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アジア経済研究所>図書館>ライブラリアン・コラム>2024年>アジ研ライブラリアン、「地方志」の森を歩く(村田 遼平)

ライブラリアン・コラム

アジ研ライブラリアン、「地方志」の森を歩く

村田 遼平

2024年7月

「地方志」とアジア経済研究所図書館

「地方志」(中国語では「方志」ともいう)と呼ばれる資料がある。中国大陸や台湾等で編纂・刊行されてきたこの資料には、特定の地域に関する地理、歴史、産業、人物等の幅広い情報がまとめられており、ある地域について知りたい場合に参照すべき資料といえよう1 。地方志の刊行が一般化したのは宋代(10〜13世紀)以降とされており、中華人民共和国成立以前のものは「旧地方志(旧方志)」、成立以後に編纂されたものが「新地方志(新方志)」と呼ばれることもある。

地方志は日本にも多く伝来している。旧地方志については、日本国内主要機関の所蔵目録や研究書が刊行されているほどである2 。一方、いまなお継続的に刊行されている新地方志については、国立国会図書館をはじめ3 、各地の大学図書館、専門図書館等に所蔵されている4

開発途上国・地域に関する資料を収集するアジア経済研究所図書館(以下、当館とする)もまた、日本国内では比較的多くの新地方志を所蔵する図書館であり、ウェブサイトには当館所蔵の地方志に関するページもある。筆者はもともと19〜20世紀前半に刊行された地方志(つまり、旧地方志)に興味をもっていたが、丹治(2022)を読んだことから、当館における新地方志の所蔵状況が気になり始めた。上掲のウェブページに掲載されている地方志はある時期までに受け入れられたものに留まっているようであり、実際にはもうすこし数が多いように思われた。さらには、当館所蔵の地方志のほとんどは特定の請求記号が付されているものの、省ごとに所蔵数等を把握することが容易ではないために、所蔵する地方志に地域的偏差があるのか(それともないのか)等、中華圏の地域担当者としても気になることが増えていった。

そこで2022年7月頃より、当館で所蔵する地方志の地域分布等を把握すべく、関連情報の確認作業を始めた。しかし、5000冊以上の冊数があること、図書館運営に係る業務の合間を縫って作業を行わなければならないこと等の理由により、遅々として作業を終えることができなかった。着手から2年が経たんとする今般、ようやく一段落がついたため、作業結果からわかったことを簡単に述べたい。

当館はいったいどのような地方志を所蔵しているのか?

前述のように、当館所蔵の地方志は、その多くが特定の請求記号(Ch/308)を付与されている。2024年6月現在、当該請求記号の付される地方志は約6500冊である。このなかには上下巻のように同一タイトルで複数巻からなる資料も含まれるため、こうした重複を除くと、約5500タイトルとなる。ここでは、この点数を2024年6月現在の当館が所蔵する地方志のタイトル数とみなし5 、以下、いくつかの観点に即してみていこう。

まず、刊行年である。図1は、刊行年別の所蔵点数を表したグラフである6 。この図からは、1992年から2004年頃までに一つの山があり、続いて2006、2007年、そして2009年、2011年に所蔵点数が多いことがわかる。最初の山は、中華人民共和国における最初の地方志編纂サイクル(中国では「首輪」と呼ばれる)が1980〜2000年にかけてあったこと(丹治 2022, 7)が、当館の所蔵状況にも反映されたことから生じたものであろう。他方で、2020年までに刊行を終えることとされた第二の地方志編纂サイクル(「第二輪」)は、第一サイクルほどには当館の所蔵状況と連関していないようである。

図1 アジ研所蔵点数(刊行年ごと)

[画像:図1 アジ研所蔵点数(刊行年ごと)]

(出所)筆者作成

次いで、省別の分布をみてみよう。図2は、直轄市・省・自治区からなる省レベル(省級)の行政単位ごとに、地方志の所蔵点数を多い順に表したものである。山東省、貴州省、四川省の順番で所蔵数が多い。一方で、最少は重慶市で、次いでチベット自治区、海南省となっている。

図2 アジ研所蔵点数(省ごと)

[画像:図2 アジ研所蔵点数(省ごと)]

(出所)筆者作成

中国の行政区画は四層構造(省レベル・地レベル・県レベル・郷鎮レベル)からなる7 。タイトル等の情報から、各地方志の対象地域がどの階層に相当するのかを確認した結果を基に、省レベルの行政単位ごとに、行政階層別の所蔵点数の割合を示したグラフが図3である。この図からは、当館で所蔵する地方志の行政階層の比率について、省ごとにバラつきがみられることがわかる。もちろん、この所蔵状況は刊行点数の多寡に依存的であることは付言しておきたい。また、当館では、貴州省における地レベルの地方志の所蔵数が多いことは興味深い。

図3 行政階層別アジ研所蔵点数の割合(省ごと)

[画像:図3 行政階層別アジ研所蔵点数の割合(省ごと)]

(出所)筆者作成

最後に、刊行年ごとに行政階層別割合の内訳を示したものが、図4である。県レベルの地方志が各年ともに一定の割合を占めていることが確認できる。ただし、ここ10年程の間に刊行された地方志については、省レベルのものが当館所蔵点数のうち多数を占めており、県レベルは相対的に少なくなっている。

図4 行政階層別アジ研所蔵点数の割合(刊行年ごと)

[画像:図4 行政階層別アジ研所蔵点数の割合(刊行年ごと)]

(出所)筆者作成

いくつかのグラフを掲示しつつ、当館が所蔵する地方志の概況をみてきた。確認作業を始める際は、所蔵数と地域分布が確認できればという程度に考えていたが、当初想定していたよりも当館の資料収集に関する示唆を得て、考えさせられることが多かった。地方志という、当館の所蔵する中国語資料の一ジャンルをみたにすぎないものの、当館の資料収集活動を顧みるとともに、今後の資料収集のあり方を考える際にも参考とすることができるかもしれない。

また、本記事のタイトルでは地方志を森になぞらえてみた。これまで筆者は、個々の樹木(=個別の地方志やその内容)にのみ関心を払っていたが、いったん地方志という広大な森の中を歩き始めたところ、森の奥深さや植生の豊かさは想像以上であった(「方志学」という学問分野があることに鑑みれば、当然のことかもしれない)。したがって、今後さらに刊行が続いていくであろう地方志という資料全体を考える際にも、その推移や地域的偏差に注目していきたい。

インデックス写真の出典
  • 筆者撮影
参考文献
  • 川島真・小嶋華津子編著(2020)『よくわかる現代中国政治』京都:ミネルヴァ書房。
  • 国立国会図書館参考書誌部アジア・アフリカ課編(1969)『中国地方志総合目録──日本主要図書館・研究所所蔵』東京:国立国会図書館参考書誌部。
  • 齊藤まや(2010)「地域の百科事典──中国の地方志と国立国会図書館における所蔵状況」『アジア情報室通報』第8巻第1号。
  • 丹治美玲(2022)「中国の地方志と国立国会図書館における所蔵状況──2022 年 3 月時点」『アジア情報室通報』第20巻第2号、https://doi.org/10.11501/12307317。
  • 巴兆祥(2008)『中国地方志流播日本研究』上海:上海人民出版社。
  • 山根幸夫(1993)「中国の地方志について──県志を中心に」『歴史学研究』641号。
著者プロフィール

村田遼平(むらたりょうへい) アジア経済研究所学術情報センター図書館情報課。担当は中華圏。

この著者の記事
  1. 地方志に関する調べ方案内として、「中国・台湾の地方志」(リサーチ・ナビ)(https://ndlsearch.ndl.go.jp/rnavi/asia/post_93)[2024年6月21日アクセス]が便利である。
  2. 例えば、国立国会図書館参考書誌部アジア・アフリカ課編(1969)、巴(2008)。
  3. 国立国会図書館における所蔵状況については、齊藤(2010)、丹治(2022)を参照。
  4. 研究者の個人蔵もそれなりの数量になるかもしれない。
  5. ただし、Ch/308以外の請求記号にも地方志に該当する資料があると思われるため、この数字はあくまで参考値である。
  6. なお、約5500タイトルのうち4点は、刊行年が特定できないために図1から除外している。
  7. なお、直轄市(省レベル)には地レベルの行政区画がない。

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