審査委員会奨励賞第2回SDGs建築賞(大規模建築部門)
「サントリー天然水北アルプス信濃の森工場」
講評
本計画は水を製造する工場であるが、単なる工場にとどまらず、敷地内及び水源である周囲の自然に、水の大切さを自覚し、水を守る循環に共感できるための仕掛けを施し来場者の共感を得やすい計画とするとともに、再生可能エネルギーの積極利用等により実質的にCO2ゼロ工場を実現していることに特徴がある。世界的には水は極めて重要な資源である一方で、日本においては水資源が豊富であるため、普段の生活において水の大切さや循環の重要性について感じる機会は少ない。そうした中で、水を製造する本工場においては、敷地内に水の循環を模した回遊経路を設け、自然景観と建築物による連続的な体験を重ねることで、⻑期間にわたって自然で磨かれる天然水のストーリーへの共感を可能とする仕掛けが設けられており、ゴール6「安全な水とトイレを世界中に」へ大きく寄与する計画となっている。「水の大切さ」を体現する計画として、井戶水のカスケード利用を行っている。これは、くみ上げた水を、製品・製造装置の洗浄水として使用し、一部を回収して生活用水に使用する。さらに剰余の水は雑水に利用することで、汲み上げ水量を最小限にするとともに、上水使用料ゼロを実現するものである。また、周辺地域の間伐材を活用したバイオマスボイラの採用、太陽光発電設備、地域の水力発電利用の電力の活用などにより、ゼロカーボン工場を実現している。さらに、間伐材は、内装材、家具、木チップ舗装などに活用されるとともに、施工において堀り採った苗についても敷地内への再植樹を行うなど、持続的な計画を強く意識したものとなっており、ゴール12「つくる責任つかう責任」やゴール12「陸の豊かさも守ろう」との関係性が深いものとなっている。本計画は、工場自体がSDGsとの関連が深いものではない一方で、敷地や周辺環境も含めた全体計画において、「水」や「循環」の大切さを伝えるものとなっており、この一貫性の面で高く評価したものである。