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■しかく 生物系分野
直接肉眼では見ることができず、顕微鏡等で観察される微小な生物の総称である。通常、細菌、菌類(酵母、かび等)、原生動物(原虫類等)、ウイルス等を指し、一部の藻類を含めることもある。一部のものは、ヒトを含む動植物に対して病原性を持っている。
食品の安全性で問題になる微生物としては、サルモネラ属菌や黄色ブドウ球菌等の細菌、トキソプラズマ等の原虫類、かび等の真菌、ノロウイルス等のウイルス等が挙げられる。
核膜のない原核生物に属する単細胞の微生物の一種である。大きさは0.1〜数 μm(1 μm=100万分の1 m)で、球状・桿状・らせん状等の形態である。二分裂を繰り返して増殖する。広く生態系の中で物質循環に重要な役割を果たしている。
ウエルシュ菌やボツリヌス菌、セレウス菌、枯草菌等の特定の細菌が作る細胞構造の一種。生育環境が増殖に適さなくなると、菌体内に形成する。芽胞は加熱や乾燥等の過酷な条件に対して強い抵抗性を持ち、発育に適した環境になると、本来の形である栄養細胞となって再び増殖する。
遺伝情報である核酸とそれを保護するタンパク質からなる最も構造の簡単な微生物の一種。核酸の種類により、RNAウイルスとDNAウイルスに分かれる。ウイルスの大きさは数十〜数百 nm(1 nm=10億分の1 m)で、最小の生物といわれている。ウイルスは、それ自身では増殖することができず、他の生物(ヒトを含む動物・植物・細菌)に感染し、その細胞中のタンパク質合成やエネルギーを利用してはじめて増殖できる。
植物又は動物の体内で自然に産生又は蓄積される毒のことであり、それぞれ植物性自然毒、動物性自然毒と呼ばれる。自然毒の例として、毒キノコのアマニチンやイボテン酸等、ジャガイモのソラニン、フグのテトロドトキシン等がある。
自然毒の一つで、ジャガイモの芽や表皮が緑色になっている部分に多く含まれる。摂取2〜24時間後におう吐、下痢、食欲減退等の中毒症状が起こり、大量に摂取すると死に至る場合もある。ジャガイモの食中毒を防ぐには、芽や緑の部分を十分取り除くことが大切である。
一部のかびが穀類等の農産物や食品等に付着・増殖して産生する毒素の総称。一般に、かび毒は耐熱性であり、加工・調理の段階で毒素の量や強さを低減させることが難しいため、農作物の生産、乾燥、貯蔵等の段階で、かびの増殖やかび毒の産生を防止することが重要である。湿潤かつ温暖な我が国は、かびの生育に適していることから、気象条件や農作物の防除・取扱いの方法によってはかび毒を産生する可能性がある。かび毒の例としては、アフラトキシン、オクラトキシン、パツリン、デオキシニバレノール、フモニシン等がある。
土壌や食品等自然界に広く分布する真菌類のうち、不完全菌類に属するかびであるAspergillus flavus 及びAspergillus parasiticus によって産生されるかび毒。落花生や木の実、穀物等の汚染の例がある。
食品安全委員会では、平成21年3月に、アフラトキシンのうち、B1、B2、G1及びG2の4種をまとめて総アフラトキシンとして食品健康影響評価書を取りまとめた。総アフラトキシンは遺伝毒性が関与する発がん物質であると判断され、発がんリスクによる評価が実施された。食品からの総アフラトキシンの摂取は、合理的に達成可能な範囲で出来る限り低いレベルに抑えるべきとされた。
また、平成25年7月には、乳中のアフラトキシンM1及び飼料中のアフラトキシンB1について食品健康影響評価書を取りまとめた。アフラトキシンB1を摂取した動物の乳に含まれるアフラトキシンM1も肝臓に対する発がん性があり、遺伝毒性が関与する発がん物質であると判断され、発がんリスクによる評価が実施された。飼料中のアフラトキシンB1の乳等を介したヒトへの影響は極めて低いものと考えられるものの、汚染はできる限り低いレベルに抑えるべきとされた。
Aspergillus ochraceus等のかび類が産生するかび毒。穀類及びその加工品、コーヒー、ココア、ビール、ワイン等の様々な食品で汚染の例が報告されている。
食品安全委員会では、オクラトキシンAについて、平成26年1月に食品健康影響評価書を取りまとめ、非発がん毒性に関する耐容一日摂取量(TDI)を16 ng/kg体重/日、発がん性に関する耐容一日摂取量を15 ng/kg体重/日と設定した。
亜急性毒性試験では、腎毒性が認められた。慢性毒性・発がん性試験では雄の腎臓に腫瘍が認められた。
ペニシリウム属(Penicillium,アオカビ)又はアスペルギルス属(Aspergillus, コウジカビ)の一部のかびが産生するかび毒。りんごジュースの汚染が問題となっている。
食品安全委員会では、平成15年7月に、厚生労働省からの諮問に対し、薬事・食品衛生審議会において行われたパツリンの暫定耐容一日摂取量(PTDI)を0.4 μg/kg体重/日と設定するとの評価結果を妥当と考える、との結果を公表した。パツリンは消化管の充血、出血及び潰瘍を起こす。
穀類等で赤かび病の原因となるGibberella zeae及びその無性胞子を形成する不完全世代のFusarium graminearum、F. culmorum等により産生されるB型トリコテセンに属するかび毒。小麦、大麦及びトウモロコシの汚染の例がある。
食品安全委員会では、食品健康影響評価書を平成22年11月に取りまとめ、無毒性量(NOAEL)を0.1 mg/kg体重/日とし、耐容一日摂取量(TDI)を1 μg/kg体重/日と設定した。
実験動物を用いた毒性試験では、主におう吐、摂餌量の減少、体重増加抑制及び免疫系に及ぼす影響が認められた。
穀類等で赤かび病の原因となるGibberella zeae及びその無性胞子を形成する不完全世代のFusarium graminearum、F. culmorum等により産生されるB型トリコテセンに属するかび毒。世界的にはデオキシニバレノール(DON)ほどは問題になっていないが、日本では麦類で汚染の例がある。
食品安全委員会では、食品健康影響評価書を平成22年11月に取りまとめ、最小毒性量(LOAEL)を0.4 mg/kg体重/日とし、耐容一日摂取量(TDI)を0.4 μg/kg体重/日と設定した。
実験動物を用いた毒性試験では、主に摂餌量の減少、体重増加抑制及び免疫系に及ぼす影響が認められた。
フモニシンは、フザリウム属(Fusarium)の一部のかびが産生するかび毒。トウモロコシから高頻度、高濃度の汚染の報告があり、フモニシンB1が最も多く、B2、B3と続く。ウマの白質脳症やブタの肺水腫等の家畜への影響のほか、トウモロコシ加工品を主食としている地域において、新生児の神経管への催奇形性を示唆する報告がある。また、ラットやマウスを使った動物試験では、肝臓や腎臓に発がん性が認められている。
食品に起因する胃腸炎、神経障害等の中毒症の総称で、その原因物質によって微生物性食中毒、自然毒食中毒(毒キノコ、フグ毒、かび毒等が原因)、化学物質による食中毒、その他のもの(寄生虫等)、原因不明なものに分類される。
微生物性食中毒は細菌性食中毒とウイルス性食中毒に分けられ、このうち細菌性食中毒は、感染型と毒素型に分類される。
感染型食中毒:食品中に増殖した原因菌(サルモネラ属菌、リステリア・モノサイトゲネス、腸炎ビブリオ、エルシニア菌等)を食品とともに摂取した後、原因菌が腸管内でさらに増殖して臨床症状が引き起こされる食中毒。
毒素型食中毒:生菌を摂取するのではなく、食品中で原因菌が増殖し産生された毒素の摂取によって引き起こされる食中毒のこと。黄色ブドウ球菌、ボツリヌス菌、セレウス菌、ウエルシュ菌等が原因菌となる。
食品の保存性の指標値のひとつ。微生物が生育するために利用できる食品中の水分(※(注記)1)の割合。
食品の水蒸気圧(P)(※(注記)2)/純水の水蒸気圧(P0)で求められる。
※(注記)1 食品に含まれる水分は、食品中のたんぱく質、炭水化物等の成分と結合した水と蒸散や吸水が自由にできる水に分けられ、微生物が利用できるのは後者の水である。
※(注記)2 食品を入れた密閉容器内の蒸気圧。
(参考)
水分活性(Aw)は、純水では1、完全に乾燥した食品では0となるので、0〜1の範囲となる。細菌は水分活性の高い環境(0.9以上)でよく生育し、カビは比較的低い水分活性の環境(約0.7)でも生育する。また、食塩を高濃度添加した塩蔵品は水分活性が低下し、保存性が増加する。
ヒトや動物の消化管に生息する腸内細菌で、その一部は病原性を示す。よく知られているものとしてはサルモネラ・エンテリティディス(S. Enteritidis)やネズミチフス菌(サルモネラ・ティフィムリウム(S. Typhimurium))等がある。このエンテリティディスやティフィムリウムという呼称は、抗原性の違いに基づいた血清型の名前である。チフスとパラチフスの原因菌もサルモネラ属菌であるが、食中毒起因菌とは異なる。
サルモネラ属菌による食中毒は、我が国での発生件数が多いものの一つである。卵又はその加工品を原因としたサルモネラ・エンテリティディスによる食中毒は、近年、生産〜販売における本菌低減対策の効果により発生が少なくなっている。
ヒトや動物の表皮や粘膜等に常在する細菌で、毒素を産生し食中毒の原因菌となる。顕微鏡で観察するとブドウの房のように複数の細菌が集団を形成し、培地上で黄色のコロニーを形成することからこの名前が付いている。
酸素のある条件では生育できない偏性嫌気性細菌(酸素が極めて少ない状態でのみ発育する菌をいう。)で、食品の中で増殖した菌により産生されたボツリヌス毒素が食中毒の原因となる。また、乳児では大腸内細菌叢が発達していないため、大腸内で増殖した本菌が産生する毒素によって乳児ボツリヌス症を起こすことがある。産生する毒素の種類によって、A型菌からG型菌に区分される。食中毒は主にA型菌、B型菌、E型菌によるものが多い。
諸外国:食肉製品や野菜缶詰、瓶詰を原因食品とするA型菌、B型菌が多い。乳児ボツリヌス症の場合、蜂蜜、コーンシロップ等からの感染がある。
夏期に海水温が上昇する沿岸海域及び汽水域の海水及び水底の汚泥等に広く分布し、海水、魚介類から分離される、通性嫌気性の好塩性の細菌で、主に生の魚介類を介して食中毒を引き起こすが、近年の食中毒の発生は減少傾向にある。魚介類を生食する習慣のない国ではあまり見られない食中毒である。
ヒトの腸管や腎臓等に対する細胞毒性を有するベロ毒素を産生し、出血を伴う腸炎や溶血性尿毒症症候群(HUS)を起こす病原性大腸菌。
欧米:ハンバーガー、ローストビーフ、アップルジュース等
ヒトや動物の腸管に生息する偏性嫌気性の芽胞形成菌で、腸管内で芽胞を形成するときに産生されるエンテロトキシン(腸管毒)によって食中毒が起こる。エンテロトキシンは易熱性(60 °C、10分で失活)である。
通性嫌気性の芽胞形成菌であり、土壌やヒトの腸管にもみられる常在菌で、食中毒を引き起こす。菌の産生するセレウリド(おう吐毒)によるおう吐型とエンテロトキシンによる下痢型がある。
おう吐型:食品中で産生された毒素(セレウリド)が原因で発症する毒素型であり、潜伏期は30分〜6時間。主症状は吐き気、おう吐。
下痢型:食品内で増えた菌が喫食され、腸管内での細菌の増殖とともに産生された毒素(エンテロトキシン)によって起こる感染型であり、潜伏期は8〜16時間。主症状は下痢、腹痛。
下痢型:食肉、野菜、スープ、弁当等。
豚等の家畜や犬、猫等のペットやネズミにみられる通性嫌気性の細菌で、動物には症状を起こさない不顕性感染である。保菌している動物の糞便を介して汚染された食肉や飲料水の摂取により食中毒が起こる。保育所や小学校で集団食中毒が起こることがある。
温血動物の腸内に広く分布する微好気性の細菌で、鶏、牛、豚をはじめ、犬、猫、小鳥等からも検出される。我が国で発生している細菌性食中毒の中で、発生件数が最も多い。
急激に手足の筋力が低下し、症状が進行する末梢性の多発性神経炎で、数週間持続する。ポリオの減少した現在、最も多く見られる急性弛緩性麻痺疾患。カンピロバクター感染も同症候群を誘発する要因の一つとして考えられているが、その機序等は未解明。
動物の体内では、腸内に常在する細菌で、哺乳類、鳥類、魚類等広範囲の動物に存在する。また、自然界に広く分布する。乳、食肉等、様々な食品が汚染され、低温長期保存中に増殖すること等で食中毒を起こす。その汚染源、経路は良く分かっていないが、諸外国ではRTE食品を介したリステリア症が多数報告されている。
ノロウイルスはヒトの腸で増殖し、ヒト−ヒト感染のほか、糞便(ウイルス)で汚染された食品による食中毒も多発。我が国で発生している食中毒の中で、発生件数・患者数が最も多い。冬季を中心に、年間を通して胃腸炎を起こす。
A型肝炎ウイルスとE型肝炎ウイルスによって起こる肝炎のこと。ウイルスを原因とする肝炎は、現在のところA型からG型までとそれ以外に分類されるが、そのうちA型とE型肝炎は食品や井戸水を介して、経口的に感染する。海外では大規模な感染の例が報告されている。
E型肝炎は、近年、日本で、生又は加熱不十分の鹿肉や猪肉を食べたことにより感染した例、あるいは加熱不十分な豚のレバー等を食べて感染したと推測される例がある。
HEVは加熱により感染性を失うことから、猪、鹿、豚等の獣肉及び内臓については中心部まで十分に加熱調理を行う。
ネコを固有宿主(終宿主)とする原虫であるコクシジウムの一種。Toxoplasma gondii の感染によって起こる人獣共通感染症をトキソプラズマ症という。
旋毛虫(トリヒナ、Trichinella spp.)は、宿主域及び分布域が極めて広く、人獣共通感染症の原因となる。小腸粘膜に寄生したものを腸トリヒナ、筋肉に寄生したものを筋肉トリヒナという。
筋肉トリヒナ:筋肉痛、発熱、悪寒、浮腫等。
少数感染の場合は無症状で経過することも多いが、多数感染で最悪の場合には、感染4〜6週間後、呼吸麻痺を引き起こすことにより死に至る。
条虫類(サナダムシ)の一種である条虫属(Taenia属)の寄生虫で、人獣共通感染症の原因となる。有鉤条虫(Taenia solium)による有鉤条虫症(成虫による感染症)と有鉤嚢虫症(幼虫による感染症、cysticercosis)がある。
有鉤嚢虫症:ヒトの皮膚の下や筋肉に寄生した場合は、大豆やクルミの大きさの無痛性の瘤が形成され、軽い炎症性反応を生じる。その後、3〜6年で虫体が死滅した後、組織の石灰化が起こる。脳や脊髄、眼球、心筋に寄生した場合、症状は重篤で、神経症状や心機能障害を起こす。
条虫類(サナダムシ)の一種である条虫属(Taenia属)の寄生虫で、人獣共通感染症の原因となる。無鉤条虫(Taenia saginata)により無鉤条虫症(成虫による感染症)を引き起こす。有鉤条虫と異なり、ヒトが虫卵を経口摂取しても感染は成立しない。
成虫がイルカ、クジラ等の海洋に生息する哺乳類の胃に寄生する線虫であるアニサキス亜科(Anisakidae)の幼虫の総称。
急性胃アニサキス症:食後、数時間後から十数時間後に心窩部に激しい痛み、悪心、おう吐を生じる。
急性腸アニサキス症:食後、十数時間後から激しい下腹部痛、腹膜炎症状等を示す。
通常、感染から3週間で自然に消化管内から消失する。
慢性症状:自覚症状を欠く場合が多い。
ヒラメの筋肉に寄生する粘液胞子虫。
下痢性貝中毒を引き起こす原因となる貝毒。
藻類である渦鞭毛藻(うずべんもうそう)が産生するシガトキシン及びその類縁化合物をいう。シガテラ毒素が蓄積された魚類を喫食することによって発生する食中毒をシガテラという。
フグ中毒の主な原因物質である。両生類のイモリ類、Atelopus属のカエル(ヤドクガエル類)、巻貝であるボウシュウボラ、バイ等、多様な生物に存在が確認されている。
(1) 口唇部及び舌端が軽く痺れ、指先に痺れ、歩行が困難。頭痛や腹痛を伴うことがある。
(2) 不完全運動麻痺、おう吐後、運動不能になり、知覚麻痺、言語障害が顕著になる。呼吸困難を感じ、血圧降下が起こる。
(3) 全身の麻痺、骨格筋が弛緩し、発声困難となる。血圧の著しい低下、呼吸困難となる。
(4) 意識消失が見られ、呼吸が停止し、さらに心拍停止に至り、死亡する。
(以下の説明は、ヒスタミン食中毒の原因物質としてのヒスタミンについての解説である。)
ヒスタミン食中毒の原因となる物質。
ヒスタミンが高濃度に蓄積された食品を口に入れたときに唇や舌先に通常と異なる刺激を感じる場合がある。
ヒスタミンの基準値は、国際的指標となるCodex規格で、ヒスチジン含量が多い魚種を対象に、腐敗基準として10 mg/100 g、衛生及び取扱基準として20 mg/100 gと定められている。
食後数分〜30分位で顔面(特に口の周りや耳たぶ)が紅潮し、頭痛、じんま疹、発熱等の症状を呈すが、6〜10時間で回復する。現在までに死亡例の報告はない。ヒスタミンに対する感受性には個人差があるが、食中毒事例からの計算では、成人の場合22〜320 mgのヒスタミン摂取で発症したと報告されている。
体内に入った病原菌の感染による影響が全身に及んだ重い症状を引き起こした状態のこと。必ずしも細菌が血液中に無くても、細菌から出る毒素によって起こることもある。他の疾病と合併して起こることもある。敗血症の発生は、病原菌やその毒素の種類、感染する側の感受性免疫等の全身状態等の条件によって影響される。
生体が自己と外来の異物を認識する免疫学的反応が、生体に対して不利に働くこと。特に、食物の摂取により生体に障害を引き起こす反応のうち、食物に由来する抗原に対する免疫学的反応によるものを食物アレルギーと呼んでいる。免疫学的反応は、私たちの体の中で異物(抗原)が入ってくるとこれに対して防衛するため抗体が作られるというもので、その後の抗原の侵入に対して、この抗体が病気の発症を抑えることができる。アレルギーは、特定の異物(抗原)の侵入に対して過敏な免疫学的反応を起こし、様々なアレルギー症状が引き起こされる。中でも、最も重篤な症状(急激な血圧低下、呼吸困難又は意識障害等)を伴う急性アレルギー反応をアナフィラキシーショックといい、適切な処置が行われないと死に至ることもある。
ヒトや動物が微生物等に感染する経路のことで、経口、経気道、経皮等がある。その他、輸血等による血液を介する経路(HIV、B型肝炎、C型肝炎等)もある。集団(群)においては、これらの経路が複合的に関与し、ばく露量や抵抗(免疫)力の違い、具体的には、集団の密度や感受性(年齢ほか)により、感染・流行の形態に大きな差が生じる。
調理済み食品が原材料と交わって、微生物等の病原因子によって汚染されること等を意味し、二次汚染ともいう。例えば、調理器具(包丁、まな板等)や人間の手を介して、ある食品(肉、魚等)から別の食品(野菜等)に微生物が移行する場合に用いる。また、食品・飼料製造の際、他の食品・飼料向けの原材料や汚染物質等が混入した場合にも用いられ、BSEでは、飼料工場等における反すう動物由来肉骨粉の交差汚染の防止が極めて重要な対策となっている。
食品を加熱殺菌する際の殺菌効果の指標値。
ある一定条件(温度等)において、特定の微生物の生残菌数を1/10に減少させるために要する加熱時間。微生物の熱抵抗性の指標になる。
加熱時間であるD値を1/10に短縮させるための温度の上昇分。
加熱工程における特定の微生物の殺菌効果(加熱温度・時間)について、121 °Cでの殺菌に必要な加熱時間に換算したもの。
容器包装詰加圧加熱殺菌(レトルト殺菌)食品におけるボツリヌス菌の殺菌条件を設定する際に利用されている。
細菌やウイルス等の定量法の一つで、多数の動物や培養組織に、感染性の微生物を含む検体を接種した場合に、全体の50 %に感染させると推定される微生物等の量のこと。50 %感染量ともいう。
自然条件下で、ヒトにも動物にも感染する感染症をいう。病原体はウイルス、細菌、原虫、菌類、寄生虫と多岐にわたる。動物から人に感染するだけでなく、ヒトから動物に感染することもある。人獣共通感染症の中には、ヒトに対して感染力が強く動物に対しては弱いものやその逆のものがある。人獣共通感染症としては、インフルエンザ、狂犬病、サルモネラ症(ヒトでは食中毒)、リステリア症、ウエストナイル熱等、多数の疾病がある。
感染性を有するタンパク質様の病原体を意味する造語(proteinaceous infectious particles)で、牛海綿状脳症(BSE)・鹿慢性消耗病(CWD)やヒトのクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)の原因物質とされている。
ヒトや動物の体内にはもともと正常プリオンタンパク質が存在し、病原体である異常プリオンタンパク質が体内に侵入すると、正常プリオンタンパク質が異常プリオンタンパク質に変性する。両者のアミノ酸配列は同じであるが、立体構造が正常プリオンタンパク質ではαへリックス構造であるのに対し、異常プリオンタンパク質ではβシート構造になっていることが知られている。
牛の病気の一つである。BSEに感染した牛では、異常プリオンタンパク質と呼ばれる病原体が主に脳に蓄積することによって、神経細胞が壊死し、空胞変性を起こし、脳の組織がスポンジ状になる。その結果、異常行動、運動失調等の中枢神経症状を呈し、死に至ると考えられている。
牛から牛にBSEがまん延したのは、BSE感染牛を原料とした肉骨粉を牛の飼料として使っていたことが原因と考えられている。英国で異常プリオンタンパク質に高度に汚染された肉骨粉により多数のBSE感染牛が確認されていた時期における平均潜伏期間は、5年から5.5年と推測されている。その後汚染防止対策により発生は激減し、潜伏期間も長くなっている。現在のところ、生体診断法や治療法はない。国際獣疫事務局(WOAH(OIE))の報告によれば、世界28か国で約19万頭(令和4年4月時点)のBSEが発生し、英国がそのほとんど(約18万5千頭)を占めている。我が国での最終発生は平成21年1月で、これまで36頭(令和4年4月時点)が確認された。
近年、従来のBSEとは異なるBSE(非定型BSE)が確認されており、これらを明確に区別するため、従来のBSEを定型BSEという。
定型BSEとは異なるタイプのBSE。
ウエスタンブロット法の結果が、定型BSEとは異なるバンドパターンを示し、定型BSEに比べ、バンドの位置が高く検出されるH型と、低く検出されるL型とに大別される。
非定型BSEについては、発生が極めてまれで、そのほとんどが8歳以上の高齢の牛であり、飼料規制等によってほぼ制御された定型BSEとは異なる孤発性の疾病である可能性が示唆されている。
食品安全委員会では、平成24年10月に取りまとめた食品健康影響評価書において、非定型BSEに関しては、高齢の牛以外の牛におけるリスクは、あったとしても無視できると評価している。
ヒトの神経難病の一つで、抑うつ、不安等の精神症状から始まり、進行性認知症、運動失調等を呈し、発症から1年〜2年で全身衰弱・呼吸不全・肺炎等で死亡する。
原因は、感染性を有する異常プリオンタンパク質と考えられ、他の病型を含めて「プリオン病」と総称される。
CJDは世界中に広く分布し、日本では人口100万人に年間1人前後の率で発症するといわれている。原因不明で発症するものを孤発性CJDといい、プリオン病の約8割を占める。孤発性CJDの発症年齢は平均68歳で、男女差はない。
一方、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(variant CJD:vCJD)は、ヒトの脳に海綿状(スポンジ状)の変化を起こすという点でCJDと似た病気だが、vCJDの方が若年者に発症が多いこと、経過が長い等、従来のCJDとは異なる特徴を有している。1996年に英国で報告されたのが最初であり、BSEの異常プリオンタンパク質に汚染された食品の摂取により感染したと考えられている。牛からヒトへの感染には種間バリアがあると考えられ、約18万5千頭のBSE牛が発生した英国では1996年以来、累計で178人(令和4年7月時点)のvCJD患者が確認されている。我が国においては、1人(令和4年7月時点)のvCJD患者が確認されているが、英国滞在時のばく露が有力な原因と考えられている。
シカ科の動物の病気の一つで、牛海綿状脳症(BSE)と同様に、異常プリオンタンパク質が病原体と考えられている。
CWDに感染した動物は、数年の潜伏期間の後、進行性の削痩(さくそう)、衰弱、流涎(りゅうぜん)等の症状を呈し、3〜4か月で死に至る。
食品を介した経路も含め、病原体であるCWDプリオンが、人へ感染することを示す証拠はこれまでに確認されていない。
令和3年8月現在、米国、カナダ、韓国、ノルウェー、フィンランド及びスウェーデンにおいて発生が確認されているが、日本における発生は確認されていない。
(詳細)
ファクトシート「鹿慢性消耗病(CWD)」(食品安全委員会ウェブサイト)
https://www.fsc.go.jp/factsheets/index.data/factsheets_cwd.pdf[PDF]別ウインドウで開きます
WOAH(OIE)は、国際的な動物検疫の協調の一環として、BSEについて公衆衛生の視点も含めた各国のBSEリスクについてステータス評価を実施している。具体的には、WOAH(OIE)加盟国から提出されたデータに基づき、WOAH(OIE)の基準により加盟国のリスク等を評価し、各国を「無視できるBSEリスクの国」、「管理されたBSEリスクの国」、いずれも該当しない場合は「不明のリスクの国」として評価・分類し、毎年5月に開催されるWOAH(OIE)総会で決定している。平成25年5月28日、第81回WOAH(OIE)総会において、科学委員会の評価案のとおり、我が国は「無視できるBSEリスク」の国に認定された。
BSEの原因と考えられている異常プリオンタンパク質が蓄積することから、食品として利用することが法律で禁止されている牛の部位のこと。我が国における特定危険部位(SRM)は、全ての月齢の牛の扁桃及び回腸遠位部(盲腸との接続部分から2メートルまでの部分に限る。)、30か月齢を超える牛の頭部(舌、頬肉及び皮を除く。)、脊髄及び脊柱を指す。
なお、特定危険部位のうち、30か月齢を超える牛の脊柱を除いた部位は、法律で「特定部位」と定義され、焼却が義務付けられている。
| WOAH(OIE) | 日本 | 米国 | カナダ | EU | |
|---|---|---|---|---|---|
| 無視できるリスクの国 |
(SRMの設定を求めていない) |
・全月齢の扁桃及び回腸(盲腸との接続部分から2メートルまでの部分に限る。)並びに30か月齢超の頭部(舌、頬肉、皮及び扁桃を除く。)及び脊髄 ・30か月齢超の脊柱(背根神経節を含み、頸椎横突起、胸椎横突起、腰椎横突起、頸椎棘突起、胸椎棘突起、腰椎棘突起、仙骨翼、正中仙骨稜及び尾椎を除く。) |
・30か月齢以上の脳、頭蓋、眼、三叉神経節、脊髄、脊柱(尾椎、胸椎及び腰椎の横突起並びに仙骨翼を除く。)及び背根神経節 ・全月齢の扁桃及び回腸遠位部 |
− |
・12か月齢超の頭蓋(下顎を除き、脳、眼を含む。)及び脊髄 |
| 管理されたリスクの国 |
・30か月齢超の脳、眼、脊髄、頭蓋骨及び脊柱 ・全月齢の扁桃及び回腸遠位部 |
− |
− |
・30か月齢以上の頭蓋、脳、三叉神経節、眼、扁桃、脊髄及び背根神経節 ・全月齢の回腸遠位部 |
・12か月齢超の頭蓋(下顎を除き脳、眼を含む。)及び脊髄 ・30か月齢超の脊柱(尾椎、頸椎・胸椎・腰椎の棘突起及び横突起並びに正中仙骨稜・仙骨翼を除き、背根神経節を含む。) ・全月齢の扁桃並びに小腸の後部4メートル、盲腸及び腸間膜 |
BSEの原因と考えられている異常プリオンタンパク質がタンパク質分解酵素に耐性を持っている(正常プリオンタンパク質はこの酵素で分解される)ことを利用して、タンパク質分解酵素による処理を行った試料と行わない試料について、まずスクリーニング検査としてエライザ法を用いて検査を行う。陽性と判断された場合は、ウエスタンブロット法、免疫組織化学検査及び病理組織学的検査による確認検査を行い、専門家の確定診断により判定する。
牛や豚等の家畜をと畜解体するときに出る、食用にならない部分をレンダリング(化製処理)した後、油脂を抽出し、その残渣を乾燥して作った粉末状のもの。タンパク質に富み、主に飼料や肥料として利用される。現在、牛から牛にBSEがまん延したのは、BSE感染牛を原料とした肉骨粉等の飼料を使っていたことが原因と考えられている。このため、WOAH(OIE)では牛等の反すう動物を原料として作られた肉骨粉は反すう動物の飼料に使用してはならないとされ、我が国では交差汚染対策も考慮して、動物由来肉骨粉は反すう動物の飼料への使用が禁止されている。
特定の飼料の使用を禁止すること。BSE対策では、反すう動物に対し、肉骨粉等の使用を禁止することをいう。
鳥インフルエンザはA型インフルエンザウイルスによる鳥類の感染症であり、抗原型からH1〜16、N1〜9の亜種に分類される。家畜伝染病予防法では、そのうち、急性の経過をたどり、罹病率、致死率ともに高いものを高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)とし、HPAIには該当しないがH5若しくはH7亜型のウイルスの感染によるものは、高病原性に変異する可能性が高く、低病原性鳥インフルエンザ(LPAI)として、強制的な防疫措置の対象となる。
我が国の現状においては、鳥インフルエンザが、食品を介して人に感染する可能性はないと考えられている。WHO(世界保健機関)によると、鳥インフルエンザウイルスは適切な加熱により死滅するとされており、一般的な方法として、食品の中心温度が70 °Cに達するよう加熱することが推奨されている。仮に、食品中にウイルスが存在したとしても、食品を十分に加熱調理して食べれば感染の心配はない。
鳥インフルエンザの病原性と亜型
細胞表面や内部に存在し、細胞外の特定の物質(ホルモン・神経伝達物質・ウイルス等)と特異的に結合することにより細胞の機能に影響を与える物質の総称である。ホルモンが細胞に作用する際に特異的に結合するホルモン受容体や、ウイルスが細胞に侵入する際に特異的に結合するウイルス受容体等がある。様々な種類のレセプターが存在し、種類ごとに結合できる物質も異なることから、「鍵穴」と「鍵」の関係に例えられる。