第2節 現在の資源調達環境の基盤強化

    1.石油・天然ガスの安定的かつ低廉な 確保に向けた取組

    石油・天然ガスの安定的かつ低廉な確保に向けて、新たな供給国との関係強化のみならず、現在の調達先国との関係深化も重要です。特に、我が国は輸入する原油のうち約8割を中東からの供給に頼っていることから、供給源の多角化を進めるとともに、中東産油国との関係維持・強化に向けた取組を進めています。

    <中東産油ガス国との関係維持・強化の取組事例>

    2015年11月には、高木経済産業副大臣がアラブ首長国連邦(UAE)及びクウェート国を訪問し、アブダビ国際石油展示会議(ADIPEC)に出席するとともに、UAEのアブダビ首長国及びクウェート国の政府要人との間で会談を実施しました。アブダビ首長国の政府要人との会談では、エネルギーをはじめとする幅広い分野における協力を一層推進していくことで一致し、また、我が国企業が保有する石油権益の延長について働きかけを行いました。さらに、マズルーイUAEエネルギー大臣及びスウェイディ・アブダビ国営石油会社(ADNOC)総裁(当時)の同席の下、石油・ガス分野における包括的・戦略的パートナーシップの強化に関する国際協力銀行(JBIC)とADNOCの覚書の署名に立ち会いました。

    2016年1月には、高木経済産業副大臣がUAE及びサウジアラビア王国を訪問しました。UAEでは、ワールド・フューチャー・エナジー・サミット(WFES)などの国際会議へ出席するとともに、ムハンマド・アブダビ首長国皇太子をはじめとする、UEA・アブダビの政府要人との間で、我が国企業が保有する石油権益を含む、両国間の協力等に関する意見交換を行いました。サウジアラビア王国では、政府要人と会談し、石油の安定供給の確保に向けた協力の重要性について確認しました。

    天然ガスの分野においても、現在の調達先国との関係強化は重要です。我が国のLNG輸入国のうち、第2位を占めるカタール国との間では、2015年9月に宮澤経済産業大臣、中山外務副大臣、アル・サダ・カタール・エネルギー工業大臣出席の下、第9回日カタール合同経済委員会を開催しました。本委員会では、政治、経済、教育、科学技術、人的交流等の幅広い分野で両国関係が一層強固になっていることを歓迎するとともに、更なる関係強化に向けて両国が一層緊密に協力していく意思を表明しました。またエネルギー協力については、LNGの競争的な価格での安定供給とともに、仕向地条項の緩和を要請しました。加えて、我が国企業が保有する石油権益の延長について働きかけを行いました。

    カタール国は、エネルギーの安定供給を通じた日本のエネルギー安全保障へのコミットメントを確認しました。

    <中東以外の産油ガス国との関係維持・強化の取組事例>

    2015年10月には、我が国の最大のLNG輸入相手国であるオーストラリアのフライデンバーグ資源エネルギー大臣が日本を訪問し、林経済産業大臣、高木経済産業副大臣と会談しました。その際、エネルギー・鉱物資源分野での関係を強化していくことを確認しました。さらに、2015年12月には、安倍総理がターンブル首相と会談し、両首脳は多様かつ柔軟で統合されたLNG市場の形成などエネルギー協力等について更なる連携を進めていくことを確認しました。

    2.石炭の安定供給確保に向けた取組

    石炭は、石油や天然ガスに比して供給安定性や経済性の面で優れるエネルギー資源です。2015年、石炭市況は相対的に緩んでいるものの、世界の石炭の使用、特に発電分野における使用は将来に向けて増加すると見込まれます。日本では、石炭をベースロード電源の重要な燃料として再評価し、また、石炭は2030年におけるエネルギー供給の約25%を占めると見込んでいます。従って、日本にとって安価で安定的な石炭供給は引き続き極めて重要な課題です。

    電力用一般炭は、豪州、インドネシアからの輸入を中心に安定的に供給されていますが、インドネシアでは電力需要の増大に伴い、国内の石炭需要が増加し、資源ナショナリズムの高まりも背景に輸出を抑制する政策も導入されるなど、今後、輸出量の減少が見込まれます。鉄鋼用原料炭は、我が国石炭ユーザーは豪州からの輸入を中心に安定的に調達していますが、豪州への依存度は7割近くあり、今後高まることが予想されます。豪州は、高品位炭の埋蔵量、輸送距離、インフラ整備の状況や政策の動向など、何れの要素を見ても引き続き我が国にとって最も安定した供給国として位置付けられます。しかし、同国における環境問題への高まりや高コスト炭鉱の操業停止が増加するなどの動きには注視が必要です。こうした点を踏まえ、豪州からの安定的な供給確保を基本としつつも、供給源の多角化の観点からインドネシアやロシア、米国等からの供給確保を様々な面から支援していく必要があります。

    我が国の石炭ユーザーが必要とする多様な品種を中長期にわたり、安定的に確保していくためには、豪州やインドネシアを始めとする産炭国との継続的な関係の構築が重要であり、資源外交や政策対話等の取組を積極的に実施しています。また、産炭国における石炭資源開発に対する支援、とくに我が国企業が炭鉱開発に参画し、権益や販売権を取得することも有用な手段です。JOGMECによる地質構造調査や産炭国の人材育成等の支援措置、また我が国企業による探鉱活動に対する出資、開発・生産段階への債務保証の支援も行われる他、JBICやNEXIによる公的支援も行われています。

    <具体的な主要施策>

    (1)石油・天然ガスに係る探鉱出資・資産買収等出資

    (再掲 本章第1節(1) 参照)

    (2)石炭及び金属鉱物に係る探鉱出資・債務保証等

    (再掲 本章第1節(2) 参照)

    (3)産油・産ガス国開発支援等事業【2015年度当初:41.0億円】

    資源国との戦略的かつ重層的な関係を構築するため、資源国のニーズに対応して、人材育成・交流、先端医療、環境対策技術など、幅広い分野での協力事業を日本企業等の強みを活かし実施するとともに、資源国に対する日本からの投資促進等について支援しました。2015年度は、UAE(アブダビ首長国)における我が国先端医療技術の導入支援、日アブダビ教育・交流センター運営等の留学促進事業等のプロジェクトを実施しました。

    (4)海外炭開発支援事業【2015年度当初:17.0億円】

    我が国企業の権益獲得を支援し、自主開発比率の向上を図るため、海外の産炭国において、我が国企業が行う探鉱活動等への支援や炭鉱開発に不可欠なインフラ調査等を実施しました。

    (5)低品位炭利用促進技術開発等事業【2014年度補正:7.0億円】

    有効に活用されてこなかった低品位炭をガス化して、エネルギー資源や化学原料として活用することを目指した技術の実証事業を実施しました。また、低品位炭から製造したスラリーによる発電実証のための、実証設備の建設、試運転を実施しました。

    (6)産炭国石炭採掘・保安技術高度化事業等【2015年度当初:16.1億円】

    我が国の優れた炭鉱技術を、採掘条件の悪化が予想される海外産炭国へ移転するため、海外研修生の受入研修事業、我が国炭鉱技術者の海外炭鉱派遣研修事業等を実施しました。

    (7)大型船の受け入れ機能の確保・強化

    国土交通省では、2015年度に、資源・エネルギー等の海上輸送ネットワークの拠点となる埠頭の荷さばき施設等の整備を行うなど、資源・エネルギー等の安定的かつ効率的な海上輸送網の形成に向けた取組を推進しました。

    (8)JICAの機能強化【制度】

    2015年11月には、「質の高いインフラパートナーシップ」のフォローアップに際し、抜本的な制度拡充策として、円借款の手続の迅速化、新たな借款制度の創設など円借款や海外投融資の制度改善を行うことを発表しました。具体的には、円借款については、通常は3年を要する円借款における政府関係手続期間を重要案件については最短で約1年半まで短縮し、その他の案件についても最短で約2年まで短縮することを決定しました。また、JICAの財務健全性を確保することを前提として、外貨返済型円借款の中進国以上への導入、ドル建て借款、ハイスペック借款および事業・運営権対応型円借款を創設すること、またE/N(交換公文)でコミットする金額の中に「特別予備費枠」を増額計上すること及び政府保証の例外的免除として、開発途上国の自治体や公社等(サブ・ソブリン主体)に円借款を直接供与するに当たり、相手国の経済の安定性や相手国政府の十分なコミットメントなど各種要件が満たされる場合には、政府保証の例外的な免除を関係閣僚会議でケース・バイ・ケースで決定することとしました。海外投融資のうち融資については、民間企業等の申請から原則1 ヶ月以内に審査を開始すること、JBICに案件の照会があった場合の標準回答期間を2週間とすること、民間金融機関との協調融資を可能とすること及び「先導性」要件の見直し、既存の民間金融機関が非譲許的な融資で現状対応できない場合に融資できるよう制度改善・創設をしました。加えて、無償資金協力や有償勘定技術支援等を通じて、実証・テストマーケティング事業を実施することとしました。

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