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vol.61「民宿ひなた屋」 山本甲士 潮出版社/825円

Fit ECRU 475号 ほんまはるかの本の引き出し

3/16 18:20

舞台は...「佐賀県なべしま市」? 夢破れた男の民宿再生ストーリー

北海道で生まれ育った私は、夫の転勤で佐賀に引っ越してきた。それまでは修学旅行で行った京都が最西端だったから、転勤でもなければ一生佐賀には(もしかしたら九州には)足を踏み入れなかったかもしれないと思っている。書店で働き始めたのも、育児がひと段落してそろそろ...となったとき、時間の都合・家や学校からの距離を考慮すると近所でパートで働くしかなく、食料品のレジ打ちをするか、生活用品のレジ打ちをするか、本のレジ打ちをするかというざっくりとした選択肢の中から、本を選んだにすぎない。運命のサイコロは常に転がり続け、私たちはその出目に従って人生という盤上を進む。

今回は、予想だにしなかったマスに止まったアラフォー男性の奮闘を描く『民宿ひなた屋』を紹介したい。主人公の古場粘児は41歳。佐賀県なべしま市(佐賀市に隣接するという架空の都市)の出身で、上京し釣り専門のライター業をしていた過去を持つ。釣り雑誌の廃刊に伴って仕事を失い、家業である民宿を手伝おうと帰郷したものの、民宿は経営状態も悪く、父母は自分たちの代で家業をたたむことを決めていた。「釣りを仕事にすると決めたんやろ。そんな簡単に尻尾を巻いて逃げて帰ってきて、あんたの人生、そんなことでいいんかね」

そこから粘児は名前のごとく粘りを見せる。父の体調不良を機に少しずつ民宿を手伝うようになった粘児は、仕事であった釣りを生かし、コイ・オイカワ・ウナギなどの釣果を調理し、提供することを思いつく。釣りには全く疎い私だが佐賀の水路や水辺は水質がよく、豊かな"漁場"なのだと驚く。まさかウナギが獲れるとは。釣りは主に粘児が交際中のシングルマザーの子である希実と行うのだが、なかなか心を開かない不登校の少女との釣りを通した交流も、温かくほのぼのと描かれていた。なべしま市はあくまで架空の都市だが、佐賀県の豊かな自然と資源に造詣が深まる内容だ。

本間悠さん

2023年12月、佐賀駅構内にオープンした「佐賀之書店」の店長。自身が作った売り場や本のポップなどで注目を集め、SNSのフォロワー数は1万人以上。多メディアにおいても幅広く活躍中

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