独立行政法人 情報通信研究機構(以下「NICT」、理事長:宮原 秀夫)は、大規模災害等の発生直後において、周囲から孤立した被災地域との間の通信を迅速かつ簡便に確保するため、コンピュータ制御で自律的に決められた飛行経路を飛ぶことが可能な小型の無人飛行機を活用した"無線中継システム"を開発しました。このシステムは、孤立地域に簡易な地上局を設置し、小型無人飛行機により、その地上局周辺に無線LANによる通信サービスを提供することで、スマートフォンやパソコンなどを用いた被災状況の把握や安否確認など、被災を免れた地域との間の通信を迅速に確保することができます。地上局装置は三脚等を利用した軽量かつ簡易なもので、小型無人飛行機とともに車が使用できない場所であっても手軽に持ち運べ、また、小型無人飛行機は滑走路がなくても飛行させることができるため、ネットワークを迅速、簡便に構築することが可能です。
なお、本成果は、総務省平成23年度補正予算「情報通信ネットワークの耐災害性強化のための研究開発」にて開発したものです。
東日本大震災では、通信設備や道路等が破壊されたため数多くの孤立地域が発生し、現地の被災状況が把握できずに救援活動が遅れたり、現地の住民の安否確認や不足物資の要求ができないなどの事態が発生しました。このような問題に対し、人による持ち運びができ、滑走路不要で、コンピュータ制御による自律飛行が可能な小型の無人飛行機による“無線中継システム”が活用できれば、孤立地域を迅速に特定し、被災状況の把握と通信確保が可能になると期待されています。
近年、小型無人飛行機は災害監視や環境センサとしての用途にも関心が高まりつつありますが、特に災害時を対象とした“無線中継システム”の開発は、これまで、国内はもとより世界でも例がありません。
NICTでは、世界最先端の小型無人飛行機の1つであるPuma-AE(補足資料:表1)を導入し、これに搭載する無線中継装置と地上に設置して用いる簡易型の地上局装置とで構成される「小型の無人飛行機を活用した“無線中継システム”」を開発しました。このシステムは、小型無人飛行機1機で中継した場合には、4〜5km程度の離れた地上の2地点を結ぶことができます。また、2機同時に飛行させて2機間を中継させることにより、通信距離を更に2km程度延ばすことが可能です。通信速度は500kbps程度まで可能で、最大通信可能時間は無人飛行機搭載バッテリの制約から1時間程度です。
3月25日(月)〜26日(火)に仙台で開催される「耐災害ICT研究シンポジウム及びデモンストレーション 災害に強い情報通信技術発表会 -つながる!こわれない!-」(http://www.d-wks.net/nict130325/)にて、実際に小型無人飛行機を1機あるいは2機飛行させて無線中継を行うデモンストレーションを行います。このデモでは、孤立地域に見立てた場所に設置した2ヶ所の通信用地上局間を、上空を旋回飛行する無人飛行機経由で接続し、タブレット端末を用いた通話や安否確認を行う様子をご覧いただけます。また、このネットワークは、別途構築された「耐災害ワイヤレスメッシュネットワーク」に接続されており、地上の無線通信経路と無人飛行機経由の通信経路との間で相互に切り替えることもできます。
将来は、本システムを防災関連機関等が常備することで、大規模災害時の迅速な通信確保が期待されています。今後は、より多数の無人飛行機による通信距離・通信範囲の拡大や通信速度の高速化、無人飛行機間の共存、地上の無線システムとの間の電波の共用、並びに利用分野の拡大などの課題に取り組んでいきます。
GPS(全世界測位システム)受信機能、加速度センサ、ジャイロセンサ等の位置・姿勢センサ、及びそれらのデータをもとに、あらかじめ決められた経路をプログラム通りに飛行するための搭載コンピュータと姿勢制御装置等を備え、人が乗って操縦することなく自律的に飛行させることができる飛行機。「無人航空機」と呼ぶ場合には、固定翼型(飛行機タイプ)と回転翼型(ヘリコプタータイプ)とを指すが、「無人飛行機」は固定翼型を指すことが多い。
無線通信を利用してデータの送受信を行うローカルエリアネットワーク(LAN)システム。米国電気電子学会(IEEE)が標準化したIEEE802.11b、同802.11g、同802.11a、同802.11nなどの規格が普及し、日本では電波法上の小電力データ通信用無線局に分類される。技術基準適合証明は必要だが、無線局免許は不要である。市販のパーソナルコンピュータやスマートフォン等のほとんどの機種に標準で組み込まれており、無線LANアクセスポイントと呼ぶ小型基地局装置を経由して、無線によるインターネット接続やメール送受信、端末間相互のネットワーク接続が可能である。
総務省平成23年度補正予算「情報通信ネットワークの耐災害性強化のための研究開発」により、NICTが開発した強い耐災害性を持つワイヤレスネットワーク。複数の固定型あるいは可搬型の簡易基地局を網の目状(メッシュ状)に無線で接続し、一部の基地局が災害等により損傷を受けても、他の生き残った基地局が相互に協力し、全体として通信機能を最大限維持することができる。また、各基地局はデータを一時蓄積するキャッシュ機能を持ち、さらにそれらのデータが基地局間で同期することにより、通常インターネットでアドレス割当てに必要なネームサーバが不要で、災害等でインターネットへの接続が失われることがあっても、メッシュネットワーク内でアドレス割当てを解決して通信の相手先を見つけ、通信を確立することができる。さらに、利用者がもつスマートフォンやタブレット端末が内蔵するアプリケーションソフトウェアと連携し、特定の集中管理型のアプリケーションサーバを介することなく利用者端末間で、安否確認や情報共有、位置情報配信などが可能なため、ネットワークが災害で深刻なダメージを受けた場合でも、アプリケーションサービスが維持される。
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