VOL.201 MARCH 2025
Traditional knowledge and skills of sake-making with koji mold in Japan
素材の甘みや複雑な芳香を楽しめる沖縄県の泡盛
焼酎熟成中の古酒。泡盛には蒸留後に年月をかけて熟成させる文化がある。
Photo: ISHIZAWA Yoji
焼酎日本の南西に位置する沖縄県は、古くより東アジアにおける貿易の拠点であった。沖縄県で作られている蒸留酒「泡盛」について、1887年に創業した泡盛の酒造所に話を聴いた。
Photo: ISHIZAWA Yoji
泡盛という名前の由来や、製法の歴史について、瑞泉酒造で営業を担当する長堂 健作さんはこう解説する。
「泡盛は沖縄の伝統的な蒸留酒で、焼酎(「甘く芳醇な香りとまろやかなコクを生む鹿児島県の焼酎造り」参照)の一種です。泡盛という名前の由来は、17世紀中頃、当時の琉球王国1から徳川幕府への献上品として送られる時に、九州地方で造られる焼酎と区別するため泡盛と名付けられたという説や、お酒のアルコール度数を計る際に、グラスに注いでできる泡の量で決めていたことから泡盛とした説、原料に粟を使っていた説など、諸説あります。泡盛造りの歴史は古く、600年以上前に東南アジアとの文化交流を通じて伝来した酒造りの技術が沖縄の地の気候や風土に適合し、発展したと言われています」と長堂さんは説明する。
泡盛の酒造りの特徴はタイ米2と、黒こうじ菌3を利用して造られることだ。
「タイ米は硬質でサラリとした性質があるため、黒こうじ菌を混ぜやすく、アルコール収得量4が高いです。焼酎と違い、米のみを原料としているため米の甘みが強く、香りが複雑なことも特徴の一つです。香りの表現は多岐に渡り、バニラ、ナッツ、香辛料、ヨーグルトなどと表現され、それぞれの商品の特徴ともなっています。泡盛は蒸留後に年月をかけて熟成させる文化があり、3年以上貯蔵したものを「古酒(沖縄の方言)」と言います。アルコール度数や熟成させる年数、保存している甕や環境などによって、味わいが変わるのも泡盛の醍醐味でもあります」と長堂さんは語る。さらに、泡盛を楽しむためには、さまざまな飲み方があるという。
Photo: ISHIZAWA Yoji
「泡盛は水割り、お湯割り、オンザロック、ストレート、炭酸割りなど、多様な楽しみ方ができます。割ることでアルコール分を調整しながらも、泡盛の風味は崩れずに楽しむことができます。ただし、古酒は、まずストレートでなめるようにして口に含み、泡盛そのものの香り、味わいを楽しんでいただいた方がよいと思います。店鋪に見学にいらっしゃる海外のお客様へは、泡盛製造の工程などについて英語字幕付きの解説もしており、新酒と古酒の飲み比べなどもできますので喜ばれています。海外のお客様の反応はさまざまですが、古酒の口当たりのまろやかさ、香り、甘さなどが興味深いと言われたりします。また、泡盛のアルコール度数の強さ(おおむね30度前後)に驚かれるかたも多いです」。沖縄観光の際は、沖縄名物のお酒、泡盛を現地の酒蔵を訪れて味わってみてはいかがだろうか。
- 1. 琉球王国は15世紀初頭に成立。17世紀初頭に日本の薩摩藩(藩主が島津氏で、17世紀初頭から19世紀後半半ばまでの江戸時代、現在の鹿児島県等を領土とした藩。)の支配下におかれ、1872年に琉球藩、1879年に沖縄県となった
- 2. インディカ種の米で細長い形をしている。粘りが少なく、さっぱりとした味と言われる。これに対して、日本で生産されているお米はジャポニカ種で丸みを帯びてツヤがあり、ふっくらとしている。
- 3. 日本酒や焼酎を始め、味噌、醤油など様々な日本の伝統的な発酵食品の製造に使われる菌を麹菌と呼び、その一種。菌類の生成する生殖細胞(胞子)が黒褐色のものを指す。
- 4. 白米1,000キログラムから純アルコール数量が得られる割合。米からどれだけの酒ができるかの指標。
Photo: ISHIZAWA Yoji; PIXTA