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- PM2.5の総復習(2013年度 32巻4号)
PM2.5の総復習
特集 大気汚染の現状と健康影響評価
【環境問題基礎知識】
菅田 誠治
「PM2.5」という言葉を今年の1月に生まれて初めて耳にした方も少なくはないでしょう。まず、1月中旬に北京でのPM2.5高濃度が話題となり、続いて日本で高濃度が観測されたと大きなニュースになりました。ここではそのPM2.5について基本をおさらいしたいと思います。
PM2.5のPMは「粒子状物質」の英語である"Particulate Matter"の頭文字です。下付き数字の2.5は粒子の直径が2.5μm(マイクロメートル、1mmの1000分の1、以前はミクロンとも呼びました)以下であることを表しています。細かく言えば、PM2.5を測定する際の粒子の選別手法の関係で2.5μmより5μm程度までの粒子もわずかながら含まれているのですが、一般的には「大気中に浮かぶ粒径が2.5μmより小さい粒子」と理解しておけば十分です。2.5は下付きで書くのが本来なのですが、PM2.5という書き方も一般には通用しています。
PM2.5は粒子なので、気体ではなく固体もしくは液体です。PM2.5等の粒子状物質をエアロゾルと呼ぶこともありますが、本来は気体である大気の中に気体でない粒子状物質がコロイド状に共存している状態を表していますので、厳密には粒子状物質自体を呼ぶ言葉ではありません。
大きさはなぜ2.5μmなのでしょうか。厳密に決められる値ではないのですが、粒子が気管支より深く肺の奥まで到達できて人体に影響を与える恐れがある大きさを基に決められています。人体影響についての詳細は、今号の他の記事を参考にして頂くのが良いと思います。
日本では2009年にPM2.5の環境基準が定められました。基準は二つの条件から成り、PM2.5の年平均値が15μg/m3以下であることと、一日平均値が35μg/m3以下であることの両者を満たすことです。この基準値は、EUよりは厳しく、米国と一緒で、WHOよりは緩い値で、世界的な基準の中庸に位置しています。
各種の大気汚染物質の濃度は、全国にある大気環境常時監視測定局において観測が行われ、その観測値の多く(一部、ネットワークに繋がっていない測定局や項目があるため)は「そらまめ君」のホームページによりリアルタイムで確認できます。PM2.5については、日本全国で600以上(平成24年度末)の測定局があります。1970年代から測定が続けられている光化学オキシダントの測定局数は1200局弱であり、PM2.5についてもその程度の局数をめざし局数を増やす努力が続けられています。
一括りにPM2.5と呼ばれますが、実際には様々な物質の集合体で、条件により含まれる成分は様々です。例えば、元素状炭素(EC)、有機炭素、硫酸塩、硝酸塩等の様々な物質が成分として含まれる(図)ほかに、黄砂等の土壌粒子や海塩粒子等も含まれます。様々な物質ですから、発生源や発生方法も様々です。最初から粒子状物質として大気中に放出される一次粒子と、原因物質となるガス状物質が大気中で反応(光化学反応・中和反応等)して生成される二次粒子があります。発生源は自然起源と人為的起源に分けられます。同時に、成分によって人体への影響も全く異なると考えられますし、取るべき対策も異なるはずです。様々な粒子状物質を大きさだけで一括りにして環境基準を決め常時測定等を行う一方で、発生源や影響や対策については成分毎にそれぞれ考える必要があるのが、他の大気汚染物質と大きく異なる特徴であり、また、扱いが難しいところだと思われます。
さて、今年の1月から2月にかけてPM2.5高濃度が話題となったとき、国立環境研究所では即応的にデータ解析を行い、2月21日に「日本国内での最近のPM2.5高濃度現象について」と題して記者発表を行いました。その内容は研究所のホームページ(http://www.nies.go.jp/whatsnew/2013/20130221/20130221.html)で確認できます。その解析では、「そらまめ君」のPM2.5データを用いて、2013年1月1日から2月5日までの36日間における日本全国のPM2.5濃度の概況を調べました。解析に使った測定局数は24道府県の169地点で、そらまめ君のネットワークシステム(テレメータと呼ばれます)に当時繋がっていた測定局のデータのみを対象としました。
まず、各測定局での日平均PM2.5濃度を調べたところ、西日本を中心に環境基準値(1日平均値35μg/m3)を大きく超える高濃度が度々みられました。全測定局での日平均値の期間中最大値は九州において1月31日に観測された69.8μg/m3でした。36日間のうち16日間で、全国のどこかで環境基準値(1日平均値35μg/m3)を超過した測定局がありました。1月31日には、全局数の31.0%で環境基準値を超過していました。各測定局における環境基準値超過の日数の分布を見ると、九州、中四国、近畿を中心に西日本に多く分布していました。2011年と2012年のデータも用いて、計3年分の1月中の有効な測定局数と日数の積算値の何%が環境基準値を超過したかを西日本対象に比較したところ、2013年の超過率4.0%は2012年(3.5%)と大差無いことがわかりました(2011年は1.0%でした)。その後も、他の解析方法も用いて解析しましたが、今年のこれまでのPM2.5濃度は、ここ約3年間の中で特に高くはないことがわかっています。
1月のPM2.5高濃度問題を受けて、環境省は「微小粒子状物質(PM2.5)に関する専門家会合」を設置し、その結果、PM2.5濃度の日平均値70μg/m3が暫定的な指針値とされ、超過すると予想されるときに注意喚起(いわゆる注意報と思って良いでしょう)を行うとされました。それ以降、PM2.5濃度の日平均値が70μg/m3を超えるかについても関心が持たれるようになりましたが、その観点でデータを解析しても今年は例年並みという結果が現時点で得られています。
以上のようにPM2.5濃度の観測データから、少なくともここ数年間で見て、今年の日本におけるPM2.5濃度は特別高くはないということがわかります。日本でPM2.5が高濃度になる要因の一つには越境輸送の影響があると考えられますが、例えば中国から日本に輸送されてくる間に拡散等によって濃度は10分の1もしくはそれ以下になると考えられます。現在の中国の大気汚染の状況は、PM2.5濃度から見て、1970年代頃の日本の状況に比較的近いと考えられ、今後中国国内の対策も徐々に進められるだろうことを考え併せると、引き続き注意は必要でしょうが、特に恐れる心配はないだろうと個人的には考えています。
執筆者プロフィール
ストレスを飲み食いで解消する傾向があり現在増量中である。人間ドックでのコレステロール値を見ると、昨年までと比べて格段にマズイ健康状態なのだが、なかなか減量ができない。大した馬力も出ないのに困ったエンジンである。
目次
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2025年9月4日報道発表PM2.5の構成成分であるブラックカーボンが急性心筋梗塞のリスクを高める可能性
〜全国7都道府県・4万件超を対象とした疫学研究の成果〜
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- 2022年10月4日報道発表環境疫学研究によるPM2.5と妊娠糖尿病との関連性についての知見
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2022年6月8日報道発表PM2.5の健康影響は特定成分に由来しているのか?
〜救急搬送を健康影響指標とした新規疫学知見〜
- 2021年11月3日報道発表G20の消費はPM2.5の排出を通じて年200万人の早期死亡者を生む(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、環境記者会、京都大学記者クラブ、大阪科学・大学記者クラブ、九州大学記者クラブ、文部科学記者会、科学記者会同時配付)
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2009年12月25日都市大気環境中における微小粒子・二次生成物質の影響評価と予測(特別研究)
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