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セルロースナノファイバー複合樹脂の開発動向

The Trend of Development of Cellulose Nanofiber Composite

セルロースナノファイバー(CNF)は植物由来の高性能かつサステナブルな材料として,様々な用途で研究開発が進められている。特に樹脂の補強を目的としたフィラーとしての用途には,炭素循環社会の実現に向けて期待が大きい。親水的なCNFを疎水的な樹脂に均一分散させて補強効果を引き出すことは容易ではないが,産官学の様々な研究者によって提案されたCNF界面の疎水化方法により,現時点では種類は少ないものの,CNF複合樹脂ペレットが市場で入手可能となった。学術的には,ピッカリングエマルション1)や,CNF被覆粒子2),エレクトロスピニング3)などを利用した新しい複合手法も提案されている。これらの手法は,積極的なCNFの疎水化を要しないこと,強度異方性が発現することなど,それぞれに特徴があり,CNF複合樹脂のさらなる用途展開が期待できる。
CNFとバイオマスポリエチレン(バイオPE)の複合化に関する筆者の取り組みも紹介する。筆者は京都大学の矢野らとともに,パルプの解繊と樹脂中への分散を同時に達成する「パルプ直接混練法」によるCNF複合バイオPEの開発に取り組んでいる。CNF複合バイオPEは,剛性や耐熱性の大幅な改善だけでなく,ライフサイクルにおける温室効果ガス排出量が化石資源由来樹脂の半分程度(試算値)である点に特徴がある4)。マテリアルリサイクル性もあることから,植物が大気中から吸収したCO2を長期間樹脂として留め置くことが可能性である。
コスト面の課題などから,CNF複合樹脂の普及はまだ十分ではないが,炭素循環社会実現のため,自身の研究を含む産官学の開発進展が期待される。


1) N. Tamura, K. Hasunuma, T. Saito, S. Fujisawa, ACS Omega 2024, 9, 19560.
2) T. Kondo, G. Ishikawa, M. Kamogawa, Y. Tsujita, S. Yokota, T. Tsuji, S. Tagawa, D. Tatsumi, ACS Appl. Polym. Mater. 2024, 6, 1276.
3) M. Yamagata, H. Uematsu, Y. Maeda, S. Suye, S. Fujita, JFST 2021, 77, 223.
4) https://www.env.go.jp/content/000166029.pdf

野口広貴 (地独) 京都市産業技術研究所

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