住宅・建築SDGs推進センター理事長賞第2回SDGs建築賞(中・小規模建築部門)
「北海道地区FMセンター」
講評
「北海道地区FMセンター」は、延べ床面積約856.46m2(地上2階建て)の建物で、建築施工業のFMセンターとしてメンテナンスや相談窓口を担当する部門の社員が働く事務所ビルである。札幌市内の住宅街に建つその外観は半透明の中空ポリカーボネート(以下、中空ポリカ)で囲まれており、一見、寒冷地建築とは思えない薄さを感じる。しかし、エントランスの二層吹き抜けとなっている共創スペースは、自然光と木架構に囲まれ、冬でも温室のようなポカポカとした温かさに包まれる空間を実現している。この空間の実現には、自然光を透過する中空ポリカを全面に利用した外装材の採用と小中断面の集成材を二重化した「ダブルティンバー」により実現した大平面が効果を発揮しているが、これらの利用は温熱環境やコストを犠牲としたものではない。中空ポリカは真空トリプルガラス相当の断熱性を有しており、半透明で軽量の外装にも関わらずBPI値で0.56と相応の断熱性能を有している。また、建物内部は、これら中空ポリカに面する「共創スペース」と共創スペースを熱的緩衝帯として内部に入れ子構造に配置された「執務スペース」で構成されており、外側の半屋外的な共創スペースは、自然光や日射を感じつつ、縁側のように利用することができ、内部の執務スペースは熱的快適性を高く、集中して働ける場所としてABWを実現している。ダブルティンバーは、道内で非住宅建築への道産材利用が進んでいない状況に対して、既に流通が進んでいる住宅用建材の非住宅への適用拡大を提案するものであり、地産地消及び森林グランドサイクルに貢献するものである。また、これらの展開により、従来接点のなかった建設業と道内林業従事者との間にパートナーシップが生まれ、従来の林業市場では不良品扱いとなっていた木材をアップサイクルする取り組みなどに発展している。その他にも、建物全体を通じた解体・分解が容易な工法の採用によるアップフロントカーボンの低減、豊富な地下水を熱源とした地下水熱源利用の空調システムや自然光による人工照明の大幅削減によるZEB Readyの達成(BEI=0.43)などによるホールライフカーボンの30%削減、地下水利用による上水使用量の大幅削減などを実現している。本施設で採用された環境配慮技術は、単に技術的に優れた製品や仕組みを取り入れたものではなく、北海道特有の課題の解決に貢献する提案が多数含まれている。また、従来接点が希薄であった関係者と、本プロジェクトを通じて新たなパートナーシップを構築しており、今後のさらなる繋がりの広がりを強く予感させる。また、新技術の挑戦に対するリスクについても十分にマネジメントされており、(一財)住宅・建築SDGs推進センター理事⻑賞にふさわしい建築といえる。