音声広報CD「明日への声」トラックナンバー5 vol.98(令和6年(2024年)7月発行)
(イントロダクション:女性ナレーター)
森林は、木材などの生産に加え、水源を蓄え、土砂災害を防止し、生物多様性を保全するほか、地球温暖化の原因とされる二酸化炭素(CO2)の吸収など、様々な役割を果たしています。その森林を守っていくため、生活の中で木材を積極的に利用していくことが大切です。ここでは国産木材を利用して森林を守る仕組みをご紹介します。
(本文:Q.女性ナレーター/A.男性ナレーター)
Q1:「木材を使うこと」と「森林を守ること」は、矛盾しているようにも思えますが、国産木材の利用を促進する意義について教えてください。
A1:はい。まず、森林には大きく2つの種類があります。1つは国立公園や世界遺産などに指定されている天然林や原生林などの「保護すべき森林」、もう1つは、人が木材を利用するために木を植え、育てている「人工林」です。戦後の木材需要の拡大に伴い木材の供給量は増加していき、それにあわせて、国内の人工林は、若い森林を育てる時代に入りました。現在、これまで育ててきた人工林の5割以上が木材として利用可能な50年生以上を迎えました。これからは、伐採した木材を利用し、伐採後に新たな森林を育てる「森林資源の循環利用」をすることが2050カーボンニュートラルを実現するためにも求められています。
Q2:「森林資源の循環利用」とは、どのようなことですか?
A2:健全な森林を育てるためには、ただ木を植えるだけではなく、成長に伴って過密となった森林の密度を調整するため、適度に木を伐って間引く「間伐」などの手入れを行いつつ、育てば伐採して、建築物や家具などに利用し、また新たな木を植えるといった一連のサイクルが欠かせません。
Q3:植える、育てるだけではなく、適切に伐採することが必要なのですね。
A3:そうです。間伐などの整備が行われることで、地表近くまで日光が届き、根や幹の成長が促進されますし、下草が生えることで、豊かな土壌が育まれて土砂崩れを防ぐなどの機能を発揮します。また、適切に伐採し若返りを図ることで、CO2の吸収量が向上し、無花粉スギなどに植え替えることで、花粉症対策にも寄与します。
Q4:私たち一人ひとりが国産の木材を利用すれば、その販売利益によって森林を植え、育てることに還元され、日本の森林と林業を守ることにつながりますね。
A4:はい。それだけではなく、木材を利用することは、私たちの生活にも大きなメリットをもたらします。近年、最も注目されているメリットの一つが、地球温暖化を防ぐカーボンニュートラルの実現に貢献することです。森林にはCO2を吸収し、炭素を固定化する機能があるため「炭素の貯蔵庫」と呼ばれています。この機能は、伐採された後の木材やその木材に加工がされた後も、燃やさない限り変わりません。そのため、成熟した木々を収穫し、住宅を建てれば、森林と同じような貯蔵庫が都市にもできるのです。このことから、木造住宅は「第二の森林」「都市の森林」などと言われています。また、木材は製造・加工時のエネルギー消費が鉄やコンクリートなど他の建築資材よりも少ないため、排出削減にもつながります。
Q5:住まいや家具、身の回りのものを木製品に変えることが、カーボンニュートラルの実現にも役立つのですね。木造建築は、通気性や調湿性、断熱性に優れていて、高温多湿な日本の風土に適していることは以前から知られていますが、その他にもメリットはあるのでしょうか?
A5:木造建築には、消臭や抗菌、ダニやアレルギー物質の防除といった効果もあります。さらに、滑りにくく、転倒時の衝撃を緩和するなど、住まいの安全・安心への効果も検証されつつあります。また、これまでの研究では、住宅の天井や床、内装に木材を使用することで、体をリラックスさせる効果や、良い眠りを引き出す効果、こどもの集中を助ける効果なども報告されています。
Q6:生活空間に木材や木製品を増やすことで、私たちの生活や心がより豊かになるのですね。こどもを木のおもちゃに触れさせる「木育」という言葉を聞いたことがあるのですが、これも木の効果を利用したものなのでしょうか。
A6:「木育」は、こどもだけではなく、大人までのすべての人を対象にした「木とふれあい、木に学び、木と生きる」取組として、全国で広がっています。木のおもちゃに触れる体験や木工ワークショップ、関係者間の情報共有やネットワーク構築などを促すイベントの開催など、様々な活動が行政や木材関連団体、NPO、企業などの幅広い連携により実施されています。
Q7:木材という再生可能な資源を暮らしに取り入れ、持続可能な社会へ変えていくために、現在はどのような取組が行われているのでしょうか?
A7:林野庁では、木材利用を促進するための国民運動として、2005年度から木材の木と書いて「木づかい運動」を展開しています。近年では「ウッド・チェンジ」を合い言葉に、情報発信や普及イベントの開催など、木材を利用する意義を周知する取組を推進しています。ウッド・チェンジロゴマークの活用も通じて、木づかい運動の輪を広げつつ、2021年には、林業関係者や木材供給団体、建設業界、地方自治体などが幅広く参画する「ウッド・チェンジ協議会」が発足しました。また、2010年には「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が制定され、公共建築物における床面積ベースの木造率は2010年の8.3%から2021年には13.8%まで上昇しました。こうした取組を民間の建築物にも拡大するために、2021年に同法が改正され、「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」と名称が改められました。
Q8:様々な側面から、森林や林業を守るための取組が進んでいるのですね。
A8:そうですね。さらに、国民に広く木材利用の促進について関心と理解を深めてもらうため、漢数字の「十」と「八」を組み合わせると「木」になることにちなみ、10月8日が「木材利用促進の日」、10月が「木材利用促進月間」と法律の中で定められています。
Q9:私たちの暮らす日本は、森と海に囲まれた自然豊かな国です。海が豊かな生物を育むにも、その川上にある森林が豊かであることが欠かせないですね。
A9:はい。「森は海の恋人」とも言われます。そうした森と海との関係から、海を象徴するサザエさん一家が、2023年4月から木材利用促進活動に協力してくれることになりました。その名も「森林の環応援団」です。森林資源の循環利用の意義について、より多くの人に知っていただけるよう、これからもサザエさん一家とともに、様々な活動を展開していきます。また、国産木材の利用について、政府広報オンラインで紹介していますので、「政府広報オンライン 国産木材」で検索してみてください。
(エンディング:女性ナレーター)
木材を利用するメリットは、環境への貢献だけでなく、住まいの安全・安心や心身のリラックスなどにも効果を発揮します。身近なものを木材に変えることで、私たちの生活はより豊かになると言えるでしょう。「ウッド・チェンジ」を合い言葉に、「木づかい運動」が展開されている今、私たち一人ひとりにできることも考えていきたいですね。