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地域の主体間コミュニケーションを起点にインフラのレジリエンス加速を

上下水道インフラ危機の突破口(3)

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2025年10月10日

防災・レジリエンス政策本部冨士岡加純

東穂いづみ

防災・リスクマネジメント
2024年能登半島地震での水道被害の長期化を含め、住民や事業者などの需要家が災害に伴う供給支障リスクを知るのは、いつもリスクが顕在化してからであった。水道事業は、事故や災害に伴う供給支障リスクも事前に適切に評価し、インフラ経営や計画策定に反映させていくことが必要であり、それには地域各主体とのコミュニケーションが不可欠である。リスク情報を踏まえて、地域に最適な水道インフラのリスク低減策の戦略的な実現が求められる。

水道インフラのリスク対策は喫緊の課題

事故や災害による水道インフラの被害は地域の生活・経済を直撃する。しかし、現状水道インフラのレジリエンス向上は水道事業者の内部だけで検討されており、需要家はこれまで、支障が発生してからそのリスクを知ることが多かった。

2024年能登半島地震でも、水道をはじめとするインフラへの被害は住民生活や経済活動に大きな影響を及ぼしたと指摘されている(注記)1。過疎化が進んでいる地域では、ひとたびリスクが顕在化してしまうと、復興が難しくなり、人口流出や地域の衰退がさらに進んでしまう可能性が高いと考えられる。

南海トラフ地震という国難とも言える災害に直面する可能性がある今、災害が起きて顕在化する前に、水道インフラの被災による供給支障リスクを地域全体で正確に把握し、先手を打って対策を講じることが重要である。この取り組みは地域の存続を左右するカギになる。

水道事業経営における「アウトカム」の重要性

水道事業は従前、1経営の健全性(インプット)、2アセットの状況(アウトプット)にて事業健全性が管理されてきた。水道インフラを新設するフェーズであればこの考え方でよかった。しかし、すでにインフラの老朽化が進んでいる状況では、事業健全性評価は事故や災害の多発を鑑み、「3供給支障リスクや地域社会への影響(アウトカム)」も評価して経営していくべきである。

例えば、アセットの状況を表す指標の1つである耐震化率は、アセット全体の総量に対する割合で示されてきた。しかし、実際は供給先までつながる水道インフラのネットワークのどこか1つでも被害が発生し途切れたら水は供給されない。現状指標として扱われているアセット全体の総量に対する割合だけでは、「水がつながって需要家まで流れるか」がわからず、供給支障リスクを把握できない。水道インフラをネットワークとして捉え、供給支障リスクや地域社会への影響を定量化することを定常的にインフラ健全性評価の新たな指標として取り入れるべきであろう。それにより、その地域の水道供給支障リスクに対して必要な取り組みが明確になる(図表1)。
図表1 水道事業の健全性を表す3つの要素
水道事業の健全性を表す3つの要素
三菱総合研究所作成

需要家も含めた地域関係者全体で水道インフラのあり方の議論を

水道事業の運営に関して、これまでは水道事業者が分析・計画策定・実行し、需要家も含めた他の主体はその結果の情報提供を受けるだけにとどまることが多かった。また、各主体にとって水道インフラの災害に伴う供給支障リスクは、水道インフラ全体の計画を踏まえた復旧目標・見込みなどの形での提示にとどまっていた。これからは、インフラの「三重苦」(注記)2の中で、水道事業者などの運営主体だけでなく需要家として関連するインフラ管理者や住民・事業者も巻き込み、計画策定段階からその地域での最適解を模索することが必須である(図表2)。すなわち「自分たちの地域をレジリエントにするための産・官・民各主体間のコミュニケーション」の実践である。
図表2 水道の事業運営・計画策定/実行の現状と目指す姿
水道の事業運営・計画策定/実行の現状と目指す姿
三菱総合研究所作成
水道事業者はリスクに関する定量・定性情報を共有し、各主体はリスクを踏まえて水道事業に対する要望や意見を発信する。そして、地域の最適解となる理想的な事業運営のあり方やコスト・ベネフィットの落としどころを探る。大規模な災害のリスクが迫っている今、事前に各主体が自分ごととして捉え、これからの地域のインフラのあり方を考えることはきわめて重要である。

地域の特徴に応じて水道インフラの課題やリスク、取りうる対策は異なる。また、議論に巻き込むべき主体も異なってくる。例えば人口減少地域の場合、水道を維持し耐震化するには住民の負担増は免れない。負担増を受け入れるか、自律分散的な水道インフラに移行するか、今後の水道インフラのあり方の検討が必要となる。あるいは大規模な産業が立地する地域では、その産業の事業継続が住民の生活の持続にも直結するため、産業を支えるインフラの防災対策について、地域全体で検討し取り組む必要がある。

上述のように、地域ごとに異なる課題やリスクを関係者間で共有し、認識を統一することにより、地域の理解を得にくいウォーターPPP(注記)3の導入や料金改訂など、地域インフラ経営の転換についての理解を深めることが期待できるのではないだろうか(図表3)。
図表3 地域の特徴による上下水道インフラの災害リスク・課題・取りうる対策
地域の特徴による上下水道インフラの災害リスク・課題・取りうる対策
三菱総合研究所作成

「被害想定発表」の今がレジリエンス強化の好機

インフラレジリエンスの実現には、各地域の現状や災害時の被害様相に基づく対応が求められる。2025年3月には、内閣府から南海トラフ地震被害想定が公表され、現在各自治体でも地域ごとの被害想定の取り組みが進んでいる。最新の被害想定結果を踏まえて、レジリエンス強化について議論を開始する好機が訪れている。

災害の発生は待ってくれない。これを機に今すぐ地域で議論を開始し、レジリエンス向上の具体的な取り組みを速やかに開始することが望まれる。

(注記)1:令和6年能登半島地震対策検証委員会(2025年7月)「令和6年能登半島地震対策検証報告書 〜発災後概ね3か月における石川県の初動対応の検証〜」

(注記)2:「三重苦」の産業インフラで大規模災害に備える(MRIマンスリーレビュー2023年4月号)

(注記)3:国土交通省が推進する水道、工業用水道、下水道分野での官民連携(PPP)方式。

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