな笑みを含んではいるが、どこか他意を感じさせる、そんな笑み。
「おじさんが私のことをまだお嬢ちゃんだっていうのなら。私だって、おじさんのことを、たとえ二十代でもおじさんって呼ぶに値すると思うわ」
思わず目を見開き、そして少しの笑いが漏れる。
「こりゃ、一本取られたな」
「女子高生だからってあんまり舐めないでよね」
彼女はそう、得意げに鼻を鳴らす。勝ち誇ったとでも言わんばかりの笑みと共に。
開始の時間を迎えたこの葬儀場は、再び静かさを取り戻していた。といっても、何も直前になって緊張しているというわけではない。むしろ、さっきから彼女は棺をなんども覗き込んだりして、退屈しているように見える。
こうなった理由は明白だろう。そもそも、葬祭部門は生前葬をごく稀な場合にしか執り行わない。それ故に、生前葬の手順を熟知しているものがこのサイトの葬祭部門には1人も勤務していない。だから他の同僚の助けは求められない。そもそも、彼らは誰1人として、俺の苦悩を理解することはできないだろう。
「んな顔してると顔に皺できるよ。あとこっちの居心地が悪いからその表情やめな」
それでも、唯一の理解者としての彼女が目の前にいるから、最近は活力が湧いてくる。
「ああ、悪い悪い。ちょっと、考え事をな」
「考え事? ここまできておいてそんなのいらないでしょ」
「いや、実はそれがあるんだよな。まぁ、なんだ。実は、生前葬のやり方をあんま知らないんだよな」
「......嘘でしょ」
ゆっくりと首を振れば、彼女の顔がこわばっていく。そしてその後に続くのは、想像していたこちらへの文句ではなく、少しのため息だった。
「じゃあ、分からないなりに直感で進めて見ましょ」
「......今回は肘打ちとかしないんだな」
「当たり前でしょ、そんなの」
「俺はその当たり前ができるようになってて嬉しいんだよ。自分の行動顧みてみな」
そう言うと彼女は少し黙り込み。
「昔は昔!今は関係ないでしょ、早く進めましょ!!」
大声で開き直って誤魔化した。
約10分ほどの話し合いの結果、サナが棺へと入り、俺が白色のカーネーションを献花として捧げ、黙祷をする。そんな典型的な無宗教葬儀の手順と同じものを執ることになった。軽く業務用の端末で生前葬について手順の表記が無いか、探しもしたがあまり有用な情報はなく、強いて参考になったと言えるのは"宴会のようなもの"という表記であった。それを目にするや否や、俺は頭を抱え、彼女は腹を抱えた。
彼女が棺に入る事になったのは、彼女自らの願い出によってのものだった。ずっと棺を覗き込んでいたから察するものもあったが、彼女の理由はまた別にあった。
「私ね、生きてるうちに一度死んでみるのが夢だったの」
「そいつは随分、特殊な願望だことで」
「別に良いでしょ。本当に死んだら、棺から見た光景も、この人格が死ぬっていうそんな感覚を経験することなんでできないんだから。死んじゃったら、意識を手放したら、これを貴重な体験として思い返すのも不可能になるもの。それを生きてるうちにしっかりと体験できるだなんて、そんなの夢みたいだもの」
そう話す彼女の口調は、心底楽しみにしているのが目に見えているものだった。これ以上待たすのも、彼女に申し訳ない。
「さぁ、始めようか。グダっても棺の中からガンガン音を出すんじゃないぞ」
「私はゾンビかよ」
実際に行った生前葬は、始める前の懸念も裏腹に、かなり順調に進んだし無言の抗議も無かった。おおよそ15分ほどの生前葬。手順書に書かれていた宴会という言葉に従い、事前に用意しておいた缶ジュースを開けたり、ポップな音楽を流したりもした。これで無言の抗議が何も無かったのは、正直驚いた。
BGMを止め、静かに棺の蓋に手を添える。今この棺の中では、彼女が偽の死を迎えようとしている。それがどうにも非現実的で、それは彼女からしてもそうだろう。この現実とは思えない空間から抜け出すために、最後の工程を終えることにした。俺は彼女へと哀悼の意を心の底から表するとした。口に出すわけではなく、心の中でそう願うのみ。これは事前の打ち合わせでも彼女に言わなかった。なんせこれは、葬儀を終えた後の俺のルーティンの一つでもあったから。
ゆっくりと質量のある蓋を押し上げ、棺の中を覗き込む。棺の中には、目を瞑り眠っている可憐な少女の姿がそこにはあった。そういえばこの嬢ちゃん、経歴や行動に目を瞑れば、普通の女子高生とあまり大差ないんだったな。そう思いながら微笑み、彼女の寝顔を少し眺め、優しく彼女のほおを叩く。
「ほら起きな、嬢ちゃん。もう遅刻だぞ」
3度ほどほおを叩けば、細く長い目をゆっくりと開き、上半身だけを棺の外に出し伸びをする。彼女は少しの間無言で周囲を見回し、数度の瞬きをこちらへ向けた後に口を開く。
「おはよう、おじさん。どう? 私透けてる?」
「いや、残念ながら」
「残念? そうかしら」
「......まぁ、嬢ちゃんがそれで良いなら別に構わないんだが。それより、棺から出れるか? 」
「ちょっと......難しそうね。手、貸してくれない?」
両手を差し出せば、彼女がそれを掴み、少し体重を乗せながら足から体を棺の外へと降ろしていく。両足を地面につけた彼女は、ゆったりとした所作で近くのパイプ椅子の背を掴み、こちらに向けて座る。どこか、静かな笑みを帯びた表情だった。
「どうした、かなりご機嫌だが、棺の中でいい夢でも見てたか?」
「ん〜、まぁそんなところね。どこかの誰かさんが愉快なBGMをかけてくれたお陰で、良い睡眠がとれたのかも」
「その皮肉は健在だな」
そう言って帰ってくるのは最近少し物寂しくなってきた舌打ちでも、最近よく聞くため息でもなく、
「私、別に皮肉を言ったつもりは無かったんだけど......」
ただ純粋な疑問と、愛想笑いとも受け取れるような笑みを含む返答と表情であった。
どこか、違和感がある。彼女がこれを通して成長したととる事も出来るのだろうが、まさかこのような形で感情の喪失に抗えたことを再び後悔するとは思わなかった。
「なぁ、嬢ちゃん。今、幸せかい?」
こういう感覚ってのはこの組織で生きるにあたって、必須と言っても過言では無いようなものだ。
「どうしたのよ、急にそんな宗教勧誘みたいなセリフ吐いて。でも、そうね」
だからこそ、嫌なほど虫の知らせってのは的中してしまうものだ。
「私は幸せよ。今この時も、これから先もきっとね」
そう言う彼女の表情からは、それのどこが不思議なのかという疑問が感じ取れた。
このサイトの面談室は、カウンセラーを多く雇用する対話部門や依頼客との円滑な会話の進行を必要とする葬祭部門の人間が多く使う部屋ということで、なかなか予約を取ることができない部屋として有名だった。そんな話も今となれば、カウンセリングを必要とする職員がもし現れたとしてもそれに正しい対応をできるカウンセラーも、深い心傷を負っている遺族も居なくなった今では、足音が聞こえることが稀な空間と化していた。
話し声が聞こえてくるとなれば、きっと相当な話題となるだろう。
「そんな表情はやめてくれないかね。前にも言ったが、私にその表情が指す意味は分からないのだよ」
俺に依頼をふっかけてきた上司が、その面談室の一室で俺の目の前に机を挟んで座っている。
「依頼は終えたというのに、わざわざ呼び出して。何の用ですか、火急鎮静部門の博士が」
「そうも睨まないで欲しいものだ。それに、忘れ無い方がいい。君は確かに葬祭部門の納棺師だが、同時に未だ私たちの部門の管轄下にある職員だということを」
「まだだって? 契約的にはもう火急鎮静の臨時エージェントとしての立場は」
思わず椅子から立ち上がった俺を、目の前の上司は手を前に突き出して静止のジェスチャーを取り、指を指して座れと無言で命令してくる。
「流石にそこまで表に出したとなれば、私であれど君の気持ちは察せられる。君は私に、強い怒りを覚えている、そうだろう。理由は?」
目の前の上司はそう言って目線をこちらの両目へとしっかり向ける。喪失者とは到底思えないような、どこか他意を含んでいそうなそんな居心地の悪い視線。だというのに、簡単には跳ね除けられない嫌なしつこさが残る。
「......」
「君がまだ常識的な理性を持っていたようで嬉しいよ」
「常に喜んでるくせに、何を」
「逆に君は私たちとは対照的に常に捻くれているね。あの子の影響かい?」
「......昔からのことですよ」
「そうかな? 最近の君はより一層捻くれ、顔色もあまり良くないように見える。加えて私への怒りもだ。だが私にはそれの訳が分からない、さあ理由はなんだ?」
この上司は決まって、分かりきっている答えをわざわざ子供に言わせ成長を促す親のように、発言をこちらに委ねてくる。貼り付けた笑顔も相まって、彼女に寄せられる感情は少なくとも常人なら向けられて気分の良いものでは無いだろう。
「......本来の契約では、彼女の自殺願望を緩和するというものだったはずだ。前任がその任務に失敗したから、俺にその依頼が回ってきた」
「よく覚えてるね、その通りだ」
「その依頼を受けた後、"最もリスクの無い手段"としてあんたらは生前葬を教えてきた。けどな、彼女の現状はどうだ。貴重なこちら側の人間だったんだ、なのに......」
「あぁ、そうそう。よくやってくれた。あの任務は完璧だったよ、いやはやすばらしい」
「どうしたのかね? そんな黙りこくってしまって」
「いや、ただ、理解が追いつかず......。さっき、完璧だったって......」
「ああ、如何にも。あれは計算された上で求められていた結果に過ぎない」
変わらず、向かいの上司が発する言葉が言葉として脳を通らない。音としては認識できても、それが意味をなす文字列として白く染まった脳は処理してくれない。それとも、ただ処理したくないと本能的に理解を拒んでいるだけなのか、今はまだそれが分からない。
「おそらくだが、君はきっと喪失に至るまでの経緯を詳細まで説明したところで分からないだろう。そうだな、私たちのような、君たちが言う喪失者という精神状態に至るには、各々の人格が深く関係している。医学的な説明は地下3階の医療部門オフィスを訪ねてくれ、話はつけておこう。ここで簡単にかつ簡潔に言い換えるのなら人格を一度瞬間的にでも殺せば、その者は喪失者になると。手段の一つにロボトミー手術なども検討されたようだが、それはただの喪失では済まない危険が高いとして却下されたようだ」
目の前でただただ説明を捲し立てる。相手が理解しているか、聞いているかなど関係無しに、ただ話す。だからこういうのは、こちらから何かをぶつけなければ静止すること以外で早急に終わらすのは難しいだろう。
「だからって、どうしてただの生前葬でサナの人格が死ぬっていうんだ」
「なるほど、まだ君にその点の説明はしていなかったのを失念していた。これに関しては、ごく一般的なもので例えるとすれば、」
「プラシーボ効果。つまりは偽薬だ」
「失礼ながら君たちの会話は私たちの方で監視させていただいていてね。君たちが礼拝堂にてプラセボについて言及したのは覚えているかい? 私たちはそこから着眼点を得たのさ。前例がないから上の許可を得るに時間を要したが、結果は君がその目で見たように、成功だったよ。仮説の時点では上手くはいかないと考える研究員も多くいたが、まさか本当にプラシーボ効果によって人格の死亡を再現できるとは思わなかった。おそらく、あそこで通常の葬儀を選択し、模擬的な火葬まで行っていた場合はおそらく人格の死亡だけでは」
人は、脳の理解が追いつかないことを列挙されると、それとは全く関係のないことを考えてしまうらしい。この時はただ、礼拝堂の件で始末書を書かねばならなくなったことの、合点がいった。あれは、俺たち2人しか正常な感情を持つ者のいないあの場における会話が不愉快だの、不適切などという要件での処分だった。それがどうも、解らなかった。
処分を言い渡される時、どのような会話であったかと細々と、詳しく会話の内容を聞き出された。まさか、こんなふうに返却されるとは思わず、つい口から乾いた笑いが漏れ出る。その笑いを起点にしたかのように、上司は話を止める。
「なあ、ずっと気になってたことがあるんだ。あんなただの少女を、どうしてあんたら火急鎮静がそうも止めようとする。なんでこんな仕事を、前任は失敗したんだ? なぁ、答えてくれよ」
「......そうだな。君のクリアランスは3だし、問題はないだろう。まず、前提として私たちが資源と呼ぶのは、一定の基準を満たしたものだ。君のクリアランスでも問題のないように簡単に大まかな2つを挙げるとなれば、それは財団職員として一定以上の働きができる者、そして財団へのスカウトに対し全面的な肯定の意を示しており替えを効かすのが困難な者であること。この2点が大切だ」
「その話を聞くに、サナはその2つの基準に当てはまらない気がするが。彼女の身分はあくまで保護下にある民間人、それにスカウトなんて御免だって」
「いいや、しっかりと後者の方に当てはまる。あの子は元々、スカウトに肯定的だったさ。家族も友人も、果てには居場所さえ失ったあの子に差し伸べられた私たちの手はさぞかし暖かかっただろうね。されど、そんな精神状態で働かせるのは無理だと判断した上が、あの子に君の言う前任者を付けたんだ。ただ、君の前任は......そうだな、君が投与したのが偽薬であるとすれば、前任は実薬を投与してしまったんだよ」
「実薬? それならそっちの方が効果がよく出るんじゃないか」
それを聞くや否や、上司は手を叩きながら口を開く。
「素晴らしい、君の洞察力は確かなようだ。如何にも、その投与された実薬は偽薬とは比べ物にならないほどの効果が出た」
「なら」
「まぁお待ちなさいな、結論づけるにはまだ早い。そう、確かに効果は大きかった、大き過ぎた。あの子はスカウトを蹴ったんだ。財団以外の道で、夢のある道を見つけたという理由でね」
「ッ、それなら尚更それで良かったじゃないか!どうして、そんな若い芽を摘むようなことを」
呆れたような表情で、上司は首を左右に振る。いや、呆れたというのは少々言葉が違うだろう。その顔が示す心情は、なぜ理解できないのかという疑問が感じ取れるようなものであると言えよう。
「君はどこか、勘違いをしているようだ。そもそもとして、あの子の芽を摘んだのは、あの子自身だ。君もその身で体験したように、彼女には現時点でも大人1人を一時的に無力化することも可能だ。ただでさえ、財団の職員は研究職であっても護身のため鍛えるというのにね。そんな子が、財団の保護下から離れたらどうなるかは想像に難く無いだろうね。要注意団体に勧誘され財団の情報を抜かれるかもしれない、拷問にかけられるかもしれない。だから、それを回避するためにも私たちの手で保護するんだ」
「綺麗事を......」
「そう、綺麗事さ。やはり君の言葉選びはとても良いね。私たち、そして君たちは常に財団にとって合理的な選択を取る。そのために綺麗事を履くことになろうが、部下に見捨てられようがね」
そう告げれば彼女は席を立ち、出口へと歩を進める。そしてドアの前で立ち止まり、こちらへと視線を向ける。どこか見覚えがありながらも、明らかな違いがある、そんな所作だった。
「そろそろ目を覚ます頃だろう、アーサー・ホリス。幸せな夢は見れただろうか」
人気の少ない面談室前の廊下で、1人の足音が響く。数年前から変わらぬ、殺風景で、新鮮味のないいつもの廊下であった。
それでも、今日は葬祭部門としての仕事がここで行われるから、きっと面白みのない日常に、ほんのちょっとの変化が訪れるだろう。いつぞやここでかつての上司と対話した時に出た、偽薬とやらを飲めば、俺もこの日常が楽しいと思えるのだろうか。あのどこか懐かしさを覚えるあの夢を、再び見ることができるだろうか。
夢というのは、いくら忘れまいと思おうと、目覚めとともにその記憶が薄れてしまうものだ。それでも、俺はあの幸せな夢へと帰ろうとして、その度に目覚めに阻まれる。
いくら、どんな手を使おうとも、夢は日常になってくれない。ただ目覚めと共に、戻りたくはなかった"いつもの日常"へ向かう帰路を進む。
そんなことなら、幸せな夢なんて見ない方がきっと、さぞかし幸せなのだろう。
気づけば、今日の依頼者が待つ面談室の前に立っていた。考え事をしていると、周囲のことがよく見えなくなるようだ。ゆったりとした所作で、ドアノブを捻り、また殺風景な室内に視線を向ける。
ドアが軋みながら開く音が耳に届いたのだろう、室内の依頼者はこちらへと振り返る。どこか懐かしさを漂わせる、黒く長い髪が優雅に靡く。
「初めまして、ご依頼なさったのは貴女ですね、エージェント・佐栁サナ。私はホリス、アーサー・ホリスといいます。手始めに、あなたのプロフィールを閲覧させていただいても?」
付与予定タグ: tale jp 葬祭部門 相貌失認 火急鎮静部門
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- portal:8831435 (26 Oct 2023 12:23)