アルポート症候群(Alport症候群)は慢性腎炎、難聴、眼合併症を呈する症候群で、しばしば末期腎不全へと進行します。南アフリカ人のCecil Alport医師が 家族性 に慢性腎炎を認めるイギリス人の大家族で、男性患者が女性患者より重症である点、および慢性腎炎を有する患者ではしばしば難聴を合併する点を初めて報告し、この病名がつけられました。
海外からの報告では、発生率は出生4万~5万人につき1人、人口当りでは5千〜1万に1人いると報告されています。日本において3年間に病院を受診した患者数を調査した結果、1,200人程の患者さんがいるのではないかと推測されています。
後述しますが、遺伝性の疾患であり、最も頻度の高いCOL4A5遺伝子の変異に伴うX染色体連鎖型アルポート症候群ではほとんどの場合、ご家族に腎炎の患者さんがいらっしゃいます。しかし、約10%の患者さんでは家族歴がなく、遺伝子の突然 変異 により発症します。
はい。腎臓の糸球体という部分を構成するのに重要な蛋白である4型コラーゲンのα3鎖、α4鎖またはα5鎖を作るための情報を持っているCOL4A3、COL4A4、COL4A5遺伝子のいずれかに変異がある場合発症します。これらの蛋白は内耳や眼にも存在するため、難聴や眼症状を合併します。
はい。先述のように遺伝子の疾患であるため遺伝します。約90%の患者さんは家族にも腎炎の方がいます。残りの約10%は家族歴がなく、遺伝子の突然変異により発症します。最も頻度の高いのはCOL4A5遺伝子の変異によるX染色体連鎖型アルポート症候群で、この場合、男性患者さんでは女性患者さんに比べて明らかに重症の症状を呈します。また比較的まれではありますが、COL4A3遺伝子やCOL4A4遺伝子の変異でも常染色体顕性(優性)型や常染色体潜性(劣性)型の遺伝をします。それぞれの特徴は以下の表の通りです。
遺伝形式
原因遺伝子
頻度
末期腎不全到達年齢
X染色体連鎖型
COL4A5
75%
男性 中央値35歳
女性 中央値65歳
常染色体潜性(劣性)型
COL4A3またはCOL4A4
10%
中央値21歳(男女同じ)
常染色体顕性(優性)型
COL4A3またはCOL4A4
15%
中央値60歳(男女同じ)
ただし、どの病型においても非典型的に重症の患者さんや軽症の患者さんがいることに注意が必要です。また、常染色体顕性(優性)型は症状が軽いため、診断されていない患者さんが多くいると考えられており、遺伝子解析技術の進歩や普及により、診断される患者さんの比率が増加傾向にあります。
以下の4つの症状が見られます。
1)慢性腎炎:典型例では幼少期から血尿を認めます。ふつうは見た目では尿に血液が混じっていることは分からず、尿検査で初めて血尿を指摘されます。しかし、風邪を引いた際に肉眼的血尿と呼ばれる赤またはコーラ色の尿が出ることがあります。年齢とともに蛋白尿を認めはじめ、非常にゆっくりした経過で末期腎不全へと進行することがあります。最も頻度の高いCOL4A5遺伝子の変異に伴うX染色体連鎖型アルポート症候群では、男性では35歳までに50%の患者さんが末期腎不全に進行します。一方、女性では65歳までに50%の患者さんが末期腎不全へと進行します。末期腎不全へと進行した際は、透析や腎臓移植など、腎代替療法と呼ばれる治療が必要です。
2)難聴:生下時や幼少期に認めることはありません。しかし、最も頻度の高いCOL4A5遺伝子の変異に伴うX染色体連鎖型アルポート症候群では、男性ではほとんどの場合10歳以降に発症し、最終的には80%の患者さんで難聴を認めます。一方女性では20%の患者さんに認めます。
3)眼合併症:白内障や円錐水晶体などを認めることがあります。最も頻度の高いCOL4A5遺伝子の変異に伴うX染色体連鎖型アルポート症候群では、男性では約3分の1の患者に認めると報告されております。一方、女性においては非常にまれと考えられております。
4)びまん性平滑筋腫:非常にまれな合併症で、良性腫瘍を発症します。食道に最もよく見られ、その他、女性生殖器、気管にも見られることがあります。
現在まで根治的治療法はありません。治療方針としてはいかに末期腎不全への進行を抑えるかに焦点が当てられております。具体的にはアンジオテンシン変換 酵素阻害薬 やアンジオテンシン受容体拮抗薬の内服による腎保護効果による治療を行います。治療開始は血尿に加え、蛋白尿を認めはじめた時期とすることがほとんどですが、海外からは男性患者においては診断がつき次第すぐに加療開始をすすめる報告もあります。
上記6に記載したとおり、男性患者さんでは高頻度に末期腎不全へと進行します。最も頻度の高いCOL4A5遺伝子の変異に伴うX染色体連鎖型アルポート症候群では、男性患者さんの末期腎不全到達中央値は35歳と報告されており、その後、透析や腎移植などの腎代替療法が必要となります。また難聴により補聴器を必要とすることもあります。
腎機能障害を認めない時期においては通常の日常生活を送ることができ、生活上の制限は必要ありません。ただし、血尿に加え、蛋白尿を認める患者さんでは、アンジオテンシン変換 酵素 阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬の内服加療を行うことがすすめられております。
該当する病名はありません。
・Alport Syndrome Foundationホームページ
https://alportsyndrome.org
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