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- 国連気候変動枠組条約(UNFCCC) 第25回締約国会議(COP25)参加報告(2019年度 38巻6号)
国連気候変動枠組条約(UNFCCC)
第25回締約国会議(COP25)参加報告
【行事報告】
地球環境研究センター
気候変動適応センター
はじめに
2019年12月2〜15日、スペインのマドリードで、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)第25回締約国会議(COP25)が開催されました。COP25は当初チリで開催される予定でしたが、11月に現地治安の問題により開催を断念したため、急遽スペイン政府が当初計画と同じ日程で首都マドリードでの開催を引き受けることになりました。議長国は当初予定どおり、チリが務めました。
COP25ではパリ協定の各国削減目標や気候変動対策メカニズムの具体的なルール等について議論されました。国立環境研究所は締約国としての国際交渉を行う政府機関ではありませんが、国連の経済社会理事会にCOP25にNGOとして参加できる資格を申請して受理されているために、主に会期の前半に行われたサイドイベント等に複数参加し、多くの研究成果を発信することができました。
以下、同会議における国立環境研究所の活動を紹介します。
1.開催地マドリードの雰囲気
COPの直前の開催地変更は長い歴史の中でも初めてのことであり、急遽開催準備に追われたスペイン政府の努力は想像を絶するものがあります。しかし、開催地マドリード市街や地下鉄の駅および車内には、気候変動への理解と行動を呼びかける各種の広告や、「Act Now」という標語を印刷した数多くの旗などが設置されており、街を挙げて会議を支援しようとする雰囲気がありました。また、駅や会場入口では、連日プラカードやビラを持って緊急の行動を呼びかける多くの若者の姿もあり、日本との気候変動問題への関心の高さの違いを実感しました。
2.国立環境研究所の展示ブース
国立環境研究所とリモート・センシング技術センター(RESTEC)の合同展示ブースでは、衛星(GOSATシリーズ)による温室効果ガスの観測を紹介しています。ディスプレイに投影されているのは2009年から2017年までに得られたGOSATの観測データを利用して作られた全球地表面のCO2濃度のシミュレーション動画です。
たくさんの参加者が衛星で温室効果ガスを観測することに関心を示してくれました。今回、現地の参加者のためにGOSATシリーズのリーフレットのスペイン語バージョンを用意しました。これはとても役に立ちました。
*GOSAT(Greenhouse gases Observing SATellite)は、環境省、国立環境研究所、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が共同で開発した温室効果ガス観測技術衛星
3.サイドイベントへの参画
COP25では、連日、数多くのサイドイベントや発表が行われました。12月4日に開催されたサイドイベントの様子をご紹介します。
Global Carbon Budget 2019のPress Conference
国立環境研究所内にも国際オフィスがあるGlobal Carbon Projectの活動と、1850年以降の人為起源CO2排出量、海洋への吸収、陸域への吸収などの世界全体の炭素収支の経年変化が紹介されたあと、世界全体の人為起源排出量は2019年の終わりまでに前年比0.6%増加する見込みであることが報告されました。2018年に比べて上昇率は下がっていますが、排出量が低下し始めるには至っていません。2019年の大気中CO2濃度の平均値は約410ppmになると推定されています。
ICOSのサイドイベント“Standardized observations are the base of all climate science”
Integrated Carbon Observation System(ICOS)は温室効果ガスと炭素循環の変化を観測に基づき把握することを目的とした欧州のプログラムです。サイドイベントでは、ICOSの趣旨説明に始まり、大気観測の標準化を担っている世界気象機関(WMO)全球大気監視(GAW)の取組が紹介されました。国立環境研究所からも、気象庁や国立環境研究所の進める地上、船舶、航空機観測に加え、衛星観測などの各種観測の現状と、データ利活用の課題を紹介しました。
4.日本パビリオンで開催されたセミナー
(1) Satellite Observation Contributing to Decision Making to Reduce GHG Emissions (温室効果ガス排出量削減政策に貢献する衛星観測):12/5開催
温室効果ガス排出削減のための意思決定に衛星観測がどのように貢献するかをテーマとしたセミナーが開催されました。日本と米国の宇宙機関の専門家、大気輸送モデルの研究者、衛星をはじめとする各種観測データやモデルの利活用を進める研究者などが登壇して現状の取組や課題を紹介しました。会場からは、温室効果ガス観測の意義や、各種観測インフラが災害防止などの目的にも使えるかといった質問があり、熱心に意見交換が行われました。
(2) Youth for Climate Action: Stakeholder Engagement:12/5開催
Youth for Climate Actionというパネルセッションが開催されました。シンガポール、韓国、マレーシア、台湾、日本などから若手がパネリストとして登壇し、気候問題に対してアジアの各国・地域で行っている活動、COP25に対する印象などが熱心に語られました。パリ協定の交渉の行方に関心と期待をもち、世界各国の若手や専門家と直接対話するなど、COP25参加の経験を最大限活かそうとする高い意欲が表れていました。
(3) Satellites in Support of National Greenhouse Gases Reporting and Global Stocktake:12/6開催
欧州宇宙機関(ESA)、リモート・センシング技術センター(RESTEC)、森林全球観測と土地被覆ダイナミクス(GOFC-GOLD)、国立環境研究所、JAXA、およびオランダのワーゲニンゲン大学による標記合同サイドイベントが開催されました。はじめにイベントの趣旨説明を兼ねて2019年温室効果ガスインベントリガイドラインの改訂の概要と、地球観測衛星委員会(CEOS)からグローバルストックテイク*への貢献について解説されました。続いて、日本とモンゴルで実施されている、温室効果ガス観測とモデルを組み合わせた地域およびグローバルな温室効果ガス吸収・排出量推定の研究が紹介されました。その後、CO2吸収源として重要な役割を果たす森林の炭素ストックを衛星観測から推定するESAの取組、モザンビークにおける森林炭素の推定などの取組が紹介されました。最後に、会場からの質問を受けたのち、セッションの総括となるキーメッセージをとりまとめてサイドイベントを終了しました。
*パリ協定の目的および長期目標に向けた世界全体の温暖化対策の進捗状況を5年おきに確認し、取り組みを強化していく仕組み。
(4) Towards climate-resilient world: Challenges for Asia-Pacific Climate Change Adaptation Information Platform on disaster risk reduction:12/11開催
環境省、地球環境戦略研究機関(IGES)と国立環境研究所の共催で、気候変動により激甚化すると予測されている災害リスクに対するアジア太平洋気候変動適応情報プラットフォーム(AP-PLAT)の取り組みについてのサイドイベントが開催されました。冒頭小泉進次郎環境大臣より2019年6月に立ち上げられたAP-PLATについて紹介があり、次いでAP-PLATに関わっている各機関の代表がそれぞれの取り組みについて講演しました。国立環境研究所からは、AP-PLATウェブサイトを通じた科学的知見の発信について、これまでの取り組みと今後の方向性を紹介しました。パネルディスカッションでは、アジア太平洋地域の各国からのAP-PLATに対する高い期待が示され、今後も関係機関のネットワークをさらに強めていくことで意見が一致しました。
5.最後に
地球環境研究センターは、最近のCOPでは主としてGOSAT関連の取り組みを紹介してきました。今回、GOSATはもとより、国立環境研究所が関わる世界全体の炭素収支に関する研究や様々な手法による地球観測・研究について、各国の関係者と意見交換・情報交換を行うことができました。また、気候変動適応センターはアジア太平洋地域における気候変動適応に関する取り組みについて発信し、世界各国の関連機関と今後の方向性についての意見交換を行いました。次回のCOP26はイギリス(スコットランド)のグラスゴーで開催予定です。今後もCOP関係者に有益な情報提供を行うとともに、世界が必要としている研究を肌で感じるCOPという場に積極的に参加していきたいと思います。
6.ウェブサイト
COP25の政府代表団からの報告は地球環境研究センターニュース2020年3月号 (https://www.cger.nies.go.jp/cgernews/)で取り上げられますので、ぜひこちらもご覧ください。
目次
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