防災の動き

「災害時にトップがなすべきこと」 豊岡市長 中貝宗治

[画像:豊岡市長 中貝宗治]
豊岡市長 中貝宗治

平成29年4月、大地震や大水害を経験した首長有志が「災害時にトップがなすべきこと」24か条をまとめ、公表しました。その経緯と狙いについてお話します。

繰り返される失敗と批判

私たちの国は災害列島と呼ばれ、毎年のようにどこかで大災害が発生しています。

しかし、一部の例外を除き、当該都道府県にとっては「たまに」、当該市区町村にとっては「ごくまれに」発生するというのが実態です。いわんや、4年任期の首長にとっては、ほとんどの場合、「職務上初めて」の経験ということになります。

市区町村長は、多くの場合、災害に関する危機管理の訓練を受けていないため、次々と襲ってくる圧倒的な現実に翻弄され、苦悶し、失敗を批判されながら災害対策の先頭に立つ、という事態が繰り返されています。

水害サミットの開催

私も、平成16年の台風第23号に翻弄されました。

この台風は、各地に大きな被害をもたらしました。豊岡でも大災害となりました((注記)1)。「こんなことは二度と嫌だ」という強烈な思いと同時に、自らの経験や得られた教訓を人々に伝えなければならないという、被災地としての責任を強く感じました。

そこで、この台風で大きな被害を受け、同様の思いを抱いていた新潟県三条市、新潟県見附市等の市長と共同の発起人となって、過去に大水害を経験した自治体に呼びかけ、水害サミットを開催することとしました。

このサミットは、1市区町村のトップが被災経験や課題・教訓などについて情報を交換し、課題への取組みを強化すること、2その内容を他の市区町村長に情報発信すること、3議論を踏まえて河川行政・河川管理への提言を行うことの3つを目的としています。

平成17年に第1回目を開催し、平成29年で第13回目となります。会議には毎回国土交通省の幹部にも出席をいただいています。

(注記)1 台風第23号による豊岡市の被害 円山川(立野地点)、出石川(鳥居地点)の2か所で堤防決壊、土砂災害多数発生。死者7人、重傷者23人、全壊・大規模半壊・半壊・床上浸水合計5,164世帯

[画像:平成16年台風第23号による豊岡市出石町鳥居の堤防決壊現場]
平成16年台風第23号による豊岡市出石町鳥居の堤防決壊現場

トップがなすべきこと11か条

水害サミットの活動の一環として、平成19年に「被災地からおくる防災・減災・復旧ノウハウ」という書籍を出版しました。平成26年には改訂版を出版しています。

その中で、水害に関する「災害時にトップがなすべきこと」をまとめています。「避難勧告を躊躇してはならない」、「人は逃げないものであることを知っておくこと」、「記者会見を毎日定時に行うこと」等の11か条です。少しでも被害を小さくしたいという、水害サミットの首長たちの切実な思いが込められています。

私たちは、各地で大規模な災害が起こるたびに、被災地の首長にこの11か条のメッセージを届けてきました。平成26年には、事務局を務める三条市から全国の市区町村長に一斉にお送りしました。

[画像:防災・減災・復旧ノウハウ集 初版(H19)、新改訂版(H26)]
防災・減災・復旧ノウハウ集 初版(H19)、新改訂版(H26)

震災経験首長への呼びかけ

平成28年、熊本地震が発生しました。東日本大震災では、その圧倒的被害の前に私たち水害経験者は言うべき言葉を持っていないかのように感じていました。しかし、地震もまた繰り返されています。重い責任を持つ市区町村長の苦悩も繰り返されています。水害と震災では、トップに求められる対応が異なるものもあるかもしれませんが、共通するものもあるはずです。

とするなら、水害を経験した私たちと震災経験首長が意見を交わすことによって、より深く、よりリアリティに富んだ「トップがなすべきこと」をまとめることができるのではないか。

三条市の國定市長、見附市の久住市長と私の連名で、東日本大震災や熊本地震等の被災地の首長に声をかけ、賛同者が集まり、内閣府の協力を得て、平成29年2月9日に「災害時にトップがなすべきこと協働策定会議」を開催しました。

そして、会議での議論やその後の書面のやり取りを通して、水害、地震、津波を包括した新たな「災害時にトップがなすべきこと」を24か条にまとめました。

4月10日には、15名の策定会議のメンバーを代表して6名の市町長が松本防災担当大臣に24か条を手交し、全国の市区町村長への情報提供の協力を求めました。その日のうちに、内閣府から全国の都道府県に情報が届けられました。

[画像:平成29年4月10日松本防災担当大臣への手交]
平成29年4月10日松本防災担当大臣への手交

トップがなすべきこと24か条

この24か条は、「平時の備え」、「直面する危機への対応」、「救援・復旧・復興への対応」の3部からなっています。

「平時の備え」では、「自然の脅威が目前に迫ったときには、勝負の大半はついている。大規模災害発生時の意思決定の困難さは想像を絶する。平時の訓練と備えがなければ、危機への対処はほとんど失敗する」など7項目を挙げています。

「直面する危機への対応」では、「判断の遅れは命取りになる。特に、初動の遅れは決定的である。何よりもまず、トップとしての判断を早くすること」など5項目を挙げています。

「救援・復旧・復興への対応」では、「災害の態様は千差万別であり、実態に合わない制度や運用に山ほどぶつかる。他の被災地トップと連携し、視察に来る政府高官や政治家に訴え、マスコミを通じて世論に訴えて、強い意志で制度・運用の変更や新制度の創設を促すこと」など12項目を挙げています。

市区町村長の責任を放棄できない

毎年のように避難勧告の遅れ等繰り返される失敗に、「いっそのこと災害対策の責任は、国や都道府県が負うべきではないか」という議論が蒸し返されます。

しかし、私は、それでもなお市区町村長が第一次的にその責任を負うほかはないと考えています。危機管理に関する意思決定は現場で行うのが鉄則です。自然災害の危機の現場にいるのは、いつだって市区町村長とその職員です。

また、防災行政無線など住民に危険情報を届ける手段を持っているのは市区町村です。避難所を開設するのも市区町村の職員です。自分たちのまちを一番誇りに思っているのも市区町村の職員です。私たちは、自分たちの地域への責任を放棄するわけにはいきません。

新たに策定した「災害時にトップがなすべきこと」の24か条には、私たち自身が失敗し、もがき苦しみながら重ねてきた経験と教訓が込められています。いざというとき、全国の市区町村長の方々に、せめてこの「災害時にトップがなすべきこと」があったことを思い出し、参照していただければ幸いです。

このメッセージが、大災害に関するトップの意思決定の一助となり、被害の軽減につながることを心から願っています。


「災害時にトップがなすべきこと」24か条 本文


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