核情報

2020.10. 8

日本の再処理計画──夢から覚めない国──被爆75周年を迎えて日本の再処理政策を振り返る

(2020年8月Zoom会議の原稿に加筆・修正)

  1. 初めに──再処理・高速増殖炉の夢と現実
  2. 大きく外れたウラン枯渇・原子力利用拡大予測
  3. 再処理政策から撤退した米国
  4. 撤退を知らない日本
  5. 再処理のもたらした負の遺産
  6. 再処理に固執している唯一の非核国
  7. それでも日本は不退転の決意
  8. 不幸中の幸い──予定通り運転開始なら余剰プルトニウム約200トンに!
  9. なぜ再処理工場運転開始か?
  10. 再処理に代わる道
  11. 福島第一4号機の教訓
  12. 再処理政策は反核運動の課題
  • 資料編
    1. 日本のプルトニウム保有量
    2. 六ヶ所再処理工場の完成・運転計画
    3. MOX燃料工場
    4. 再処理路線と直接処分コスト比較
    5. 原発敷地外乾式貯蔵
    6. 新規敷地内乾式貯蔵施設
    7. 使用済み燃料貯蔵状況
    8. 核情報掲載記事から
    9. 参考

    初めに──再処理・高速増殖炉の夢と現実

    再処理技術は最初、米国の核兵器製造計画の中で開発されました。核兵器の材料のプルトニウムを取りだすためです。これが原子力の平和利用でも必要だとされたのは、次のような考えからです。

    ウラン資源は希少だ。原子力発電が世界で急速に増えるだろう。「燃えるウラン235」は天然ウランに0.7%しか含まれていない。これを使う普通の原子炉に頼っていたのではウランが枯渇する。原子炉の運転の際に「燃えないウラン238」から生まれるプルトニウムの利用が必要だ。

    そこで考案されたのが使った以上のプルトニウムを生み出す「夢の原子炉」高速増殖炉です。この炉に入れる最初のプルトニウム燃料は、普通の原子炉の使用済み燃料を化学的に再処理して取り出せばいい、ということになりました。

    普通の原発「軽水炉」では、核分裂を起こす中性子を冷却水の水素原子に衝突させることでその速度を意図的に落とし、ウラン235の核分裂を起こしやすくしています。これに対し、高速増殖炉においては、速度を落としていない「高速中性子」が核分裂に関わり、発生する中性子の数が多くなるようにしています。「高速増殖炉」の「高速」は、この中性子の速度から来ています。

    ところが、ウランは枯渇せず、高速増殖炉の技術も難しいということが判明します。つまり、プルトニウムを取り出す再処理は必要ないということです。

    以下、ウラン枯渇予測を基に原発先進国米国が立案した再処理推進政策が、当の米国の撤退後も一部の国々で続けられために、民生用プルトニウムが増え続け、冷戦終焉後に頭打ちとなった軍事用プルトニウムの量を超えて行った様子、撤退を知らない日本の再処理計画の現状などについて駆け足で見ていきましょう。

    大きく外れたウラン枯渇・原子力利用拡大予測


    上の図は、1974年に米国の原子力委員会(AEC)が発表した予測です。2010年のところを見てください。

    原発の発電容量は、米国だけで、100万キロワット級の原発2300基分となり、高速増殖炉がその約70%を占める、という予測です。下の方のミミズが這ったような線が実際の発電容量の推移です。現在の米国の現状はというと、軽水炉、つまり、普通の原子炉は約100基だけです。高速増殖炉はゼロです。

    再処理が必要だとの主張の根拠となった予測がいかに外れていたかが分かります。

    再処理政策から撤退した米国

    米国では1974年のインドの核実験が転機となって、再処理政策が変更されました。この実験で使われたプルトニウムは、米国が協力していた「民生用」再処理計画で分離されたものだったのです。

    1976年の選挙で登場したカーター政権は、再処理推進政策の見直しを実施します。結論は、ウランは枯渇せず「高速増殖炉には経済性がない」というものでした。つまり、高速増殖炉用に必要とされた再処理は必要ないということです。

    撤退を知らない日本

    しかし、日本は、1977年にパイロット規模の東海再処理工場の試運転を開始します。カーター政権から中止要請があったのですが、聞き入れませんでした。

    そして、1993年には六ヶ所再処理工場の建設を開始します。完成予定は97年でした。年間約800トンの使用済み燃料を処理して、その1%に当たる約8トンのプルトニウムを取り出す計画です。

    ところが95年には、高速増殖原型炉「もんじゅ」のナトリウム火災が発生します。高速増殖炉がこけたわけです。

    そして97年には、電力業界が、政府の要請を受けて、軽水炉での「プルサーマル」計画を発表します。ウランとプルトニウムを混ぜた混合酸化物(MOX)燃料を、経済性もないのに、普通の原子炉で無理やり燃やすというもので、これを2010年までに16-18基で導入して、年間7-11トンを消費するという計画です。高速増殖炉側の需要がなくとも、この計画があるから、六ヶ所の運転でプルトニウムを取り出しても大丈夫というわけです。

    しかし、MOX燃料は再処理費用を含めると、製造に低濃縮ウラン燃料の10倍のコストがかかってしまう代物です。

    再処理のもたらした負の遺産

    想定されたウラン資源枯渇という問題がなくなったのに再処理が続けられた結果がこれです。


    世界で民生用のプルトニウムの量が急増し、軍事用を上回ってしまいました。現在では、軍事用220トンに対し、民生用約300トンという状態です。

    再処理に固執している唯一の非核国


    上のグラフにあるように、現在では、再処理政策を継続しているのは、5カ国しかありません。そのうち4カ国が核保有国、非核保有国は日本だけです。その他の国々は、経済性のなさを理解して再処理から撤退しています。

    そして、英国は、海外の顧客用の再処理工場THORP(ソープ:酸化物燃料再処理工場)の運転を終了しています。英国自身のガス冷却炉用の古い再処理工場B205も2021年に閉鎖の予定です。

    それでも日本は不退転の決意

    それでも再処理政策に固執している日本の現状はと言うと、プルサーマル計画は進まず、再稼働したMOX利用炉は4基だけ、プルトニウムの年間消費可能量は約2トンです。

    プルトニウムの保有量は、2019年末現在、約45.5トン、国際原子力機関(IAEA)の数え方で核兵器約5700発分です。

    英国には、日本のプルトニウムが、日本に割り当て予定の0.6トンのも含め約22トンありますが、この国にはMOX燃料製造工場がないため、これをどうするのか決まっていません。英国側は、日本が金を払えば自国のものと一緒にごみとして処分してあげてもいいと言っています。

    にも拘わらず、日本は、2022年度上期に六ヶ所再処理工場を完成させ、2023年度には使用済み燃料のせん断を開始しようとしています。3年ほどかけてフル操業を達成し、年間7トン、核兵器約1000発分を取り出す計画です。

    取り出したプルトニウムをMOX燃料にするために再処理工場に隣接して建設中のMOX燃料製造工場は、進捗率11.8%。英国のMOX工場のように完成しても運転がまともにできないことになれば、プルトニウムはたまる一方となります。

    不幸中の幸い──予定通り運転開始なら余剰プルトニウム約200トンに!

    六ヶ所再処理工場の運転開始が四半世紀近く遅れているから計画が破綻しているとよく言われますが、すでに見た通り、計画は最初から原理的に破綻しているのです。実は、建設の遅延は不幸中の幸いで、予定通りに運転が開始されていたら、いまごろ約160トンのプルトニウムが追加されていたことになります。現在の保有分と合わせると、約200トンとなります。

    なぜ再処理工場運転開始か?

    では、再処理を推進してきた人々のメンツの問題を別として、再処理工場の不必要な運転開始の主な正当化理由は何でしょう。

    使用済み燃料の行き場がないというものです。再処理が前提だったため、原発のプール容量が小さく設計されていて、満杯が迫っている。原発の運転を継続するために六ヶ所に運びだしたいが、六ヶ所の受け入れプールも満杯。工場の運転を開始して、工場に燃料を送り込めば、受け入れプールに空きができるというわけです。

    つまり、再処理工場の役割は、ごみ置き場なのです。プルトニウム及びウランと、再処理で発生する高レベル廃棄物を固めたガラス固化体、それに、その他の廃棄物と、ごみ分別をして、保管する場所です。固化体はその後、最終処分場に送る。


    プルトニウムはMOX燃料にして軽水炉で燃やすと言っていますが、それができたとしても、使用済みMOX燃料は六ヶ所では再処理できません。使用済みMOX燃料を再処理して利用するには、新しい再処理工場と高速炉を作らなければならない。そんなことはできそうにないので、最終処分場に送ることになるとみられています。

    再処理に代わる道

    原発運転を前提とした場合、これに対し、図の下側に示した道があります。使用済み燃料を、乾式貯蔵した後、最終処分場に送る直接処分という方法です。この方が再処理路線より安全で安上りです。原発利用を早期に停止する場合も、廃炉を進めるためには、乾式貯蔵が必要です。

    原発を運転しているほとんどの国では再処理政策をとっておらず、多くの国で原発敷地内での乾式貯蔵が導入されています。

    日本で敷地内乾式貯蔵の導入済みは、福島第一と東海第二だけです。


    左側は福島の3.11の前、右は、津波後の状態です。建屋が津波で破損し、容器などに海藻が絡んでいるのが見えます。

    福島第一4号機の教訓

    福島第一原発の事故の教訓の一つは、使用済み燃料プールでは冷却材喪失事故が起きる可能性がある、そして、その際にプールに燃料が詰め込まれている状態だと、プール火災の可能性が高くなる、ということでした。

    原子力規制委員会の田中前委員長は就任当初から、福島第1原発の乾式キャスクが無事だったことに触れ、安全性の観点から乾式貯蔵推進を提唱していました。「5年程度プールで冷却した燃料は、空冷式のキャスクに移動を!」という主張です。更田現委員長も、キャスクに入れて転がしておく方がプールよりまだ安全とさえ言っています。

    乾式貯蔵を進めてプールを空いた状態にすることは、プール火災防止という安全性強化に繋がると同時に、「使用済み燃料の行き場がないから」という再処理の言い訳の根拠を崩すことにもなります。

    現在、原発敷地外貯蔵用としては青森県むつ市の施設(3000トン)がほぼ完成。

    敷地内貯蔵としては、伊方(500トン)の建設計画が9月15日に許可され、さらに浜岡(400トン)、玄海(440トン)が安全審査中という状態です。

    再処理政策は反核運動の課題

    再処理政策には経済性が全くなく、最初から破綻しているということを見てきました。それにもかかわらず、日本は、既に核兵器6000発分近くのプルトニウムを保有しながら、毎年1000発分近くを分離しようとしています。今日のお話が、この政策を止めることは日本の反核運動の最大の課題の一つだということをもう一度考えてみるきっかけになればと思います。

    資料編

    日本のプルトニウム保有量

    六ヶ所再処理工場の完成・運転計画


    MOX燃料工場

    日本原燃は、2020年10月初旬時点では、六ヶ所再処理工場に隣接して建設中のMOX燃料工場の完成時期を2022年上半期としている。原子力規制員会は、2020年10月7日、同工場の安全対策が新規制基準に適合しているとの「審査書案」を了承。関連資料は次を参照。

    第31回原子力規制委員会 2020年10月07日

    再処理路線と直接処分コスト比較

    原発敷地外乾式貯蔵

    「リサイクル燃料備蓄センター」

    原子力規制委員会は9月2日、同施設が規制基準を満たしているとの結論。1カ月のパブコメ期間を経て正式決定の予定 原子力規制委員会パブリックコメント関連ページ)

    注:この施設は、元々は、六ヶ所再処理工場がフル操業しても処理しきれない使用済み燃料を、第二再処理工場稼働まで貯蔵するために必要と考えられた原発敷地外「中間貯蔵施設」の第一号。下を参照。

    経産省による「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(原子炉等規制法)の一部を改正する法律の概要」(1999年)から引用すると:
    「海外再処理への使用済燃料の搬出終了、六ヶ所村再処理施設の操業の遅れ等から、原子力発電所内における使用済燃料の貯蔵状況は逼迫傾向にある。今後、発電量の増加に伴う使用済燃料の発生量の増加、再処理施設の再処理能力等を総合的に勘案すると、発電所外において使用済燃料を中間的に貯蔵することを目的とする施設(中間貯蔵施設)を整備することが必要。」
    出典:1999年の原子炉等規制法改正の理由は?

    新規敷地内乾式貯蔵施設

    使用済み燃料貯蔵状況

    経済産業省資料

    電気事業連合会資料 使用済燃料の貯蔵対策 対策の強化と貯蔵方法

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