夏場の気温上昇や住環境の高気密性のため、日本の室内はカビが育ち易い環境となってきました。カビは、食品に繁殖して食用にできなくしたり、浴室や室内の壁を斑点状に黒くしたりします。カビは、体内に入ると健康被害を発生させることがあり、肺組織の破壊等の重い症状を引き起こすこともあります。また、カビを吸入する事でアレルギー反応を引き起こし、喘息の悪化や難治化が問題になることがあります。
エアコン内のフィルターの絵
エアコン内部にカビが繁殖し、エアコンを稼働すると室内空気の汚染源になることが考えられ、カビによる健康被害を訴える人が出てくることが想定されます。
カビが原因である病気に、Aspergillus属のカビが人の気管支に入って発症するアレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA:allergic bronchopulmonary aspergillosis)という病気が知られています。Aspergillus属は土壌や住環境など、どこにでも存在するカビですが、好温性のAspergillus属は、通常のカビと違い人の体温でも生育し悪い影響を与えることがあります。
また、Aspergillus属だけでなく、担子菌(キノコ)など他の真菌類もABPAと同様の病気を引き起こすことが知られており、これらを総称してアレルギー性気管支肺真菌症(ABPM:allergic bronchopulmonary mycosis)と呼んでいます。
しかし、真菌(カビやキノコ)を吸入する事でアレルギー疾患が悪化する事例は報告されているものの、エアコン内のカビやキノコとの関係は明らかになっていない実態があります。
NITEでは藤田医科大学医学部の呼吸器内科とアレルギー疾患対策医療学講座と共同で、住環境で用いるエアコン等に繁殖するカビやキノコの安全性評価手法の必要性について調査しています。アレルギー性気管支肺アスペルギルス症を発症した患者宅のエアコンからカビやキノコ類を採取し、どのようなカビやキノコ類が存在しているのか調査を実施しています。また、カビやキノコ類が生成するアレルギーの原因となるタンパク質を特定する調査も実施しています。将来、アレルギー性喘息やABPMの原因究明や検査のために役立つデータが得られるものと期待されています。
エアコン内のカビの写真
エアコン内から採取したカビの内、Aspergillus属の提供を開始しました。 NBRCニュース 第59号でもお知らせしています。また、Aspergillus属以外の真菌についても提供しております。カビ対策エアコンの開発、空調機器の防カビ性能試験、カビ洗浄の効果判定、資材・材料の防菌防カビ性能の評価への活用が期待されます。
<NBRCより提供している、エアコンから採取されたAspergillus属カビ類>
<NBRCより提供している、エアコンから採取された真菌(Aspergillus属以外)>
子嚢菌門 Ascomycota
担子菌門 Basidiomycota
エアコン等の工業製品の防かび性の評価は、かび抵抗性試験(JIS Z 2911:2018)により行われており、一般工業製品の試験、プラスチック製品の試験、電気製品・電子製品の試験が規定されています。
試験用株は、以下のリンク先ページ「JIS(日本産業規格)に規定された菌株」を参照してください。
https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/nbrc/use/standard_jis.html
また、エアコン内に限らず、食品汚染・住環境等から分離された糸状菌(カビ)についても提供しております。
ヒトへの病原性が報告されているキノコ類(担子菌)が注目されており、研究が進められています。関連したこれらの株についても提供しております。順次、種類を増やす予定です。
<NBRCより提供しているヒトへの病原性も報告されているキノコ類(担子菌)>
カビとキノコの絵
エアコン内に繁殖する真菌(カビ・キノコ)について、アレルギー原因物質を特定するため、質量分析計を用いてタンパク質の解析を行っています。アレルギー原因物質を特定することによってアレルギー性喘息やABPMを発症させる真菌を選別し、治療法の開発が進むことが期待されます。
プロテオーム解析結果は、生物資源データプラットフォーム(DBRP)で公開しています。
Aspergillus fumigatusが産生するタンパク質の二次元電気泳動像
NITEでの解析結果は、以下で発表されています。
解析に用いた質量分析装置を紹介しています。
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