全項目表
ダム番号:1036
浅川ダム [長野県](あさかわ)
どんなダム
「脱ダム」に翻弄される
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平成13年2月20日、田中知事が「脱ダム宣言」を表明。平成14年6月25日、田中知事、県議会において浅川ダム工事中止を表明。その後、平成18年年8月の知事選で田中康夫氏が村井仁氏に敗れ、村井知事は浅川の治水対策について「ダムも含めて検討する」と方針転換。結局、治水専用の「穴あきダム」を建設することに。
河川
信濃川水系浅川
目的/型式
F/重力式コンクリート
堤高/堤頂長/堤体積
53m/165m/143千m3
流域面積/湛水面積
15.2km2
(
全て直接流域
)
/8ha
総貯水容量/有効貯水容量
1100千m3/1060千m3
ダム事業者
長野県
本体施工者
大林組・守谷商会・川中島建設
着手/竣工
1977/2016
ランダム情報
【コンクリートダムの工法】拡張レヤ工法
【ダム工事年表】仮排水路(1998.12〜2000.2) 本体掘削(2010.6〜2011.9) 本体打設/盛土(2011.9〜2014.7)
【ダムカード配布情報】2024年8月2日現在 (国交省資料を基本とし作成、情報が古いなどの場合がありますので、事前に現地管理所などに問い合わせるのが確実です) Ver3.0
○しろまる?@長野建設事務所総務課 ?A(一社)飯綱高原観光協会 ?@9:00〜17:00(平日のみ)(※(注記)ただし年末年始を除く)?A9:00〜16:00(土、日、祝日を含む)(※(注記)ただし年末年始を除く)
ダムカード画像コレクション
浅川ダム(試験湛水中) Ver.2.0 (2017.1)
参考資料
■しかく浅川ダムのイメージアップとPR活動について / 小泉茂義・丸山知章
【ダム日本 No.619(H8.5)】
諸元等データの変遷
【06最終→07当初】追加
【07当初→07最終】河川名[利賀川→浅川]
【07最終→08当初】目的[FNW→FN] 堤高[59→53] 堤頂長[193.5→165] 堤体積[242→166] 総貯水容量[1680→1102] 有効貯水容量[1280→1070]
【08最終→09当初】目的[FN→F]
【09最終→10当初】堤頂長[165→141] 総貯水容量[1102→1100] 有効貯水容量[1070→1060]
【10最終→11当初】本体施工者[→大林・守谷・川中島]
【11最終→12当初】左岸所在地[長野市浅川一の瀬→長野市真光寺] 堤頂長[141→165] 堤体積[166→141] 湛水面積[→8]
【12最終→13当初】本体施工者[大林・守谷・川中島→大林組・守谷商会・川中島建設]
【14最終→15当初】本体施工者[大林組・守谷商会・川中島建設→大林・守谷・川中島] 流域面積[15.2→15.2]
【16最終→17当初】本体施工者[大林・守谷・川中島→大林組・守谷商会・川中島建設] 堤体積[141→143]
【17最終→18当初】竣工[→2016]
ダム便覧から消えなかったダム
ダム便覧が年度更新され、2014になりました。この更新で2013年度に掲載されていたダムのうち、13基のダムが消えることになりました。
過去にダム便覧から削除された理由を上げると、
・堤高が15m未満であることが判明し、ダムに該当しなくなったもの(大関堰ほか)。
・役割を終えてダム便覧から削除されたたもの(菅野ダム、荒瀬ダムなど)。
・計画が中止されたため、ダム便覧に掲載されなくなったもの(槙尾川ダム、北川第一ダムほか)。
等に大別されます。
1.浅川ダムの経緯
浅川ダム(長野県)も、建設が一時中止されたためダム便覧から消えるところでした。簡潔に経緯を示すと次のようになります。
・田中知事(当時)の「脱ダム宣言」により、本体工事契約解除(平成14年9月)
・ダムによらない治水対策の検討(平成13年6月〜平成15年12月)
・河道内遊水地による検討(平成15年12月〜平成16年9月)
・将来計画を先送りした当面20年間の計画案検討(平成16年9月〜平成18年8月)
・ダムを含めた治水計画の再検討(平成18年10月〜平成19年8月)
・最終的に治水専用ダムと河川改修の組み合わせによる治水計画を採用(平成19年8月)
・浅川ダム本体工事着工(平成22年5月)
・浅川ダム本体コンクリート打設開始(平成23年9月)
付替え県道(戸隠高原浅川線)は、すでに平成8年に開通しました。この県道には、シンボル的な大きなループ橋(真光寺3号橋)があることから浅川ループラインの愛称が付けられています。
浅川ループライン(真光寺3号橋)
浅川ループラインは、長野オリンピックの会場の一つであった飯綱高原スキー場へのアクセス道路として大活躍したそうです。
ループ橋と浅川ダム
2.工事の進捗状況
こうして数奇な運命をたどった浅川ダムも、今月(平成26年6月)末までに本体打設が完了する見込みということになりましたので、先日、見学させていただきました。ダムサイトは驚くほど市街地に近い場所にあります。
建設中の浅川ダム下流面
写真からは分かり難いのですが、堤体は直線ではなく左岸寄りで「く」の字型に曲げられています。
建設中の浅川ダム上流面
コンクリートの打設は、最終段階に入りました。バッチャープラントで製造されたコンクリートは、トランスファーカによってバケットに運ばれます。
バッチャープラント
バケットにコンクリートを流しているトランスファーカ
コンクリートを満載したバケットは、直ちにタワークレーンで堤体に運ばれ打設されて行きます。
タワークレーンで運ばれるバケット
冬季五輪が開催された都市ですから、冬期は養生のためにコンクリート打設は行われなかったそうです。また、民間気象会社と契約し、ダムサイトに4?o以上の降雨が予想されるときにはコンクリートの品質を確保するために打設を行わないそうです。このように、決して条件には恵まれた場所ではありませんが困難を克服してほぼダムの姿になりつつあります。
コンクリートを放出するバケット
天端橋梁は、プレストレスト・コンクリートを使用した橋桁(PC橋)が架けられることになっています。また、中央の突起部分はエレベータ塔になります。
非常用洪水吐
湛水域に地滑りの可能性が高い部分があるそうです。このため、右岸側は山の上部を切り崩し、山の重さを軽減する工事が行われています。また左岸側はパイルを打ち込み地滑り対策を講じるそうです。さらに、河床部には、押えの盛土を行って安全度を高めるそうです。
地滑り防止工事
本体の打設工事が完了することで一つの節目を迎えますが、平成29年3月末の完成を目指して今後も工事は続きます。最後まで安全第一で工程が進み、無事竣工することを期待します。
(2014年6月23日、安部塁)
浅川ダム試験湛水スタート
平成28年10月11日、台風の影響で当初予定日より10日ほど遅れて浅川ダムの試験湛水が開始されました。田中康夫長野県知事(当時)の脱ダム宣言の象徴とされ、一時は"死刑宣告"まで受けた浅川ダムが、こうして新たな段階を迎えたことに一人のダム愛好家として感慨深いものがあります。
浅川ダム堤体
試験湛水用のゲートはすでに常用洪水吐スクリーンの中に設置されておりました。そのためイメージしていた「スリットにゲートが落とされる」というシーンは、今回は見ることができないようです。その代わりゲートを降ろしている作業音は聞こえるということでした。
常用洪水吐(上流面)スクリーン
少し早めに現地に到着しました。平日ということもあり、見学に来られた方はそれほど多くはなかったようです。
一般の見学者
作業員の方が、天端の移動式のクレーンに吊り下げられて常用洪水吐きに向かいます。
クレーンで吊下ろされる作業員の方
しばらく、この現場には来ておりませんでしたが、上流部はきれいに整備されていました。浅川右岸には立派な魚道も設置されていました。
天端より上流部
浅川右岸に整備された魚道
かつて浅川を転流する仕事をしていた締切堤にはスリットが入り、その部分を浅川が流れています。今後は、大規模な土石流や流木を補足する仕事を担います。
スリットが入れられた締切堤(上流面)
予定通り午前11時から建設事務所による安全祈願式が開始されました。
試験湛水安全祈願式
安全を祈る神職
神職が提体を清め、試験湛水が無事に終了することを祈願します。
提体を清める神職
その後、建設事務所所長による挨拶が行われました。式典は粛々と進みます。
建設事務所長の挨拶
予定時間になり、ゲートが閉塞されることになりました。この指示は、天端で待機中の浅川改良事務所長が旗を振って合図をすることになっています。
天端で待機している浅川改良事務所長
そして、白い旗が振られました。浅川改良事務所長から試験湛水開始の指令です。いよいよ試験が開始となりました。
浅川改良事務所長による試験湛水開始の指令
実際にゲートが動く姿を見ることができたのは、現場作業を担当した方のみであったと思います。しかし、立ち会った私たちはゲートが降ろされてゆく音を確実に聞くことができました。
サーチャージ水位
ところで、見学に来た一般の方の中には、「試験湛水はだめだ、地滑りしたらどうするんだ。止めた方がいい。」などと言う方もいらしていました。しかし、試験湛水は誰も答えを知らない卒業試験です。地滑りやその他の異常がある可能性が絶対に否定できないからこそ試験を行って安全性を確かめるのです。
試験湛水開始直後の常用洪水吐流入部
もし、少しでも異常を示すデータがあった場合に、爾後の対策を講じる目的のために行われるものです。すでに建設が完了している河川構造物をこのまま放置したら、それこそ危険です。当然ではありますが、いまさら、この堤体を解体・撤去するという選択肢はあり得ません。
取材に来られた報道関係者
この提体は、完成後は長野市民を洪水被害から守る重要な砦となります。試験湛水において、万一にも不具合があった場合に、それを早期に発見して修正することになります。
試験湛水前のスクリーン付近
この試験湛水では、水位がEL=525mを超えた時点で低水放流設備からの放流が開始されます。この放流は、河川維持放流を兼ねて水位の上昇が1日1m以内となるように調節するためのものです。
低位放流設備の流入部、EL=523m付近
浅川ダム下流部
直下の橋上から、この放流を見ることができるのは試験湛水期間のみの特典です。本日は下流側が落石のため立入禁止となっていましたが、整備が完了次第、数日中に開放される見込みということでした。
低位放流設備からの放流部
なお、実物を直視できなかったゲートは試験湛水の最終段階で撤去するそうです。ゲートを降ろすところは見ることはできませんでしたが、引き上げる作業は日程が合えば見学できそうです。今後も注目すべきポイントが満載の浅川ダムです。試験湛水期間限定のバルブ放流と新そばをセットにして信濃の紅葉を愛でにお出かけください。
(2016年10月12日、ダムマイスター 01-024 安部塁)
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ダム便覧の説明
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