国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)無機機能材料研究部門【研究部門長 淡野 正信】高機能ガラス研究グループ 正井 博和 主任研究員は、内閣府が進め、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構【理事長 古川 一夫】(以下「NEDO」という)が管理するプロジェクトにおいて、石塚硝子株式会社【代表取締役 石塚 久継】(以下「石塚硝子」という)と共同で、 液相法によって500 °C程度で作製できる、耐水性、耐熱性、耐光性を持つ無色透明な 低融点ガラスを開発した。
この技術は、ガラス前駆体液(ガラス化する前の液体状の原料混合物)を加熱し、500 °C程度で溶融させて型に流し込み成形できるガラス作製技術である。得られたガラスは、LED用のレンズや透明封止剤などさまざまな光学材料への応用が期待される。
なお、この技術によるサンプルは、平成30年2月14〜16日に東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催されるnano tech 2018第17回 国際ナノテクノロジー総合展・技術会議で展示予定である。
今回開発したガラス作製技術概念図
今回開発したガラス作製技術の概念図
低温でガラスを作製する手法としては、金属アルコキシドを液相中で反応させる ゾルゲル法が知られているが、反応で得られたゲルはそのままでは光学材料として使えず、緻密なガラスを得るために、さらに1000 °C程度で焼成する必要があった。
今回開発した技術では、まず、図1で示すように、常温で流動性を示すリン酸と、物性を制御するための種々の金属化合物を原料とし、ガラスの前駆体液を調製する。この前駆体液を加熱すると、500 °C程度で流動性を示すガラス融液が得られ、これを型に流し出し冷却することで、ガラスが得られる。ガラスの屈折率などの物性は、前駆体液に添加物を加えておくことで調整できる。
さらに、組成及びプロセスを検討・改良することで、低融性、耐水性、耐光性、耐熱性を併せ持つガラスの開発に成功した。今回開発したガラスは、有機物を含まない材料でありながら、低温で軟化するため( ガラス転移温度:約235 °C、 屈伏点:約260 °C)、低温で成形加工できる。
今回開発したガラス作製技術概念図
図1 今回開発したガラス作製技術の概念図
一般に、リン酸を主成分とするガラス(リン酸塩ガラス)は耐水性が悪いが、今回開発したリン酸塩ガラスは、組成を改良することで実用に耐える耐水性を持つようになった。図2に、組成改良前と後のガラスの写真と、それぞれ50 °Cの水に4時間浸した後の写真を示す。これまでの組成改良前のガラスでは表面が水と反応して不透明になったのに対して、組成改良後のガラスでは、浸す前とほぼ同様の透過特性を示している。
組成改良前の低融点ガラスと今回開発した組成改良ガラスの耐水性の比較写真
図2 組成改良前の低融点ガラスと今回開発した組成改良ガラスの耐水性の比較(提供:石塚硝子)
図3に示すように、今回開発したガラスの屈折率は波長633 nmで1.65程度であり、シリコーンやエポキシ、ポリカーボネイトといった樹脂、 BK7ガラスや、 ソーダライムガラスに比べて高い。この屈折率は、工業的に用いられている半導体素子の屈折率との差が小さいので、発光素子に用いれば、光の取り出しに有利と予想される。
従来の光学ガラス、樹脂との波長633 nmの屈折率の比較図
図3 従来の光学ガラス、樹脂との波長633 nmの屈折率の比較
ガラスの利点には、樹脂と比べて高い耐光性、耐熱性がある。図4に、加速試験として、今回開発したガラスと代表的な樹脂であるポリカーボネイト(PC)に、(1) 波長365 nmを中心とした紫外光を700時間照射した後と、(2) 200 °Cで1000時間加熱後の光の透過率を示した。今回開発のガラスは、両試験後も透過率に変化はなかったのに対して、PCは著しく透過率が低下した。
耐紫外光(UV)と耐熱加速試験後の今回開発したガラスとポリカーボネイト(PC)の透過率(上)と外見の写真(下)の図
図4 耐紫外光(UV)と耐熱加速試験後の今回開発したガラスとポリカーボネイト(PC)の透過率(上)と外見の写真(下) (提供:石塚硝子)
今後、LED光源が高輝度化するに伴い、その部材にも耐熱性が求められると予想される。今回、開発したガラスは低温で成形可能であり、耐熱性と耐光性を併せ持つため、LED用のレンズや封止材としての利用が期待できる。また、低温で作製・加工できるため、低温の溶融設備しか保有していない幅広いユーザーが利用でき、様々な型を用いた多様な形状のガラスが比較的簡便に作製ができる(図5)。
現在、エンジニアリングプラスチックが用いられている分野でも、将来的に、優れた耐光性・耐熱性を持つガラスが活用される可能性を広げたといえる。
500 °Cで成形した今回開発のガラスの写真
図5 500 °Cで成形した、今回開発のガラスの写真 (提供:石塚硝子)
今回開発した低融点ガラスの実用化を目指し、構造解析を基にした反応プロセスの最適化や、用途に合わせた材料設計などの検討を進める。
また、石塚硝子ではレンズ、封止剤などの光学用途を想定しているが、光学用途にとらわれない幅広い応用を検討してゆく予定である。