企画に当たって
外国人材、現状を把握・分析して制度の充実を
少子高齢化を支える働き手に期待と目標を示そう
柳川範之
NIRA総合研究開発機構理事/東京大学大学院経済学研究科教授
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現状把握と分析、日本の労働市場の改善、共通の問題意識
「日本経済の大きな課題は、人口が減少し少子高齢化が進んでいることだ」という話をすると、ほとんどの外国人研究者からは「それならば、日本はもっと外国人材の受け入れや、移民政策を積極的に考えるべきではないか」というコメントを受ける。それに対して、日本国内では移民政策については、そこから生じる文化的な摩擦等を考えて、否定的な声が少なくない。移民でなくても、外国人材の受け入れについては、賛否さまざまな意見があり、「労働人口が減るから、その代わりに外国人労働者を増やそう」という単純な議論が成り立つわけではないだろう。
その一方で、現実には、外国籍の人材が既に多くの分野で活躍していることも事実であり、その子弟の教育の課題等も含めて、日本社会が外国人材とどう向きあっていくべきか、真剣に検討すべき課題であることは間違いない。円安が進み、日本全体の賃上げがなかなか進まない中で、これからは「どうやったら来てもらえるのか」という視点が必要だという意見もある。
このような状況下にあっては、「外国人労働者や移民が是か非か」という単純な議論ではなく、もっと実情に即した、しっかりとした現状把握と分析が必要だろう。また、一言で外国人材といっても、それぞれの状況によって、実情も大きく異なる。そのような観点から、今回の「わたしの構想」では、多様な側面の実情に詳しい専門家の方々から、ご意見を伺った。
外国人材受け入れの制度・慣行面での課題とは
村山俊明・群馬県大泉町長は、外国人比率が20%を超える町の町長であり、そこでの実態は貴重な情報であり、町長の提言には説得力がある。ここでは、外国人の7割以上が永住・定住者であり、4割以上が外国籍児童という学年もあるという小学校の実態、年金を積み立てていない外国籍の高齢者もいるという点は、今後を考えるうえで重要な情報を提供している。このような中で基礎自治体の役割は、外国人の困りごとに迅速に対処し、信頼関係を築くこと、外国人と日本人との信頼を醸成し、国籍によるいじめや差別を無くすことという指摘は示唆深い。
鈴木江理子・国士舘大学文学部教授は、実態は労働力確保の手段として機能してきた「技能実習制度」の問題点を指摘し、主に制度面からの課題と方向性について議論している。鈴木教授は、技能実習制度も、人手不足解消を目的に創設された「特定技能制度」の「1号」も、そして技能実習制度の代わりに創設される「育成就労制度」も、原則として家族と共に暮らせない制度設計になっていて、人間としての営みを軽視したものと指摘する。また、実質的に転籍が保障されていないと、育成就労制度においても人権侵害を根絶することができない、と警告する。外国人の側にも働く国や場所を選択する権利や自由があり、それを前提に政策を議論すべきという主張は、重要な指摘だろう。
一方、園田薫・東京大学社会科学研究所特任助教は、ハイスキル人材(高度外国人材)に焦点をあてている。鈴木教授が焦点をあてていた層と異なり、園田特任助教によれば、ハイスキル人材は配偶者の帯同が認められている。だが、そうであるだけに、居住環境や家族形成など生活面での支援策の有無が、彼らが日本にとどまるかどうかの判断に大きな影響を与えるとしている。また、日本的雇用慣行の中では、外国人を雇用した企業の意図が十分に伝わっていない、あるいは今の仕事が長期的なキャリアの展望につながらない等の課題があると主張している。これらは、実は外国人材に対してだけではなく、日本人労働者についても生じている課題であり、そういう点では、日本の労働市場全般に関して、より一層の改善の必要性を提示していると言えるかもしれない。
子どもの教育制度に課題、受け入れで多様性ある社会を
ジョナサン・チャロフ・経済協力開発機構(OECD)移民課チーフ政策アナリストは、OECDという、いわば外部の視点から、日本の課題と必要な対策について議論を展開している。日本では外国人労働市場に関するデータが乏しく、企業と労働者のスキルマッチングがうまくいっていないと問題点を指摘する。また、園田特任助教の議論とも関係するが、家族を帯同して来日しても配偶者が日本の労働市場にアクセスすることが制限されていること、また外国籍の子どもに対して教育の義務がないことを課題として挙げている。特に教育制度については、OECD諸国ではみられないものだとして、教育制度上の措置の必要性を強調している。
小路明善・アサヒグループホールディングス株式会社取締役会長はそもそも論として、「なぜ外国人材を日本で受け入れるべきか」を論じている。日本では長らく「協調」が尊重されてきたが、今後は「異論」や「個性」を尊重する文化や意識をいかにつくっていくかが課題である。そのためには、同質的な社会をどう多様性ある社会に進化させるかがポイントであり、それには外国人材の受け入れが契機となるとして、積極的な推進を主張している。また、高度専門人材を受け入れることで、日本の高度専門人材の幅も広がりイノベーションにつながるとしている。さらには、外国人労働者は「働きがい」と「生きがい」を求めており、彼らに対する期待感、高い目標を示すことが重要だとしているが、この点は、今回の5人の専門家の方々の共通の問題意識だと言えるだろう。