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ゲノム生物学研究分野

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ゲノム生物学研究分野では、「がん細胞やがん罹患者のゲノムを把握し、その生物学的意義・特徴を明らかにすることで、個別化医療を実現するためのがんの予防・診断・治療の標的となるシーズ(種)を同定する」ことを目的としています。
がん細胞は、正常細胞にはないゲノムの異常、つまり体細胞変異を獲得しています。例えば、日本人の肺腺がんではがん遺伝子EGFRの変異が30-50%に見られます。このようながんを持つ患者さんにはゲフィチニブ/エルロチニブというEGFRタンパク質に対する分子標的薬が著効します。私たちはRETキナーゼ遺伝子の融合が肺腺がんの2%に存在することを発見し、RETタンパク質のキナーゼに対する阻害剤を用いた肺がん治療法の探索を進めています。その中で、「アロステリック効果をもつ変異」というRET阻害剤に対する新しい治療耐性機構も明らかにしました(後述)。

LC-SCRUM-Japanや製薬企業と協働することで、ゲートキーパー変異を獲得することでRET阻害剤バンデタニブに耐性化した肺がんが、新しいRET特異的阻害薬Selpercatinib/Retevmo™ (LOXO-292)に対しては治療効果を示すことを論文発表しました。同薬剤は、一年以上の治療効果を示すこと、初回治療例の85%で治療効果が見られることなどから、2020年5月米国FDAにより薬事承認されました(臨床試験結果はNew England Journal of Medicine誌に掲載)。また、2020年9月に次のRET阻害剤Pralsetinib/Gavreto™ (BLU-667)が米国FDAにより薬事承認されました。Selpercatinib/Retevmo™は2021年9月27日に日本国内でも薬事承認され、12月13日に保険収載されました。現在はRET融合陽性の肺がんに対する標準的な治療法となっています。

RET2022J
2019年6月より、がん遺伝子パネル検査が保険診療として開始され、がんゲノム医療が大きく推進しています。がん遺伝子パネル検査が医療現場に導入されることで、がんの新しい病因の発見、正確な病態の把握が可能となると期待されます。例えば私たちは、がん遺伝子パネル検査の結果に基づいて、母親の子宮頸がんが羊水を介して出産時に子供の肺に移行し、小児肺がんの原因となることを発見しました。

くろまる 2021年1月7日 母親の子宮頸がんが子どもに移行する現象を発見ーNew England Journal of Medicine誌に論文発表ー
[画像:NEJMii]
一方、がん遺伝子パネル検査では、検出されても薬物治療に到達しない遺伝子変化が多く存在します。臨床現場で検出される意義不明変異(VUS: variants of unknown significance)の解釈は、患者さんへの薬剤到達率の向上に大きく貢献すると考えられます。私たちは、スーパーコンピュータを用いた分子動力学シミュレーションなどを利用した先駆的な意義付けを行うことで、がんゲノム医療の推進を目指しています。

[画像:CaLM1.jpg]

[画像:CaLM2.jpg]

遺伝子パネル検査はがんゲノム医療の起点であり、今後、全ゲノムシークエンス解析への展開が大きく期待されています。私たちは、最も悪性度の高い肺がんである肺小細胞がんの全ゲノムシークエンス解読を国際共同研究で行い、クロマチン制御遺伝子CBP/EP300の失活変異を明らかにしました。 現在は、肺がんに加え、婦人科がんなどの全ゲノムシークエンス解析を進めています。


日本人やアジア人では、欧米とは異なるリスク因子を保持しており、非喫煙者における肺がんの発生やEGFR変異を持つ肺がんの発生が多いなど、特徴があります。そこで、当分野では発生初期の肺がんや非喫煙者、受動喫煙者の肺がんのゲノム変化を調べることで、日本人やアジア人の肺発がんの分子機構を解明しています。


また、ゲノム配列には個人差があり、血液型やHLA型に代表されるような遺伝子多型が存在します。私たちは、アジア人に多いEGFR遺伝子変異陽性の肺腺がんへのなりやすさに、TERTやHLAクラスII遺伝子の個人差が関係することを突き止めています。このような遺伝子の情報を用いることで、肺がん高危険度群を把握し、予防・早期発見することが可能になると考えます。

[画像:EGFRGWAS3]
また、全国の施設のご協力のもと、大規模な生殖細胞系列変異の解析を行っています。がん研究センター中央・東病院、社会と健康研究センター、がん情報センター等のスタッフと協力し、肺がん、婦人科がんなどを対象に研究を進めています。

クロマチン制御遺伝子変異に関する治療法の探索は、がん治療学研究分野で推進されています。

臨床の先生方へ

ゲノム解析・がん診療シーズの同定に興味のある先生方、独特・稀ながん発症例(若年発症がん、前がん病変多発例等)・治療著効例・重篤な副作用例を受けもたれた先生方、共同研究、ポスドク・外来研究員等、歓迎いたします。当研究室では、大学の呼吸器、婦人科、臨床検査科など様々な専門の若いドクターが一緒に研究しています。ゲノム解析や細胞・たんぱく質実験だけでなく、ゲノム情報解析やスーパーコンピュータを用いたin silico シミュレーションなど、多彩な研究参画が可能です。国立がん研究センターが連携する大学院での学位取得もできます。河野(tkkohnoくろまるncc.go.jp(くろまるを@に置き換えてください))までご連絡いただけますと幸いです。

基礎医学研究に興味のある方へ

医療を変えるような研究に挑戦しませんか。ゲノム解析や細胞・たんぱく質実験だけでなく、ゲノム情報解析やスーパーコンピュータを用いたin silico シミュレーションなど、多彩な研究参画が可能です。ポスドク、研修生・外来研究員の応募をご希望の大学生・大学院生・臨床医の方は、河野(tkkohnoくろまるncc.go.jp(くろまるを@に置き換えてください))にお問い合わせください。企業の方、臨床医の方、国立がん研究センターが連携する大学院での学位取得もできます。また、研究補助員として、研究経験のある主婦の方等も歓迎します。

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