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JILPTリサーチアイ 第82回
介護離職問題とEBPM

著者写真

多様な働き方部門 副統括研究員 池田 心豪

2024年7月24日(水曜)掲載

労働政策研究とEBPM

現在、JILPTでは定期的に厚生労働省と共同でEvidence-Based Policy-Making(略称EBPM)に関する勉強会を開いている。Evidenceとは客観的根拠、Policy-Makingは政策立案のことだから、EBPMとは客観的根拠にもとづく政策立案ということになる。政府全体でEBPMを推進するため「EBPM推進委員会」新しいウィンドウが開かれ、厚生労働省でも「厚生労働省のEBPM推進に関わる有識者検証会」新しいウィンドウを開いている。そうした時代の要請に応えて、JILPTもEBPMに貢献しようという話である。

そのようにいうと違和感をもつ読者がいるかもしれない。JILPTは、これまでも政策立案の根拠となる資料を厚生労働省に提供してきたからである。しかし、これまでJILPTが蓄積してきた政策研究と、EBPMのための政策研究は似て非なるところがある。どちらも客観的根拠にもとづく政策立案を強調しているが、問題関心の持ち方が異なる。

筆者は昨年(令和5年)度に第46回労働関係図書優秀賞をいただいた拙著『介護離職の構造─育児・介護休業法と両立支援ニーズ』(JILPT第4期プロジェクト研究シリーズNo.4、2023年3月刊行、以下『介護離職の構造』と略す)の中で、自身が採用してきた政策研究の方法とEBPMの関係を整理している。本稿では、その後さらに考えたことを加え、同じく介護離職問題を題材に、今後の労働政策研究のあり方を考察したい[注1]。(ただし、以下の内容はJILPTの組織としての見解ではなく、筆者の個人的な見解である。)

効果検証と実態把握

筆者の介護離職研究は、JILPTの研究員になった1年目、厚生労働省から介護休業制度の利用状況を調査してほしいという要請を受けたことに始まる[注2]

育児・介護休業法(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律)は、1991年制定の育児休業法(育児休業等に関する法律)に介護に関する規定を加える改正として1995年につくられた。当時は、家族が要介護状態になった直後(介護の始期という)に、脳血管疾患等、原因疾患の発症にともなう緊急事態への対応とその後の介護生活の準備(体制構築という)のため、3か月程度の休業が必要になるという想定で3か月1回の介護休業を企業に義務づけていた。

だが、その利用状況は明らかでなく、果たして労働者は介護離職を回避するために介護休業制度を利用しているのか、言い換えれば、介護休業制度は介護離職防止策として役に立っているのか、という問題意識が当時の厚生労働省にあった。近年のEBPMは政策の効果検証に強い関心を持っているが(大竹・内山・小林編著 2022[1] )、介護休業制度に関する研究も当初はこれに近い問題意識を持っていたといえる。

実際、育児・介護休業法の「育児」については、データ分析によって、育児休業(育休)の効果検証を試みた研究が多数発表されており、厚生労働省は、その知見を踏まえて育休取得促進に取り組んでいた。介護休業についても同じような問題意識を持つのは自然なことである。

しかし、介護については、離職するか否かにかかわらず、休業取得者が極めて少なかった。実際、全国規模の調査やモニター調査で介護休業取得実態の把握を試みたが、分析に耐えうるサンプルを確保することはできなかった[注3]。ヒアリング調査においても、介護休業取得者を1名ようやく見つけることができたという状態である[注4]

それどころか、介護休業を取りたいという声が当事者から聞こえてこない。その一方で、介護休業を取らずに継続就業している労働者も少なくなかった。介護休業制度はそもそも必要なのか考えてしまう、そのような状況であった。

では、介護休業を取っていない労働者は、どのようにして仕事と介護の両立を図っているのか。介護休業制度の効果という問いはひとまずわきに置いて、当事者の実態を調査することにした。

調査結果から、育児・介護休業法が想定する介護の始期に仕事を休む労働者は少なくないが、多くは年次有給休暇(年休)等、介護休業以外の方法で仕事を休んでいることが明らかになった。つまり、介護休業制度が想定するような3か月もの連続休暇が必要というわけではなかったのである[注5]。厚生労働省はこの結果を参考にして、1日単位で年5日取得できる介護休暇[注6]を2009年の育児・介護休業法改正で新設した(厚生労働省 2008[2] )。その意味で、厚生労働省は客観的根拠にもとづいて政策をつくっている。しかし、それはEBPMが想定する客観的根拠とは性質が異なる。

つまり、政策研究には「効果検証」と「実態把握」という2種類の問題意識がある。

政策の効果検証に関心を傾けるEBPMは介護休業制度を利用できれば離職を防止できるという前提のもと、この制度が政府の期待どおりに機能しているかを問題にする。

しかしながら、仕事と介護の両立を図る当事者の行為は、育児・介護休業法という政策の想定の外部に広がっていた。介護休業に介護離職を防止する効果が仮にあったとしても、その効果が及ぶ範囲は極めて限られている。そうであるなら、介護休業制度の想定の外部に広がる実態を明らかにし、これに対応した両立支援制度をつくる必要がある。介護休業制度とは別につくられた介護休暇は、その成果の1つである。

2016年の育児・介護休業法改正では、図1に示すような形で、仕事と介護の両立支援制度を体系的に整備し直した。具体的には、日常的な介護に対応した支援として、勤務時間短縮等の選択的措置義務の期間を3年に拡大し、所定外労働の免除を新設した。さらに、介護の長期化に備えて、93日の介護休業を3回に分けて取得できるようにした。

このときも筆者がJILPTで行った調査の結果(労働政策研究・研修機構 2015[3] )が参考にされたが、既存の制度の効果検証より、既存の制度の想定の外部にある実態の把握に関心が向けられた(厚生労働省 2015[4] )。つまり、厚生労働省は客観的根拠にもとづいて政策をつくったが、やはりEBPMとは問題意識の持ち方が異なっていた。

もちろん、育児・介護休業法に介護離職の防止という目的がある以上、法定の両立支援制度が想定したとおりに機能しているかという問題は避けられない。だが、1995年制定の育児・介護休業法は、介護の始期にのみ焦点を当てており、介護離職の実態に照らして対応できる範囲が極端に狭かった。日常的な介護に対応した支援として2009年に介護休暇がつくられていたが、それだけでは不十分だという問題意識もあったことから、法制度の対応範囲を広げることがまずは優先された。

実態を想像できる問題と想像できない問題

介護離職研究において既存の制度の効果より、新しい制度の必要性が先に検討されたのは、育児・介護休業法の想定になかった実態が調査を通じて次々と明らかになったからである。

労働問題には、調査研究を始める前に現場の実態を想像できる問題と想像できない問題がある。「実態を想像できる」とは、研究者や政策担当者等がもともと持っている知識を貼り合わせれば、現場で何が起きていて、当事者がどのような政策を必要としているか予想がつくという意味である。研究の文脈でいえば、仮説を立てるのに十分な予備知識があるということになる。

例えば、育児・介護休業法という法律の名称が示すように、介護も育児も家族のケアという意味では同じという前提で考えれば、育児休業(育休)において起きている問題は介護休業においても起きているだろうと考えることができる。

筆者が介護離職研究を始めた2005年当時は育休について(1)「育休を取りたい女性労働者は多い」が(2)「育休を取りづらい」ために(3)「出産退職をする女性労働者が多い」という問題が指摘されていた。同じことが介護においても起きていると考えれば、(1)「介護休業を取りたい労働者は多い」はずだが、(2)「介護休業を取りづらい」ために(3)「介護離職をする労働者が多い」はずだという仮説を立てることができる。

つまり、「実態を想像できる問題」については、研究対象をみなくても、想像の範囲で論理的に辻褄の合うことがいえる。計量分析においては、とりわけそうである。y=f(x)という関数が示すのはxとyの関係であり、実物としてのxとyの性質は問わない。関数が示すxとyの関係が同じであれば、xとyに入るのは育児でも介護でも良い。

しかし、介護離職問題においては「介護休業を取りたい労働者は多い」という最初の想定が外れていた。そうであるなら、「介護休業を取りづらい」か否かは大した問題ではなくなる。そのため、「介護休業を取りづらい」から「介護離職をする労働者が多い」という想定も的外れになる。

では、どのような問題で介護離職をしているのか、介護離職を回避するためにどのような両立支援制度が必要なのか。その答えを筆者も政策担当者も最初は持ち合わせていなかった。つまり、現場の実態を想像できなかった。

想像できないものを想像できるようにするためには、新たな知識を得る必要がある。そのために文献サーベイはもちろん大事である。だが、文献を読めば分かるものを「想像できない」というのは単なる勉強不足である。文献で得られない知識を得るために調査をする必要がある。

その結果をもとに、介護休暇等、新しい制度がつくられたことは前述のとおりであるが、さらに調査を重ねると、想像していなかった実態が次々と明らかになった。

育児・介護休業法は、仕事と介護の生活時間配分の観点から両立支援制度を設計している。勤務日・勤務時間に介護に関する用事が入るために、仕事を休んだり、勤務時間を変更したりする必要があるという発想である。しかし、実際は、介護疲労や介護による傷病といった自分自身の健康状態悪化が仕事と介護の両立を難しくしているケースがある。また、どのように介護をするかという介護方針によって介護負担が変わる面もある。同程度の要介護状態であっても、要介護者自身にできることは自分でさせるという方針であまり手助けをしない者もいれば、多少でも不自由がないよう何でも手助けをするという者もいる。当然のことながら、後者の介護負担は前者に比べて重くなる。

要するに、「介護は育児と違う」ということである。それまで介護離職の実態を想像できなかったのは、介護を育児と同じようにとらえる先入観があったからである。

介護を育児と同じように考えれば、育休と同じように介護休業が必要となり、その期間は長い方が離職防止につながるという発想になる。しかし、実際に利用されているのは、付与された日数の範囲で休暇の取得期間を自由に調節できる年休のような制度である。介護を育児と同じようにとらえる意識が強いと、労働者がなぜそのような行動を取るのか理解できずに、実態を捉え損なう。

だが、「介護は育児と違う」と仮定すると筋が通る。仕事と家庭の両立支援を生活時間配分の観点からとらえることも、もともとは育児の発想である。介護は育児と違うのだから、労働者の健康問題やケアへの関わり方という育児では問題になっていなかった問題が浮上してくることも納得できる。拙著『仕事と介護の両立』(中央経済社、2021年)では、この「介護は育児と違う」という原則に沿って、仕事と介護の両立支援の考え方を整理した。

さらに、拙著『介護離職の構造』では、多様な介護問題に対応できるよう、育児・介護休業法の対応範囲を広げる制度づくりの考え方を示した。そのデータ分析の結果から、短時間勤務を介護休業や介護休暇と代替的な制度として位置づけることで、介護による健康状態悪化や人間関係に起因する介護負担の増加など、多様な介護問題に対応しうるポテンシャルがあることを指摘した。

図2は、その要点を示しているが、実線の四角は現行法が対応可能な問題の範囲である。現行法の短時間勤務はフレックスタイムや時差出勤と代替的な位置づけになっている。だが、点線で囲っている短時間勤務のニーズは、現行法の制度より広い範囲に及んでいる。フレックスタイムや時差出勤と代替的な短時間勤務という発想は、もともと育児についてあったものである(池田 2007[5] )。だが、短時間勤務のニーズも介護と育児は違うのである。

図2 介護休業・介護休暇と代替的な短時間勤務が対応できる問題の範囲

[画像:図2の画像]

出所:『介護離職の構造─育児・介護休業法と両立支援ニーズ』 p.251

ここまで来ると介護は「実態を想像できる問題」になったということができる。「介護は育児と違う」という原則を踏まえれば、現場でどのようなことが起きているか大体想像がつくようになる。もちろん調査結果が想像を裏切る可能性はある。だが、「実態を想像できない問題」ではなくなった。

介護離職研究の方法

初めは想像できなかった介護離職の実態を想像できるようにするために、筆者はこれまで以下のような研究方法を採用してきた。

  1. 事例調査による個別・具体的な状況把握
  2. 記述統計による定量的な事実関係の把握
  3. 介護離職に関連する諸変数の特定
  4. 介護離職の原因の特定

実態を想像ができないなら、現場に赴き、当事者に話を聞いてみる。これにより現場で何が起きているかを知ることができる。百聞は一見にしかず、である。これが1つ目の事例調査による個別・具体的な状況把握である。

しかし、個別事例について今ここで聞いた事実と同じことが、別のところでも起きているとは限らない。そこで、事例調査をもとに定量的な調査を行う。ただし、いきなり因果関係を解明するようなことはできない。まずは、記述統計により定量的な事実関係を把握する。これが2番目である。

その上で、3つ目として、定量的に把握された事実の中から変数どうしの関連性を発見する作業がある。XとYに関連性があるということは、Xという事実が変化すればYという事実も変化するということである。これを相関関係という。相関関係は、XとYの近さを表すと理解すると分かりやすい。例えば、介護離職(Y)が身近な問題であるのは、どのような労働者かという問いを立てる。その1つの答えは、介護によって自身の健康状態が悪化している人(X)であるということが相関関係からみえてくる(池田 2021[6] ; 2023[7] )。

相関関係の中で、Xが原因、Yが結果という影響関係があるものを因果関係という。つまり、この4つ目の段階にきて初めてEBPMが関心をもつ因果関係を問題にできる。実は、筆者の介護離職研究は、まだ因果関係の解明には至っていない。因果関係がどのように成り立つかの仮説的枠組みをEBPMではロジックモデルという(大竹・内山・小林編著 2022[8] )。拙著『介護離職の構造』は、このロジックモデルを示したところで終わっている。筆者の介護離職研究は15年を超えるが、想像がつかない実態を想像できるようにし、因果関係の解明に設けたロジックモデルをつくるという作業に、それだけの時間がかかったということである。

なお、労働政策研究においては、事例調査と定量調査のどちらか一方ではなく、どちらも必要になることがよくある。厚生労働省の政策は全国一律の基準により、多くの企業や労働者に影響を及ぼす。その意味で、政策立案の根拠も全国規模の大規模データであることが望ましい。しかし、政策をつくった後、企業や労働者の個別相談に応じ、指導・助言・情報提供を行うことを踏まえるなら、研究成果の知見にも具体性があった方が良い。その意味で、事例調査の結果も政策判断の重要な資料になることがある。

構造論と機能論

実態把握調査の基本的関心は、当事者の行為の規則性を明らかにすることである。その行為の規則性に対応して法制度という規則をつくれば、現場を統制できるという考え方がそこにはある。サッカーやバスケットボールのような球技に例えるなら、相手の攻撃パターンに対応した守備陣形をつくれば、失点を防げるという発想に近い。

人々の行為の規則性を社会構造という(Giddens 2006[9] )。その意味で、人々の行為の規則性に対する関心は「構造論」という言葉で括ることができる。

社会構造は人々の行動範囲や動線に表われる。例えば、人々の行為に道路の左側を歩くという規則性がある場合、これは道路の右側は歩かないということでもある。あるいは、左側を歩く人と右側を歩く人がいる場合に両者を区別して理解する、つまり多様な実態を類型化するのも構造論的な研究方法の1つである。また、多くの人が左側を歩く場合にこれを典型的とし、少数の人が右側を歩くのは非典型であるとすることも構造論的な理解の1つである。

介護離職問題でいえば、介護責任を有する労働者の中で、ある人は離職をし、別の人は継続就業するという行為の違いに着目し、離職者と継続就業者の行動範囲や動線の違いを類型的に明らかにしようとするのが、構造論的な研究関心であるといえる。

そのように整理すると、介護離職のほかにもJILPTには様々なテーマについて構造論的な研究成果が数多くある。例えば、働き方やキャリアの多様化の実態を明らかにする研究や、その実態を「典型」と「非典型」に分ける問題意識は構造論的であるといえる。

だが、介護離職問題には、離職者と継続就業者の特徴を明らかにすることだけでなく、離職者が継続就業するようになって欲しいという、変化を期待する問題意識がある。政策としては、仕事と介護の両立支援制度が整うことで、労働者に介護離職を思い留まって欲しいという期待がある[注7]。つまり、人々の行為に影響力を及ぼすことにより、現場の実態を望ましい方向に変えたいという意図がある。再びサッカーやバスケットボールのような球技に例えるなら、守備陣形を整えることで相手が攻めて来られなくなるようにしたいという問題意識に近い。

このような研究関心は、Yに対するXの作用を問題にしているという意味で機能論ということができる。EBPMが関心をもつ政策の効果検証は機能論的アプローチの1つである。機能は英語でいうとfunctionつまり関数である。社会現象をy=f(x)という関数で理解しようとする研究関心は典型的な機能論であるといえる。

強調したいのは、構造論と機能論はどちらも政策研究に必要ということである。図3は、政策立案にとっての「実態把握」と「効果検証」の位置づけを整理したものである。

まず、「労働現場の実態がわからない」という問題があるときには、その「実態把握」のための調査を行う。その結果にもとづいて「政策立案」をする。その政策を前提に再び現場の「実態把握」をし、必要に応じて新たな「政策立案」をするという「実態把握」と「政策立案」のサイクルがある。

図3 政策研究のサイクル

[画像:図3の画像]

政策はScott(2006)[10] がいう「制度的構造」に当たり、現場の実態は「関係的構造」に当たる[注8]。その意味で「実態把握」と「政策立案」のサイクルは、構造論的な関心にもとづいているといえる。

一方、政策の効果検証は、機能論的な研究という意味で、実態把握とは区別される。繰り返しになるが、政策には、人々の行為に影響力を及ぼすことで、問題になっている実態を望ましい方向に変化させる目的がある。だが、ある政策を実施した後に現場の実態が期待した方向に変化したとしても、それは当の政策の効果ではなく、偶然そうなっただけかもしれない。観測された変化が政策の効果だといえるためには、そうした疑いを払拭する必要がある。その意味で、政策の効果を問題にするときは、政策実施後の実態把握だけでは不十分であり、これとは別の手続きによる効果検証を行う必要がある。

なお、どのような構造(規則)がどのような機能(効果)をもつかという、構造と機能の組み合わせに着目する研究方法を構造-機能分析という。政策という規則の効果を問題にする政策研究の基本的枠組みは、構造-機能分析であるといえる。その枠の中で、個々の研究者の関心が構造と機能のどちらかに傾斜することがあったとしても、構造論か機能論のどちらか一方があれば良いという話にはならない。

筆者の研究は「介護離職の構造」を解明することに注力してきたが、構造-機能分析という観点で考えるなら、介護離職の防止を目的とした政策の効果を検証することは今後の重要な課題である。

要するに、EBPMに資する政策研究は、これまでJILPTが蓄積していた政策研究と同じものだとはいえないが、従来の政策研究に取って代わるものでもない。両者は補完的な関係にあるため、構造論的なアプローチに加えて機能論的なEBPMに取り組むことにより、精度の高い政策研究ができるようになる。EBPMに関する厚生労働省とJILPTの勉強会は、そのために行っているといえる。

参考文献

脚注

注1 仕事と介護の両立を図る者を「ビジネスケアラー新しいウィンドウ」と呼ぶことがある。しかし、ケアラー支援の先進国であるイギリスにbusiness carerという言葉はなく、working carer (PDF)new windowというのが一般的である。したがって日本でも専門家は「働く介護者」と和訳するか、「ワーキングケアラー」というのが一般的である。だが、厳密にいえば、労働政策として育児・介護休業法が定める仕事と介護の両立支援の目的は介護支援ではなく就業支援であり、その意味で支援の対象は介護者(ケアラー)ではなく労働者(ワーカー)である。そこで、本論では介護者ではなく労働者を主体にして「介護責任を有する労働者」(英語でいうemployees with caring responsibilities (PDF)new window)という言い方を採用する。

注2 その成果は労働政策研究・研修機構(2006b)[11] として公表されている。

注3 全国規模の調査は労働政策研究・研修機構(2006a)[12] 、モニター調査は労働政策研究・研修機構(2006b)[13] を参照。

注4 ヒアリング調査の結果は労働政策研究・研修機構(2006b)[14] を参照。

注5 その背景として、池田(2010)[15] は2000年に始まった介護保険制度により、在宅介護サービスの利用が拡大していることが関係していることを指摘している。

注6 現在は年5日分を時間単位で取得できる。

注7 2024年改正育児・介護休業法では、両立支援制度の実効性を確保するために、従業員が介護に直面する前に制度の情報を周知し、仕事と介護の両立しやすい雇用環境の整備を行うことが企業に義務づけられた。これに関する研究として、佐藤・松浦・池田(2017)[16] は、セミナーやリーフレットを通じて企業から労働者に両立支援制度の情報を提供することにより、介護に直面した場合も仕事を続けられると思う確率が上昇することをデータ分析により明らかにしている。また、同法では、介護に直面した従業員に両立支援制度を個別に周知し、制度の利用意向を確認することも企業に義務づけられた。

注8 制度的構造とは「規範的パターン」として「人びとの行為を統制し導く」構造であり(Scott 2006=2021, p.193)、関係的構造とは、「行為者たちのお互いに対する一般的で持続的な関係性-個別具体的な相互作用の背後に存在している『構造的様式』」(Scott 2006=2021, p.194)である。池田(2023)[17] は、この2つの構造概念を軸に、今後の育児・介護休業法の課題を論じている。

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