今や都市空間における移動のスタンダードとなり、日常のあらゆるシーンで多くの人々を運び続けるエスカレーター。
いつからか、急いでいる人が歩けるように片側を空ける習慣が日本各地で根付いてしまいましたが、本来は歩かず立ち止まって乗ることを想定して作られています。
片側を空ける習慣はエスカレーター上の歩行を助長することになり、障がいなどの理由により左右どちらかの手すり(ハンドレール)しかつかめない人や高齢者などの安全な利用を脅かす危険性があります。
エスカレーターの歩行利用の危険性について、日立ビルシステムがメーカー・メンテナンス会社の立場から解説します。
エスカレータ―の安全利用については、昨今、自治体による条例の制定や事業者などによる啓発活動が活発に行われています。
ここでは、法令と製品の観点から、なぜエスカレーターを歩くと危険なのかについて解説します。
そもそもエスカレーターは歩行しての利用を想定して設計されていません。
建築基準法に定める通常の階段*1よりも蹴上げ(ステップの高さ)が高く、つまずいたり踏み外したりする危険性が増します。
階段は、歩行者がすれ違うことを前提に、一定以上の幅を確保しなければならないのに対し、エスカレーターのステップの幅は、建築基準法施行令によって1.1m以下と規定されています。これにより、エスカレーターの左右どちらかの手すりにつかまることができるようになっています。
(詳細はエスカレーターの豆知識ページ「エスカレーターの構造に決まりはあるの?」をご覧ください)
エスカレーターのステップの横幅はメーカーによって異なりますが、大半は二人乗り用がステップ幅100cm程度です。一方、日本人男性の平均的な背肩幅は44cm*2とされており、衣服の着膨れなどもあるためこれ以上の数値となります。また、安全に歩行するために必要とされる通路の幅は、1人あたり最小60cm*3とされているため、エスカレーターの場合は十分とは言えません。後ろから歩いてきた人がほかの利用者や荷物にぶつかった場合、バランスを崩したり荷物が落下してしまうなどの恐れがあります。
エスカレーターは正しい使い方をしていれば安全な乗り物です。しかし、歩行してバランスを崩し転倒・転落することなどにより、ステップ周りの隙間や降り口部分にほどけた靴ひもやゴム製の靴、衣服などが挟まったりすると、大きな事故につながる恐れがあります。
エスカレーターには危険防止のため、異常を検知した際に自動的にエスカレーターを緊急停止させる安全装置*4がついています。安全装置の作動や停電などでエスカレーターが急停止した場合、バランスを崩し、転倒・転落する恐れがあります。
エスカレーターは必ず手すりにつかまってご利用ください。
一般社団法人日本エレベーター協会が5年ごとに実施している「エスカレーターにおける利用者災害の調査報告」*5によると、エスカレーターでの災害は2年間で1550件も発生しており、その主な原因としては、歩行による転倒や、手すりにつかまらなかったことによる転倒といった、「乗り方不良」が全体の5割超を占めています。
歩行は、本人が足を踏み外す危険以外にも、第三者に身体や荷物が接触することで、転倒・転落を招く恐れがあります。
歩行による接触で、自分や第三者のキャリーバッグを落としてしまった場合、ステップ上で大きく跳ねたり、高速で滑落する危険があります。
停電や安全装置が働くことで、エスカレーターは緊急停止する場合があります。その際、利用者には慣性力が働くため、歩行などで手すりにつかまっていない場合は、転倒・転落する恐れがあります。
エスカレーターを正しくご利用いただくために、日立ビルシステムでは製品やサービスにさまざまな工夫をしています。
エスカレーター
ラッピングサービス
利用者が見やすいラッピングで利用マナーを習慣付けられるように工夫した各種ラッピングを行います。
ハンドレールコーティング
利用者が安心して手すりにつかまれるよう、抗菌・抗ウイルス作用のあるコーティング膜を塗布します。コーティング膜内に文字を印刷することも可能です。
ICオートアナウンス
「エスカレーターをご利用の際は、手すりにつかまり、黄色の線の内側にお乗りください」など、利用者に乗り降り時の注意メッセージなどを音声で案内します。
エスコートライン
手すりには、乗り降りの際、より自然な動作でつかむことができるターミナル形状を採用しています。
LEDを活用して、左右どちらかに立ち止まり利用するよう誘導、また段差を強調する光などで安全面の注意喚起を行うことで、「片側空け」での利用と歩行を抑止します。
当サイトの情報は、エスカレーターの安全利用に向けた啓発活動などにお使いいただけます。リンクや、コンテンツの転載(画像・イラストの使用)をご希望の際は、事前に以下のお問い合わせフォームからご連絡ください。