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ページID:87112更新日:2024年11月18日
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MKC00020
県指定 無形民俗文化財
札を入れるケースに収められている木製の札
用水路と札場所
(ケースには竹製の札が収めてある)
平成30年9月3日指定
伝承地 北杜市長坂町長坂上条、長坂下条、渋沢
保持団体 長坂三ヶ区水利組合
長坂上条、長坂下条、渋沢の三集落は、宮川が形成した低地を水田に開発し稲作を行ってきたが、宮川の水量は乏しく常に水不足に悩まされた。そのため八ヶ岳山麓に水を求めて用水路を開鑿し、灌漑用水の確保に成功した。開鑿の時期は明確ではないが、区有文書に1655年の水源をめぐる軋轢についての記録が残されていることから近世初頭のことと推測される。当時は水源と水路に接する地域は開発されておらず、また高冷地のため稲作は不可能であったので、用水路の開鑿とそれに伴う水の利用は特に大きな問題にはならなかったが、高地でも開発が進み稲作が可能になってくると、水源に近い地域は水の確保のため用水路の途中での分水、取水などの盗水を行うようになった。そのため、三集落ではそれを防ぎ、水を間違いなく確保し用水路を維持する方策が採用され、久しく地域の民俗として行われてきた。
三集落の用水は女取湧水、三分一、八右衛門出口という3つの水源を持ち、それぞれ別の用水路で引水している。用水路の各所には利用権について書かれた立て札が設置され、支柱には札を入れるケースが取り付けられている。立て札がある場所は「札場所」と呼ばれ、分水や取水などの盗水され易い地点に設置されている。札場所は現在31箇所あり、下流から上流に向かって番号が付されている。
水源から三集落までの間の用水路を保持し、無事に水を流すために行われてきた仕組みが札番と水番を中心とした民俗である。それは、用水路の土砂の除去や水路の補強を行う「堰上げ」の準備をする4月の「堰上げ見立て」に始まり、5月3日に「堰上げ」が行われる。5月中旬には札場所を巡り水路の状態を点検するとともに札をケースに入れる「札差」が行われ、札差から1週間後の日曜日を第1回として8月上旬まで日曜日毎に札番が行われる。札番は、札場所で漏水、盗水がないことを確認するため当番制で巡回し、確認を示すため立て札の支柱のケースに札を収める。札は木製と竹製があり巡回時に交換する。水番は用水路の保全のため、必要な清掃や水路の補修を行うものであり、夏の間に1回行われる。
近年では農業に従事しない住民も増えるなかで、地域の歴史を象徴するものとして非農家も含めた地域全体の制度として行われ、地域の開発の歴史を現在に示す民俗と言える。
〈見どころ〉
・長坂上条区、長坂下条区、渋沢に広がる田園は遠く離れた八ヶ岳山麓からの湧水を利用している。湧水を引く水路は江戸時代に作られ、地域の人たちにより用水路を保持し、無事に水を流すための制度「札番」、「水番」がつくられた。現在もこの制度により水路が守られ、地域に流れ込む湧水により田園風景はつくられている。