外観上は無色透明できれいな水道水や井戸水でも、その中には無機物や有機物等の様々な物質が溶解しています。温水ボイラ等の密閉系統においては水温も低く、蒸発がありませんので、スケールの障害は発生しにくいですが(但し腐食障害は発生する)、蒸気ボイラの場合は、蒸気となって取り出されるのは水(純水)のみであり、溶解している物質はボイラ内に残留し濃縮します。その結果スケールの付着や腐食が発生し、ボイラの寿命に影響を与えます。
以上のように、水に関するボイラのトラブルを未然に防止し、ボイラを長持ちさせるために水処理が必要となります。
ここでは、その水処理における用語を解説します。
水質分析項目の単位としてmg/Lという表記があります。これは水の中に溶けている物質の濃度を示す単位で、1mg/Lとは、水1Lに1mgの物質が溶けていることを示します。(1m3に1gが溶けているのと同じ)
例えば、食塩水の濃度を測ったら20mg/Lであったとすると、1m3中に20gの食塩が溶けていることになります。
(参考)
その他の濃度単位として、ppm(100万分の1率:Parts Par Million)、パーセント濃度(%)、モル濃度(mol/L)などがあります。
1mg/L = 1g/m3 ≒ 1ppm = 1g/t
pHはpower of Hydrogenの略で、読みはピーエイチ(英語読み)、またはペーハー(ドイツ語読み)です。現在の法令及びJIS(日本工業規格)ではピーエッチと定められています。
pHは酸性・アルカリ性の程度(強さ)を表す尺度で、液中の水素イオン濃度の逆数の常用対数で表記します。pH値は0〜14で表記され、7が中性、7より小さければ酸性、7より大きければアルカリ性となります。
pH=-log[H+] [H+]:水素イオンのモル濃度(mol/L)
ボイラ水や給水にはpHの基準値があります。これはボイラ缶体、給水系統等を腐食から守るために設定されています。エクオスボイラのpH基準値は、給水でpH5.8〜9.0、ボイラ水では11.0〜11.8(軟化水給水、圧力1MPa以下)となっています。
なお、pHは温度により変化するため、通常25°Cでの値で表示します。
全固形物(全蒸発残留物)は、水中に溶解、懸濁している成分の総量です。
ボイラに流入した給水は、水は蒸気となり系外へ出ますが、給水中に溶解している成分(全固形物)はボイラ内に残ります。全固形物の量が多くなると、ボイラ内の水面変動が激しくなります。このような場合、給水ポンプの発停が頻繁になったり、湿り気の多い蒸気が供給(キャリーオーバー)されたりします。そのため全固形物を一定の値以下になるように、ボイラ水を定期的に排出する必要があります。
電気伝導率は、「面積1m2の2個の平面電極が距離1mで対向している容器に水溶液を満たして測定した電気抵抗の逆数」と定義され、単位はmS/m(ミリジーメンス/メートル)です。
電気伝導率は電気の通りやすさを示すものであり、水溶液中に含まれる溶解固形物(電解質:イオン)が多ければ多いほど電気を通すことから、水中の溶解固形物の量を知ることが出来ます。
ボイラ水には電気伝導率の基準値があります。これは全固形物と密接な関係にあり、電気伝導率が大きいということは、全固形物の量が多いということになります。
電気伝導率は測定温度により値が変動するため、通常25°Cの測定値で表示します。エクオスボイラの電気伝導率基準値は、300mS/m以下となっています。
(備考)
ボイラ水において、全固形物と電気伝導率とはpH値にもよりますが、概ね次の関係式があります。
全固形物(mg/L) ≒ ×ばつ電気伝導率(mS/m)
但し、懸濁している固形物がない場合です。懸濁成分は溶解(イオン化)していませんので、電気を運ぶことが出来ません。そのため電気伝導率が低くても全固形物は高いことがあります。
また、懸濁物以外にもシリカが多い場合も同様で、シリカは電気を通しにくいため電気伝導率が低くても、シリカが高くなっている場合があります。
酸消費量は水中に含まれるアルカリ成分(炭酸水素塩、炭酸塩、水酸化物など)の量を、これに相当する炭酸カルシウムの濃度に換算して表したものです(単位:mgCaCO3/L)。
ボイラ水には酸消費量の基準値があり、ボイラ水のpHを基準内に保持し、さらにシリカスケール生成を抑制するため決められています。
酸消費量には「酸消費量(pH4.8)」と「酸消費量(pH8.3)」があります。
1 酸消費量(pH8.3)
酸消費量(pH8.3)は水溶液のpHを8.3よりも高くしている物質の濃度を表しています。通常の水道水はpH7付近ですので、水道水では酸消費量(pH8.3)は0になります。ボイラ水のpH基準値は11〜11.8ですので、必ず酸消費量(pH8.3)は測定されます。
一般的に酸消費量(pH8.3)はシリカに対して1.7倍以上必要とされており、シリカを溶解状態に保持し、スケール化を抑制します。
酸消費量(pH8.3)は以前P-アルカリ度とも呼ばれていましたが、これは測定指示薬のフェノールフタレインの頭文字のPを取ったものです。現在ではJIS規格で呼び名を酸消費量(pH8.3)に統一されています。エクオスボイラの酸消費量(pH8.3)基準値は80〜700mgCaCO3/Lです。
2 酸消費量(pH4.8)
酸消費量(pH4.8)は水溶液のpHを4.8よりも高くしている物質の濃度を表しています。ボイラの給水(原水)では必ず測定されます。
酸消費量(pH4.8)はM-アルカリ度とも呼ばれていましたが、これは測定指示薬のメチルオレンジの頭文字のMを取ったものです。現在ではJIS規格で呼び名を酸消費量(pH4.8)に統一されています。エクオスボイラの酸消費量(pH4.8)基準値は100〜900mgCaCO3/Lです。通常、酸消費量は次の関係になります。
酸消費量(pH4.8) ≧ 酸消費量(pH8.3)
硬度とは水中のカルシウムイオンとマグネシウムイオンの総量を示します。硬度がボイラ内に流入するとボイラ内壁にスケールとして付着します。スケールは断熱材と同様な挙動をしますので、熱効率の低下や過熱等による缶体パンクを発生します。硬度流入によるスケール防止のため、ボイラ給水には硬度の基準値があります。エクオスボイラの給水の硬度基準値は1mgCaCO3/L以下です。
硬度の濃度を表す単位には、次の2通りがあります。
1 mgCaCO3/L
カルシウムイオンとマグネシウムイオンの濃度を炭酸カルシウム(CaCO3)に換算し、炭酸カルシウムとして何mg/Lあるかを示す。
2 ドイツ硬度(○しろまるdH)
カルシウムイオンとマグネシウムイオンの濃度を酸化カルシウム(CaO)に換算し、酸化カルシウムとして水100mL中に1mgあるとき、1度(○しろまるdH)という。
mgCaCO3/Lとドイツ硬度(○しろまるdH)の換算
度(○しろまるdH)=17.85mgCaCO3/L
シリカは岩石やガラスの主成分で自然界中の水に含まれています。シリカはボイラ水中で濃度が高くなると硬質のシリカ系スケールを生成します。シリカ成分は軟化器では除去出来ませんので、給水中のシリカが高い場合には、ブローで排出するしかありません。または、復水(リタン水)の回収量を増やす等の対策が必要となります。
エクオスボイラのシリカ基準値は400mg/L以下です。
シリカが高くなるとpHが上昇しにくくなるため、アルカリ成分を高く保持する必要があります。(シリカの1.7倍以上の酸消費量(pH8.3)を保持)
(参考)
高圧ボイラでは、シリカの選択的キャリーオーバーにより、過熱器やタービン等にシリカが付着するため、シリカ基準値は非常に低く設定されています。
ボイラ水にはりん酸イオンの基準値があります。これはスケール付着防止、腐食防止のために決められています。りん酸塩系の清缶剤の効能の1つに、軟化器からのリークした硬度成分をボイラ内でスラッジ(沈殿物)化させます。
スラッジはブローによりボイラ外に排出するためスケール付着を防止することが出来ます。
りん酸イオンは一般的な原水には含まれないため、りん酸イオンの濃度は清缶剤の投入により増減します。
エクオスボイラのりん酸イオン基準値は、20〜100mg/Lです。
但し、無りん清缶剤を使用の場合には、りん酸イオンを含有しませんので不検出となります。
給水には必ず酸素が溶け込んでおり、水温20°Cでは約8.8mg/Lの溶存酸素が存在します。この給水がそのままボイラ内に入ると酸素による腐食を起こします。
溶存酸素量は水温が上昇すると脱気され濃度が下がりますので、復水を回収したり、蒸気で給水タンクを加温することにより、給水中の溶存酸素を低下させることが出来ます。
溶存酸素を除去する方法には下記のような物理的方法と化学的方法があります。
1 水温上昇による脱気(脱気器や給水加熱):物理的除去
2 脱酸素剤による除去 :化学的除去
3 窒素置換による除去(サントルクリーン):物理的除去
4 膜による除去(膜脱気装置):物理的除去
以下に大気圧における各温度の飽和酸素量を示します。
大気圧における各温度の飽和酸素量
0
14.16
30
7.53
60
4.76
10
10.92
35
7.04
80
2.89
20
8.84
40
6.59
90
1.65
25
8.11
50
5.57
100
0.00
ボイラ水には亜硫酸イオンの基準値があり、これは給水中に含まれる溶存酸素による腐食を防止するため決められています。亜硫酸イオン(亜硫酸塩)は食品添加物に該当することから、食品工業や病院などで蒸気を直接使用する場合に用いられる脱酸素剤成分です。
ボイラ水中の亜硫酸イオンが多くなると、全固形物(電気伝導率)が増加し、水面の動揺及びキャリーオーバーが発生し蒸気の乾き度が悪化します。逆に亜硫酸イオンが不足しますと給水中の溶存酸素が除去出来ず、またボイラ停止中にボイラ系外から流入する空気(酸素)による腐食等に対応出来なくなります。
エクオスボイラの亜硫酸イオン基準値は10mg/L以上です。
ボイラ水にはヒドラジンの基準値があります。これは亜硫酸イオンと同様に給水中に含まれる溶存酸素による腐食を防止するため決められています。ヒドラジンは安全性の問題から一般に蒸気が直接人体や食品にあたらない場合に用いられる脱酸素剤成分です。
ヒドラジンは溶存酸素と反応すると、水と窒素ガスになりますので、ボイラ水の全固形物(電気伝導率)を上昇させません。ヒドラジンが不足しますと給水中の溶存酸素が除去出来ず、またボイラ停止中にボイラ系外から流入する空気(酸素)による腐食等に対応出来なくなります。
エクオスボイラのヒドラジン基準値は0.1〜1.0mg/Lです。
1 原水
給水、補給水の元になる水であり、一般には軟化器に供給する水をいいます。
主な原水としては、水道水、井戸水(地下水)、工業用水などがあります。
(参考)
井戸水(地下水)は水道水と比較して、溶解成分(硬度、酸消費量(pH4.8)、等)が高く、地域に
よってはシリカや塩化物イオン等も高いことがあります。また井戸の深さや季節等により成分や
その量が変動します。従って、井戸水(地下水)をボイラ原水として使用する場合には、定期的な水質分析を行う必要があります。
2 給水
ボイラに供給する水のことであり、エコノマイザーがある場合はエコノマイザーに供給する水のことをいいます。
3 復水
ボイラから発生した蒸気が使用機器(熱交換器等)を経て凝縮され、給水系統へ戻される水のことをいいます。他の呼び方として、リタン水、ドレン水などいいます。
4 補給水
外部からボイラ系統(給水系統)へ補給される水で、軟化水がこれに相当します。
給水量 = 復水量 + 補給水量
5 ボイラ水
ボイラ内の水のことです。他に缶水とも呼びます。
6 ブロー水
ボイラ水と同じです。ボイラ水の濃縮管理やスラッジ排出のため、ボイラ外へボイラ水を排出するボイラ水のことです。