当サイトに掲載されている陸域生態系炭素収支データは、衛星観測データとモデルシミュレーションを組み合わせた手法を用いて算出した炭素収支量(吸収量と排出量の差)を画像化したものです。
◆だいやまーく地上観測と衛星観測
大気-陸域間での物質の移動(フラックス)を観測する手法には、大きく分けて地上観測と衛星観測があります。地上観測では、フラックスタワーと呼ばれる気象観測設備を用いて、ある地点の炭素収支量や気温・降水量などを計測します。衛星観測では、土地被覆や植生量の情報を、時系列に沿って広域的に観測することができます。
地上観測には高精度の測定が行えるという利点がありますが、陸域すべてをカバーすることはできません。一方、衛星観測は、広範囲のデータを得ることができますが、炭素収支量の測定を行う事はできません。そのため、広域炭素収支量の推定には、観測と衛星データを組み合わせたモデルシミュレーションが有用であると言えます。
地上観測データは主にモデル開発・検証に利用します。モデル検証後、衛星観測データを入力することで、広域スケールでの炭素収支量を計算することができます。
図1 BEAMSモデルの全体の流れ
光合成有効放射吸収量の割合(Fraction of Photosynthetically Active Radiation; fPAR)
葉面積指数 (Leaf Area Index; LAI)
◆だいやまーくモデルの入出力
計算には、名古屋大学が独自開発した陸域生物圏モデルBEAMS (Biosphere model integrating Eco-physiological And Mechanistic approaches using Satellite data) (Sasai et al., 2005, 2007)を用います。BEAMSは地上・衛星観測データを入力値として、地表面における炭素・水・エネルギープロセス、及びその相互作用を計算し、最終的にはそれらの収支量及び貯留量を出力する観測データ利用型のモデルです。広域計算では、気温、風速など複数地点での地上観測値から作成された面的データ、降水量・葉面積指数(LAI)などの衛星観測データ、および植生分類図、土壌分類図、土壌深度、標高などの地理データを入力値とし、炭素・水・エネルギーフラックス、炭素・水貯留量などを1kmメッシュ解像度で出力します(図1)。計算した期間は、2001〜2006年までの6年間、対象地域は極東アジア域、時間分解能は1ヶ月です。
図2 BEAMSモデルの入力データと出力データの種類
モデル入力データ
bTerra and Aqua/MODIS Leaf Area Index/FPAR 8-Day L4 Global 1km [Myneni et al.,1997,2002];
cTerra/MODIS Albedo 16-Day L3 Global 1km [Liang et al., 2002; Lucht and Lewis, 2000];
dNational Center for Environmental Prediction and National Center for Atmospheric Research (NCEP/NCAR) re-analysis data set;
eWORLDCLIM data version 1.4 [Hijmans et al., 2005];
fPAR dataset derived from Terra/MODIS reflectance product (MOD02) [Nasahara, 2008];
gVPD dataset derived from the MODIS LST product (MOD11 and MYD11) [Hashimoto et al., 2008];
hTRMM rainfall product 3B43;
iAtmosphericCO2 values (ppmv)derived fromin situ air samples collected atMauna Loa,
Hawaii, USA provided by the CDIACWeb site [Keeling et al., 1995; Keeling et al., 2009];
jShuttle Radar Topography Mission (SRTM) 30 arc-seconds Digital Elevation Model (DEM) dataset [Farr et al., 2007];
kInternational Geosphere-Biosphere Programme (IGBP) - Data and Information System (DIS) soil dataset;
lMODIS Land Cover Type 96-Day L3 Global 1km [Friedl et al., 2010; Strahlar et al., 1999]
◆だいやまーくモデルの構造
BEAMSでは、大気-植生-土壌間での炭素・水・エネルギープロセスを再現し、各プロセスが必要に応じて相互作用する構造になっています。
炭素プロセスでは植生の光合成・呼吸・枯死速度、土壌の有機物分解速度を計算しています(図3)。水・エネルギープロセスでは植生・土壌からの蒸発散量、蒸発散に伴い発生する潜熱、正味放射量などを計算しています(図4)。同時に植生への水・熱ストレスも算出され、光合成の制限要因として炭素プロセスに作用します。
図3 モデル構造の概略図(炭素プロセス)
総一次生産量 (gross primary production; GPP) / 植生呼吸 (autotrophic respiration; Ra) / リター降下 (litter fall; LF) / 土壌有機物分解 (soil decomposition; SD)
図4 モデル構造の概略図(水&エネルギープロセス)
潜熱(latent heat; LE), 正味放射(net radiation;Rn), 顕熱(sensible heat;H), キャノピーによる遮断降水量((canopy Intercepted precipitation;Inter P. ), 遮断蒸発量(intercepted evaporation;Inter E.), 蒸発量(evaporation;Evp.), 蒸散量(transpiration;Trans.), 浸透量(percolation;Perc.) , 地中熱フラックス(ground heat flux;Gsoil)
モデル構造の詳細
◆だいやまーくモデルの検証
モデル検証では、GPP(総一次生産量)、NEE(純生態系生産量)、LE(潜熱)、Rn(正味放射量)の4つのフラックスに関して、日本周辺域にある6つのフラックスサイトでの実測値とモデル出力値とを比較しています。観測点ごとの違いや季節変化のパターン、夏季のピークなどがいずれも良い一致を示したことから、各フラックス推定値の再現性は高く、広域推定への適用は可能であると言えます。
図5 モデル検証の流れ
モデル検証サイト
図6 モデルの検証結果