〜サングラス・腕時計・杖などに無線通信システムを装着〜
独立行政法人情報通信研究機構(以下「NICT」、理事長:宮原 秀夫)は、超広帯域信号(UWB信号)の世界共通ハイバンドを用いたボディエリアネットワーク(BAN)システムの試作に成功しました。
BANシステムは、「サングラス」のフレームに取り付けた小型カメラからの画像、「腕時計」型ユニットで取得した体温・脈波・血中酸素飽和度(SpO2)のデータ、及び「杖」に取り付けた超音波センサーからの障害物情報を、UWBを用いて「腰ベルト」装着型のハブユニットに送り、交通信号色等の情報を音声で案内する機能を備えています。また、同システムの媒体アクセス制御(MAC)には、策定中の国際標準規格IEEE802.15.6準拠の方式を実装しました。
BANシステムは、各種生体センサー(脈波、SpO2、体温等)を用いることにより、生活習慣病予防や高齢者見守り等に役に立つほか、ゲームコントローラやワイヤレスヘッドホン等、身の回りで用いる娯楽用小型端末間の音声、画像、データのワイヤレス伝送にも利用できるシステムです。
BANシステムを構築する上で、UWBは、低消費電力で低電力密度(補足資料:図1)特性が好ましいため、BAN物理層技術の1つとしてIEEE802.15.6の中で標準化されており、NICTの技術も多く採用されています。ただ、その使用周波数はローバンドとハイバンドに分けられており、ローバンドは他の無線システムの利用も見込まれ電波法上の制限が多くあるため、世界で共通に利用できる「UWBハイバンド」を用いたBANシステムの開発が求められていました。
なお、現在策定中のIEEE802.15.6は、人体上及びその近傍に配置される小型デバイスを無線で結ぶボディエリアネットワーク(BAN)の仕様を定める国際標準規格です。
NICTは、一昨年に試作した日本のUWBハイバンド(7.25-10.25GHz)を用いたBANシステムを進化させ、このたび、その3分の1の帯域幅の世界共通UWBハイバンド(7.7376-8.2368GHz)を使用したBANシステムの開発に成功しました。IEEE802.15.6 に準拠のMACを実装しており、装置の省電力化と高信頼化を実現しています。
また、今回のBANシステムは視覚障がい者の安全補助に役立つ機能を備えています。サングラスにカメラを取り付けて交通信号などの色信号を取得・識別させ、腕時計からは脈波、SpO2、体温などのデータ、杖からは進路障害物検知情報などを取得させます。これらの情報をUWB経由でベルト装着ユニットに送り、音声に変換することで、視覚障がい者に音声案内をすることが可能です(補足資料:図2)。
なお、生体データは前回同様、一般の健康見守りなどにも活用できます。
(https://www.nict.go.jp/press/2010/05/10-1.html)
世界共通UWBハイバンドを用いたIEEE802.15.6 MAC準拠のBANシステムは、認証を受ければ米国、欧州、日本等で免許不要で利用ができ、視覚障がい者の安全補助のみならず、健康見守りなどのヘルスケア分野やゲームコントローラなどの娯楽分野への利用普及が期待されています。なお、本成果の一部を、7月5日(火)〜6日(水) にパシフィコ横浜で開催されますワイヤレス・テクノロジー・パーク2011に展示いたします。
(http://www.wt-park.com/)
UWB(超広帯域)とは、非常に広い周波数帯域幅にわたって電力を拡散させ、低い電力密度(補足資料:図1)をもって通信及び測距測位を行う無線技術です。電力を抑え周波数を重畳して利用することにより、他の無線システムとの共存が図れる技術として注目されています。一般にUWBに割り当てられている周波数帯は2つあり、それぞれUWBローバンド(3.1〜4.8 GHz、ただし、国内では3.4〜4.8 GHz)とUWBハイバンド(6.0〜10.6 GHz、ただし、国内では 7.25〜10.25 GHz)と呼ばれています。
国と地域によって使えるUWBハイバンドの周波数は異なるため(例えば、米国では6.0〜10.6GHz、欧州では6.0〜8.5GHz、日本では7.25〜10.25GHz等)、国際標準規格では、世界で共通に利用できるUWBハイバンドを強制チャネルとして定義することが多くなっています。IEEE802.15.4a及びIEEE802.15.6等では、強制チャネルとして中心周波数が7987.2MHzで、帯域幅が499.2MHzのUWBハイバンド(7.7376-8.2368GHz)を定義しています。
ボディエリアネットワーク(BAN)は、体の上、中及びその極近辺に配置されている小型デバイスを無線で結ぶことによって構築される無線ネットワークのことです。BANの小型デバイスに各種生体センサーを取り入れて用いることによって、生活習慣病予防や高齢者見守り等に役に立つ一方、ゲームコントローラやワイヤレスヘッドホン等の身の回りで用いる娯楽用小型端末間の音声、画像、データのワイヤレス伝送にも利用できます。
呼吸により肺胞にて血液に取り込まれた酸素は、大部分が赤血球中のヘモグロビンに結合し、末梢組織に運ばれます。酸素飽和度(So2)は、ヘモグロビンの何%が酸素と結合しているかを示すパラメータで、正常の動脈血のSo2は93%〜96%です。一方、SpO2は、プローブを指先や耳などに付けて、傷つけまた、痛みを与えることなく、パルスオキシメータで求める経皮的酸素飽和度のことです。
ワイヤレス通信ネットワークなどにおいて、多元接続通信を可能とするための制御機構(デバイスの送受信方法、誤り検出、データ再送など)について規定するものです。
IEEE802標準化委員会は、様々なワイヤレスネットワークの標準規格を策定している組織で、これまでにIEEE802.16 WiMAX、IEEE802.11 WLAN、IEEE802.15.1 Bluetoothなどの標準規格を策定してきました。IEEE802.15.6はボディエリアネットワークのための標準規格で、2011年5月現在ドラフト第3版の策定が完成されており、NICTからの物理層技術及びMAC層技術の提案が数多く採用されています。同標準規格は2011年内の成立を目指しています。
ディペンダブルワイヤレス研究室
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