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- 自然と人類の共生へ—正念場の十年を迎えて(2021年度 40巻1号)
自然と人類の共生へ—正念場の十年を迎えて
理事長 木本 昌秀
どの研究所もそうですが、国立環境研究所はとくに、社会とその変化や、国民のみなさまとの関係の深い課題を扱うところです。1974年に国立公害研究所としてその歴史を開始し、1990年にはより広範化した環境問題を扱うこととして国立環境研究所と名称を変更したことでもそのことはわかります。近年では、東日本大震災を契機に放射性物質や災害環境の研究を行うこととなりました。
×ばつ防災」のメッセージを発表、また、わが国は2050年にカーボンニュートラルを目指すことも宣言されました。これからの10年は、これらの目標を実現し、新しい社会を構築するための大変重要な正念場となりましょう。
国立環境研究所は、このような大きな動きに関係する多くの課題について研究を進め、政府や国民のみなさまの意思決定の根拠となる科学的知見を提供することを使命としています。その役割の重要性には身が引き締まる思いです。
目指すべき新しい社会、脱炭素、循環型、自然共生社会とはどのようなものか、そのための課題は何か。決して都合のよいことばかりに偏ることなく、また、一見してわかりやすいことばかりでなく、観測など地道な継続が必要なことも含めて、堅実に信頼できる科学的知見を積み上げてゆく必要があります。もちろん、新しい社会は、国民のみなさまのご理解とご協力がなければ決して実現できないものです。そのためには、むずかしい研究の内容もできるだけわかりやすく伝え、ご納得頂く必要があります。そもそもむずかしいことを調べることに忙しい研究者に十分な余裕があるわけではありませんが、やっていることが意味を持つために、広報にもできるだけの力を注ぎたいと思います。
2018年12月、気候変動適応法の施行と同時に、国立環境研究所では、気候変動適応センターを設立し、気候変動の影響と適応に関する情報の収集・整理・分析・提供や、適応に関する取り組みに対する技術的助言等に当たることとしています。国内に対しては、A-PLAT、国外のアジア-太平洋諸国に対してはAP-PLATというウェブサイトを立ち上げて、適応策策定に関わるみなさまの支援をしたいと思っています(A-PLAT、AP-PLATで検索するとすぐに出てきます)。
また、国立環境研究所では、今年度より新たな5か年の中長期計画を開始しました。これまでの実績を踏まえつつ、新たな要請にも答えるべく研究分野の再編成を図り、また、重点的に取り組むべき課題として、8つの戦略的研究プログラムを設定して、従来の個別分野を超えた連携により、統合的に研究を推進してゆきます。また、研究部門だけでなく、研究を支援する企画・支援部門も体制を新たにし、発信力強化や対外連携推進、情報化対応等を強化してゆきます。
重要な正念場である今後10年に向けて新たな目標と体制で研究を進めてゆきますが、当研究所の人員や能力は決して十分なわけではありません。国内国外の関連研究機関や、自治体等のみなさんとの協力、連携を大いに活用させて頂いて、大きな目標に向けて進みたいと思います。当研究所が国内外の環境研究の核となれるよう努めます。そのためには、何より研究の内容と質において一目置かれることが必須ですので、あくまでも研究のスタンダードは高く保ちたいと願っています。新しい発想を生む土壌も大切にしたいと思います。みなさまのご理解とご協力をよろしくお願い申し上げます。
執筆者プロフィール:
1957年大阪府生まれ。京都大学理学部卒業後、80年気象庁入庁。予報部、気象研究所を経て、94年より東京大学気候システム研究センター(2010年より大気海洋研究所に改組)。異常気象や気候予測を研究してきました。2021年4月より国立環境研究所。好きな言葉は、「大工は都市計画を語らない」ですが、立場上都市計画の勉強もしなくてはいけないのかと、戦々恐々...。
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