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いであ いであ

プロジェクトストーリー 07
水中ロボティクスで未来につながる
深海生態系を解明する。

  • 環境調査
  • 環境評価・環境計画

2022年10月20日

PROJECT
MEMBER

環境調査事業本部 外洋調査部 S.T

環境調査事業本部 外洋調査部
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近年、海洋調査における水中ロボットのニーズは高まっています。私は2016年から内閣府が進める戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の「次世代海洋資源調査技術(海のジパング計画)」に参画しており、東京大学生産技術研究所、九州工業大学社会ロボット具現化センターおよび海上技術安全研究所が開発したAUVの運用技術を学んでいました。海洋調査を行っている当社では、今後の持続可能な経済と環境保全の両立のために水中ロボットは必要となると考え、TUNA-SAND級ホバリング型AUV(自律航行型水中ロボット)「YOUZAN」を導入することになり、私は商用化1号機となる「YOUZAN」の開発を任されました。

「YOUZAN」の完成が近づいてきたころ、NHKエンタープライズ様より共同研究の話をいただきました。その内容はオーストラリア南西部のブレマーベイ沖合に、夏場だけ大型海棲生物が集結するホットスポットと呼ばれる海域があり、その深海生態系の調査と撮影。ホットスポットではシャチに襲われたクジラが海中に沈み、海底に豊かな生態系を構築しているといいます。その実態を解明するという内容でした。
AUVのPRをどのようにするべきか考えていたタイミングでやってきたプロジェクト。このチャンスを逃すわけにはいかない、なんとしてもAUVを完成させ成し遂げたい。私の胸に闘志が湧いてきました。しかし渡航は約6カ月後と時間がありません。半年でAUVを仕上げて、海外でトラブルなく調査できる状態まで持っていくことが最大の課題でした。

初陣でいきなりハードルの高いミッション。安定した潜航調査ができるよう「YOUZAN」の様々な制御パラメーターやソフトウェアを調整し仕上げていきました。カメラや4kビデオの設定確認、パラメーターの調整やソフトウェアのデバッグなどを繰り返し、海域試験を行います。運用トレーニングについても怠ることはありませんでした。
ブレマーベイ沖合の調査海域は水深1000m程度です。なので、駿河湾の1000m海域で最終試験を行い、実際に水深1000mの圧力下でのAUV性能試験、艇体制御や音響通信、音響測位の検証を行いました。何度もくじけそうになりましたが、試験をクリアし「これで行ける」とようやく私の中に自信が生まれました。

しかし大きな壁が立ちはだかります。現地に到着して早々にトラブルが発生したのです。AUVの充電器は現地の定格電圧で使用できることを確認したうえで持ち込んだのですが、実際にAUVを充電する際、異音が発生し充電器が停止したのです。充電器を解体し異音の理由を調べます。原因はリレータイマーにありました。詳しく調べると現地の定格電圧に対応できないため故障したことが原因でした。AUVは電池駆動のため充電が必須です。充電器が壊れるということは、AUVで調査ができないことを意味していました。クルー内に不穏な空気が漂います。

現地でのトラブルは国内と違い、すべて自らの手で対処しなければなりません。そのためソフトウェアのアップデートやAUVの解体、組上げなどの一連の作業も一通り経験して臨んではいました。充電器を復旧させる方法をなんとか考えます。結果、故障したリレータイマーを外してショート回路に組み替えるというアイディアにたどり着きました。これならば充電時間の管理はできないが充電はできる。メーカーから修正回路図を入手し、現地で回路を組み替えてなんとかリカバリーに成功しました。とはいえ充電の問題はクリアできましたが充電時間の管理ができない状況に。そこで調査期間中、メンバーが寝不足になりながら交代で夜間充電対応を行いどうにか乗り切りました。

初めての調査がいきなりの海外。日本と違った多くの経験ができました。調査関係者の皆さんには非常に喜んでいただけ、私たちメンバーもこの上ない達成感を得られました。この調査の様子はNHKの「ワイルドライフ」「NHKスペシャル」「ダーウィンが来た!」などで放映され大好評。「YOUZAN」を様々な方々に知っていただくよい機会となり、これを契機に「YOUZAN」の仕事も増え、現在のAUVを中心とした、水中ロボティクス事業のスタートに繋がったのです。
現在、当社の水中ロボティクス事業は新たな展開を迎えており、人員も増え開発環境も整いつつあります。さらなるチャレンジにより進化したAUVを開発し、社会実装を目指して行きたいと思っています。

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