気候変動の影響によって今後、全世界的に海面水位が上昇することはほぼ確実とされています。これによって我が国では、多くの砂浜が消失することが懸念されており、最も厳しいRCP8.5シナリオでは2081年〜2100年には83%の砂浜が消失するとの指摘もあります(Udo and Takeda, 2017)。
砂浜を岸沖方向で見た場合の断面形状は、砂浜を構成する砂礫の大きさや来襲する波浪に応じて物理的に安定となる形状が存在すると考えられており、そのような安定形状となった地形は平衡海浜断面と呼ばれています。
海面水位が上昇した場合、水位が上昇した条件にあった平衡海浜断面となるように砂浜の断面形状も変化しますので、砂浜と海の境界となる汀線は、現在の地形のまま水位を上昇させた場合よりも大きくなります(図-1)。これはBruun則と呼ばれています。
このように断面形状だけに着目した場合でも、海面水位の上昇による砂浜地形変化は複雑なのですが、実際には、これに沿岸方向の土砂移動も加わります。また、気候変動の影響によって波の高さや入射方向も変化する可能性が考えられますので、海岸における気候変動適応策を検討する際には、それらを考慮できる予測手法を利用することが必要となります。
気候変動の影響による砂浜の変形は、これまで海岸侵食などが生じてこなかった砂浜でも生じますので、海岸管理者は所管する全ての砂浜について将来予測をおこなわねばなりません。
全ての砂浜について、精緻なシミュレーションを行うと膨大なコストがかかりますので、まずは概略計算をおこない、特に影響が大きい海岸などに絞って詳細計算を行うことで、効率的に検討を進めることが必要となります。
国総研では、Dean and Houston(2016)が提案した手法(図-3)に着目し、概略計算手法として日本国内の砂浜に活用できないか検討を行いました。この手法は、岸沖断面内の土砂量が変らないことを前提としているBruun則を改良し、養浜や沿岸漂砂による土砂量の変化を考慮できるようにしたものです。国総研では、「修正Bruun則」と呼んでいます。
地殻変動等によって相対的な海面上昇を経験した国内の5海岸に修正Bruun則を適用し、深浅測量結果と比較したところ、一部の海岸を除けば概ね±1.0 m/年程度の精度で汀線変化を予測できることが示され、要対策海岸の抽出段階にも活用可能な精度を有することが確認されました。
ただし、パラメータの一つである沿岸漂砂量分布を精度高く予測することが難しいため、沿岸漂砂の感度分析を実施して幅を持った予測を行うなどの工夫が必要であると考えています。
研究成果の詳細は下記論文をご覧ください
概略計算に用いる修正Bruun則で想定する平衡断面形状は非常に単純化されたものであるうえ、沿岸漂砂の効果は別途計算して加えているに過ぎません。この課題を解決するために、「平衡海浜断面の考え方を導入した等深線変化モデル」を用いることで、海面上昇による変形の物理的根拠を明確にしつつ、海面水位の上昇による変形と沿岸漂砂による変形を一体で計算することに成功しています。
研究成果の詳細は下記論文をご覧ください
1)Udo, K. and Takeda, Y.: Projections of Future Beach Loss in Japan Due to Sea-Level Rise and Uncertainties in Projected Beach Los, Coastal Engineering Journal, 59:2, 1740006-16,
DOI: 10.1142/S051856341740006X, 2017.
2)Dean and Houston: Determinig shoreline response to sea level rise, Coastal Engineering, 114, 1-8, 2016.