図2 広く利用されている
標準外径光ファイバのイメージ図
標準外径光ファイバ
国際規格で、光ファイバのガラス(クラッド)の外径は0.125±0.0007 mm、被覆層の外径が0.235〜0.265 mmと定められている。現在の光通信で広く使用されている光ファイバは、外径0.125 mmのシングルコア・シングルモードファイバで、毎秒250テラビットが伝送容量の限界と考えられており、新型光ファイバの研究開発が盛んに行われている。
モード多重技術
光ファイバのコアの中を光信号が伝搬する時は、コアとクラッドの境界で全反射を繰り返しながら、様々な振動状態で進行する。この振動状態の違いが、伝搬モードである。モードの異なる信号では、受信側に届くまでの時間差が生じるため、ファイバの最適化や受信機側での信号処理が必要である。今回の実験で使用した55モード光ファイバは、最低次から55次までのモードを伝搬し、それ以上のモードを制限するとともに、モード間の遅延差を最適化した設計を行っており、コア径は0.050 mmである。
図3 55モード光ファイバの断面とモード伝搬のイメージ図
ペタビット、テラビット
1ペタビットは1,000兆ビット、1テラビットは1兆ビット、1ギガビットは10億ビット。毎秒1ペタビットは、1秒間に8K放送の1,000万チャンネル相当である。
波長帯域
通信用途で主として用いられている、C帯(波長1,530〜1,565 nm)とL帯(1,565〜1,625 nm)、その他に、O帯(1,260〜1,360 nm)、E帯(1,360〜1,460 nm)、S帯(1,460〜1,530 nm)、U帯(1,625〜1,675 nm)がある。今回はC帯のみを使用した。
周波数帯域当たりのビット数
光ファイバの伝送容量を向上させるためには、波長多重技術により広い周波数帯域を使うことと、周波数帯域当たりの情報の密度を高めてより多くの情報(ビット)を送ることが必要である。情報の密度は周波数帯域当たりのビット数(単位: ビット/秒/Hz)で表され、今回の55モード伝送では、以前の15モード大容量伝送の結果と比べて3倍以上となる332ビット/秒/Hzの記録を達成した。
図6 図6 標準外径光ファイバによる大容量伝送の比較
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波長多重技術
異なる波長の光信号を1本の光ファイバで伝送する方式で、波長数に比例し伝送容量を上げることが可能であるが、光伝送に適した波長帯域は限られており、現在の光伝送システムで利用されている波長数はC帯の90程度である。L帯やS帯を併用(マルチバンド化)することで波長数を拡大できる。
4コア光ファイバ
現在、中・長距離通信用に普及している標準シングルコア・シングルモード光ファイバは、毎秒250テラビット程度が容量の限界と考えられている。その問題を解決するために、コア(光の通り道)を増やしたマルチコア光ファイバや、マルチモード光ファイバの研究が進められてきた。4コア光ファイバは標準外径を持つためケーブル化の際に既存製造設備を使用することが可能であり、また、従来の光通信システム向けの光送受信技術を利用できるため、早期実用化が期待されている。
図7 モードごとの伝搬特性の違い
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モードごとの伝搬特性
マルチモード光ファイバでは一般的に、モードによって伝送損失や伝搬時間が異なる。モード間の伝送損失差が大きいと信号の品質が劣化し、伝搬時間の差が大きいと、MIMO処理に必要な回路の規模が大きくなる。
モード合波器/分波器
光源や変調器など、原信号を生成する機器類は、現状全てシングルモード光ファイバの出力であるため、生成された変調信号を用いてマルチモード多重を行うためには、基本横モードから高次横モードへの変換と多重化を行う必要がある。今回の実験で用いた多重器は多重反射位相板を用いたものである。多重反射位相板は、横モードの変換を行う複数の位相板を並べた位相板面とミラーとの間でビームが複数回反射することでモード変換が生じ、複数のビームを用いて高次モードを多重化することができ、小型・低損失・高精度を実現可能である。
MIMO処理
モードにより光信号の到着時間が異なるマルチモード伝送では、モード分離を行う際に、ほぼ必ずMIMO(Multi-input-multi-output)処理が必要となる。MIMOは、無線通信でマルチパス干渉を除去するために用いられる信号処理技術で、光通信においては、同一の光ファイバ内を伝搬する異なる光信号同士の干渉を除去するために使用される。各モードの伝搬速度差に応じてMIMO処理の負荷が高くなり、伝送距離が伸びるに従ってモード分離が困難になる。
16QAM
QAMとは、光の位相と振幅を併用し複数のビットを表現する方式(多値変調)の一種である。16QAMは1シンボルが取り得る位相空間上の点が16個で、1シンボルで4ビットの情報(24=16通り)が伝送でき、同じ時間でOOK(On-Off keying)の4倍の情報が伝送できる。