アジア経済研究所発展途上国研究奨励賞

ジェトロ・アジア経済研究所では1963年より、日本の発展途上国研究の水準向上と研究奨励を目的に、途上国研究に関する優秀図書を選定、表彰しています。
((注記)1963年〜1979年「優秀論文賞」、1980年より「発展途上国研究奨励賞」)

本ページに関するお問い合わせ先

ジェトロ・アジア経済研究所 研究事業開発課
Tel:043-299-9667
FAX:043-299-9731
E-mail:shourei

第45回「アジア経済研究所発展途上国研究奨励賞」(2024年度)受賞作品

ジェトロ・アジア経済研究所は、1963年以来、開発途上諸国の経済などの諸問題に関する優秀図書、論文の表彰を行ってきました。1980年度に創設された「発展途上国研究奨励賞」は、開発途上国・新興国または地域に関する社会科学およびその周辺分野における調査研究の優れた業績を評価し、この領域における研究水準の向上に資することを目的としています。

今回、選考の対象となった作品は、2022年10月〜2023年9月の1年間に公刊された図書で開発途上国・新興国または地域の経済、社会などの諸問題を調査、分析したものです。大学や出版社等から推薦された43点の中から次の1点が受賞作品として選定されました。

第45回(2024年度)受賞作品

書籍:都市化の中国政治 土地取引の展開と多元化する社会

都市化の中国政治――土地取引の展開と多元化する社会――』(名古屋大学出版会)

著者 鄭 黄燕 公益財団法人後藤・安田記念東京都市研究所 研究員

表彰式は7月1日(月曜)に、アジア経済研究所にて開催されました。

(左から木村所長、名古屋大学出版会・三木氏、
鄭氏、倉沢委員長、竹中選考委員)

(受賞講演)

受賞のことば(鄭 黄燕氏)

この度は、歴史あるアジア経済研究所発展途上国研究奨励賞をいただくという幸運にあずかり、大変うれしく存じます。本書を読んでくださった選考委員の先生方、学生時代からご指導をいただいてきた高原明生先生、そして編集にあたってくださった名古屋大学出版会の三木信吾様および井原睦朗様、今まで暖かく見守ってくださった多くの方々に、心より御礼申し上げます。今回の受賞を励みとして、今後、一層学術調査研究に邁進していきたいと思います。

近代化(modernization,中国語では「現代化」)のなかの中国をどう捉えるか、どうすれば中国各地でみられるさまざまな現象が理解できつつ、中国に限らない、より普遍的な科学的知見の創出に貢献できるかを考え、その一環として着目したのが、都市農村関係です。

都市と農村の間の格差は、近代化過程の政治的帰結であり、その調整はどの国も直面する課題として政治学では論じられています。計画経済期を経てから市場経済化が進むなかで、急激な都市化を経験するようになった現代中国社会でも、都市農村間の開発利益の分配が課題となってきました。既存の知見に基づいて考えれば、歳入増加を図る都市政府が不動産開発企業と利益を共有して潤い、農民は土地の収用に強いられて不利益を被るという構図が示されます。その一方で村人が、巨額の立退料や株の配当金を受け取るケースも少なからず耳にします。本書では、誰が得をし誰が損をしたかを問い、開発利益の分配過程を体系的に考えることを試みました。

中国の複数の都市近郊の現地調査を行い、土地利用にかかわる制度の分析に基づき、比較事例研究に挑戦しました。それを通じてまず、取引の対象となる土地の用途すなわち農業用地、事業用地、住宅用地ごとに利益分配の交渉過程が異なることを浮き彫りにしました。その上で都市化の異なる経路を形作った都市農村関係にある農村コミュニティを「都市を作った村」「都市に吸収される村」「都市と協調する村」に類型化し、これらに分岐した原因を考察しました。

そのうち、農村コミュニティが都市を作り、開発利益の分配をめぐって都市側と競合する現象に中国の特殊性を見出しました。こうしたケースでは、都市側に先立って地域の産業転換を推進したリーダーがいて、そのリーダーと村人は、土地をふくむ共同所有の資産を原資とする会社の経営陣と株主に変身していく動きをみせ、都市社会の確立過程で資産を所有する団体を成立させたのです。制度整備の過程で土地の利用形態を農業から不動産業へ転換したタイミングが開発利益の確保につながったことが推論できます。

独特な側面を持ちながらも、どの国にも共通して見られる点があることが、本研究の醍醐味です。今後も引き続き、既成概念にとらわれず現場主義を基に、社会科学研究を貫いていく所存です。

<鄭 黄燕氏略歴>

2011年 北京大学政府管理学院卒業
2022年 東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了 博士(法学)
2024年 公益財団法人後藤・安田記念東京都市研究所 研究員

<主要著作>
  • 『都市化の中国政治――土地取引の展開と多元化する社会――』名古屋大学出版会、2023 年

最終選考対象作品

最終選考の対象となった作品は受賞作のほか、次の2点でした。

  • 『社会的企業の挫折――途上国開発と持続的エンパワーメント』(名古屋大学出版会)
    著者:一栁 智子 立命館大学OIC総合研究機構・客員研究員
  • 『国王奉迎のタイ現代史――プーミポンの行幸とその映画』(ミネルヴァ書房)
    著者:櫻田 智恵 上智大学総合グローバル学部助教、京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 特任助教

選考委員

委員長
倉沢 愛子 氏(慶應義塾大学 名誉教授)

委 員
遠藤 貢 氏(東京大学大学院総合文化研究科 教授)
木村 福成(ジェトロ・アジア経済研究所 所長)
栗田 禎子 氏(千葉大学大学院人文科学研究院 教授)
竹中 千春 氏(立教大学法学部 元教授/兼任講師)
藤田 幸一 氏(青山学院大学国際政治経済学部 教授)

担当部課
ジェトロ・アジア経済研究所 研究推進部 研究事業開発課
TEL: 043-299-9667 FAX: 043-299-9731 E-mail:ShoureiE-mail

アジア経済研究所のウェブサイトでは、サイトの利便性向上を目指して、クッキー(Cookie)を使用して、ソーシャルメディア機能の提供や、サイト内のアクセスログの収集を行っています。「同意する」を選択すると、クッキー(Cookie)を用いたアクセスログの収集に同意いただいたことになります。「Cookie を拒否する」を選択すると、ソーシャルメディア機能は制限されます。クッキー(Cookie)の利用に関しては「個人情報の保護について」をご参照ください。
個人情報の保護について

AltStyle によって変換されたページ (->オリジナル) /