- トップページ >
- 広報活動 >
- 刊行物一覧 >
- 国立環境研究所ニュース >
- 国環研ニュース 30巻 >
- 地域環境研究の中核センターとして(2011年度 30巻2号)
地域環境研究の中核センターとして
【地域環境研究センターの紹介】
大原 利眞
1.はじめに
地域環境研究センター(以下、地域センター)は、地域環境問題を対象とする研究組織として、第2期中期計画におけるアジア自然共生研究グループと水土壌圏環境研究領域を母体に、大気圏環境研究領域、社会環境システム研究領域に所属していた研究者を加えて発足しました。国内とアジアをフィールドとして、私達が生きていくために必要な空気、水、土壌などを対象に、環境問題が発生する仕組みを科学的に明らかにする研究に取り組みます。更に、地域で起こっている環境問題を解決し、より良い地域環境を創ることを目指した研究を実施します。これらの研究を、所内の他の研究センター、国内外の大学や研究機関、地方の環境研究所などと協力し、更には、行政機関や国民の皆様とキャッチボールしながら進めたいと考えておりますので、御支援・御協力をお願いします。
2.私達が目指すもの
さて、我が国では、大気汚染や水質汚濁、土壌汚染といった公害問題が、1960〜70年代に大きな社会問題となりましたが、行政、研究者、国民が力を合わせて努力した結果、多くの公害を克服することができました。ところが未だに、光化学スモッグや微小粒子状物質といった大気汚染、窒素・リン・有機物による湖沼や内湾の水質汚濁、揮発性有機物質や重金属による土壌汚染などの問題が未解決のまま残っています。また、都市や地域の環境に、他地域からの越境汚染や地球規模での環境変化が大きな影響を及ぼしています。更には、環境を保全するだけでなく、発生している環境問題を解決すること、問題発生を未然に防止すること、快適な環境を創ること、そして持続的な地域社会の構築を進めることが重要な課題になっています。
そこで、地域センターでは、国内とアジアの大気、水、土壌などで発生する、国を越境するスケールから都市スケールの地域環境問題を対象に、観測・モデリング・室内実験などを組み合わせて、実態を把握し、発生メカニズムを科学的に理解します。更に、これらの結果をもとにして問題を解決し、より良い地域環境を創るための研究を進めます。そして、これらを総合することにより、国内及びアジアを中心とする海外における広域および都市・地域の環境問題の解決と持続的発展に貢献することを目指します。
3.こんな研究を進めます
地域センターでは、他のセンターと協力して、重要な環境研究課題に対応するための3つの研究プログラムを進めます(図参照)。その1つは、我が国への影響が懸念される東アジアの広域環境汚染を対象とした「東アジア広域環境研究プログラム」です。この研究では、東アジアにおける広域越境大気汚染と東シナ海・日本近海の海洋汚染を対象とし、観測とモデルにより、発生メカニズムや人間活動との関係、環境影響を解明し、解決策を示すことを、地球環境研究センターなどと協力して進めます。2つ目は、森林や湖沼、沿岸域などの流域圏が持つ生態系機能に焦点を当てた「流域圏生態系研究プログラム」です。流域圏の生態系を対象として、水や物質の循環に注目し、生態系機能を評価する手法を開発するとともに、戦略的モニタリングを実施し、生態系機能とさまざまな環境要因との関係を評価します。さらに、生物・生態系環境研究センターと協力して、流域圏の健全性評価手法を開発し、生態系機能の保全や自然再生のあり方について研究します。3つ目は、社会環境システム研究センターと共同して進める「環境都市システム研究プログラム」です。このプログラムでは、持続可能な環境都市を実現するために、水、エネルギー、資源循環のコベネフィット型環境技術システムを開発し、それを社会実装するための研究を進めます。
プログラム研究とともに、複数の基盤・分野横断プロジェクト研究において、基盤的な環境研究、分野を超えた連携研究、環境技術の開発・評価研究を進めることにより、総合的で骨太な地域環境研究を実施します。まず、水・土壌圏環境の保全・再生・創造に係る複数の基盤研究と分野横断研究を、研究プログラムと連携して実施します。また、都市・地域大気環境を対象とした研究として、都市大気汚染に関する分野横断研究や低公害車実験施設を活用した基盤研究を実施し、都市大気環境の問題解決に貢献します。更に、環境技術の社会実装につながる研究として、コベネフィット型の排水・廃棄物処理システムの開発などを進めます。一方、基盤事業として、大陸からの越境大気汚染などを把握するための沖縄辺戸・長崎福江における大気モニタリングや、典型的な浅い湖沼における長期的な水質と生物の変遷を把握するための霞ヶ浦の水環境モニタリング等を実施し、地域スケールの環境変動を長期的に把握します。
以上のように、地域センターでは、課題対応型の研究プログラムを軸に、基盤研究、分野横断研究、環境モニタリングを、他の研究センター、国内外の大学や研究機関、地方の環境研究所などと連携して進めることにより、国内及びアジアの地域環境問題の解決に貢献することを目指します。
4.おわりに
3月11日に東日本大震災が起こり、更に、福島第一原子力発電所の事故による放射性物質の放出によって、東北地方を中心に甚大な被害が出ました。現在、被災地では、地震・津波による直接的・間接的な影響とともに、廃棄物や環境汚染などによる地域環境の悪化が大きな問題となっています。大気・土壌・水・農作物などへの放射性物質汚染も深刻です。このような途方もなく大きな地域環境問題を直視し、私達も地域環境研究者の立場から、復旧・復興に貢献していきたいと考えます。
執筆者プロフィール:
地域環境研究センターを担当することになり、昨年末からエフォート100%以上の仕事に追われています。しかし、大震災や原発事故の被災者の皆様に比べれば自分の大変さなど軽いもの、と自分にムチ打ちながら仕事しています。
目次
関連新着情報
-
2025年9月4日報道発表PM2.5の構成成分であるブラックカーボンが急性心筋梗塞のリスクを高める可能性
〜全国7都道府県・4万件超を対象とした疫学研究の成果〜
(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、環境記者会、文部科学省記者会、科学記者会同時配布) - 2024年10月18日更新情報福江島、中国ルドン、中国泰山における揮発性有機化合物の地上観測データに成分を追加して公開しました。
- 2023年4月17日報道発表頻発する猛暑が湖底の貧酸素化を引き起こす可能性(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、環境記者会同時配付)
-
2022年10月17日報道発表幾千のAIで複雑な生態系を読み解く
-湖沼生態系の相互作用を解明し、水質改善につなげる-(文部科学記者会、科学記者会、筑波研究学園都市記者会、環境記者会、環境問題研究会同時配布) - 2022年7月19日報道発表日射量の増加による植物プランクトンの光合成速度への影響を明らかにしました(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、環境記者会同時配付)
- 2020年11月24日報道発表湖水と魚類の放射性セシウム濃度は季節変動しながらゆっくり減少—底層の溶存酸素濃度の低下による底泥からの放射性セシウムの溶出を示唆—(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、環境記者会、福島県政記者クラブ、郡山記者クラブ同時配布)
-
2020年11月10日報道発表霞ヶ浦の多面的な経済価値を算出
〜多様な恵みを提供する湖、水質の改善と生物の保全が重要〜(筑波研究学園都市記者会、茨城県庁記者クラブ、環境省記者クラブ、環境記者会同時配布)
関連研究報告書
- SR133表紙画像 2019年2月7日未規制燃焼由来粒子状物質の動態解明と毒性評価国立環境研究所研究プロジェクト報告 SR-133-2018
-
表紙
2017年2月9日環境都市システム研究プログラム(先導研究プログラム)
平成23〜27年度国立環境研究所研究プロジェクト報告 SR-118-2016 - 表紙 2015年3月31日PM2.5と光化学オキシダントの実態解明と発生源寄与評価に関する研究国立環境研究所研究報告 R-210-2014
-
表紙
2012年12月28日湖沼における有機物の循環と微生物生態系との相互作用に関する研究 (特別研究)
平成20〜23年度国立環境研究所研究プロジェクト報告 SR-103-2012 -
表紙
2012年9月30日資源作物由来液状廃棄物のコベネフィット型処理システムの開発(特別研究)
平成21〜23年度国立環境研究所研究プロジェクト報告 SR-100-2012 -
表紙
2011年12月28日九州北部地域における光化学越境大気汚染の実態解明のための前駆体観測とモデル解析(特別研究)
平成20〜22年度国立環境研究所特別研究報告 SR-95-2011 -
表紙
2011年12月28日アジア自然共生研究プログラム(終了報告)
平成18〜22年度国立環境研究所特別研究報告 SR-99-2011