ゴム製品、プラスチック製品の劣化により生じる不具合として、例えば下図に示すような亀裂、割れ、剥離、変形、変色等がありますが、このような不具合発生を防止し製品の長寿命化を図るためには、多面的な劣化解析を行うことにより製品使用時に生じる劣化現象や各部材の劣化因子を正確に把握し、適切な劣化対策を講じることが必要不可欠です。本機構では、次表に示すような種々の分析手法を駆使することで劣化現象の把握、劣化因子の特定を行い、ゴム製品やプラスチック製品の長寿命化、劣化による製品不具合の再発防止のためのサポートをいたします。
硬化劣化により生じたゴムの亀裂
強度低下により生じた
樹脂の割れ
ゴムと金属の剥離
水道用ゴムの
劣化により生じた黒粉
樹脂製品に生じた変色
(黄変現象)
車の塗装の劣化により
生じた斑点模様
図 各種高分子製品に生じた劣化現象の例
分析・評価項目 | 主な分析方法 | 分析・評価項目 | 主な分析方法 |
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外観及び表面形態 | デジタルマイクロスコープ 走査型電子顕微鏡(SEM) 原子間力顕微鏡(AFM) |
劣化構造解析、劣化度 | フーリエ変換赤外分光分析(FT-IR) X線光電子分光分析(XPS) 核磁気共鳴(NMR) イメージングIR測定 |
材料組成 ポリマー量 カーボンブラック量 無機充てん剤量 |
熱重量測定(TG) | 分子量及び分子量分布 | ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC) |
劣化誘引元素 | 電子線マイクロアナリシス(EPMA) エネルギー分散型X線分析(EDX) |
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不飽和結合(変色) | 紫外可視光分光分析(UV-Vis) | ||
有機系添加剤の分析 可塑剤 軟化剤 酸化防止剤 紫外線吸収剤 滑剤など |
フーリエ変換赤外分光分析(FT-IR) ガスクロマトグラフィー(GC) ガスクロマトグラフィー/質量分析(GC/MS) 高速液体クロマトグラフィー(HPLC) 液体クロマトグラフィー/質量分析(LC/MS) 核磁気共鳴(NMR) |
ラジカル種及び濃度 | 電子スピン共鳴(ESR) |
架橋構造、架橋密度 | 核磁気共鳴(NMR) 膨潤度測定 |
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ガラス転移温度 融解及び結晶化温度 酸化開始温度 |
示差走査熱量測定(DSC) | ||
無機系添加剤の分析 充填剤 無機系難燃剤 無機顔料など |
フーリエ変換赤外分光分析(FT-IR) 電子線マイクロアナリシス(EPMA) 蛍光X線分析(XRF) X線回折(XRD) 誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP/AES) 誘導結合プラズマ質量分析(ICP/MS) |
熱分解速度 熱分解温度 |
熱重量測定(TG) |
結晶構造、結晶化度 | X線回折(XRD) 示差走査熱量測定(DSC) ラマン分光 密度測定 |
ゴム・プラスチック材料の劣化状態を明らかにするためには、様々な分析手法を用いて多面的に解析することが重要です。CERIでは専門家が多種多様な分析機器を駆使して多面的・総合的に劣化解析を行うことで、劣化により生じるゴム・プラスチックの一次構造から高次構造までの変化に加え、ゴム・プラスチック製品に生じる物性・組成の変化を解明できる体制を整えています。CERIチャンネルはこちら
例として、キセノンウェザーメーターにより促進劣化処理を施したポリアミド樹脂(PA)の劣化解析結果を示します。FT-IR法は高分子材料の劣化解析に最もよく用いられる分析手法の一つですが、試料や劣化状態によっては下図のように化学構造変化が明瞭に認められないことがあります。本試料の場合、GPC法、DSC法、XRD法を組み合わせることで、PAの劣化状態をより詳細に解析することができました。
本機構ではゴム・プラスチック材料の専門家集団として劣化に関する研究も実施しており、劣化現象の把握及び劣化メカニズムの解明、新規劣化検出法の開発などに取り組んでいます。2011年には、長年にわたる研究により、熱、光、水、オゾン、銅害など多種多様な環境劣化に対するゴムの劣化評価法を体系化するとともに、劣化対策を提案することでゴム製品の品質向上に貢献した業績が評価され、以下に示す日本ゴム協会賞を受賞しています。
受賞業績「ゴム材料のトラブル解決に向けた劣化評価のための分析手法のシステム化」
また、オゾン劣化に関する研究成果が認められ、以下に示す複数の賞を受賞しています。
岩瀬由佳「製品の使用環境を想定したゴム材料のオゾン劣化に関する研究とその標準化」
岩瀬由佳「実環境で生じるゴムのオゾン劣化メカニズムの解明及び劣化評価法の国際標準化」
残存過酸化物によるEPDMの劣化に関する研究論文
・過酸化物架橋エチレンプロピレンゴムの残存過酸化物による劣化機構の解析
仲山和海;大武義人 日本ゴム協会誌 2010,83,65.
・過酸化物架橋エチレンプロピレンゴムにおける残存過酸化物が劣化に及ぼす影響の検討
仲山和海;渡邊智子;大武義人 日本ゴム協会誌 2007,80,165.
オゾン劣化に関する研究論文
・高湿度下および低湿度下で生じるEPDMのオゾン劣化メカニズム
岩瀬由佳;進藤徹 日本ゴム協会誌 2024,97,190.
・ゴムのオゾン劣化現象の実態 〜環境因子と配合因子〜
岩瀬由佳 日本ゴム協会誌 2019,92,383.
・アミン系老化防止剤6PPDの析出挙動が加硫ゴムの耐オゾン性に与える影響
岩瀬由佳;進藤徹;近藤寛朗;大武義人 日本ゴム協会誌 2019,92,3.
・加硫ゴム表面にブリード・固着化させたワックスのオゾン遮断効果
岩瀬由佳;進藤徹;近藤寛朗;大武義人;河原成元 日本ゴム協会誌 2017,90,463.
・老化防止剤ワックスが低温下における加硫ゴムのオゾン劣化に与える影響
岩瀬由佳;進藤徹;近藤寛朗;大武義人;河原成元 日本ゴム協会誌 2016,89,317.
・Ozone degradation of vulcanized isoprene rubber as a function of humidity>
Iwase, Y.; Shindo, T.; Kondo, H.; Ohtake, Y.; Kawahara, S. Polym. Degrad. Stab. 2017, 142, 209.
オゾン水による劣化に関する研究論文
・オゾン水中におけるゴム材料の劣化挙動と解析
三輪怜史;大武義人 成形加工 2015,27,185.
・オゾン水処理による架橋シリコーンゴムの劣化における化学的変化
三輪怜史;大武義人 日本ゴム協会誌 2014,87,161.
・オゾン水中におけるフッ素ゴムの耐久性評価
三輪怜史;大武義人;田中敬二 日本ゴム協会誌 2012,85,81.
・オゾン水中におけるエチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体の劣化機構
三輪怜史;菊地貴子;大武義人;田中敬二 日本ゴム協会誌 2010,83,324.
・Characterization of ozone-degraded composite of crosslinked polydimethylsiloxane with silica in water
Miwa, S.; Ohtake, Y.; Kawahara, S. Polym. Degrad. Stab. 2016, 128, 193.
光劣化に関する研究論文
・光と熱の相乗効果がポリプロピレンの劣化に与える影響
飯塚智則;大武義人;田中敬二 材料 2017,66,238.
・水分がポリプロピレンの光劣化に及ぼす影響
飯塚智則;大武義人;田中敬二 材料 2016,65,812.
加硫時においてゴム中の水分が加硫特性及び劣化に及ぼす影響に関する研究論文
・加硫成形時の未加硫ゴム中の水分が寿命に及ぼす影響
仲山和海 成形加工 2017,29,197.
・未架橋ゴム中の水分が架橋ゴムの物性及び架橋反応へ与える影響
仲山和海;齊藤貴之;大武義人 日本ゴム協会誌 2010,83,331.
劣化検出法に関する研究論文
・示差走査熱量計による昇温法と等温法の測定値の精度検討と劣化検出
仲山和海;渡邊智子;大武義人;古川睦久 日本ゴム協会誌 2008,81,447.
・酸化開始温度による加硫ゴム, プラスチックの劣化評価
仲山和海;渡邊智子;大武義人;古川 睦久 日本ゴム協会誌 2008,81,467.
オゾン劣化に関する研究発表
・ゴム試験片の縁辺部がオゾン暴露時のクラック伝播に与える影響
岩瀬由佳ら 日本ゴム協会年次大会,2020;発表番号B-3
・湿度制御下におけるクロロプレンゴムのオゾン劣化挙動
岩瀬由佳ら 日本ゴム協会エラストマー討論会,2018;発表番号C-2.
・加硫ゴムのオゾン劣化に及ぼす湿度の影響
岩瀬由佳ら プラスチック成形加工学会秋季大会,2018;発表番号E-206
・橋梁用ゴム支承に用いられるワックスの低温特性とオゾン劣化への影響
岩瀬由佳ら 土木学会全国大会,2018;発表番号V-166.
・湿度制御下におけるEPDMのオゾン劣化挙動
岩瀬由佳ら 日本ゴム協会年次大会,2018;発表番号C-8.
・ゴム支承におけるワックスのブルーム挙動と低温環境下におけるオゾン劣化の関係
岩瀬由佳ら プラスチック成形加工学会秋季大会,2015;発表番号B-212.
過酸化物架橋EPDMの劣化に関する研究発表
・過酸化物架橋エチレンプロピレンゴムの劣化における過酸化物配合量の影響
仲山和海ら プラスチック成形加工学会秋季大会,2017;発表番号P66.
老化防止剤・酸化防止剤に関する研究発表
・酸化防止剤の劣化に伴う構造変化に関する研究
仲山和海ら プラスチック成形加工学会年次大会,2015;発表番号F-107.
・イミダゾール系老化防止剤の分析に関する研究(4)加硫中に生じるZnMBIがゴムの熱劣化挙動に及ぼす影響
齊藤貴之ら 日本ゴム協会エラストマー討論会,2013;発表番号B-13
・フェノール系酸化防止剤の化学物質による変色
伊東久美子ら 日本ゴム協会年次大会,2012;発表番号C-5
劣化分析法に関する研究発表
・NMR法によるオゾン劣化後加硫NRの劣化解析
齊藤貴之ら 日本ゴム協会年次大会,2020;発表番号B-20.
・残留塩素による加硫ゴムの劣化に伴う黒粉現象の定量化に関する研究
矢口裕也ら 日本ゴム協会エラストマー討論会,2014;発表番号B-9.
・X線光電子分光法によるオゾン劣化したアクリロニトリルブタジエンゴム表面の構造解析
大嶋紀一ら 日本ゴム協会年次大会,2014;発表番号C-1.
高圧水素曝露による劣化に関する研究発表
・Influence of Kneading on Rubber Properties under High-Pressure Hydrogen Exposure -Dispersion of Compounding Agent and Physical Properties at Atmospheric Condition
Futakuchi, M. International Hydrogen Energy Development Forum 2020;Paper PP-05.
・水素機器用エラストマー材料研究分科会モデル配合WG活動報告 練り条件の違いが高圧水素特性に与える影響(2)−共通コンパウンド材の分散・常温常圧下の物理的特性−
二口真行ら 日本ゴム協会年次大会,2019;発表番号E-21.
・シリカ配合EPDMの高圧水素曝露による劣化現象(6)〜繰り返し曝露による物理的、化学的劣化〜
仲山和海ら 日本ゴム協会エラストマー討論会,2015;発表番号A-17
その他の研究事例についてはこちらをご覧ください。