親友の略奪、親友への復讐
「マユちゃん、リョウ兄さま、私にちょうだい」
「マユちゃん、お願いお願いお願い、ちょうだいちょうだいちょうだい」
高中真由子21歳。朝倉百合19歳、澤村諒一36歳。
良家育ちの真由子。真由子の隣家に住み、金持ちだが品のない家庭の百合。真由子が幼少のころ、編集者である父が連れて来て離れで同居する作家志望の澤村諒一。いつしか真由子は諒一に恋心を抱き、純粋なまま大人へと成長するが、21歳のバレンタインの前日、突如、百合の妊娠を聞かされ、百合を諒一に奪われてしまう。
自暴自棄となり、その日のうちに行きずりの男に処女を差し出し、数ヶ月の間にさまざまな男の間を彷徨い落ちていく真由子。しかし、諒一と百合の間に生まれてくる子の名前が「直巳」と決まった時、真由子は百合へ復讐を決意する。諒一を奪った百合から直巳を奪い返すと。
そして物語冒頭、真由子45歳、直巳23歳となり、冒頭からただならぬいびつな関係を見せつける。。
「ナオミ」という因果な名前は、『痴人の愛』の少女の名前。28歳の河合譲治は、15歳の少女ナオミに魅せられ、やがて翻弄され、堕ちていく。そんな譲治のナオミへの愛は「痴人」のものだった。しかし、真由子の直巳への愛は「賢者」のもの。読書日記人気ランキング
物語の進行
物語は、真由子、百合、直巳、諒一の関係を、時間を行ったり来たりしながら進行していく。章立てと年齢を表すと以下の通り。
- 一章 真由子45歳 直巳23歳
- 二章 真由子27歳 直巳5歳
- 三章 真由子21歳 百合19歳、百合妊娠
- 四章 真由子36歳 直巳14歳 伊豆へ旅行
- 五章 真由子13歳 百合11歳 諒一28歳
- 六章 真由子38歳 直巳16歳
- 七章 真由子44歳 直巳22歳
- 八章 真由子22歳、直巳の誕生、真由子15歳、百合の弟、真由子の父の死
- 九章 真由子40歳、直巳18歳、真由子18歳、百合16歳、真由子15歳、百合13歳
- 十章 真由子41歳、直巳20歳誕生日 結ばれる。
- 十一章 真由子47歳、直巳25歳
- 十二章 真由子48歳、直巳26歳
真由子と直巳のいびつな愛の育み
直巳が幼少のみぎりより真由子は母の親友として接するが、直巳も母よりもむしろ真由子のほうに親しみを覚えていく。
まるで、生まれた時からの決まりみたいに、おれ、マユちゃんの方を向いてた」
そして、直巳が思春期を迎えるにつれ、その情感は別の意味へと変容していく。
「小さい時から、ずっとマユちゃんといて、マユちゃんのこと、大好きだった。でも、いつからか、その大好きの種類が違って来ちゃった」
真由子は直巳を時に誘惑し、時に突き放しながら、手なづけていく。
「おれ・・・おれ・・・想像ん中で、何度もマユちゃんと寝た。夢ん中でも寝た。おれの精液、もう何リットル、マユちゃんのために無駄にしたか解んないよ。きっと、すげえ数のおたまじゃくしの死骸が東京都のごみ処理場と下水施設に・・・」(中略)
「それは大変ね、じゃ、早急に蛋白質を補給しなきゃ。プライムリブでも食べに行く?」(中略)
「いつか、その精液、私の口に捨てていいわよ」
ああ、もう、と言って、直巳は頭を抱えてしまうのでした。彼は、真由子によって、いとも容易に天国と地獄を行き来させられているようです。
そして、お互いが「いびつな愛」と言いながらも、純粋な相愛の関係を築いていく。肉体関係は一度だけ。直巳が20歳の誕生日を迎えた日。
私は、一日だけ、あなたのものになる。そして、あなたは、一生、私のものにある。
「本物の純粋さなんて、馬鹿の持ち物よ」と、20歳の直巳にそう投げかける41歳の真由子。それは諒一を失った過去の真由子自身のこと。しかし、「いびつな愛」と言うけれども、真由子と直巳の関係も「純粋」であるように思う。読書日記人気ランキング
どちらが悪女か
諒一を真由子から奪った百合。
直巳を百合から奪った真由子。
いったいどちらが悪女なのか。
そして、百合が真由子から奪ったもう一つのもの。
ある意味、真由子の復讐は成功するのだけど、
一体、この物語はどのような終止符が打たれるのだろうか?
あとは、本書をお楽しみください。
TV放送
今日、WOWOWで『賢者の愛』が放送されました。
真由子役に中山美穂、百合役に高岡早紀。
本放送は見逃したのですが、来週、月、火、土と再放送があります。
サイトの人物相関図を見る限り、ちょっと原作と人間関係が異なります。
(原作では、上田という上司はいない。諒一役が田辺誠一では若すぎる。)
原作の人物相関図を作成したので、貼り付けておきます。
読むきっかけ
そもそも、本書を読もうとしたきっかけは、1カ月前にこのWOWOW放送の発表があったことによります。往年のアイドル、中山美穂の復帰作とも言える本作品。その発表の中に『痴人の愛』も説明されており、多くの人が検索して調べてみたようです。『痴人の愛』検索ワード上位3位のこのブログへのアクセスが急増して、『賢者の愛』に気づいた次第です。そしてもちろん、今日もアクセスが急増しました。読書日記人気ランキング
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