○しろまる 概要
1.概要
既存の関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)に、血管炎(リウマトイド血管炎)をはじめとする関節外症状を認め、難治性又は重症な臨床病態を伴う場合に、悪性関節リウマチ(MRA)という。関節リウマチの関節病変が進行して高度な関節機能障害を来しただけでは悪性関節リウマチとはいわない。悪性関節リウマチと診断される年齢のピークは60歳代で、男女比は1:2である。悪性関節リウマチの血管炎は結節性多発動脈炎と同様な全身性動脈炎型(内臓を系統的に侵し、生命予後不良)と内膜の線維性増殖を呈する末梢動脈炎型(四肢末梢及び皮膚を侵し、生命予後は良好)の2つの型に分けられる。臓器病変として間質性肺炎を生じると生命予後は不良である。
2.原因
関節リウマチと同様に病因は不明である。悪性関節リウマチ患者の関節リウマチの家族内発症は12%にみられる。関節リウマチはHLA-DR4 (HLA-DRB1*0401)との関連が指摘されているが、悪性関節リウマチではその関連がより強い。
悪性関節リウマチではIgGクラスのリウマトイド因子が高率に認められ、このIgGクラスのリウマトイド因子は自己凝集する。その免疫複合体は補体消費量が高く、血管炎の発症に関与しているとみなされている。
3.症状
全身血管炎型では既存の関節リウマチによる多発関節痛(炎)、発熱(38 ゚C以上)、体重減少を伴って皮下結節、紫斑、筋痛、筋力低下、間質性肺炎、胸膜炎、多発神経炎または多発性単神経炎、消化管出血、上強膜炎などの全身症状がかなり急速に出現する。
末梢動脈炎型では皮膚の潰瘍、梗塞、又は四肢先端の壊死や壊疸を主症状とする。
全身血管炎型ではリウマトイド因子高値、血清補体価低値、免疫複合体高値を示す。
4.治療法
悪性関節リウマチに伴う関節外病変の制御、及び関節の構造的変化と身体機能低下の進行抑制を目標に治療する。悪性関節リウマチの薬物治療には、グルココルチコイド、メトトレキサートをはじめとする従来型抗リウマチ薬、生物学的抗リウマチ薬、分子標的型合成抗リウマチ薬、シクロフォスファミドやアザチオプリンなどの免疫抑制薬などがあり、その他血漿交換療法も行われる。治療法の選択は臨床病態により異なる。
(1)全身症状(血管炎による臓器病変があり漿膜炎や上強膜炎などの関節外病変や発熱、体重減少を伴う)を伴うリウマトイド血管炎の寛解導入治療では、抗リウマチ薬あるいはグルココルチコイド単独よりも、グルココルチコイド+静注シクロホスファミドパルスを用いる。
(2)皮膚に限局したリウマトイド血管炎の寛解導入治療では、抗リウマチ薬単独よりもグルココルチコイド+アザチオプリンを用いる。
(3)治療抵抗性あるいは再発性のリウマトイド血管炎では,TNF阻害薬あるいはリツキシマブ*の使用を考慮する。
* 2021年現在保険適用外であることに留意する。
注1:治療内容を検討する際には、最新の診療ガイドライン等を参考にすること。
5.予後
悪性関節リウマチの転帰は、軽快21%、不変26%、悪化31%、死亡14%、不明・その他8%との2002年の本邦の疫学調査成績がある。死因は呼吸不全が最も多く、次いで感染症の合併、心不全、腎不全などがあげられる。2017年のKishoreらの報告によれば、積極的な治療アプローチにもかかわらず、リウマトイド血管炎の死亡率は以前と同様である。
○しろまる 要件の判定に必要な事項
1.患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
5,246人
2.発病の機構
不明
3.効果的な治療方法
未確立(根治療法なし。)
4.長期の療養
必要(身体機能低下の進行抑制を目標に治療が必要である。)
5.診断基準
あり
6.重症度分類
悪性関節リウマチの重症度分類を用いて、1)又は2)の該当例を対象とする。
○しろまる 情報提供元
難治性疾患等政策研究事業「難治性血管炎の医療水準・患者QOL向上に資する研究班」
研究代表者 東京女子医科大学医学部内科学講座膠原病リウマチ内科学分野 針谷 正祥
<診断基準>
Definiteを対象とする。
1.臨床症状
(1)多発神経炎または多発性単神経炎:知覚障害、運動障害いずれを伴ってもよい。
(2)皮膚潰瘍又は梗塞又は指趾壊疽:感染や外傷によるものは含まない。
(3)皮下結節:骨突起部、伸側表面又は関節近傍にみられる皮下結節。
(4)上強膜炎又は虹彩炎:眼科的に確認され、他の原因によるものは含まない。
(5)滲出性胸膜炎又は心外膜炎:感染症など、他の原因によるものは含まない。癒着のみの所見は陽性にとらない。
(6)心筋炎:臨床所見、炎症反応、心筋逸脱酵素及び心筋特異的蛋白、心電図、心エコーなどにより診断されたものを陽性とする。
(7)間質性肺炎又は肺線維症:理学的所見、胸部X線、肺機能検査により確認されたものとし、病変の広がりは問わない。
(8)臓器梗塞:血管炎による虚血、壊死に起因した腸管、心筋、肺などの臓器梗塞。
(9)リウマトイド因子高値:2回以上の検査で、RF 960 IU/mL以上の値を示すこと。
(10)血清低補体価又は血中免疫複合体陽性:2回以上の検査で、C3、C4などの血清補体成分の低下若しくはCH50による血清補体価の低下をみること、又は2回以上の検査で血中免疫複合体陽性(C1q結合免疫複合体を標準とする)をみること。
2.組織所見
皮膚、筋、神経、その他の臓器の生検により小ないし中動脈の壊死性血管炎、肉芽腫性血管炎ないしは閉塞性動脈内膜炎を認めること。
3.診断のカテゴリー
ACR/EULARによる関節リウマチの分類基準 2010年(表1)を満たし、
Definite1 1.臨床症状(1)〜(10)のうち3項目以上満たすもの。
Definite2 1.臨床症状(1)〜(10)の項目の1項目以上と2.組織所見の項目を満たすもの。
を悪性関節リウマチと診断する。
4.鑑別診断
鑑別すべき疾患、病態として、感染症、続発性アミロイドーシス、治療薬剤(薬剤誘発性間質性肺炎、薬剤誘発性血管炎など)があげられる。アミロイドーシスでは、胃、直腸、皮膚、腎、肝などの生検によりアミロイドの沈着をみる。関節リウマチ以外の膠原病(全身性エリテマトーデス、強皮症、多発性筋炎など)との重複症候群にも留意する。シェーグレン症候群は、関節リウマチに最も合併しやすい膠原病で、悪性関節リウマチにおいても約10%に合併する。フェルティ症候群も鑑別すべき疾患であるが、この場合、顆粒球減少、脾腫、易感染性をみる。
表1:ACR/EULARによる関節リウマチの分類基準(2010年)
1.この基準は関節炎を新たに発症した患者の分類を目的としている。関節リウマチに伴う典型的な骨びらんを有し、かつて上記分類を満たしたことがあれば関節リウマチと分類する。罹病期間が長い患者(治療の有無を問わず疾患活動性が消失している患者を含む。)で、以前のデータで上記分類を満たしたことがあれば関節リウマチと分類する。
2.鑑別診断は患者の症状により多岐にわたるが、全身性エリテマトーデス、乾癬性関節炎、痛風などを含む。鑑別診断が困難な場合は専門医に意見を求めるべきである。
3.合計点が5点以下の場合は関節リウマチと分類できないが、将来的に分類可能となる場合もあるため、必要に応じ後日改めて評価する。
4.DIP関節、第1CM関節、第1MTP関節は評価対象外
5.大関節:肩、肘、股、膝、足関節
6.小関節:MCP、PIP(IP)、MTP(2〜5)、手関節
7.上に挙げていない関節(顎関節、肩鎖関節、胸鎖関節など)を含んでも良い。
8.RF: リウマトイド因子。陰性:正常上限値以下、弱陽性:正常上限3倍未満、強陽性:正常上限の3倍以上。リウマトイド因子の定性検査の場合、陽性は弱陽性としてスコア化する。
9.陽性、陰性の判定には各施設の基準を用いる。
10.罹病期間の判定は、評価時点で症状(疼痛、腫脹)を有している関節(治療の有無を問わない)について行い、患者申告による。
<重症度分類>
1)又は2)を認める場合を重症とする。
1)悪性関節リウマチによる以下のいずれかの臓器障害を有する。
腎臓
CKD重症度分類ヒートマップの赤色に該当*1、又は腎血管性高血圧*2。
肺
特発性間質性肺炎の重症度分類でIII度以上に該当*3、又は肺胞出血、又は滲出性胸膜炎
心臓
NYHA 2度以上の心不全徴候*4、又は心外膜炎。
眼
良好な方の眼の矯正視力が0.3未満
耳
両耳の聴力レベルが70デシベル以上、又は一側耳の聴力が90デシベル以上かつ他側耳の聴力レベルが50デシベル以上の聴力障害
平衡機能の著しい障害、又は極めて著しい障害*5
腸管
腸管梗塞、消化管出血
皮膚・軟部組織
四肢の梗塞・潰瘍・壊疽、又はそれらによる四肢の欠損・切断(部位は問わない)
神経
脳血管障害により、modified Rankin Scaleで3以上*6
末梢神経障害により、徒手筋力テストで筋力3以下*7
末梢神経障害による2肢以上の知覚異常
その他の臓器
肝、膵臓の梗塞、胆のう炎、睾丸炎等
2)血管炎の治療に伴う以下のいずれかの合併症を有し、かつ入院治療を必要とする。
*1 CKD重症度分類ヒートマップ
*2 腎血管性高血圧
片側もしくは両側の腎動脈またはその分枝の狭窄または閉塞により発症する高血圧である。腎血管性高血圧は若年発症高血圧、治療抵抗性高血圧、悪性高血圧、腹部血管雑音、腎サイズの左右差、レニン-アンジオテンシン系阻害薬での腎機能の悪化などから疑われる。腎動脈狭窄を示す画像検査(腎動脈超音波検査、MRアンギオグラフィー、CTアンギオグラフィー、血管造影検査など)所見、血液・生化学検査所見(血漿レニン活性、アルドステロン値など)から総合的に診断する。
*3 特発性間質性肺炎の重症度分類
新重症度分類
安静時動脈血酸素分圧
6分間歩行時 SpO2
I
80Torr 以上
90 %未満の場合はIIIにする
II
70Torr 以上 80Torr 未満
90 %未満の場合はIIIにする
III
60Torr 以上 70Torr 未満
90 %未満の場合はIVにする
(危険な場合は測定不要)
IV
60Torr 未満
測定不要
※(注記)上記の重症度分類でIII度以上を重症とする。安静時動脈血酸素分圧でIII度以上の条件を満たせば6分間歩行は実施しなくても良い。
*4 NYHA心機能分類
クラス
自覚症状
I
身体活動を制限する必要はない心疾患患者。通常の身体活動で、疲労、動悸、息切れ、狭心症状が起こらない。
II
身体活動を軽度ないし中等度に制限する必要のある心疾患患者。通常の身体活動で、疲労、動悸、息切れ、狭心症状が起こる。
III
身体活動を高度に制限する必要のある心疾患患者。安静時には何の愁訴もないが、普通以下の身体活動でも疲労、動悸、息切れ、狭心症状が起こる。
IV
身体活動の大部分を制限せざるを得ない心疾患患者。安静時にしていても心不全症状や狭心症状が起こり、少しでも身体活動を行うと症状が増悪する。
NYHA: New York Heart Association
上記分類でII度以上を重症とする。
NYHA分類については、以下の指標を参考に判断することとする。
NYHA分類
身体活動能力
(Specific Activity Scale; SAS)
最大酸素摂取量
(peakVO2)
I
6 METs以上
基準値の80%以上
II
3.5〜5.9 METs
基準値の60〜80%
III
2〜3.4 METs
基準値の40〜60%
IV
1〜1.9 METs以下
施行不能あるいは
基準値の40%未満
※(注記)NYHA分類に厳密に対応するSASはないが、「室内歩行2METs、通常歩行3.5METs、ラジオ体操・ストレッチ体操4METs、速歩5〜6METs、階段6〜7METs」をおおよその目安として分類した。
*5 身体障害認定の平衡機能障害
ア 「平衡機能の極めて著しい障害」(3級)とは、四肢体幹に器質的異常がなく、他覚的に平衡機能障害を認め、閉眼にて起立不能、又は開眼で直線を歩行中10m以内に転倒若しくは著しくよろめいて歩行を中断せざるを得ないものをいう。
イ 「平衡機能の著しい障害」(5級)とは、閉眼で直線を歩行中10m以内に転倒又は著しくよろめいて歩行を中断せざるを得ないものをいう。
ウ 平衡機能障害の具体的な例は次のとおりである。
a 末梢迷路性平衡失調
b 後迷路性及び小脳性平衡失調
c 外傷又は薬物による平衡失調
d 中枢性平衡失調
上記分類で、「平衡機能の著しい障害」、「平衡機能の極めて著しい障害」相当の障害を重症とする。
*6 modified Rankin Scale
日本版modified Rankin Scale (mRS) 判定基準書
modified Rankin Scale
参考にすべき点
0
全く症候がない
自覚症状及び他覚徴候が共にない状態である
1
症候はあっても明らかな障害はない:
日常の勤めや活動は行える
自覚症状及び他覚徴候はあるが、発症以前から行っていた仕事や活動に制限はない状態である
2
軽度の障害:
発症以前の活動が全て行えるわけではないが、自分の身の回りのことは介助なしに行える
発症以前から行っていた仕事や活動に制限はあるが、日常生活は自立している状態である
3
中等度の障害:
何らかの介助を必要とするが、歩行は介助なしに行える
買い物や公共交通機関を利用した外出などには介助を必要とするが、通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要としない状態である
4
中等度から重度の障害:
歩行や身体的要求には介助が必要である
通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要とするが、持続的な介護は必要としない状態である
5
重度の障害:
寝たきり、失禁状態、常に介護と見守りを必要とする
常に誰かの介助を必要とする状態である
6
死亡
日本脳卒中学会版
上記スケールで3以上を重症とする。
*7 徒手筋力テスト
0
筋肉の収縮が観察できない
1
筋肉の収縮は観察できるが関節運動ができない
2
運動可能であるが重力に抗した動きはできない
3
重力に抗した運動が可能だが極めて弱い
4
3と5の中間。重力に抗した運動が可能で中等度の筋力低下
5
正常筋力
注:一般に5段階評価と記載されるが、実際にはMMT 0 (筋収縮なし)が加わるため6段階評価となる。
MMT 4の範疇に入るが、やや筋力が強めと判断されるものは4+と表現する。
上記スケールで3以下を重症とする。
※(注記)診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
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