2024年夏号表紙

バックナンバー・特集記事

プラスチックの生産・廃棄をカーボンニュートラルにする仕組み(その1)

国立研究開発法人国立環境研究所
藤井 実

1. はじめに

カーボンニュートラルの実現が急務となっており、廃棄物分野においても適切に対策を進めることが求められている。これから計画して導入する特に大型の施設は、2050年頃にも稼働している可能性が高い。そのため、これから始める新規の施設建設や導入の計画等は、総てカーボンニュートラルの実現を意識したものになっている必要がある。これまで我々が取り組んできた低炭素であれば、従来の仕組みを効率化することで、ある程度の温室効果ガスの排出削減を達成することができた。しかし、カーボンニュートラルを実現できる仕組みは、従来の仕組みの延長線上にはない可能性がある。一方で、エネルギー消費や素材生産の効率の限界は熱力学でその上限値が決まっており、無限に可能性が広がっている訳ではない。ということは、我々は新たな仕組みの選定に当たってそれほど迷う必要はなく、現在の仕組みと、熱力学的に理想的な仕組みとを見比べて、足りない部分を改善する仕組みを導入していけばよいと言える。

筆者及び共同研究等を行っているグループでは、ライフサイクルカーボンニュートラル(Life Cycle Carbon Neutral: LCCN)と呼ぶ仕組みを提案し、その実現に向けて活動を行っている。LCCNは、プラスチック等の炭化水素系素材が、リサイクル可能な素材だけでなく、その総ての生産、消費においてカーボンニュートラルを達成可能な仕組みである。本稿では主に技術的な観点から、LCCNの仕組みとその有効性について解説したい。また次稿では、LCCNが適切な仕組みであると考える論拠となる、社会の現状や将来想定される変化と、社会実装に向けた活動につての概要をお伝えする予定である。

2. ライフサイクルカーボンニュートラル(LCCN)の概要

PETボトルや白色トレーのように、分別回収が比較的容易で材料リサイクルに適した廃プラスチックや、今後の選別技術等の進展で質の高い合理的な材料リサイクルが可能になる廃棄物については、材料リサイクルを優先することが、環境、資源、経済性の面で望ましい。一方、容器包装等の中には保存性の向上と軽量化等の目的で複合素材も多く利用されている。容器包装の中身である食品は、その生産や流通の過程で非常に大きな環境負荷を伴っているため、容器包装の機能を高めて食品ロスを軽減することも、環境負荷を総合的に削減する観点では重要な役割となる。今後はプラスチック使用量の削減のために、紙との複合包装も増える可能性もある。これらのプラスチック製容器包装は、食品と一緒に廃棄される場面も多く、高品質な材料リサイクルが難しい可能性がある。このように素材別の分別が難しい廃棄物や、衛生面や安全性の理由で材料リサイクルが難しい可燃廃棄物に対しては、焼却してエネルギー回収を行うことが、現実的な選択肢になると考えられる。しかし、今後のカーボンニュートラルの実現に向けて、焼却・エネルギー回収は最も効率的で、かつ将来的にはカーボンがリサイクルが可能な方法を選択する必要がある。そのような方法として、LCCNの仕組み(図1)を提案している1)

図1 ライフサイクルカーボンニュートラル(LCCN)の概要 図1 ライフサイクルカーボンニュートラル(LCCN)の概要

図1に示すように、LCCNではリサイクルに適した廃棄物は分別した上で、それ以外のリサイクル困難な廃棄物を化学コンビナートのような場所に集めて焼却し、プラスチックの製造プロセスで大量に必要となる蒸気を供給するWaste to steamと、焼却時に発生するCO2を回収してグリーン水素と反応させ、メタノールのような基礎化学原料を製造する、CCU(Carbon Capture and Utilization)で構成される。これらの組み合わせにより、焼却プロセスを経ながらも、カーボンニュートラルなプラスチックの生産・廃棄が可能となる。焼却施設で一般的な発電(Waste to electricity)ではなく蒸気供給を行うのは、その方がはるかに効率的であるからだが、その理由については後述する。現状ではCCUに必要なグリーン水素は非常に高額で、その供給量も限られているために、今すぐフルスケールでCCUを開始することは現実的ではないが、将来グリーン水素の供給体制が整うにつれて、その実施割合を増加していくことが想定される。一方、Waste to steamは今すぐに実施しても、CO2排出削減効果とエネルギー販売収益の両面で効果が大きい。例えば山間部に立地する焼却施設であれば、高効率なWaste to steamの実施は難しく、回収したCO2も液化してトラック輸送する必要があるが、コンビナートに焼却施設が立地していれば、高いエネルギー効率、回収したCO2のその場での原料利用、周辺からのまとまった量のグリーン水素の供給が期待できるため、CCU実施の条件も整いやすい。従ってコンビナートでWaste to steamを行っている状況を、LCCN Readyと呼んでいる。将来、再生可能な電力が普及・拡大すれば、Waste to electricityの効果は更に低下することになる一方、コンビナートで使用されている、ある程度高温で大規模な需要のある蒸気は、再生可能な電力で供給することも技術的には可能であるが、効率性の観点で暫く現実的ではないだろう。Waste to steamのWaste to electricityに対する相対的な優位性は、将来更に拡大することが想定される。

3. エネルギーの質的効率と蒸気供給の効率性

廃棄物焼却施設に対してある程度の知識をお持ちで、熱力学にも知見のある読者であれば、Waste to steamがWaste to electricityに対してはるかに効率的であることは、既知の内容であると思われるが、重要な点なのでその理由を解説しておきたい。

エネルギーについて考える上では、量と質の両面を見ておくことが重要である。量については比較的理解し易いいと思われる。例えば部屋を暖房する場合でも、あるいはポットでお湯を沸かす場合でもよいが、断熱性を高めて熱エネルギーが失われるのを防ぐことが重要である。では質はどうか。よくあるクイズの問題に、鉄1トンと綿1トンはどちらが重いかというのがあるが、熱エネルギーについては、40°Cのお湯1 J(ジュール)と、600°Cの蒸気1 Jでは、その価値は大きく異なる。何が違うのかというと、全体の熱エネルギー量の中で、熱力学でいう所の仕事(電気や運動など、我々が便利に使うことが出来るエネルギー形態)として取り出せる割合が、温度(より厳密には温度差)によって異なることになる。エネルギーの中で仕事として取り出せる部分がエクセルギーであり、エクセルギー率の高いエネルギーほど有用な、価値の高いエネルギーである。図2に示すように、熱エネルギーについては、環境温度(図では20°Cに設定)からの温度差が大きいほど、エクセルギー率が高くなる。液化天然ガスの冷熱を利用した発電が可能なように、低温側に温度差の開きが大きくてもエクセルギー率は高くなるが、図には記載していない。

図2 エクセルギー効率と蒸気供給 図2 エクセルギー効率と蒸気供給

熱のエクセルギー率の曲線から理解できるように、熱を電力に変換する火力発電の場合、タービンを回す蒸気や燃焼ガスを高温にするほど発電効率を高くすることができる。しかし、焼却施設では廃棄物に含まれる塩素等が、ボイラ配管が高温になるほど配管を腐食させるため、蒸気温度をあまり高くすることができない。国内では廃棄物の性状に合わせて、300°C〜450°C程度の蒸気温度が用いられている。石炭火力発電所の蒸気温度が600°C程度、ガス火力発電所の燃焼ガス温度が1600°C程度あるのに比べると、かなり温度が低い。450°Cの蒸気でも理論的には最大で35%程度の発電が可能であるが、焼却施設の規模の小ささや、復水の温度を下げにくい構造等も手伝って、発電効率は最高でも25%程度に留まる。一方製造工場では、200°C程度の蒸気を利用している場合が多い。これをガスボイラで供給している場合、ボイラの熱効率(量的な効率)は90%以上あって、一見するとほとんどロスがないが、質の観点で見た場合、エクセルギー率の高いガスをたかだか200°Cの蒸気に変えることで、80%近いエクセルギーを失っていることになる。この、やや気付きにくいエネルギーの質的なロスであるエクセルギーロスを、如何に小さくできるかが重要である。

図3は、エクセルギー効率をWaste to electricityとWaste to steamの間で比較したものである。縦軸は厳密に描こうとすると分かり辛くなるため、エクセルギーをイメージしたやや比喩的な表現をしている。図3の左側に示すように、現状では焼却炉の高温ではない蒸気で発電を行い、必然的に低い発電効率になっている一方、製造工場では質の高いエネルギーである天然ガスを使用して蒸気を製造し、大きなエクセルギー損失が生じている。これを右側のように、焼却施設から製造工場に蒸気を供給し、天然ガスは複合サイクルの高効率発電に利用すれば、全体としてエクセルギー効率が大きく高まることになる。製造工場側の変化も含めたWaste to steamのエクセルギー効率は、Waste to electricityの約2倍であり、エネルギー代替効果、CO2排出削減効果、エネルギー販売の経済的便益がそれぞれ約2倍に高まることが期待される。

図3 Waste to electricityとWaste to steamの効率性の比較 図3 Waste to electricityとWaste to steamの効率性の比較

また、LCCNによるカーボンリサイクルの仕組みは、プラスチックのケミカルリサイクル(ガス化によるもの)と、エネルギー効率の面で遜色ないものになることが、机上の評価から示唆されている。熱力学的には、反応経路によらず反応熱は同じである。安定なCO2を経るCCUは、現実の場面では効率が低くなりがちではあるものの、Waste to steamによって焼却熱が化石燃料ボイラと同等の効率で極めて効率的に利用される結果、LCCNではケミカルリサイクルに匹敵する効率でカーボンリサイクルが可能となる。多くの場合、プラスチックのみを選別する必要があるケミカルリサイクルに対し、リサイクルの残渣を含めてあらゆる可燃物を受け入れることができるLCCNには、大きなアドバンテージがあると考えられる。ただし、対象とするプラスチックの性状やリサイクル方法によっては、ケミカルリサイクルに優位性があるケースも一部にあると考えられるため、適切に使い分けていくことが重要であろう。

4. CO2排出削減効果の試算例

LCCN Readyとして、例えば1000t/日の規模でリサイクル困難な廃棄物のWaste to steamを行った場合と、同じ量の廃棄物でWaste to electricity を行った場合を比較した際の、CO2排出、エネルギー消費、エネルギー費用の各削減効果を評価した結果を図4に示す。コンビナートには電・熱を同時に供給するコジェネレーションの仕組みが備わっていることが多い。500°C以上、10数MPa以上の高温高圧蒸気を初めにボイラで製造し、発電タービンを回した後の抽気や排気蒸気がプロセスに利用されている。将来、電力については再生可能な電力を利用するようになれば、プロセス用の蒸気(300°Cよりも低温である場合が多い)のみを焼却施設から供給すればよいが、大規模に安定な再生可能電力を得られるのはかなり先のことになると考えられる。ここでは焼却施設に独立過熱器を設置し、重油で追加的に過熱を行うことで、コンビナートのボイラ並みの高温高圧蒸気を供給する場合を想定する。エネルギーの市場取引価格は、公的な補助や企業の利益を勘案するか否か等で振れ幅が生じるため、ここでは原価に近い価格で比較し、社会全体としての便益(コストの削減)を評価する形とした。1000t/日の焼却量の場合、Waste to electricity からWaste to steamへの変更によって、16万t/年を超える大きなCO2排出削減効果が期待される。しかし、社会全体の仕組みがカーボンニュートラルへ移行する中で、CO2削減効果の数値を議論することは、今後次第に意味が薄れていくと思われる。より重要なのは、2000TJ/年を超えるエネルギー効率面でのメリットが存在し、それによって30億円/年に近いエネルギーコスト削減メリットが期待できることである。Waste to steamにはこのように、環境と経済の両面で大きなポテンシャルが存在しており、カーボンニュートラル社会への移行期において、Waste to electricity に対するそのメリットは更に大きくなると考えられる。

図4 Waste to electricityからWaste to steam (LCCN Ready)への変更によるCO2排出、エネルギー消費、エネルギー経費の各削減効果 図4 Waste to electricityからWaste to steam (LCCN Ready)への変更によるCO2排出、エネルギー消費、エネルギー経費の各削減効果

5. おわりに

リサイクル可能な廃棄物だけでなく、あらゆる可燃廃棄物をエネルギーと炭素源として高効率に利用するLCCNの仕組みについて、主に技術的な面からその有効性を解説した。国内でも海外でも、カーボンニュートラルや循環経済の達成に向けて、ダイナミックに動き始めている。LCCNやその準備段階としてのLCCN Readyの導入に関して、現在の国内外の状況、産官学の協働による取り組み等について、次号で紹介する予定である。

参考文献
1) 藤井実, 2050年CNを踏まえた廃棄物資源循環分野の役割, INDUST, 432, 2-7, 2023

謝辞
本稿の記載内容には、環境省・(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(JPMEERF20223C02)により実施された研究の成果を含む。ここに関係者に謝意を表す。

AltStyle によって変換されたページ (->オリジナル) /