第1節 北米・ロシア・アフリカ等の資源供給国との関係強化と上流進出の促進

    1.石油・天然ガスの安定的かつ低廉な確保に向けた取組

    従来から、石油・天然ガスのほぼ全量を海外からの輸入に頼っている我が国にとって、石油・天然ガスの安定的かつ低廉な確保は重要な課題です。さらに、東日本大震災以降、化石燃料である石油・天然ガスの需要は依然として高い水準で推移しており、引き続き重要な資源といえます。こうした中、特に、シェールガスの生産拡大により、天然ガスの国内価格が低下している米国から新たに液化天然ガス(LNG)を輸入することは、LNGの安定的な調達の確保に加え、原油価格に連動しない多様な契約形態を導入する観点から、極めて重要な方策の一つです。そのため、政府としては、米国からのLNG輸入の早期実現に向けて、政府間による働きかけ等の取組を行っています。米国からのLNG輸入には米国政府の許可が必要となっていますが、日本企業が関与する全てのプロジェクトについてエネルギー省から輸出承認を取得し、FERC(米国連邦エネルギー規制委員会)によるLNG輸出施設の建設・操業の承認(環境審査)も取得しました。その結果、米国からのLNGは、2016年以降に我が国への供給が開始される予定です。また、2015年10月のTPPの大筋合意により、我が国企業が参画するLNGプロジェクトの輸出承認は、今後更に迅速化します。加えて、2015年末に米国産原油の輸出が解禁となりました。今後、新たな供給源の一つとなることが考えられます。

    また、シェールガスの生産が拡大する中、ロシアは既存の主力販路である欧州以外に、市場を多角化する必要が生じており、新たな市場として我が国や中国などアジアへの進出に取り組んでいます。ロシアは、我が国から地理的に最も近い、有数の産油・産ガス国であることから、ロシアを巡る国際情勢を注視しつつ、協力を進めていきます。

    他にも、2015年10月安倍総理が中央アジアを訪問した際にはJOGMECによりウズベキスタンやトルクメニスタンの政府関係者とのMOUが署名される等、資源国との関係強化を図っており、資源権益の確保と供給源の多角化に向けて取組を進めています。

    2.石炭の安定供給確保に向けた取組

    石炭については、供給源を多角化し、我が国への安定的な供給を確保するため、資源国との要人外交や政策対話等の取組、人材育成、技術協力等を通じて資源国との関係を強化しています。

    特に、モザンビークについては2013年4月に日本企業を含む事業会社に採掘権が付与され、原料炭の開発・生産に向けた事業が始まりました。2014年1月のモザンビーク共和国ゲブーザ大統領との首脳会談においては、安倍総理から我が国企業が参画する石炭等プロジェクトの円滑な進捗は両国の成長にとって重要であるとして、長期安定的な操業への協力を要請するとともに、モザンビーク自身による資源開発と活用に向けた人材育成を拡充する「日モザンビーク天然ガス・石炭発展イニシアティブ」を表明し、これまでに石炭分野で99名が研修を修了しました。また、2014年7月の日モザンビークハイレベル政策対話等では、鉄道による石炭輸送枠確保及び適切な輸送料金設定等をモザンビーク政府に働きかけを行う等、安定供給に向けた取組を進めています。

    また、モンゴルについては2015年10月の安倍総理のモンゴル訪問時、両国政府は日本企業の石炭等の資源ビジネスへの参入を促進する協力覚書(MOC)に署名し、お互いに情報交換と意見交換を行っていくことを確認しています。その後、11月にはモンゴルにおける炭鉱等の資源開発、石炭の効率的利用、さらに鉄道の事業性等に関し、我が国よりミッションを派遣し両国間で情報交換・意見交換を行うとともに、2016年3月には、モンゴルにおいて、日本の石炭関係の施策や各種クリーンコール技術を紹介するクリーンコールセミナーを実施しています。

    3.レアメタル等の鉱物資源の確保に向けた取組

    鉱物資源については、その供給のほぼ全てを海外に頼っている一方、省エネルギー・再生エネルギー機器等のものづくり産業に必要不可欠な原材料です。そのため、中長期的に我が国民間企業による投資を促進し、鉱物資源の供給源の多角化、安定供給確保につなげるため、鉱物資源のポテンシャルは大きいもののインフラや鉱業政策面など鉱業投資環境に課題を有するアフリカ地域との継続的な関係構築に取り組んでいます。

    2013年5月、同年6月に開催された第5回アフリカ開発会議(TICAD V)に先立ち、資源の安定供給確保のための取組として、日本とアフリカのwin-winの関係構築に向けた資源開発の在り方について議論する、初めての試みとなる「日アフリカ資源大臣会合」を開催しました。本会合において、茂木経済産業大臣から、資源探鉱や開発プロジェクトに対するリスクマネー供給支援(今後5年間でJOGMECを通じて20 億ドル)や資源分野での人材育成(今後5年間で1,000名)を盛り込んだ「日アフリカ資源開発促進イニシアティブ」を説明し、参加国からの賛同を得ました。その結果は、TICAD Vに報告されるとともに、TICAD Vの成果である「横浜行動計画」に盛り込まれました。

    2015年2月、第2回日アフリカ資源大臣会合等を2015年5月に実施することを決定・公表するとともに、次回大臣会合等の開催に向けて、山際経済産業副大臣が南アフリカ共和国で開催されたアフリカ鉱業投資会議「マイニング・インダバ」に参加し、南アフリカ共和国を始めとする5か国の鉱物資源担当大臣等と次回会合に向けた調整及び資源・エネルギー分野におけるさらなる関係強化に向けた意見交換を行いました。

    2015年5月、アフリカ16か国の代表団参加の下、「第2回日アフリカ資源大臣会合」及び「日アフリカ鉱業・資源ビジネスセミナー」を開催しました。

    大臣会合においては、「日アフリカ資源開発促進イニシアティブ」の進捗状況を確認し、アフリカの資源開発促進に関する議論を行うとともに、宮沢経済産業大臣から、現状の日本とアフリカとの関係を更に発展させるため、TICADを活用した首脳レベルでの関係を軸に、これまでの「日アフリカ資源大臣会合」の枠組みを二国間の関係強化を内容とする「日アフリカ資源大臣パートナーシップ」という新たな枠組みにステップアップすることを提案し、各国の同意を得、当日の議論を取りまとめた共同議長総括が採択されました。この結果は、次回のTICADに報告される予定です。

    「日アフリカ鉱業・資源ビジネスセミナー」においては、アフリカ資源国の代表、国内外の資源関係企業、国際機関等による42の講演とともに、アフリカへのビジネス展開等を目指す30の企業・機関による展示が行われ、開催された2日間で32か国、延べ2,000名以上が参加しました。

    2016年2月北村経済産業大臣政務官が南アフリカ共和国で開催されたアフリカ鉱業投資会議「マイニング・インダバ」に参加し、南アフリカ共和国を始めとする各国の鉱物資源担当大臣等と資源・エネルギー分野におけるさらなる関係強化に向けた意見交換を行いました。また、各国閣僚とのバイ会談を行うことで、本年8月にケニアにおいて開催予定の第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)の成功に向けた協力や、日本企業等が参画している資源開発案件への協力を働きかけ、協力関係の強化を図りました。

    引き続き日アフリカ間における継続的な関係を構築することで、中長期的な鉱物資源の安定供給につながる機会の拡大を目指していきます。

    [画像:第2回日アフリカ資源大臣会合]

    第2回日アフリカ資源大臣会合(2015年5月)

    4.資源権益獲得に向けたリスクマネー供給

    我が国は、2010年のエネルギー基本計画で原油・天然ガスの自主開発比率(注記) を40%以上に引き上げる目標を掲げ、取組を進めており、2014年度の自主開発比率は約24.7%と統計開始から最も高い値となりました。一方で、資源権益の獲得に向けては、探鉱リスクやカントリーリスク等、事業リスクが非常に高く、巨額の資金を要することに加え、我が国企業は、資源メジャーと呼ばれる海外企業等と比べると資金力が弱いと言えます。こうした中で、我が国企業による資源権益の獲得を推進するためには、資源外交の推進による相手国との関係強化とともに、資金面での支援も必要となります。そのため、リスクマネー供給機能の強化の一環として、2012年に独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構法を改正(同年9月15日施行)し、JOGMECを通じた出資や債務保証等のリスクマネー供給支援について産業投資資金の活用が可能になりました。2015年度には、産業投資資金を含め約895億円の予算を措置し、JOGMECを通じた出資や債務保証等のリスクマネー供給支援を行いました。

    具体的には、石油・天然ガスについては、アブダビ陸上油田の権益獲得案件を含む出資2件を新たに採択し、金属鉱物資源については、米国における亜鉛・銅探鉱プロジェクト等に対し出資等を行いました。我が国企業による資源権益の獲得を支援し、供給源の多角化を進めるべく、引き続き、こうしたリスクマネー供給支援にも積極的に取り組んでいきます。

    <具体的な主要施策>

    (1) 石油・天然ガスに係る探鉱出資・資産買収等出資【2015年度当初:485.0億円、2015年度産投:410.0億円】

    JOGMECにおいては、我が国資源開発会社等による石油・天然ガスの探鉱・開発や油ガス田の買収等を資金面で支援するため出資を行っています。2015年度はアブダビ陸上油田の権益獲得案件を含む出資2件を新たに採択しました。

    (2) 石炭及び金属鉱物に係る探鉱出資・債務保証等【2015年度産投:230.0億円】

    JOGMECにおいては、我が国法人の海外における鉱物資源の探鉱プロジェクト等を資金面で支援するため出資及び債務保証等を行っています。2015年度は我が国企業が参画する米国における亜鉛・銅探鉱プロジェクト等に対し出資等を行いました。

    (3) 政府系金融機関による資源金融(国際協力銀行(JBIC))【金融】

    我が国企業による長期取引契約に基づく資源輸入や、自ら権利を取得して資源開発を行う場合、さらには資源開発に携わる我が国企業の競争力が強化される場合あるいは資源確保と不可分一体となったインフラ整備等、我が国にとって重要な資源の海外における開発及び取得を促進する場合に、国際協力銀行は輸入金融や投資金融による支援を行いました。

    (4) 貿易保険によるリスクテイク(日本貿易保険(NEXI))【金融】

    海外における重要な鉱物資源又はエネルギー資源の安定供給に資する案件に関し、海外エスクロー口座への資源引取り代金入金を条件に、NEXIは通常よりも低い保険料率で幅広いリスクをカバーする資源エネルギー総合保険等を通じて、我が国の事業者が行う権益取得・引取等のための投融資に対し支援を行いました。

    また、2015年11月には、「質の高いインフラパートナーシップ」フォローアップに際し、抜本的な制度拡充策として、カントリーリスクを100%カバーする等の措置を講じました。これらの措置も通じ、引き続き日本企業が参画する海外での資源開発等のプロジェクトに対する資金調達を円滑化し、本邦企業の活動も支援していきます。

    (5)海外投資等損失準備金制度【税制】

    海外で行う資源(石油・天然ガス等)の探鉱・開発事業に対する投資等について、事業失敗による損失等に備えるために、投資等を行った内国法人に一定割合の準備金の積立を認め、これを損金に算入することを認める制度であり、平成28年度税制改正において、適用期限が2018年3月31日まで延長されました。

    (6)探鉱準備金・海外探鉱準備金制度及び新鉱床探鉱費・海外新鉱床探鉱費の特別控除制度(減耗控除制度、海外減耗控除)【税制】

    鉱業を営んでいる者が、鉱業所得等を探鉱費に充てるための準備金として積み立てた時に損金算入できる制度及びその準備金を取り崩して実際に新鉱床探鉱費に充てた場合等には特別控除できる制度であり、平成28年度税制改正において、鉱業の実態を踏まえ制度を見直した上、準備金積立ての適用期限が2019年3月31日まで延長されました。

    (7)海外地質構造調査等事業【2015年度当初:18.0億円】

    世界においても探鉱実績が少なく、事業リスク等が高い海外のフロンティア地域等において、JOGMECが、地質構造の調査を行うことにより、我が国企業の進出を促進しています。2015年度は、前年度に引き続きケニア及びセーシェルでの地質構造調査を実施しました。

    (8)エネルギー使用合理化希少金属資源開発推進基盤整備委託費【2015年度当初:16.9億円】

    最新の鉱床地質学の成果等を活用し、省エネ機器、再生可能エネルギー関連設備の製造に必要不可欠な銅、白金族等の鉱物資源の基礎的な資源探査等を実施しました。

    (9) 希少金属資源開発推進基盤整備事業【2015年度当初:11.0億円】

    グリーン部素材(素材の高付加価値化)、次世代自動車の生産に必要不可欠なレアメタル等鉱物資源の探査等を委託し、安定供給を図りました。

    (注記)
    自主開発比率=(我が国企業の権益下にある原油・天然ガスの引取量+国内生産量)/(原油・天然ガスの輸入量+国内生産量)

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